「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・狐傑伝 6
神様たちの話、第107話。
出発準備とエリザの講釈。
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6.
エリザが来たその翌日早朝、ハンたち測量班とクー、そしてエリザの6人が出発するべく、馬車に荷物を積み込んでいた。
「そー言えば尉官、最初に言ってた陽動作戦って、監視班の人たちが継ぐ感じなんですかー? 尉官、何度もやるって言ってましたけど」
測量器具を積み込みながらそう尋ねてきたマリアに、ハンが馬を撫でながら答える。
「いや、あれはもう無しだ。
エリザさんにも指摘されたことだが、何度もやれば実行者が相当の危険に晒される。応援が今後も送られるだろうとは言え、その応援をいたずらに潰すようなことは当然、すべきじゃない。
それに昨日の結果からすれば、あいつらは俺たちのことを、かなり警戒したはずだ。うかつに街を出ることは無いだろう」
「警戒ですって? たった一回だけで……?」
食糧品を確認していたビートがそうつぶやいたところで、既に馬車内で呑気に座り込み、煙草を吹かしていたエリザが応じる。
「相手にしてみたら、何やよー分からんような術で一網打尽にされた挙句、殺されもせん、身ぐるみはがされもせんどころか、ただその場に放っとかれっぱなし、っちゅうワケの分からん状態にされたんやで。惑わされたか化かされたか、こら不気味でたまらんやろ?
しかも最初の脱出作戦ん時、ハンくんやら町民さんらやらの戦力・兵力が全部でアレだけやったと相手には分かっとったはずや。やのに、アタシっちゅう援軍が都合よお現れた。マトモに、と言うよりも常識的に考える頭があるんやったら、援軍を送れる基地なり何なりが結構すぐ近くにあるんやないか、と言うような推察もしよるはずや。
ソコら辺の理由から、敵さんらはしばらくの間、外に出てこようなんて気は失せとるやろな。必要以上にガッチリ防御固めて、じーっと閉じ籠もっとるはずや」
「さ、流石の慧眼(けいがん)ですね、エリザ先生」
目を丸くするビートの横で、皆の武器を手入れしていたシェロが顔を挙げる。
「でもソレだと、今後がまずいんじゃないっスか?」
「んー?」
顔を向けたエリザに、シェロが指摘する。
「敵が守りを固めたってコトはっスよ、攻略が難しくなるってコトじゃないんスか?
っつーかそもそも陽動作戦の時、敵を殺さなかったってのがまず、おかしいと思うんスけどね、俺。
折角ゴールドマンさんが敵を全員気絶させてくれたんスから、ソコで皆殺しにしとけば、後々攻め込む時に少しは楽できたんじゃないかって思うんスけど。単純に兵力が減るワケっスから」
「ソレも一理ある。あるけどな」
エリザは煙草の煙をふーっとシェロの頭の上に吹き、こう返してきた。
「『敵やから殺す』は当然、常識、当たり前の考えや。人間、当たり前のコトが起こったら当たり前に計算がでけるし、当たり前に行動でける。
でもその『当たり前』にそぐわへん、そうは思えへんような、言い換えれば異常な事態に遭うたら、どう考えてええか戸惑う。ソレも人間や。
どんなコトでも当たり前にやっとったら、当たり前の結果しか出えへん。未知の人間相手にどうこうしようっちゅう今の状況で、当たり前の結果なんか求めてもしゃーないやろ?」
「人間って、あの『熊』だとか『虎』が、俺たちと同じ人間だって言うんですか?」
シェロがいぶかしげに放ったその一言に、エリザは、今度は彼の顔面に直接、煙を吹き付けた。
「げっほ、げほっ……、な、何するんスか!?」
当然、シェロは咳き込み、目からボタボタと涙を流す。が、彼が悶えるのにも構わず、エリザはこう続ける。
「アタシを見てみ」
「え?」
「『こっち』でこんな耳と尻尾のヤツがおるか? ん? どないや?」
「あっ、……えっと、いや、その」
「道具を持っとる、衣服を身に付けとる、何かしら言葉をしゃべり合うとる。コレだけアタマええコトしとって、アンタは耳や尻尾の形がちゃうから言うだけで、アレは人間や無いっちゅうんやな?
その言い分やと、アタシも人間や無いっちゅうコトになるわな、お?」
「いや、そう言うんじゃ、あの」
エリザは戸惑うシェロの前に立ち、ぽこん、と彼の額に煙管を置いた。
「あっづぅ!?」
「アホは若いうちだけにしときや。おっさんになってもじーさんになってもアホぬかしとると、自分も身内も恥ずかしいで」
「……す、すみませんでした」
ぺこりと頭を下げたシェロに、エリザはもう一方の手で、彼の頭を優しく撫でた。
「ま、今回はコレで勘弁したるさかい、次から気ぃ付けや」
「は、はいっ」
一転、顔を真っ赤にし、かくんかくんと首を振るシェロを眺めながら、ハンと、そして隣にいたクーは、ひそひそと言葉を交わしていた。
(……イチコロだな)
(左様ですわね)
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出発準備とエリザの講釈。
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6.
