「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・彼心伝 3
神様たちの話、第111話。
ハンの抗弁。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
「まあ、ハン! 今更何を……」「クラム」
声を荒げかけたクーを、ゼロがやんわりと制する。
「他人の話は声を荒げて止めるべきものじゃない。最後まで、落ち着いて耳を傾けるべきだ。そうだろう?」
「……はい」
クーが黙り込んだところで、ゼロはハンに向き直る。
「ごめんね、話の腰を折ってしまって。聞かせてくれないか、ハン」
「では、3点ほど。
まず第一に、殿下が使う魔術は非常に強力かつ高い効果を生ずるものですが、反面――そうした高威力・高効果の宿命として――詠唱や発動において、多少なりとも時間を有します。
彼女の支援を必要とする状況が発生した際、その『多少の時間』を稼ぐために、我々が援護ないしは防御に徹しなければならなくなります。
それは即ち、我々4名、あるいは彼女を含めた5名全員が危険にさらされる時間が増えると言うことでもあります。その危険と、彼女を随行させる必要性のどちらが大きいか、現状では判断しにくいところです。
要素の不確実性を解消できない以上、その要素は――可能であれば――最初から排除すべきではないでしょうか」
「一理あるね。2つ目は?」
「殿下は兵士としての訓練を受けていらっしゃいません。
我々4名の、これまでの作戦行動はすべて野外で行っております。無訓練・無経験の身で殿下が随行されるとなれば、必ず我々の側が、何かしらの配慮・便宜を図らねばなりません。
そのような措置を取らねばならないと言うことは、率直に申せば、我々の足を引っ張ることに他なりません」
「確かに」
「そして3つ目ですが、先程陛下にご評価いただきましたように、我々の班としての実力の高さは、私の統率と部下たちの連携に起因するものです。
しかるに殿下は、ご自身の魔術の練度故か、多分に自信家でいらっしゃいます。そうした人間ほど、上の命令を聞かず、下の意見を軽んじる傾向にあることは事実ではないでしょうか。
団体行動において、そうした自分勝手で他人の話を聞かない人間が1名でもいれば、その団体全体の破綻につながりかねません。
殿下が随行することによって、我々の班の実力の低下、いや、班の瓦解・崩壊につながる事態も有り得るのでは無いかと、私は懸念しております」
「ふむ」
ハンの意見を聞き終え、ゼロはチラ、とクーに目をやる。
「確かにこの子は、団体行動に向くタイプじゃない。我を通そうとする性格だ。実際、『無理矢理にでも付いて行くぞ』と、君にゴリ押ししていたらしいしね。
もし本当に随行させれば、この子がワガママばかり言って、君や班の皆を困らせてしまうことは、想像に難くない。
それに最初、君は『3つほど』と言っていたけれど、本当はもっとあるよね、不満点」
「ええ」
ハンが素直にうなずくのを見て、クーは顔をしかめるが、ゼロがそれをたしなめた。
「ムッとする気持ちは分かるけれど、クラム。
今、彼が言った通り、君は何度もワガママを言って、ハンを困らせたんじゃないか? 不快感を与えられたって言うなら、それは君の方がちょっとばかり、回数が多いだろう。
今度ばかりは聞いてあげなさい、クラム」
「……はい」
クーがあからさまに不満そうな顔でほおをふくらませたところで、ゼロがハンに微笑みかける。
「そう言うことだ。
ハンの意見はもっともだし、十分に納得行くものだ。私としても、この子をろくな準備や訓練も無しに、危険な場所へ向かわせることは望んでいない。よって君たちはこれまで通り、4名で行動してほしい。
それで、……ここからが重大な話になる。悪いけれど一旦食事の手を止めて、落ち着いて聞いて欲しい。いいかな?」
「はっ」
ハンは勿論、がっついていたマリアたちも食器を机に戻し、一斉に敬礼する。
「話と言うのは、他でもない。ハン、君はノースポートの奪還作戦に、参加して欲しいんだ。
それも一班でではなく一大隊、400名を率いる指揮官としてだ。マリアとシェロ、ビートはその側近としてね」
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ハンの抗弁。
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3.
