「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・彼心伝 8
神様たちの話、第116話。
部下三人組の休日。
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8.
ハンが家にクーを招いていた頃、マリアたち3人は、揃って街の食堂を訪れていた。
「うふふふー」
料理を待つ間、嬉しそうな笑みを浮かべるマリアを見て、ビートとシェロも笑っている。
「そんなに楽しみなんスか?」
「そりゃそーよ。あたし、どんだけここの山海焼き食べたいなーって思ったことか」
「食べるの趣味ですもんね、マリアさん。……こうして連れ回される度に僕たち、1キロは太るのに、マリアさん太らないんですか?」
「女の子にそーゆーこと聞く? ま、太んないんだけどね」
ちなみにハンの人付き合いの悪さについては、マリアたちも十分に承知している。
そのため、こうして仲間同士で集まる際には、基本的にハンには声をかけてはいないのだが――。
「でもさー、尉官、呼ばなくて良かったのかな?」
そんなことを言い出したマリアに、二人が首を傾げる。
「って言うと?」
「なんか疲れてるっぽかったし。気晴らしにどこか連れてった方が良かったんじゃないかなーって。
あ、『疲れてる』って言っても長旅で、ってことじゃなくて、何て言うか、気疲れ? って言うのかなー、そんな感じの。
んでさ、原因って多分、……あの人のせいだよねー?」
申し訳無さげに尋ねたマリアに、ビートもぎこちなくうなずいて返す。
「ん、んー、……まあ、あの人ですよね。何となく分かります」
「誰のコトだ? クー、……いや、クラム殿下のコトか?」
そう返したシェロに、マリアとビートが同時に首を振る。
「ちがうちがう」「そちらではなくて」
「え? じゃあまさか、エリザ先生?」
「うんそれ」「まあ、そうでしょうね」
二人の反応に、シェロはけげんな表情を浮かべた。
「なんでだよ? 陛下が言ってたアレか?」
「それだけじゃ無いと思うよー」
そう前置きし、マリアは小声で話を続ける。
「だってさー、エリザさんってすっごくさー、何て言うか……。
あ、や、確かにね、いい人だと思うよ? あたし個人としても、超いい人だと思ってるしさー。砦でのことにしても、自分の予定切り詰めて、わざわざ助けに来てくれたんだし。
そりゃま、陛下が昔のこと、色々気にされてるってことはあるけど、それを踏まえてもあたしは、エリザさんのことは普通に好きだよー。
たださー、尉官ってやっぱ、ベタベタされるの嫌なタイプじゃん?」
「あー、なるほど」
「砦ん時にエリザさん、尉官がいるとこ、あっちこっち付きまとって色々しゃべり倒してたし。あれ、尉官にしてみたらすっごく、うっとーしかったんじゃないかなーって」
「そう言われりゃ、確かにな。だけどなー……」
シェロは首をかしげつつ、こんなことを言い出した。
「俺からしてみたら、あんな美人に言い寄られて悪い気なんか、絶対しないけど」
「まあ、その点はうなずける。僕だってエリザ先生と色々お話できたらな、と思ってるしね。
ただ、尉官はあの性格だから……」
「ソコが俺には分からんトコなんだよな」
シェロは肩をすくめつつ、ハンについて不満を漏らす。
「何であんなに人嫌いなのに、軍に入ったり班長やったりしてんだろうなって。嫌ならやめろよって思うんだけどな、俺としては。
そりゃ尉官から直に『俺は他人が嫌いだ』なんてふざけた台詞聞いたりしたコト無いし、俺たちを邪険にしたってコトも無いけど、実際、報告やら連絡やら終わって、俺たちが世間話とかし始めたら、すぐに席を離れるよな、あの人」
「あー、それはあるねー」
「そんなに話したくないなら……」「いや、それは多分違う」
シェロの話をさえぎり、ビートがこう返す。
「尉官が人付き合いしないってのは確かに事実だけど、人嫌いだとか、話をしたくないってわけじゃないと思う。
だってもし本当にそう言うのが嫌いなら、シェロの言う通り、軍なんて言う団体行動の極みみたいなところに入るわけが無いし」
「じゃ、実際どうだって言うんだ?」
「多分、他人にあんまり干渉したくないんだと思う。
これは多分なんだけど、尉官って昔から、エリザ先生と面識があったんじゃないかなって」
「そうなのか?」
尋ねたシェロに、ビートはぷるぷると首を振る。
