「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・彼心伝 6
神様たちの話、第114話。
シモン家。
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6.
ゼロが便宜を図ってくれた通り、ハンたちの班には3日間の休暇が与えられ、各々自由に過ごしていた。
ハンはクーからの「おねがい」を断った穴埋めをするため、彼女を自分の実家に招待していたのだが――。
「まず、弁明させて欲しい」
「どうぞ」
「随行を断った件だが、君には本当に済まないと思っている。だからこれは本来、お詫びも兼ねてのことだったんだ」
「ええ。十分に承知しておりますわ」
「だが、……その、……彼らがいることは、その考えとは関係が無いことなんだ。
無論、君に対していたずらをするだとか、不快にさせようなんて気は、毛頭無い。
知っていたら勿論、教えた」
「はあ」
「つまり、その、想定外の事態と言うのも、何と言うか、時に起こってしまうことは、仕方無い。それを理解してくれると、とても助かるし、ありがたい」
「ええ。この状況がハンの想定し得ないものであることは、十分に理解しておりますわ」
クーは室内を一瞥し、父親譲りの穏やかな笑顔で応える。
「流石に『お母様』の方はいらっしゃらないようですわね。お忙しいとご自身で仰っていたし、父上も帰ったものとお考えのようでしたし。
もしいらっしゃったら、ハンたちのお手間が省けたでしょうに、……とは申せませんわね」
「ああ。正直、俺と彼女の2人で膝を詰めて話をするのは、考えただけで相当辛い」
「ことごとく、ハンの神経を休ませない方ですこと」
ハンとクーが並んでため息を付いたところで、居間にいた狐獣人が声をかける。
「あ、あのー、僕と、あの、リンダおるけど、な、何か、アカンかった?」
「いや、そんなことは無い。単にびっくりしただけだ」
「あ、う、うん。えっと、えー、兄さ、あ、いや、あのー……」
狐獣人はチラチラとクーを見ながら、困ったような顔をハンに向ける。彼の聞きたいことを察し、ハンは先に答えた。
「この子はクー。俺たちの家の事情については知ってる。いつも通りでいい」
「あ、うん」
「それで、ロイド。エリザさんに連れられて来たのか?」
ハンに尋ねられ、その気弱そうな狐獣人――エリザの息子、ロイド・ゴールドマンは小さくうなずいた。
「う、うん。帰りは、あ、えっと、母さんから『どうせハンくんら、近いうちにウチんトコ来はるやろから、一緒に連れてってもらい』って言われて、あの、母さん、先に帰ってしもたんやけど、その、予定って、兄さん、あったり、する?」
ロイドの言葉に、ハンとクーは揃って目を丸くした。
「マジかよ」
「ご明察にも程がございますわね」
二人は顔を見合わせ、エリザの考えを推測する。
「そこまで読んでるってことは、陛下がエリザさんを招聘(しょうへい)しようとしてることも、俺たちがその使いに行くことも、予想済みだってことになる」
「もしかしたらハンが大隊の指揮官になることも、察していらっしゃるかも知れませんわね」
「まさか、とは思うけどな」
互いに苦笑いを浮かべたところで、ハンが尋ねる。
「しかし、本当にこれで良かったのか? 俺の家なんて、何も見るものなんか無いぞ」
「ええ、これで結構ですわ。ご家族にもお会いしたいと思っておりましたし、以前に『妹さんに魔術指導する』と約束しておりましたし。
……とは申しましても、エリザ女史が度々いらっしゃっているのでしたら、わたくしが教えることは皆無かも知れませんけれど」
「いや、そんなこと無いさ。……と言っても、俺は魔術については全然だから、妹たちがどれくらい使えるか知らないけど」
二人で話していたところに、ハンの妹たちが寄ってくる。
「お帰りなさい、兄さん。そっちの子は?」
「あー、と」
正直に話すか迷い、ハンはクーに目をやる。クーも目線を合わせ、小さくうなずいて自己紹介した。
「わたくしは魔術師のクーと申します。ハンの友人ですわ」
「ゆうじん?」
妹3人が揃って目を丸くし、異口同音に尋ねてくる。
「兄やん、友達おったん?」
「そりゃいるさ。俺を何だと思ってるんだ」
「でもあたし、お兄ちゃんが家に友達連れてきたの、見たこと無いよ」
「そうだっけ?」
「私も見た覚え無いわね。家でだって、基本外から帰って来てご飯食べてお風呂入ったら、そのまま朝まで部屋に籠もってるし。
たまに外へ一緒に出かけても、何も買わないし、ご飯おごってくれても露店のサンドイッチくらいだし」
「つまんないよね」
「ねー」
目の前でかしましく騒がれ、ハンは苦笑いする。
「俺の話はいいだろ? それより……」
「あ、そうだった。
はじめまして、クーさん。私はヴァージニア・シモン。ジニーって呼んでね」
「あたしはテレサ。こっちの耳ふわふわしてるのはリンダ」
「もー、自分で言うてー。先に言わんといてーやー」
二言、三言話す度にきゃっきゃっとじゃれる妹たちを前に、クーも楽しそうに、クスクスと笑っていた。
「とても仲がよろしいのね、皆さん」
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シモン家。
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6.
