「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・彼心伝 7
神様たちの話、第115話。
父と子。
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7.
クーと妹たちが談笑し始めたところで、ハンはその場を離れ、一人黙々と本を読んでいるロイドに声をかけた。
「ロイド、久しぶりだな」
「えっ、あっ、うん」
「前に会ったのって、いつくらいだったっけ」
「えーと、確か半年くらい前。今回のんみたいに、母さんとリンダと一緒にこっち来た」
「何の用だったんだっけ」
「何か、母さんがタイムズさんと話し合いある言うて」
「そっか。……何の本読んでるんだ?」
「書いとる」
「あ、うん。何書いてるんだ?」
「母さんから言われたこと、まとめとるとこ」
「どんなこと言われたんだ?」
「色々。魔術とか、彫金とか」
「大変だな」
「うん」
色々と声をかけてみるが、どれも一方通行気味で、ハンがやめれば話は止まってしまう。
会話を諦め、ハンはもう一度、妹たちとクーの様子を眺めてみる。
(……ま、俺がいなくても良さそうだな、あっちは。
これでようやく、一息付けるってところか)
ハンは誰にも気付かれないようにそっと居間を離れ、自分の部屋に向かおうとした。
と――。
「ハン、帰って来てたのか」
廊下に出たところで、背後から声がかけられる。
ハンが振り向くと、そこには自分の父、ゲート・シモンの姿があった。
「いたのか、親父?」
「そりゃいるさ。自分の家でくつろいで何が悪い」
「いや、悪くないけどさ。今まで全然姿見せなかったし、いないのかと思ってた」
「家の中が騒がしいからな。庭の畑いじってた」
そう返した父に、ハンは苦笑いする。
「将軍様が畑いじりかよ。相変わらずだなぁ」
「俺の趣味だからな。
それよりハン、ゼロから聞いたけども、大変な目に遭ったんだってな」
「ああ。どこまで聞いてる?」
「お前が現地から報告した内容は、全部こっちにも伝わってる。
で、こっちの対応についてだが、もうゼロから聞いてるか?」
「ああ。びっくりしたよ、俺が大隊指揮官なんて」
「ま、多少若いのは心配っちゃ心配だが」
ゲートは肩をすくめ、こう続ける。
「それ以外に不満点は無い。他の将軍連中にも、そう言って説得したしな」
これを聞いて、ハンは憮然とした気持ちになる。
「って、親父が俺を推薦したのか?」
「ああ。だが、理由もゼロから聞いたろ?」
「一応な」
「そんなら、ひいきしたんじゃないってことは分かってくれるな?
これは父親の欲目じゃなく、将軍としての、公平な判断だからな」
「うーん……」
釈然としない気分ではあったものの、ハンはこれ以上、この話題について話すことを避けた。
(今更俺が何言ったって、決定は変わらないだろうしな。
それに軍からの正式な辞令でもあるし、いち軍人が断るわけに行かない。……まあ、断る理由もつもりも無いしな)
「あー、と。それから、ハン」
と、ゲートがどこか遠慮がちな声色で、こんなことを尋ねてきた。
「そのー……、エリちゃんに遭ったって?」
「ああ、うん。いつも通りだったよ」
「そうか。……毎回、すまんな」
「いいよ、もう。あの人はああ言う人だって、諦めてるから」
「まあ、なんだ。せめて南へ行く時は、ある程度便宜するから。装備とか費用とか」
「気にしないでいいって」
「……あと、もう一つな」
ゲートが神妙な顔になり、居間をチラ、と覗き見つつ尋ねてくる。
「なんで家にクラムがいるんだ?」
「家に来たいってお願いされたんだよ。随行断ったから、その埋め合わせってことで」
「お前、まさか手を出してないよな」
「親父じゃあるまいし」
そう返したところで、ゲートの顔色が目に見えて悪くなる。
「い、いや、エリちゃんのことは不可抗力なんだって、マジで」
「不可抗力で2人も子供ができるのか?」
「……ま、まあ、なんだ。この話はもう、やめにしよう」
「ああ。クー、……いや、クラム殿下のことだけど、一応、ジニーたちには身分明かしてないから、そのつもりで接してくれれば」
「そうか、うん、分かった。
……あー、と。忘れ物したかも知れんから、畑戻るわ」
「ああ」
そそくさとその場を離れていくゲートの背を眺めつつ、ハンはため息をついた。
