「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・狐傑伝 3
神様たちの話、第104話。
クーのわがまま。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
クーのその発言があまりにも予想外だったため、ハンは絶句してしまった。
「え、……っと? いや、クー?」
「何か?」
「本気で言ってるのか? 冗談だよな、勿論?」
「ええ、勿論。本気で申しております」
そう言って、クーはまた、にこっと笑う。
ハンは頭に手をやり、なだめようとする。
「あのな、クー。遊びでやってるんじゃないんだぞ、俺たちは」
「ですから『任務に随行』、と申しましたが」
「軍が許可するわけ無いだろ?」
「父上を通して正式に許可を取り付けさせます」
「許すと思うか? 陛下はもとより、俺だって許さないぞ」
「最終的には許す気になるでしょう。いいえ」
クーは席を立ち、こう言い残して部屋を後にした。
「その気にさせますわよ。わたくし、諦めの悪い性格ですの」
一人、部屋に残ったハンは、ただただ唖然とするしか無かった。
「……何だって俺の周りは、変な女ばっかり集まるんだ?」
ぽつりとつぶやいたその言葉は、森から聞こえてくる梟(ふくろう)の鳴き声にかき消されるくらい、弱々しいものだった。
ハンを一人残し、クーはにこにこと微笑みながら、廊下を歩いていた。
(さて、どのように攻略しようかしら)
出会った当初はさほど好印象を持っていなかったものの、数日を過ごす内にすっかり、クーはハンのことが好きになっていた。
(……とは申しても、あまり性急に押しすぎると、はしたない女と思われてしまいかねないですわね。それにハン自身、あまりそうした性質の女性を好んでいないご様子でしたし。
首尾良く随行できるようになった折には、まずは大人しめに接した方がよろしいかしら。幸い、競争相手も現れそうにございませんし)
クーの頭の中で色々と、ハンに対する「攻略」が練られるが、どれも途中で、今後に対する期待感のために霧散してしまう。
(多少なりとも健啖なご様子でしたから、まずは料理などで印象付けようかしら。わたくし、それなりに料理も得意ですし。きっと気に入りますわ。『うまいな、本当に』『気に入っていただけて何よりですわ』『ああ、君のことも』……なーんて、えへへへへー。
……はっ。いけないいけない、わたくしまた、妄想の世界に入りかけてしまいました)
そんな風に、始終にこにこしながら砦内をさまよっていると――。
「クーちゃん、何やええコトでもあったん?」「ひゃあっ!?」
突然、後ろからぽん、と頭を撫でられ、クーは飛び退いた。
「ななななんですの!?」
「アタシや」
振り向いた先には、あのエリザが、ニヤニヤしながら立っているのが確認できた。
「あ、あなた、街の方たちとご歓談されていたのではっ!?」
「流石に1時間、2時間も囲まれて疲れてもーたから、『ボチボチお開きにしよかー』ちゅうて抜けてきたんよ。
ソレよりクーちゃん、何やニッコニコしながらフラフラ歩いとったけど、ハンくんと何しとったん?」
「え、えっ? は、ハン、と? さ、さあ、何のことでしょう?」
どぎまぎしつつごまかしたが、エリザにはあっさりと看破されてしまう。
「さっきこそっと、ハンくんと一緒に部屋抜けてたやろ? チラっと見てたで」
「う」
「二人してシケた顔並べてドコ行っとったんやろ思ててな、ほんで探しとったんよ。
で、こんな人気の無いトコで二人でナニしとったん?」
「はっ、話を、お話ですっ」
「お話? まー、そやろな。奥手で堅物のハンくんがまだ15歳のアンタに手ぇ出すワケ無いしな」
「……っ」
エリザの言葉に、クーはわずかに苛立ちを覚えたが、それすらもエリザには見抜かれていたらしい。
「ん、貶しとるワケちゃうで? 真面目で誠実ってコトや。ホンマにええ男やと思うよ」
「そう、……ですわね。その点は確かに、わたくしも評価いたしておりますわ」
「せやから好きになったんやろ?」
そう言われ、クーは自分の顔が熱を持つのを感じる。
「な、なっ、いえ、すっ、好きだなんて、そんなっ」
「えーからえーから、お姉さん分かっとるから。
せや、良かったらハンくんが好きなもんとか、こそっと教えたるけど、聞く?」
「え……?」
エリザの申し出に、クーは首を傾げた。
