「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・狐傑伝 7
神様たちの話、第108話。
余地を残す。
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7.
「実を言うとな、もういっこ考えがあるねん」
馬車が出発して間も無く、エリザがそんな風に切り出してきた。
「何の話ですか?」
手綱を握りつつ、背を向けたまま尋ねたハンに、エリザはこう続ける。
「さっきシェロくんが言うてた、相手を殺さへんかった理由や。ただ煙に巻いとるだけや無いんよ」
そう説明しつつ、エリザは紫煙を馬車の中に漂わせる。
「相手が人間である以上、何かしら交渉でけるはずやろ?
もし相手の言葉が分かるようになって、その場を立てられるかもと思ても、相手に死人出とるくらいの被害が出とったら、呑気に話し合いなんかしてくれると思うか?」
「確かに……。まず、してくれないでしょうね」
ビートが同意し、クーもうなずく。
「つまりは平和的解決を望んでの選択だったと、そう仰りたいのですか?」
「そう言うコトやな。
考えてみ、この事件がコレっきりっちゅうコトがあるやろか?」
「どう言う意味でしょう?」
「街を占拠しよったヤツらが、ドコから来たんか? 何しに来たんか? 今現在、そんなコトすら分からへん状態やろ。分かっとるコトは耳や尻尾がちゃうって程度や。
もしアタシらが全く知らんようなトコから来たとしたら、ソコに住んどったヤツが総出でノースポートに来よったと思うか? あの50人が総出や、全員やと思うか?」
「……!」
エリザの言葉に、クーは目を丸くする。
ビートもハンのように顔を蒼くし、その可能性を考察する。
「言われてみれば……、確かに彼らが先発隊、前線部隊で、背後にもっと大勢の人間や集団、軍などの組織があるかも知れませんね」
「せやろ? そんな可能性もある。もしかしたら今後、第二弾、第三弾の部隊が来よるかも知れへん。
その可能性もあるのに、ろくに話し合いも情報収集もせず、片っ端から殺し回るっちゅうのんは、愚策もええトコや。
仮に先発隊を皆殺しにして、もし『後』が出てきよったら、えらいコトになってまうわ」
「それが現実になった場合、敵は激怒し、今以上の戦力を投入してくるでしょうね。
今でさえノースポートの人たちが街を追い出されると言う被害を受けているのに、それ以上の被害が出るおそれがある。死人が出る可能性も、大いにあるでしょうね」
そう返したビートに、エリザはうんうんとうなずいて見せる。
「せやから『余地』を残すんや。
こっちの戦力は温存し、向こうにも被害は出えへん。どっちにも害の無い状況が続けば、そのうち『ちょっとくらい話せへんやろか』っちゅうくらいの余裕、交渉の余地が出て来るはずや。
ソコで実際に話し合いしたら、色々得られるやろ? 相手の陣容やら目的やら、そう言うのんだけや無く、今後の状況がどうなっていくかっちゅうような予想も付けやすくなる。うまく行けば相手は敵どころか、ええ『取引相手』になるかも分からへんしな。
その状況に持ってかへんかったら、この先何もええコトはあらへん。こっちも向こうも完全に敵同士になって、泥沼みたいな殺し合いが延々続くだけや」
「……すごい!」
ビートは目を輝かせ、ぱちぱちと拍手した。
「そこまで先のことを予見しているなんて、流石先生です!」
「アハハ……」
エリザはケラケラと笑いながら、新たな煙草を取り出す。
すかさずビートが魔術で火を起こし、彼女の前に恭しく差し出した。
「お、ありがとさん」
その様子をチラ、と背中越しに眺め、ハンは密かにため息を付いた。
(参るな、まったく。何でこう、エリザさんはあっちこっちに好かれるんだか。
中身は破天荒というか破壊的と言うか、メチャクチャな人なのに)
と、横にいたマリアが心配そうな目を向けてくる。
「尉官? だいじょぶですか?」
「……ああ」
「お腹空きました? あたしは空きましたけど」
「そうか。食べてきていいぞ」
「はーい」
御者台からひょいと馬車内に身を翻すマリアを眺めながら、ハンはまた、ため息を付いた。
琥珀暁・狐傑伝 終
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「実を言うとな、もういっこ考えがあるねん」
馬車が出発して間も無く、エリザがそんな風に切り出してきた。
「何の話ですか?」
手綱を握りつつ、背を向けたまま尋ねたハンに、エリザはこう続ける。
「さっきシェロくんが言うてた、相手を殺さへんかった理由や。ただ煙に巻いとるだけや無いんよ」
そう説明しつつ、エリザは紫煙を馬車の中に漂わせる。
「相手が人間である以上、何かしら交渉でけるはずやろ?