(このことさえ無かったら、あんたのことは、そこそこ尊敬できるんだけどな)
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父と子。
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クーと妹たちが談笑し始めたところで、ハンはその場を離れ、一人黙々と本を読んでいるロイドに声をかけた。
「ロイド、久しぶりだな」
「えっ、あっ、うん」
「前に会ったのって、いつくらいだったっけ」
「えーと、確か半年くらい前。今回のんみたいに、母さんとリンダと一緒にこっち来た」
「何の用だったんだっけ」
「何か、母さんがタイムズさんと話し合いある言うて」
「そっか。……何の本読んでるんだ?」
「書いとる」
「あ、うん。何書いてるんだ?」
「母さんから言われたこと、まとめとるとこ」
「どんなこと言われたんだ?」
「色々。魔術とか、彫金とか」
「大変だな」
「うん」
色々と声をかけてみるが、どれも一方通行気味で、ハンがやめれば話は止まってしまう。
会話を諦め、ハンはもう一度、妹たちとクーの様子を眺めてみる。
(……ま、俺がいなくても良さそうだな、あっちは。
これでようやく、一息付けるってところか)
ハンは誰にも気付かれないようにそっと居間を離れ、自分の部屋に向かおうとした。
と――。
「ハン、帰って来てたのか」
廊下に出たところで、背後から声がかけられる。
ハンが振り向くと、そこには自分の父、ゲート・シモンの姿があった。
「いたのか、親父?」
「そりゃいるさ。自分の家でくつろいで何が悪い」
「いや、悪くないけどさ。今まで全然姿見せなかったし、いないのかと思ってた」
「家の中が騒がしいからな。庭の畑いじってた」
そう返した父に、ハンは苦笑いする。
「将軍様が畑いじりかよ。相変わらずだなぁ」
「俺の趣味だからな。
それよりハン、ゼロから聞いたけども、大変な目に遭ったんだってな」
「ああ。どこまで聞いてる?」
「お前が現地から報告した内容は、全部こっちにも伝わってる。
で、こっちの対応についてだが、もうゼロから聞いてるか?」
「ああ。びっくりしたよ、俺が大隊指揮官なんて」
「ま、多少若いのは心配っちゃ心配だが」
ゲートは肩をすくめ、こう続ける。
「それ以外に不満点は無い。他の将軍連中にも、そう言って説得したしな」
これを聞いて、ハンは憮然とした気持ちになる。
「って、親父が俺を推薦したのか?」
「ああ。だが、理由もゼロから聞いたろ?」
「一応な」
「そんなら、ひいきしたんじゃないってことは分かってくれるな?
これは父親の欲目じゃなく、将軍としての、公平な判断だからな」
「うーん……」
釈然としない気分ではあったものの、ハンはこれ以上、この話題について話すことを避けた。
(今更俺が何言ったって、決定は変わらないだろうしな。
それに軍からの正式な辞令でもあるし、いち軍人が断るわけに行かない。……まあ、断る理由もつもりも無いしな)
「あー、と。それから、ハン」
と、ゲートがどこか遠慮がちな声色で、こんなことを尋ねてきた。
「そのー……、エリちゃんに遭ったって?」
「ああ、うん。いつも通りだったよ」
「そうか。……毎回、すまんな」
「いいよ、もう。あの人はああ言う人だって、諦めてるから」
「まあ、なんだ。せめて南へ行く時は、ある程度便宜するから。装備とか費用とか」
「気にしないでいいって」
「……あと、もう一つな」
ゲートが神妙な顔になり、居間をチラ、と覗き見つつ尋ねてくる。
「なんで家にクラムがいるんだ?」
「家に来たいってお願いされたんだよ。随行断ったから、その埋め合わせってことで」
「お前、まさか手を出してないよな」
「親父じゃあるまいし」
そう返したところで、ゲートの顔色が目に見えて悪くなる。
「い、いや、エリちゃんのことは不可抗力なんだって、マジで」
「不可抗力で2人も子供ができるのか?」
「……ま、まあ、なんだ。この話はもう、やめにしよう」
「ああ。クー、……いや、クラム殿下のことだけど、一応、ジニーたちには身分明かしてないから、そのつもりで接してくれれば」
「そうか、うん、分かった。
……あー、と。忘れ物したかも知れんから、畑戻るわ」
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