「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・狐傑伝 2
神様たちの話、第103話。
秘密と共通点。
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2.
「やっぱりそうか」
そう答えたハンに、クーは顔を赤くする。
「わたくしのこと、幼い振る舞いばかりで幻滅されたかしら? それとも素性を隠していたことを軽蔑なさるのかしら?」
「そのどっちも、考えたことは無いな」
ハンは肩をすくめ、こう返す。
「脱出と陽動作戦、その2度の戦いのどちらでも、君は並々ならぬ協力をしてくれた。そんな君を幼いなんて思ったりはしない。
それに君のことだ、素性を明かしてしまっては皆を萎縮させるし、気楽に振る舞うこともできない。そんなことを考えてたんじゃないか?」
「左様ですわね」
「確かにビート辺りは『畏れ多くも殿下のご面前に配しまして、恐悦至極にございます』なんてかしこまった言葉を立て並べて平伏しそうだしな。
ロウのおっさんにしても、エリザさんに会った途端にあの態度だ。君の素性を知ってしまったら、あのおっさんも同じように、ペコペコしてくるだろうな」
「ええ、恐らくは。そんな風に接せられることは、わたくしにとってはあまり、愉快ではございませんから。
父もそうなのですけれど、わたくしももっと皆さんに、気さくに接していただきたいですもの」
「そうだろうな。だから俺も、君のことは明かさなかったし、ビートたちにもしつこく聞かないよう、釘を刺していた」
「……と仰ると、あなたもしかして、初めから気付いていらっしゃったの?」
驚いた様子を見せるクーに、ハンはにこっと笑みを返す。
「気付かないわけが無いさ。
元々見覚えもあったし、髪の色も陛下と同じだ。何よりあれだけ卓越した魔術の使い手なんて、そういるはずも無い」
「他に気付いた方は、いらっしゃるのかしら?」
「いや」
ハンは首を振り、こう続ける。
「俺の班にいる皆は気付いてないだろう。マリアはそう言う類の勘は鈍い。シェロも気付いてたら、反応が変わるだろうし。ビートもさっき言った通り、平伏してるはずだろう。街の皆は尚更だ。
ただ、エリザさんは初見で看破したっぽいけどな」
「そのようですわね。本当、あの方は不得手です」
そう言い放ち、しゅんとするクーに、ハンはうんうんとうなずいて見せる。
「そうだな、よく分かるよ。何と言うかあの人は、人の弱点を見付けて弄(もてあそ)ぶようなところがある。
そりゃ、際立って傷付けたり、実害を与えたりなんてことはしないけど、でもこっちが触れられたくないことにベタベタと触れてきて、それで困る様子を見るのが大好き、と言う性格をしてる」
「それは、とても強く感じますわね。森でお会いした時も、あなたが仲立ちして下さらなかったら、わたくしきっと、皆の前で素性を晒されていたでしょう。
確かにそれで、わたくしが傷付くと言うようなことはございませんけれど、それでも心苦しいですし……」
「君がそうやって困る様子を見て、エリザさんはケラケラ笑うだろうな。……困った人だよ」
「ええ、本当に」
二人でクスクスと笑い合ったところで、クーが尋ねてくる。
「それで、ハン。他に、わたくしに伺いたいことはございますかしら?」
「そうだな……、いや、今はそれだけで十分かな。逆に、君が俺に聞いておきたいことはあるか?」
「そうですわね……」
クーはあごに指を当て、思案する様子を見せる。
「どんなことでも?」
「俺だって聞かれたくないことはあるし、それについては答えない。だけど、それ以外なら何でも答える。君も秘密を打ち明けてくれたんだし」
「では、……そうですわね、ご家族は?」
思ってもいなかった質問をぶつけられ、ハンはきょとんとする。
「ん? ああ、俺を含めて5人だよ。両親と、前にも言ったが、妹が2人いる」
「ご結婚は?」
「してない。相手もいないしな」
「あら」
意外そうな声を上げ、クーは上目遣いにハンを眺める。
「わたくしには、それなりに整ったお顔立ちと見受けられますけれど」
「そりゃどうも。でも、顔で付き合うわけじゃないだろ?