ゼロが便宜を図ってくれた通り、ハンたちの班には3日間の休暇が与えられ、各々自由に過ごしていた。
ハンはクーからの「おねがい」を断った穴埋めをするため、彼女を自分の実家に招待していたのだが――。
「まず、弁明させて欲しい」
「どうぞ」
「随行を断った件だが、君には本当に済まないと思っている。だからこれは本来、お詫びも兼ねてのことだったんだ」
「ええ。十分に承知しておりますわ」
「だが、……その、……彼らがいることは、その考えとは関係が無いことなんだ。
無論、君に対していたずらをするだとか、不快にさせようなんて気は、毛頭無い。
知っていたら勿論、教えた」
「はあ」
「つまり、その、想定外の事態と言うのも、何と言うか、時に起こってしまうことは、仕方無い。それを理解してくれると、とても助かるし、ありがたい」
「ええ。この状況がハンの想定し得ないものであることは、十分に理解しておりますわ」
クーは室内を一瞥し、父親譲りの穏やかな笑顔で応える。
「流石に『お母様』の方はいらっしゃらないようですわね。お忙しいとご自身で仰っていたし、父上も帰ったものとお考えのようでしたし。
もしいらっしゃったら、ハンたちのお手間が省けたでしょうに、……とは申せませんわね」
「ああ。正直、俺と彼女の2人で膝を詰めて話をするのは、考えただけで相当辛い」
「ことごとく、ハンの神経を休ませない方ですこと」
ハンとクーが並んでため息を付いたところで、居間にいた狐獣人が声をかける。
「あ、あのー、僕と、あの、リンダおるけど、な、何か、アカンかった?」
「いや、そんなことは無い。単にびっくりしただけだ」
「あ、う、うん。えっと、えー、兄さ、あ、いや、あのー……」
狐獣人はチラチラとクーを見ながら、困ったような顔をハンに向ける。彼の聞きたいことを察し、ハンは先に答えた。
「この子はクー。俺たちの家の事情については知ってる。いつも通りでいい」
「あ、うん」
「それで、ロイド。エリザさんに連れられて来たのか?」
ハンに尋ねられ、その気弱そうな狐獣人――エリザの息子、ロイド・ゴールドマンは小さくうなずいた。
「う、うん。帰りは、あ、えっと、母さんから『どうせハンくんら、近いうちにウチんトコ来はるやろから、一緒に連れてってもらい』って言われて、あの、母さん、先に帰ってしもたんやけど、その、予定って、兄さん、あったり、する?」
ロイドの言葉に、ハンとクーは揃って目を丸くした。
「マジかよ」
「ご明察にも程がございますわね」
二人は顔を見合わせ、エリザの考えを推測する。
「そこまで読んでるってことは、陛下がエリザさんを招聘(しょうへい)しようとしてることも、俺たちがその使いに行くことも、予想済みだってことになる」
「もしかしたらハンが大隊の指揮官になることも、察していらっしゃるかも知れませんわね」
「まさか、とは思うけどな」
互いに苦笑いを浮かべたところで、ハンが尋ねる。
「しかし、本当にこれで良かったのか? 俺の家なんて、何も見るものなんか無いぞ」
「ええ、これで結構ですわ。ご家族にもお会いしたいと思っておりましたし、以前に『妹さんに魔術指導する』と約束しておりましたし。
……とは申しましても、エリザ女史が度々いらっしゃっているのでしたら、わたくしが教えることは皆無かも知れませんけれど」
「いや、そんなこと無いさ。……と言っても、俺は魔術については全然だから、妹たちがどれくらい使えるか知らないけど」
二人で話していたところに、ハンの妹たちが寄ってくる。
「お帰りなさい、兄さん。そっちの子は?」
「あー、と」
正直に話すか迷い、ハンはクーに目をやる。クーも目線を合わせ、小さくうなずいて自己紹介した。
「わたくしは魔術師のクーと申します。ハンの友人ですわ」
「ゆうじん?」
妹3人が揃って目を丸くし、異口同音に尋ねてくる。
「兄やん、友達おったん?」
「そりゃいるさ。俺を何だと思ってるんだ」
「でもあたし、お兄ちゃんが家に友達連れてきたの、見たこと無いよ」
「そうだっけ?」
「私も見た覚え無いわね。家でだって、基本外から帰って来てご飯食べてお風呂入ったら、そのまま朝まで部屋に籠もってるし。
たまに外へ一緒に出かけても、何も買わないし、ご飯おごってくれても露店のサンドイッチくらいだし」
「つまんないよね」
「ねー」
目の前でかしましく騒がれ、ハンは苦笑いする。
「俺の話はいいだろ? それより……」
「あ、そうだった。
はじめまして、クーさん。私はヴァージニア・シモン。ジニーって呼んでね」
「あたしはテレサ。こっちの耳ふわふわしてるのはリンダ」
「もー、自分で言うてー。先に言わんといてーやー」
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