「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・悲願録 1
晴奈の話、第218話。
伝説の剣士。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
晴奈が闘技場に参戦してから、1週間が過ぎた。
「闘技場の運営もびっくりしてるみたいだよ」
「と言うと?」
尋ねた晴奈に、ピースは興奮した顔を向ける。
「『瞬殺』なんて何年かぶりだもの。あっと言う間にあっちこっちの界隈で『女神復活!?』なーんてうわさが飛び交ってね。
だもんで、運営からもう打診が来たんだ。レオンリーグに来てくれって」
「ほう」
「いいよね、セイナさん?」
今度はピースに尋ねられ、晴奈は素直にうなずく。
「ええ、異存ありません」
「それでこそだ。……いや、実は勝手ながら、もう『行きます』って言っちゃってるんだ。多分セイナさんなら、うんって言ってくれると思ってたから」
「ええ、その通りですね」
もう一度うなずいた晴奈に、ピースも嬉しそうに言葉を続ける。
「良かった。と言うわけで2日後、次の対戦が組まれた。いやぁ、ワクワクするなぁ」
プレアを抱きかかえながら横で話を聞いていたボーダも、晴奈を褒めちぎる。
「流石、ユキノのお弟子さんね」
「いえ……」
が、黙々と刀の手入れをし、淡々と受け答えする晴奈に、二人は揃ってけげんな顔を見せた。
「どうしたの、セイナさん?」
「何だか不満そうだけど」
尋ねられ、晴奈も首を傾げ気味に答える。
「ん……。いや、まあ。こんなものかな、と」
「こんなもの?」
聞き返すピースに、晴奈は不満を告白した。
「以前に『焔の剣士や黒炎教団たちが苦戦している』とお聞きしましたが、実際のところ、私と相手との実力に、あまりにも差がありすぎる気がするのです。
参加している者たちには失礼ながら、どうにも気合いが乗らなくて。現状でもかなり手加減しておりますし」
「ああ、なるほど。とは言えまだ、セイナさんはレオンリーグに上がったばかりだし、そりゃまあ苦戦なんて、……あー、と、ちょっと待って」
ピースは机の側に積んである新聞から、二、三日前の一本を取り出した。
「うん、やっぱり今日だった。
セイナさん、丁度今日のニコルリーグで焔剣士さんが対戦するみたいですし、一度観戦してみてはどうでしょう?」
「ふむ。焔の剣士が、ですか」
それを聞いて、晴奈は興味を抱く。
(何ヶ月かぶりに、同門の姿を見られるか。
異国の地で過ごして、ずっと焔とは離れていたからな。剣の話ができる相手が欲しかったところだ。行ってみようかな)
ピースの勧めに従って、晴奈は闘技場に足を運んだ。ちなみに今日は、小鈴も一緒である。
「珍しいわね。晴奈が他の人の試合、観に来るなんてさ」
「ああ、同門が試合をすると聞いたから。とても興味深い」
旅をしていた間はずっと、小鈴に対して敬語を使っていた晴奈だったが、アランとの戦い以降、二人は旧来の友人のように、対等に接するようになっていた。
「あ、あの掲示板に書いてあるヤツ? 名前がソレっぽいけど」
小鈴は受付横に置かれている、本日の試合日程が書かれた掲示板を指差した。
「ふむ。央中語で書かれているが、確かにそれらしい名前の、……ナラ、サキ?」
掲示板をしげしげと眺めていた晴奈の尻尾が、ピンと立つ。
「ナラサキ!? ナラサキ、シュンジだと!?」
「どしたの、晴奈?」
小鈴が目を丸くして尋ねるが、晴奈は答えず、そのまま駆け出していく。
(まさか、こんなところで……!?)
晴奈は受付に飛び込み、係員に出場選手のことを尋ねる。
「すまぬ! 本日のニコルリーグに出ている者のことを聞きたい!」
「はい、何でしょうか?」
慌てた様子の晴奈に動じることなく、係員が応答する。
「ナラサキシュンジ、と言うのはどんな者だ!?」
「えーと、ナラサキ様ですか。……はい、ニコルリーグ出場の方で、本日14時にC闘技場の方に出場されますね」
「ほ、他に何か特徴は!?」
「そう言われましても、私共でお答えできるのはここまでですね。ご了承ください」
にべも無くあしらわれてしまったため、晴奈はそれ以上追求するのをやめた。
「……そうか。とりあえず、その試合の観戦がしたい。大人2枚、頼む」
「はい。お一人様40クラムです」
係員は最後まで冷静に、晴奈をあしらった。
晴奈たちは観客席に足を運び、試合の開始を待った。
(ナラサキ、とは楢崎殿のことだろうか。昔、私と師匠が青江に赴いた際にその名を聞いた、楢崎瞬二その人なのだろうか?)