「まあ、ハン! 今更何を……」「クラム」
声を荒げかけたクーを、ゼロがやんわりと制する。
「他人の話は声を荒げて止めるべきものじゃない。最後まで、落ち着いて耳を傾けるべきだ。そうだろう?」
「……はい」
クーが黙り込んだところで、ゼロはハンに向き直る。
「ごめんね、話の腰を折ってしまって。聞かせてくれないか、ハン」
「では、3点ほど。
まず第一に、殿下が使う魔術は非常に強力かつ高い効果を生ずるものですが、反面――そうした高威力・高効果の宿命として――詠唱や発動において、多少なりとも時間を有します。
彼女の支援を必要とする状況が発生した際、その『多少の時間』を稼ぐために、我々が援護ないしは防御に徹しなければならなくなります。
それは即ち、我々4名、あるいは彼女を含めた5名全員が危険にさらされる時間が増えると言うことでもあります。その危険と、彼女を随行させる必要性のどちらが大きいか、現状では判断しにくいところです。
要素の不確実性を解消できない以上、その要素は――可能であれば――最初から排除すべきではないでしょうか」
「一理あるね。2つ目は?」
「殿下は兵士としての訓練を受けていらっしゃいません。
我々4名の、これまでの作戦行動はすべて野外で行っております。無訓練・無経験の身で殿下が随行されるとなれば、必ず我々の側が、何かしらの配慮・便宜を図らねばなりません。
そのような措置を取らねばならないと言うことは、率直に申せば、我々の足を引っ張ることに他なりません」
「確かに」
「そして3つ目ですが、先程陛下にご評価いただきましたように、我々の班としての実力の高さは、私の統率と部下たちの連携に起因するものです。
しかるに殿下は、ご自身の魔術の練度故か、多分に自信家でいらっしゃいます。そうした人間ほど、上の命令を聞かず、下の意見を軽んじる傾向にあることは事実ではないでしょうか。
団体行動において、そうした自分勝手で他人の話を聞かない人間が1名でもいれば、その団体全体の破綻につながりかねません。
殿下が随行することによって、我々の班の実力の低下、いや、班の瓦解・崩壊につながる事態も有り得るのでは無いかと、私は懸念しております」
「ふむ」
ハンの意見を聞き終え、ゼロはチラ、とクーに目をやる。
「確かにこの子は、団体行動に向くタイプじゃない。我を通そうとする性格だ。実際、『無理矢理にでも付いて行くぞ』と、君にゴリ押ししていたらしいしね。
もし本当に随行させれば、この子がワガママばかり言って、君や班の皆を困らせてしまうことは、想像に難くない。
それに最初、君は『3つほど』と言っていたけれど、本当はもっとあるよね、不満点」
「ええ」
ハンが素直にうなずくのを見て、クーは顔をしかめるが、ゼロがそれをたしなめた。
「ムッとする気持ちは分かるけれど、クラム。
今、彼が言った通り、君は何度もワガママを言って、ハンを困らせたんじゃないか? 不快感を与えられたって言うなら、それは君の方がちょっとばかり、回数が多いだろう。
今度ばかりは聞いてあげなさい、クラム」
「……はい」
クーがあからさまに不満そうな顔でほおをふくらませたところで、ゼロがハンに微笑みかける。
「そう言うことだ。
ハンの意見はもっともだし、十分に納得行くものだ。私としても、この子をろくな準備や訓練も無しに、危険な場所へ向かわせることは望んでいない。よって君たちはこれまで通り、4名で行動してほしい。
それで、……ここからが重大な話になる。悪いけれど一旦食事の手を止めて、落ち着いて聞いて欲しい。いいかな?」
「はっ」
ハンは勿論、がっついていたマリアたちも食器を机に戻し、一斉に敬礼する。
「話と言うのは、他でもない。ハン、君はノースポートの奪還作戦に、参加して欲しいんだ。
それも一班でではなく一大隊、400名を率いる指揮官としてだ。マリアとシェロ、ビートはその側近としてね」
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