@au_ringさんをフォロー
クーのわがまま。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
クーのその発言があまりにも予想外だったため、ハンは絶句してしまった。
「え、……っと? いや、クー?」
「何か?」
「本気で言ってるのか? 冗談だよな、勿論?」
「ええ、勿論。本気で申しております」
そう言って、クーはまた、にこっと笑う。
ハンは頭に手をやり、なだめようとする。
「あのな、クー。遊びでやってるんじゃないんだぞ、俺たちは」
「ですから『任務に随行』、と申しましたが」
「軍が許可するわけ無いだろ?」
「父上を通して正式に許可を取り付けさせます」
「許すと思うか? 陛下はもとより、俺だって許さないぞ」
「最終的には許す気になるでしょう。いいえ」
クーは席を立ち、こう言い残して部屋を後にした。
「その気にさせますわよ。わたくし、諦めの悪い性格ですの」
一人、部屋に残ったハンは、ただただ唖然とするしか無かった。
「……何だって俺の周りは、変な女ばっかり集まるんだ?」
ぽつりとつぶやいたその言葉は、森から聞こえてくる梟(ふくろう)の鳴き声にかき消されるくらい、弱々しいものだった。
ハンを一人残し、クーはにこにこと微笑みながら、廊下を歩いていた。
(さて、どのように攻略しようかしら)
出会った当初はさほど好印象を持っていなかったものの、数日を過ごす内にすっかり、クーはハンのことが好きになっていた。
(……とは申しても、あまり性急に押しすぎると、はしたない女と思われてしまいかねないですわね。それにハン自身、あまりそうした性質の女性を好んでいないご様子でしたし。
首尾良く随行できるようになった折には、まずは大人しめに接した方がよろしいかしら。幸い、競争相手も現れそうにございませんし)
クーの頭の中で色々と、ハンに対する「攻略」が練られるが、どれも途中で、今後に対する期待感のために霧散してしまう。
(多少なりとも健啖なご様子でしたから、まずは料理などで印象付けようかしら。わたくし、それなりに料理も得意ですし。きっと気に入りますわ。『うまいな、本当に』『気に入っていただけて何よりですわ』『ああ、君のことも』……なーんて、えへへへへー。
……はっ。いけないいけない、わたくしまた、妄想の世界に入りかけてしまいました)
そんな風に、始終にこにこしながら砦内をさまよっていると――。
「クーちゃん、何やええコトでもあったん?」「ひゃあっ!?」
突然、後ろからぽん、と頭を撫でられ、クーは飛び退いた。
「ななななんですの!?」
「アタシや」
振り向いた先には、あのエリザが、ニヤニヤしながら立っているのが確認できた。
「あ、あなた、街の方たちとご歓談されていたのではっ!?」
「流石に1時間、2時間も囲まれて疲れてもーたから、『ボチボチお開きにしよかー』ちゅうて抜けてきたんよ。
ソレよりクーちゃん、何やニッコニコしながらフラフラ歩いとったけど、ハンくんと何しとったん?」
「え、えっ? は、ハン、と? さ、さあ、何のことでしょう?」
どぎまぎしつつごまかしたが、エリザにはあっさりと看破されてしまう。
「さっきこそっと、ハンくんと一緒に部屋抜けてたやろ? チラっと見てたで」
「う」
「二人してシケた顔並べてドコ行っとったんやろ思ててな、ほんで探しとったんよ。
で、こんな人気の無いトコで二人でナニしとったん?」
「はっ、話を、お話ですっ」
「お話? まー、そやろな。奥手で堅物のハンくんがまだ15歳のアンタに手ぇ出すワケ無いしな」
「……っ」
エリザの言葉に、クーはわずかに苛立ちを覚えたが、それすらもエリザには見抜かれていたらしい。
「ん、貶しとるワケちゃうで? 真面目で誠実ってコトや。ホンマにええ男やと思うよ」
「そう、……ですわね。その点は確かに、わたくしも評価いたしておりますわ」
「せやから好きになったんやろ?」
そう言われ、クーは自分の顔が熱を持つのを感じる。
「な、なっ、いえ、すっ、好きだなんて、そんなっ」
「えーからえーから、お姉さん分かっとるから。
せや、良かったらハンくんが好きなもんとか、こそっと教えたるけど、聞く?」
「え……?」
エリザの申し出に、クーは首を傾げた。
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~