「ねー、晴奈」
「ん?」
「さっきからナラサキって人にすごく反応してるけど、何かあったの?」
心配そうに尋ねてくる小鈴を見て、晴奈はようやく心を落ち着かせた。
「ああ、失敬。10年前、私と師匠は央南の青江と言う街に、その楢崎殿を訪ねたのだ。
だが楢崎殿はある男にだまされ、道場を奪われてしまった。さらにご子息までも、その男によってどこかへ売り飛ばされた、と」
晴奈の話に、小鈴は「うわぁ……」とつぶやいて表情を歪ませる。
「そんな悲惨な人が、何でこんなところに?」
「皆目、見当が付かない。最後に聞いた話では、息子さんを探して旅に出たとか。
もしかすれば、ここへもその目的で……」
「息子さんを探しにって、ソレでなんで闘技場なのよ? どー話つながんのよ、ソレ?」
小鈴に指摘され、晴奈は口ごもる。
「いや、それは、……うーむ、……確かに突飛すぎるか」
そうこうするうちに、アナウンスが響く。
「さあ、本日のニコルリーグ、519年第一期、第38戦が始まります!
今回は今、最もエリザリーグに近い者、二人の対戦です! 東口からはカール・サプラス! 本大会での成績はまずまずの0.61! ある意味、最も順当に勝ち進んだ『狼』の勇士です!」
アナウンスに応え、東口から現れた「狼」がブンブン手を振っている。
「ふむ、少しおどけた様子はあるが、なるほど、確かに手練と言った雰囲気だ」
「そうねぇ。いかにもお調子者っぽいけど、身のこなしに隙が無いわ。見たところ、武闘派な感じね」
続いてアナウンスは、晴奈が気にしていた人物を呼び出した。
「対する西口からはシュンジ・ナラサキ! その鋭い戦い方と哀愁のある風貌から、一部のお客様方から絶大な支持を受けている、異国の剣士であります! 現在の勝率は0.87! こちらもなかなかの成績で、勝ち進んでおります!」
現れたのは、既に40の半ばかと言う頃の、非常に背の高い、痩せ気味の短耳だった。その瞳は多少窪んではいるものの、力強い光を放っている。
晴奈も小鈴も、こちらの方が強そうだと直感的に感じた。
「へーぇ。案外、強そうじゃない。渋くてちょっと好みかも」
小鈴の一言に、晴奈は面食らう。
「こ、小鈴?」
「冗談よ、じょーだん。
でもホント、あの『狼』と比べたら雲泥の差ね。十中八九、楢崎さんの方が勝つんじゃない?」
「まあ、そうだろうな」
対戦者が揃ったところで、アナウンスが一際場を盛り上げる。
「この試合、果たして勝利の女神はどちらに微笑むのでしょうか!?
それでは試合、開始っ!」
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伝説の剣士。
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晴奈が闘技場に参戦してから、1週間が過ぎた。
「闘技場の運営もびっくりしてるみたいだよ」
「と言うと?」
尋ねた晴奈に、ピースは興奮した顔を向ける。
「『瞬殺』なんて何年かぶりだもの。あっと言う間にあっちこっちの界隈で『女神復活!?』なーんてうわさが飛び交ってね。
だもんで、運営からもう打診が来たんだ。レオンリーグに来てくれって」
「ほう」
「いいよね、セイナさん?」
今度はピースに尋ねられ、晴奈は素直にうなずく。
「ええ、異存ありません」
「それでこそだ。……いや、実は勝手ながら、もう『行きます』って言っちゃってるんだ。多分セイナさんなら、うんって言ってくれると思ってたから」
「ええ、その通りですね」
もう一度うなずいた晴奈に、ピースも嬉しそうに言葉を続ける。
「良かった。と言うわけで2日後、次の対戦が組まれた。いやぁ、ワクワクするなぁ」
プレアを抱きかかえながら横で話を聞いていたボーダも、晴奈を褒めちぎる。
「流石、ユキノのお弟子さんね」
「いえ……」
が、黙々と刀の手入れをし、淡々と受け答えする晴奈に、二人は揃ってけげんな顔を見せた。
「どうしたの、セイナさん?」
「何だか不満そうだけど」
尋ねられ、晴奈も首を傾げ気味に答える。
「ん……。いや、まあ。こんなものかな、と」
「こんなもの?」
聞き返すピースに、晴奈は不満を告白した。
「以前に『焔の剣士や黒炎教団たちが苦戦している』とお聞きしましたが、実際のところ、私と相手との実力に、あまりにも差がありすぎる気がするのです。
参加している者たちには失礼ながら、どうにも気合いが乗らなくて。現状でもかなり手加減しておりますし」
「ああ、なるほど。とは言えまだ、セイナさんはレオンリーグに上がったばかりだし、そりゃまあ苦戦なんて、……あー、と、ちょっと待って」
ピースは机の側に積んである新聞から、二、三日前の一本を取り出した。
「うん、やっぱり今日だった。
セイナさん、丁度今日のニコルリーグで焔剣士さんが対戦するみたいですし、一度観戦してみてはどうでしょう?」
「ふむ。焔の剣士が、ですか」
それを聞いて、晴奈は興味を抱く。
(何ヶ月かぶりに、同門の姿を見られるか。
異国の地で過ごして、ずっと焔とは離れていたからな。剣の話ができる相手が欲しかったところだ。行ってみようかな)
ピースの勧めに従って、晴奈は闘技場に足を運んだ。ちなみに今日は、小鈴も一緒である。
「珍しいわね。晴奈が他の人の試合、観に来るなんてさ」
「ああ、同門が試合をすると聞いたから。とても興味深い」
旅をしていた間はずっと、小鈴に対して敬語を使っていた晴奈だったが、アランとの戦い以降、二人は旧来の友人のように、対等に接するようになっていた。
「あ、あの掲示板に書いてあるヤツ? 名前がソレっぽいけど」
小鈴は受付横に置かれている、本日の試合日程が書かれた掲示板を指差した。
「ふむ。央中語で書かれているが、確かにそれらしい名前の、……ナラ、サキ?」
掲示板をしげしげと眺めていた晴奈の尻尾が、ピンと立つ。
「ナラサキ!? ナラサキ、シュンジだと!?」
「どしたの、晴奈?」
小鈴が目を丸くして尋ねるが、晴奈は答えず、そのまま駆け出していく。
(まさか、こんなところで……!?)
