「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・狐傑伝 5
神様たちの話、第106話。
歴史に書けないスキャンダル。
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5.
ハンはいつものように顔を若干青ざめさせつつ、話を続ける。
「俺ん家に来たエリザさんと、手を引かれて付いてきてたロイドを見て、親父はどうなったと思う?」
「……ど、どうなったん、……ですの?」
恐る恐る尋ねたクーに、エリザが答えた。
「ぱったーん、って感じで仰向けに倒れてしもてん」
「そりゃ卒倒もしますよ。親父は自他共に認める、真面目で誠実な男だって評判の人だったんですから。
……で、当然その後、家は大騒ぎになった。お袋はカンカンになって、ほうきで親父をバカスカ殴りまくるし、親父は血まみれのアザまみれになるし。俺もジニーも、ロイドと一緒に固まって、部屋の隅でブルブル震えてたし。
だのに、一方でただ一人、エリザさんと来たら、『コレからも仲良うしてなー』とか親父とお袋に向かって言い出すし。子供心に、『ああこれは家庭崩壊するんだろうな』って感じて、ものすごく怖かった覚えがある。
だが――今でもマジで、どうしてそうなったか俺には分からんが――何と言うか、唐突に丸く収まったんだよな。その後にテレサが産まれたし、同じ年、エリザさんももう一人、リンダって子を産んだし。
今でもエリザさんは、1~2年に1回くらい俺ん家に来るけど、お袋と仲良く料理してるし、親父とも楽しそうに話してる。俺や妹たちにしても、エリザさんの子供たちとは結構仲良くしてるし、たまにお互いの家に遊びに行くこともあるしな。
とは言え、陛下のごく親しい側近でもあるゲート・シモン将軍が不倫してるなんて話が公になったら、親父の評判も悪くなるし、もしかしたら陛下にも何かしら、悪影響が及ぶかも知れんから、……内緒で頼む」
「え、ええ、しょ、しょうち、いたしましたわ」
かくんかくんと首を振ってはいたものの、幼いクーの内心は爆発寸前だった。
(と、とんでもない秘密を、打ち明けられてしまいましたわ……!)
クーはまだどぎまぎしていたものの、そこでハンが席を立った。
「そう言うわけですから、エリザさん。あんまり俺にベタベタしないで下さい。怪しまれます」
「はいはーい」
「それからクー」
ハンに声をかけられ、クーはかくんと首を上に向ける。
「はっ、はひっ? なんっ、……なんでしょう?」
「何だかんだあって疲れてるから、俺はもう休むよ。
それに明日の朝、出発する予定だからな。早いとこ寝とかなきゃならん。君も一緒に来るんだろ?」
「あっ、ええ、そうですわね。で、では、わたくしもこの辺りで、お休みいたします」
「お休み、クー。それからエリザさんも」
ハンの挨拶に、エリザは口を尖らせる。
「何や、ついでみたいな……。ま、お休み」
ハンが部屋を後にし、二人きりになったところで、エリザがクーに向き直る。
「あ、そうそう。アタシも帰り、一緒やから」
「えぇ!?」
驚いたクーに、エリザが肩をすくめる。
「元々『北』へは、半月くらいだけ滞在する予定やったしな。大部分、こっちへの行き来で使てしもたから、急いで帰らなアカンねん。
せやからアタシも明日、ハンくんらと一緒に帰るんよ」
「さ、左様でしたか。……驚いたりなどして、失礼いたしました」
「えーよえーよ、こんなドぎついお姉さんが側におったら、気ぃ休まらへんやろしな」
「い、いえ、そんなことは」
「えーからえーから。ほな、また明日な」
弁解しようとするクーに背を向け、エリザも部屋を後にした。
「……はぁ」
一人残されたクーは大きなため息をつき、机に突っ伏してしまった。
(何と申せば良いのかしら、……濃い方ですわね、本当に。
もしハンとお付き合いだとか、……け、結婚、……だとか、そのようなことをいたしたら、あの方とも――直接ではなくとも――縁続きになるわけ、ですわよね。……わたくし、その生活に耐えられるのかしら?
