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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 4;琥珀暁」
    琥珀暁 第3部

    琥珀暁・彼心伝 1

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    神様たちの話、第109話。
    帰還報告へ。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
    「ハンニバル・シモン尉官、及びシモン班。陛下がお呼びである。ただちに、謁見の間に向かうように」
    「了解です」
     指示を受け、ハンたちは待合室を後にする。
    「緊張しますね」
    「そうだな」
    「あたしもですよー」
    「そうか」
    「実を言うと、俺も……」「シェロ。それから皆」
     列を率いていたハンが立ち止まり、振り返る。
    「静かにしてくれ」
    「あ、はい」
     マリアたち3人が頭を下げたところで、ハンは軍帽を被り直し、皆に注意する。
    「大丈夫だとは思うが、皆、身だしなみは整えておいてくれ。
     それから、私語も謹んでくれ。陛下ご自身は気さくに接してこられるだろうが、だからと言ってこちらも同じように応対するのは、不敬に当たる。許可されるまでは、口を開かないように。
     それじゃ進むぞ」
    「はい」
     3人が敬礼したのを確認し、ハンは前に向き直り、再び歩き出した。

     ノースポートはずれの古砦を発って1週間後、ハンたち一行は自分たちの本拠地、クロスセントラルに到着した。
     そして到着するなり、状況の報告を行うように軍本営から命じられ、ハンたち4人はゼロの御前へと召集されたのである。

    (……嫌な予感がする)
     静まり返った廊下を進みながら、ハンは不安を感じていた。
    (着いてすぐに、クーは姿を消した。エリザさんもどさくさに紛れて、どこかに行っちまったし。
     あの二人の性格からして、そのまま何も言わず別れることはまず、有り得ない。必ずどこかで、もう一度接触してくる。
     それも――あの二人らしく――俺たちを少なからず驚かせるために、だ。……まあ、クーの方は何をするか、想像が付くが)
     やがてハンたちは物々しい扉の前で立ち止まり、その両脇に立っていた兵士たちに声をかける。
    「シモン班だ。陛下への帰還報告を行いたい」
    「うかがっております。どうぞ」
     扉が開かれ、ハンたちは中へと進んだ。
    「お疲れ様、シモン尉官。良く無事に帰ってきてくれたね」
     入るなり、玉座に掛けていた白髪の男が会釈しつつ、立ち上がる。
    「ご高配を賜り、誠に痛み入ります」
     ハンたちは一斉に深々と頭を下げ、最敬礼した。
    「楽にしていい」
     すぐにそう返され、ハンたちはすっと姿勢を戻す。
     それを受けて、白髪の男――ゼロ・タイムズは困った顔をした。
    「もう少し近くに寄って欲しい。こんなに距離を取って、大声でどうしたこうしたって話をし合うのも変だし」
    「失礼いたしました、陛下」
    「後、気も遣わなくていいからね。話をするなら、楽しくやりたいんだ」
    「は……」
     ハンも、そして背後の3名も会釈を返し、ゼロの前に――まだ、多少の距離は取りつつも――近付いた。
    「それでシモン尉官……、いや、ハン。それからマリア、ビート、シェロ。
     帰還報告をしてもらう前に、ちょっと皆をびっくりさせたいって子がいるから、会って欲しいんだ」
    「え?」
    「と仰いますと?」
     マリアたちが目を白黒させている一方、ハンは心の中でつぶやいていた。
    (やっぱりこのタイミングか……。やると思ったよ)
     それを見抜いたらしく、ゼロが苦笑する。
    「ハン、君は察しが付いてるみたいだね。うん、その想像は多分、正解だよ」
    「やはり、ですか」
    「それじゃ、まあ、……おいで、クー」
     ゼロがその名前を挙げたところで、マリアたちはまた、面食らった表情を浮かべた。
    「クー、って」
    「え、……え?」
     3人がぽかんとしている間に、ゼロが座っていた玉座の背後から、ひょいと白いドレスに身を包んだクーが現れた。
    「皆様、ご機嫌麗しゅう」
    「……なんで?」
     シェロが虚ろな声を上げる。
     が、クーはそれに応えず、ハンに目を向ける。
    「やはりあなたは見越していらっしゃったご様子ですわね、ハン」
    「ええ。殿下がそうした遊びをなさるであろうことは、予見しておりました」
    「まあ、他人行儀ですこと」
     クーはほおをぷくっと膨らませ、ハンに詰め寄ってきた。
    「父上からも申されたでしょう? お気を遣わず、これまで通りに話して下さいまし」
    「ああ、分かったよ」
     適当に応じつつ、そのやり取りを眺めていた3人が顔を真っ青にして騒いでいるのを確認し、ハンは肩をすくめた。
    (やれやれ、父娘揃ってこう言う戯事が好きなんだからな。
     まあ、それも全部、『無闇に気を遣わないでくれ』って言う、お二人の心遣いなのかも知れないが、……はぁ)
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