晴奈は受付に飛び込み、係員に出場選手のことを尋ねる。
「すまぬ! 本日のニコルリーグに出ている者のことを聞きたい!」
「はい、何でしょうか?」
慌てた様子の晴奈に動じることなく、係員が応答する。
「ナラサキシュンジ、と言うのはどんな者だ!?」
「えーと、ナラサキ様ですか。……はい、ニコルリーグ出場の方で、本日14時にC闘技場の方に出場されますね」
「ほ、他に何か特徴は!?」
「そう言われましても、私共でお答えできるのはここまでですね。ご了承ください」
にべも無くあしらわれてしまったため、晴奈はそれ以上追求するのをやめた。
「……そうか。とりあえず、その試合の観戦がしたい。大人2枚、頼む」
「はい。お一人様40クラムです」
係員は最後まで冷静に、晴奈をあしらった。
晴奈たちは観客席に足を運び、試合の開始を待った。
(ナラサキ、とは楢崎殿のことだろうか。昔、私と師匠が青江に赴いた際にその名を聞いた、楢崎瞬二その人なのだろうか?)
「ねー、晴奈」
「ん?」
「さっきからナラサキって人にすごく反応してるけど、何かあったの?」
心配そうに尋ねてくる小鈴を見て、晴奈はようやく心を落ち着かせた。
「ああ、失敬。10年前、私と師匠は央南の青江と言う街に、その楢崎殿を訪ねたのだ。
だが楢崎殿はある男にだまされ、道場を奪われてしまった。さらにご子息までも、その男によってどこかへ売り飛ばされた、と」
晴奈の話に、小鈴は「うわぁ……」とつぶやいて表情を歪ませる。
「そんな悲惨な人が、何でこんなところに?」
「皆目、見当が付かない。最後に聞いた話では、息子さんを探して旅に出たとか。
もしかすれば、ここへもその目的で……」
「息子さんを探しにって、ソレでなんで闘技場なのよ? どー話つながんのよ、ソレ?」
小鈴に指摘され、晴奈は口ごもる。
「いや、それは、……うーむ、……確かに突飛すぎるか」
そうこうするうちに、アナウンスが響く。
「さあ、本日のニコルリーグ、519年第一期、第38戦が始まります!
今回は今、最もエリザリーグに近い者、二人の対戦です! 東口からはカール・サプラス! 本大会での成績はまずまずの0.61! ある意味、最も順当に勝ち進んだ『狼』の勇士です!」
アナウンスに応え、東口から現れた「狼」がブンブン手を振っている。
「ふむ、少しおどけた様子はあるが、なるほど、確かに手練と言った雰囲気だ」
「そうねぇ。いかにもお調子者っぽいけど、身のこなしに隙が無いわ。見たところ、武闘派な感じね」
続いてアナウンスは、晴奈が気にしていた人物を呼び出した。
「対する西口からはシュンジ・ナラサキ! その鋭い戦い方と哀愁のある風貌から、一部のお客様方から絶大な支持を受けている、異国の剣士であります! 現在の勝率は0.87! こちらもなかなかの成績で、勝ち進んでおります!」
現れたのは、既に40の半ばかと言う頃の、非常に背の高い、痩せ気味の短耳だった。その瞳は多少窪んではいるものの、力強い光を放っている。
晴奈も小鈴も、こちらの方が強そうだと直感的に感じた。
「へーぇ。案外、強そうじゃない。渋くてちょっと好みかも」
小鈴の一言に、晴奈は面食らう。
「こ、小鈴?」
「冗談よ、じょーだん。
でもホント、あの『狼』と比べたら雲泥の差ね。十中八九、楢崎さんの方が勝つんじゃない?」
「まあ、そうだろうな」
対戦者が揃ったところで、アナウンスが一際場を盛り上げる。
「この試合、果たして勝利の女神はどちらに微笑むのでしょうか!?
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