もし相手の言葉が分かるようになって、その場を立てられるかもと思ても、相手に死人出とるくらいの被害が出とったら、呑気に話し合いなんかしてくれると思うか?」
「確かに……。まず、してくれないでしょうね」
ビートが同意し、クーもうなずく。
「つまりは平和的解決を望んでの選択だったと、そう仰りたいのですか?」
「そう言うコトやな。
考えてみ、この事件がコレっきりっちゅうコトがあるやろか?」
「どう言う意味でしょう?」
「街を占拠しよったヤツらが、ドコから来たんか? 何しに来たんか? 今現在、そんなコトすら分からへん状態やろ。分かっとるコトは耳や尻尾がちゃうって程度や。
もしアタシらが全く知らんようなトコから来たとしたら、ソコに住んどったヤツが総出でノースポートに来よったと思うか? あの50人が総出や、全員やと思うか?」
「……!」
エリザの言葉に、クーは目を丸くする。
ビートもハンのように顔を蒼くし、その可能性を考察する。
「言われてみれば……、確かに彼らが先発隊、前線部隊で、背後にもっと大勢の人間や集団、軍などの組織があるかも知れませんね」
「せやろ? そんな可能性もある。もしかしたら今後、第二弾、第三弾の部隊が来よるかも知れへん。
その可能性もあるのに、ろくに話し合いも情報収集もせず、片っ端から殺し回るっちゅうのんは、愚策もええトコや。
仮に先発隊を皆殺しにして、もし『後』が出てきよったら、えらいコトになってまうわ」
「それが現実になった場合、敵は激怒し、今以上の戦力を投入してくるでしょうね。
今でさえノースポートの人たちが街を追い出されると言う被害を受けているのに、それ以上の被害が出るおそれがある。死人が出る可能性も、大いにあるでしょうね」
そう返したビートに、エリザはうんうんとうなずいて見せる。
「せやから『余地』を残すんや。
こっちの戦力は温存し、向こうにも被害は出えへん。どっちにも害の無い状況が続けば、そのうち『ちょっとくらい話せへんやろか』っちゅうくらいの余裕、交渉の余地が出て来るはずや。
ソコで実際に話し合いしたら、色々得られるやろ? 相手の陣容やら目的やら、そう言うのんだけや無く、今後の状況がどうなっていくかっちゅうような予想も付けやすくなる。うまく行けば相手は敵どころか、ええ『取引相手』になるかも分からへんしな。
その状況に持ってかへんかったら、この先何もええコトはあらへん。こっちも向こうも完全に敵同士になって、泥沼みたいな殺し合いが延々続くだけや」
「……すごい!」
ビートは目を輝かせ、ぱちぱちと拍手した。
「そこまで先のことを予見しているなんて、流石先生です!」
「アハハ……」
エリザはケラケラと笑いながら、新たな煙草を取り出す。
すかさずビートが魔術で火を起こし、彼女の前に恭しく差し出した。
「お、ありがとさん」
その様子をチラ、と背中越しに眺め、ハンは密かにため息を付いた。
(参るな、まったく。何でこう、エリザさんはあっちこっちに好かれるんだか。
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