「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・彼心伝 4
神様たちの話、第112話。
抜擢と懸念。
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4.
ゼロの要請に、ハンは面食らった。
「俺に、……いや、私にですか?」
「そうだ。結論から言えば、君以上の適任はいないだろう。
まず第一に、敵と考えられる相手をその目で確認し、人数や特徴、戦術なんかも、多少なりとも把握している。間違い無く、我々の中で最も相手を熟知しているはずだ。
第二に、君の指揮官としての実力と、君自身の経験を評価しているからだ。
勿論、過去には君よりも大人数を率い、バケモノたちを退治、駆逐してきた実績のある者はまだ、何人も軍に残っている。だけどあくまで『バケモノ相手』だ。軍はこの20年、バケモノ退治はしても、人を相手にしたことは一度も無い。
なまじそうした類の実戦経験がある故に、初となる対人戦闘においては、大きく誤った判断を下す可能性がある。だが君は、人に対してバケモノ扱いだとか、ただ討ち滅ぼすだけの存在だなんて、考えたりはしないはずだ。
君ほどその短い人生で他人から執拗に悩まされ、他人との距離や関係に細心の注意を払ってきた人間は、そうはいないからね」
「……!」
ゼロの言葉に、ハンは心をぎゅっとつかまれたかのような感覚を覚えた。
(俺と、エリザさんのことを言ってるのかな……。いや、それだけじゃないな。
この人はずっと観察していたんだろう。俺の言動や態度から、俺がどんな人間かを)
ハンの動揺に気付いた様子を少しも見せず、ゼロは話を続ける。
「そして第三だけど、君はエリザと縁が深いからね」
「え……?」
「彼女にも協力を仰ごうと思っているんだ。
彼女も他人を攻撃するだけの存在と考えてばいないはずだ。恐らくは『交渉できるだろう相手』と見ている。
それに彼女の知恵と技術は信頼のおけるものだ。今回の作戦に投入されれば、並々ならぬ効果を上げてくれるはずだ。
と言って、彼女を隊長に据えようと言うことは考えていない」
「何故です? 経験なら彼女の方が豊富でしょう?」
「確かにそうだ。でも彼女は軍の人間じゃないし、私の管轄下にもいない。あくまで提携関係にあるだけだからね。
そもそも彼女に隊を任せると、後で色々困りそうなんだ。20年前にも、彼女に要請されて送った部隊が、向こうに50名以上も残ってしまったからね。
他にも現在に至るまで、彼女に関する遺恨が色々と残っている。君にも思い当たる節があるだろう?」
「……ええ。確かに」
ハンがぎこちなくうなずく一方で、ゼロも苦々しい笑みを浮かべている。
「あまりこう言うことを言いたくないけれど、エリザは危険物と言うか、劇薬と言うか、……有用極まりない人物である一方、扱いがすごく難しい人だ。
あまり好意的にしすぎるとどっぷり付け入られるし、敵対したらしたで、徹底的に攻撃してくる。味方に付けても敵に回してもまったく油断のできない、本当に怖い人だよ。正直に言えば、あまり関係を持ちたくない相手ではある。
とは言え、今回の作戦は何としてでも成功させなければならない。失敗すれば今後、より大きな問題へと発展するかも知れないからね。だからこそ、彼女の協力は必須だ。
そして協力が得られたとして、他の人間が隊長だと、彼女に主導権を握られて隊を私兵化され、そのままノースポートに居座られでもされかねない。
君が隊長であれば、いくら彼女でも、そこまでの暴走はしないだろう」
「そうだといいんですが」
「君を隊長に据えた場合が、一番その可能性が低い。
万が一、隊が彼女の手に渡ってしまったとしても、君までもが彼女の手に落ちるとは考えられない。最悪の状況に陥ることはまず、無い」
と、唐突にビートが立ち上がる。
「し、失礼ながら、陛下!」
「ビート!」
ハンがたしなめようとしたが、ゼロはにこっと微笑み、それをなだめる。
「いや、いい。聞こう、ビート」
「で、では。……その、陛下。仰り方がまるで、ゴールドマン先生が悪人であるかのような、そのように聞こえるのですが」
「残念ながら、ビート」
ビートの質問に、ゼロは苦笑しつつ、こう答えた。
「私は、そのつもりで話している。あまり人のことを悪く言いたくはないけれど、はっきり言おう。
エリザ・ゴールドマンと言う女性は、残念ながら、悪人の部類に入る人間だ」
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抜擢と懸念。
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4.