『恋愛は障害がある方が燃え上がる』だなんてうそぶく方がいらっしゃったけれど、この障害はあまりにも大きすぎますわ……)
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歴史に書けないスキャンダル。
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5.
ハンはいつものように顔を若干青ざめさせつつ、話を続ける。
「俺ん家に来たエリザさんと、手を引かれて付いてきてたロイドを見て、親父はどうなったと思う?」
「……ど、どうなったん、……ですの?」
恐る恐る尋ねたクーに、エリザが答えた。
「ぱったーん、って感じで仰向けに倒れてしもてん」
「そりゃ卒倒もしますよ。親父は自他共に認める、真面目で誠実な男だって評判の人だったんですから。
……で、当然その後、家は大騒ぎになった。お袋はカンカンになって、ほうきで親父をバカスカ殴りまくるし、親父は血まみれのアザまみれになるし。俺もジニーも、ロイドと一緒に固まって、部屋の隅でブルブル震えてたし。
だのに、一方でただ一人、エリザさんと来たら、『コレからも仲良うしてなー』とか親父とお袋に向かって言い出すし。子供心に、『ああこれは家庭崩壊するんだろうな』って感じて、ものすごく怖かった覚えがある。
だが――今でもマジで、どうしてそうなったか俺には分からんが――何と言うか、唐突に丸く収まったんだよな。その後にテレサが産まれたし、同じ年、エリザさんももう一人、リンダって子を産んだし。
今でもエリザさんは、1~2年に1回くらい俺ん家に来るけど、お袋と仲良く料理してるし、親父とも楽しそうに話してる。俺や妹たちにしても、エリザさんの子供たちとは結構仲良くしてるし、たまにお互いの家に遊びに行くこともあるしな。
とは言え、陛下のごく親しい側近でもあるゲート・シモン将軍が不倫してるなんて話が公になったら、親父の評判も悪くなるし、もしかしたら陛下にも何かしら、悪影響が及ぶかも知れんから、……内緒で頼む」
「え、ええ、しょ、しょうち、いたしましたわ」
かくんかくんと首を振ってはいたものの、幼いクーの内心は爆発寸前だった。
(と、とんでもない秘密を、打ち明けられてしまいましたわ……!)
クーはまだどぎまぎしていたものの、そこでハンが席を立った。
「そう言うわけですから、エリザさん。あんまり俺にベタベタしないで下さい。怪しまれます」
「はいはーい」
「それからクー」
ハンに声をかけられ、クーはかくんと首を上に向ける。
「はっ、はひっ? なんっ、……なんでしょう?」
「何だかんだあって疲れてるから、俺はもう休むよ。
それに明日の朝、出発する予定だからな。早いとこ寝とかなきゃならん。君も一緒に来るんだろ?」
「あっ、ええ、そうですわね。で、では、わたくしもこの辺りで、お休みいたします」
「お休み、クー。それからエリザさんも」
ハンの挨拶に、エリザは口を尖らせる。
「何や、ついでみたいな……。ま、お休み」
ハンが部屋を後にし、二人きりになったところで、エリザがクーに向き直る。
「あ、そうそう。アタシも帰り、一緒やから」
「えぇ!?」
驚いたクーに、エリザが肩をすくめる。
「元々『北』へは、半月くらいだけ滞在する予定やったしな。大部分、こっちへの行き来で使てしもたから、急いで帰らなアカンねん。
せやからアタシも明日、ハンくんらと一緒に帰るんよ」
「さ、左様でしたか。……驚いたりなどして、失礼いたしました」
「えーよえーよ、こんなドぎついお姉さんが側におったら、気ぃ休まらへんやろしな」
「い、いえ、そんなことは」
「えーからえーから。ほな、また明日な」
弁解しようとするクーに背を向け、エリザも部屋を後にした。
「……はぁ」
一人残されたクーは大きなため息をつき、机に突っ伏してしまった。
(何と申せば良いのかしら、……濃い方ですわね、本当に。
もしハンとお付き合いだとか、……け、結婚、……だとか、そのようなことをいたしたら、あの方とも――直接ではなくとも――縁続きになるわけ、ですわよね。……わたくし、その生活に耐えられるのかしら?
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