エリザが来たその翌日早朝、ハンたち測量班とクー、そしてエリザの6人が出発するべく、馬車に荷物を積み込んでいた。
「そー言えば尉官、最初に言ってた陽動作戦って、監視班の人たちが継ぐ感じなんですかー? 尉官、何度もやるって言ってましたけど」
測量器具を積み込みながらそう尋ねてきたマリアに、ハンが馬を撫でながら答える。
「いや、あれはもう無しだ。
エリザさんにも指摘されたことだが、何度もやれば実行者が相当の危険に晒される。応援が今後も送られるだろうとは言え、その応援をいたずらに潰すようなことは当然、すべきじゃない。
それに昨日の結果からすれば、あいつらは俺たちのことを、かなり警戒したはずだ。うかつに街を出ることは無いだろう」
「警戒ですって? たった一回だけで……?」
食糧品を確認していたビートがそうつぶやいたところで、既に馬車内で呑気に座り込み、煙草を吹かしていたエリザが応じる。
「相手にしてみたら、何やよー分からんような術で一網打尽にされた挙句、殺されもせん、身ぐるみはがされもせんどころか、ただその場に放っとかれっぱなし、っちゅうワケの分からん状態にされたんやで。惑わされたか化かされたか、こら不気味でたまらんやろ?
しかも最初の脱出作戦ん時、ハンくんやら町民さんらやらの戦力・兵力が全部でアレだけやったと相手には分かっとったはずや。やのに、アタシっちゅう援軍が都合よお現れた。マトモに、と言うよりも常識的に考える頭があるんやったら、援軍を送れる基地なり何なりが結構すぐ近くにあるんやないか、と言うような推察もしよるはずや。
ソコら辺の理由から、敵さんらはしばらくの間、外に出てこようなんて気は失せとるやろな。必要以上にガッチリ防御固めて、じーっと閉じ籠もっとるはずや」
「さ、流石の慧眼(けいがん)ですね、エリザ先生」
目を丸くするビートの横で、皆の武器を手入れしていたシェロが顔を挙げる。
「でもソレだと、今後がまずいんじゃないっスか?」
「んー?」
顔を向けたエリザに、シェロが指摘する。
「敵が守りを固めたってコトはっスよ、攻略が難しくなるってコトじゃないんスか?
っつーかそもそも陽動作戦の時、敵を殺さなかったってのがまず、おかしいと思うんスけどね、俺。
折角ゴールドマンさんが敵を全員気絶させてくれたんスから、ソコで皆殺しにしとけば、後々攻め込む時に少しは楽できたんじゃないかって思うんスけど。単純に兵力が減るワケっスから」
「ソレも一理ある。あるけどな」
エリザは煙草の煙をふーっとシェロの頭の上に吹き、こう返してきた。
「『敵やから殺す』は当然、常識、当たり前の考えや。人間、当たり前のコトが起こったら当たり前に計算がでけるし、当たり前に行動でける。
でもその『当たり前』にそぐわへん、そうは思えへんような、言い換えれば異常な事態に遭うたら、どう考えてええか戸惑う。ソレも人間や。
どんなコトでも当たり前にやっとったら、当たり前の結果しか出えへん。未知の人間相手にどうこうしようっちゅう今の状況で、当たり前の結果なんか求めてもしゃーないやろ?」
「人間って、あの『熊』だとか『虎』が、俺たちと同じ人間だって言うんですか?」
シェロがいぶかしげに放ったその一言に、エリザは、今度は彼の顔面に直接、煙を吹き付けた。
「げっほ、げほっ……、な、何するんスか!?」
当然、シェロは咳き込み、目からボタボタと涙を流す。が、彼が悶えるのにも構わず、エリザはこう続ける。
「アタシを見てみ」
「え?」
「『こっち』でこんな耳と尻尾のヤツがおるか? ん? どないや?」
「あっ、……えっと、いや、その」
「道具を持っとる、衣服を身に付けとる、何かしら言葉をしゃべり合うとる。コレだけアタマええコトしとって、アンタは耳や尻尾の形がちゃうから言うだけで、アレは人間や無いっちゅうんやな?
その言い分やと、アタシも人間や無いっちゅうコトになるわな、お?」
「いや、そう言うんじゃ、あの」
エリザは戸惑うシェロの前に立ち、ぽこん、と彼の額に煙管を置いた。
「あっづぅ!?」
「アホは若いうちだけにしときや。おっさんになってもじーさんになってもアホぬかしとると、自分も身内も恥ずかしいで」
「……す、すみませんでした」
ぺこりと頭を下げたシェロに、エリザはもう一方の手で、彼の頭を優しく撫でた。
「ま、今回はコレで勘弁したるさかい、次から気ぃ付けや」
「は、はいっ」
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