それに俺の主な任務は各地の探索と測量だ。あっちこっち歩き回ってばかりだから、家庭を持つどころじゃないし」
「では、マリアさんとは? 同じ場所でご一緒にお仕事なさるのであれば、お心が通い合ったりなどされるのでは?」
「無い、無い」
ハンは肩をすくめ、否定する。
「マリアは単なる同僚だよ。異性と思ったことは無い。強いて言えば、妹くらいにしか思ってないな」
「確かに砦で話されていた折には、その様な雰囲気と見受けられましたわね。
……ねえ、ハン」
クーはにこっと微笑み、こんなことを言い出した。
「わたくし、あなたのことをとても気に入りました。
今後、あなたの任務に、わたくしも随行いたしますわ」
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秘密と共通点。
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「やっぱりそうか」
そう答えたハンに、クーは顔を赤くする。
「わたくしのこと、幼い振る舞いばかりで幻滅されたかしら? それとも素性を隠していたことを軽蔑なさるのかしら?」
「そのどっちも、考えたことは無いな」
ハンは肩をすくめ、こう返す。
「脱出と陽動作戦、その2度の戦いのどちらでも、君は並々ならぬ協力をしてくれた。そんな君を幼いなんて思ったりはしない。
それに君のことだ、素性を明かしてしまっては皆を萎縮させるし、気楽に振る舞うこともできない。そんなことを考えてたんじゃないか?」
「左様ですわね」
「確かにビート辺りは『畏れ多くも殿下のご面前に配しまして、恐悦至極にございます』なんてかしこまった言葉を立て並べて平伏しそうだしな。
ロウのおっさんにしても、エリザさんに会った途端にあの態度だ。君の素性を知ってしまったら、あのおっさんも同じように、ペコペコしてくるだろうな」
「ええ、恐らくは。そんな風に接せられることは、わたくしにとってはあまり、愉快ではございませんから。
父もそうなのですけれど、わたくしももっと皆さんに、気さくに接していただきたいですもの」
「そうだろうな。だから俺も、君のことは明かさなかったし、ビートたちにもしつこく聞かないよう、釘を刺していた」
「……と仰ると、あなたもしかして、初めから気付いていらっしゃったの?」
驚いた様子を見せるクーに、ハンはにこっと笑みを返す。
「気付かないわけが無いさ。
元々見覚えもあったし、髪の色も陛下と同じだ。何よりあれだけ卓越した魔術の使い手なんて、そういるはずも無い」
「他に気付いた方は、いらっしゃるのかしら?」
「いや」
ハンは首を振り、こう続ける。
「俺の班にいる皆は気付いてないだろう。マリアはそう言う類の勘は鈍い。シェロも気付いてたら、反応が変わるだろうし。ビートもさっき言った通り、平伏してるはずだろう。街の皆は尚更だ。
ただ、エリザさんは初見で看破したっぽいけどな」
「そのようですわね。本当、あの方は不得手です」
そう言い放ち、しゅんとするクーに、ハンはうんうんとうなずいて見せる。
「そうだな、よく分かるよ。何と言うかあの人は、人の弱点を見付けて弄(もてあそ)ぶようなところがある。
そりゃ、際立って傷付けたり、実害を与えたりなんてことはしないけど、でもこっちが触れられたくないことにベタベタと触れてきて、それで困る様子を見るのが大好き、と言う性格をしてる」
「それは、とても強く感じますわね。森でお会いした時も、あなたが仲立ちして下さらなかったら、わたくしきっと、皆の前で素性を晒されていたでしょう。
確かにそれで、わたくしが傷付くと言うようなことはございませんけれど、それでも心苦しいですし……」
「君がそうやって困る様子を見て、エリザさんはケラケラ笑うだろうな。……困った人だよ」
「ええ、本当に」
二人でクスクスと笑い合ったところで、クーが尋ねてくる。
「それで、ハン。他に、わたくしに伺いたいことはございますかしら?」
「そうだな……、いや、今はそれだけで十分かな。逆に、君が俺に聞いておきたいことはあるか?」
「そうですわね……」
クーはあごに指を当て、思案する様子を見せる。
「どんなことでも?」
「俺だって聞かれたくないことはあるし、それについては答えない。だけど、それ以外なら何でも答える。君も秘密を打ち明けてくれたんだし」
「では、……そうですわね、ご家族は?」
思ってもいなかった質問をぶつけられ、ハンはきょとんとする。
「ん? ああ、俺を含めて5人だよ。両親と、前にも言ったが、妹が2人いる」
「ご結婚は?」
「してない。相手もいないしな」
「あら」
意外そうな声を上げ、クーは上目遣いにハンを眺める。
「わたくしには、それなりに整ったお顔立ちと見受けられますけれど」
「そりゃどうも。でも、顔で付き合うわけじゃないだろ?
それに俺の主な任務は各地の探索と測量だ。あっちこっち歩き回ってばかりだから、家庭を持つどころじゃないし」
「では、マリアさんとは? 同じ場所でご一緒にお仕事なさるのであれば、お心が通い合ったりなどされるのでは?」
「無い、無い」
ハンは肩をすくめ、否定する。
「マリアは単なる同僚だよ。異性と思ったことは無い。強いて言えば、妹くらいにしか思ってないな」
「確かに砦で話されていた折には、その様な雰囲気と見受けられましたわね。
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「わたくし、あなたのことをとても気に入りました。
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