ゼロの要請に、ハンは面食らった。
「俺に、……いや、私にですか?」
「そうだ。結論から言えば、君以上の適任はいないだろう。
まず第一に、敵と考えられる相手をその目で確認し、人数や特徴、戦術なんかも、多少なりとも把握している。間違い無く、我々の中で最も相手を熟知しているはずだ。
第二に、君の指揮官としての実力と、君自身の経験を評価しているからだ。
勿論、過去には君よりも大人数を率い、バケモノたちを退治、駆逐してきた実績のある者はまだ、何人も軍に残っている。だけどあくまで『バケモノ相手』だ。軍はこの20年、バケモノ退治はしても、人を相手にしたことは一度も無い。
なまじそうした類の実戦経験がある故に、初となる対人戦闘においては、大きく誤った判断を下す可能性がある。だが君は、人に対してバケモノ扱いだとか、ただ討ち滅ぼすだけの存在だなんて、考えたりはしないはずだ。
君ほどその短い人生で他人から執拗に悩まされ、他人との距離や関係に細心の注意を払ってきた人間は、そうはいないからね」
「……!」
ゼロの言葉に、ハンは心をぎゅっとつかまれたかのような感覚を覚えた。
(俺と、エリザさんのことを言ってるのかな……。いや、それだけじゃないな。
この人はずっと観察していたんだろう。俺の言動や態度から、俺がどんな人間かを)
ハンの動揺に気付いた様子を少しも見せず、ゼロは話を続ける。
「そして第三だけど、君はエリザと縁が深いからね」
「え……?」
「彼女にも協力を仰ごうと思っているんだ。
彼女も他人を攻撃するだけの存在と考えてばいないはずだ。恐らくは『交渉できるだろう相手』と見ている。
それに彼女の知恵と技術は信頼のおけるものだ。今回の作戦に投入されれば、並々ならぬ効果を上げてくれるはずだ。
と言って、彼女を隊長に据えようと言うことは考えていない」
「何故です? 経験なら彼女の方が豊富でしょう?」
「確かにそうだ。でも彼女は軍の人間じゃないし、私の管轄下にもいない。あくまで提携関係にあるだけだからね。
そもそも彼女に隊を任せると、後で色々困りそうなんだ。20年前にも、彼女に要請されて送った部隊が、向こうに50名以上も残ってしまったからね。
他にも現在に至るまで、彼女に関する遺恨が色々と残っている。君にも思い当たる節があるだろう?」
「……ええ。確かに」
ハンがぎこちなくうなずく一方で、ゼロも苦々しい笑みを浮かべている。
「あまりこう言うことを言いたくないけれど、エリザは危険物と言うか、劇薬と言うか、……有用極まりない人物である一方、扱いがすごく難しい人だ。
あまり好意的にしすぎるとどっぷり付け入られるし、敵対したらしたで、徹底的に攻撃してくる。味方に付けても敵に回してもまったく油断のできない、本当に怖い人だよ。正直に言えば、あまり関係を持ちたくない相手ではある。
とは言え、今回の作戦は何としてでも成功させなければならない。失敗すれば今後、より大きな問題へと発展するかも知れないからね。だからこそ、彼女の協力は必須だ。
そして協力が得られたとして、他の人間が隊長だと、彼女に主導権を握られて隊を私兵化され、そのままノースポートに居座られでもされかねない。
君が隊長であれば、いくら彼女でも、そこまでの暴走はしないだろう」
「そうだといいんですが」
「君を隊長に据えた場合が、一番その可能性が低い。
万が一、隊が彼女の手に渡ってしまったとしても、君までもが彼女の手に落ちるとは考えられない。最悪の状況に陥ることはまず、無い」
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「いや、いい。聞こう、ビート」
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今日の旅岡さん

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- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
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NoTitle
「悪に強きものは善にも強し」を地で行くタイプの人だからなあ。
というかあの人、「その場のノリと勢い」だけで行動している部分がありはしないか(^^;)
というかあの人、「その場のノリと勢い」だけで行動している部分がありはしないか(^^;)
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NoTitle
しかもノリや勢いで無茶苦茶やって、その結果が周囲に肯定されるという、強運と言うか、タチの悪い面も持っていたり。
几帳面なハンからしたら、ハラワタ煮えくり返る展開です。