「いや、あくまで僕の予想だよ。実際どうなのかは知らない。でも二人が話してる感じからすると、昔から付き合いがある感じだし。
で、エリザ先生って――今、マリアさんが言ってた通り――すごく積極的と言うか、ぐいぐい押してくるタイプだから、その反動で尉官、押さないタイプになったんじゃないかなって」
「あー、そうかもねー、……もぐもぐ」
運ばれてきた料理に手を付けつつ、マリアがうなずく。
「んぐ……、確かに尉官って、こっちから話しかけたり誘ったりしたら、応じてくれるよね。
もしかしたらここにも、誘ったら来てくれたかなー?」
「多分、来たと思いますよ」
「んじゃさ、今から誘おっか?」
そう提案したマリアに、ビートは素直にうなずく。
「そうですね、たまには仕事抜きで話してみたいですしね」
「え、マジで呼ぶんスか?」
反面、シェロはうっとうしがるような表情を浮かべる。
「折角の休暇にわざわざ上司の顔なんか見たくないっスよ、俺」
「……何かさー」
それを聞いて、マリアはほおをぷくっと膨らませた。
「人間嫌いとか何とか言ってたの、あたしにしてみたら、尉官よりあんたの方がそうなんじゃないかって思うんだよね。
ま、呼びたくないって言うならやめとくけどさっ」
マリアはそれ以上ハンのことを話題に挙げず、黙々と食事に手を付けた。
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ハンが家にクーを招いていた頃、マリアたち3人は、揃って街の食堂を訪れていた。
「うふふふー」
料理を待つ間、嬉しそうな笑みを浮かべるマリアを見て、ビートとシェロも笑っている。
「そんなに楽しみなんスか?」
「そりゃそーよ。あたし、どんだけここの山海焼き食べたいなーって思ったことか」
「食べるの趣味ですもんね、マリアさん。……こうして連れ回される度に僕たち、1キロは太るのに、マリアさん太らないんですか?」
「女の子にそーゆーこと聞く? ま、太んないんだけどね」
ちなみにハンの人付き合いの悪さについては、マリアたちも十分に承知している。
そのため、こうして仲間同士で集まる際には、基本的にハンには声をかけてはいないのだが――。
「でもさー、尉官、呼ばなくて良かったのかな?」
そんなことを言い出したマリアに、二人が首を傾げる。
「って言うと?」
「なんか疲れてるっぽかったし。気晴らしにどこか連れてった方が良かったんじゃないかなーって。
あ、『疲れてる』って言っても長旅で、ってことじゃなくて、何て言うか、気疲れ? って言うのかなー、そんな感じの。
んでさ、原因って多分、……あの人のせいだよねー?」
申し訳無さげに尋ねたマリアに、ビートもぎこちなくうなずいて返す。
「ん、んー、……まあ、あの人ですよね。何となく分かります」
「誰のコトだ? クー、……いや、クラム殿下のコトか?」
そう返したシェロに、マリアとビートが同時に首を振る。
「ちがうちがう」「そちらではなくて」
「え? じゃあまさか、エリザ先生?」
「うんそれ」「まあ、そうでしょうね」
二人の反応に、シェロはけげんな表情を浮かべた。
「なんでだよ? 陛下が言ってたアレか?」
「それだけじゃ無いと思うよー」
そう前置きし、マリアは小声で話を続ける。
「だってさー、エリザさんってすっごくさー、何て言うか……。
あ、や、確かにね、いい人だと思うよ? あたし個人としても、超いい人だと思ってるしさー。砦でのことにしても、自分の予定切り詰めて、わざわざ助けに来てくれたんだし。
そりゃま、陛下が昔のこと、色々気にされてるってことはあるけど、それを踏まえてもあたしは、エリザさんのことは普通に好きだよー。
たださー、尉官ってやっぱ、ベタベタされるの嫌なタイプじゃん?」
「あー、なるほど」
「砦ん時にエリザさん、尉官がいるとこ、あっちこっち付きまとって色々しゃべり倒してたし。あれ、尉官にしてみたらすっごく、うっとーしかったんじゃないかなーって」
「そう言われりゃ、確かにな。だけどなー……」
シェロは首をかしげつつ、こんなことを言い出した。
「俺からしてみたら、あんな美人に言い寄られて悪い気なんか、絶対しないけど」
「まあ、その点はうなずける。僕だってエリザ先生と色々お話できたらな、と思ってるしね。
ただ、尉官はあの性格だから……」
「ソコが俺には分からんトコなんだよな」
シェロは肩をすくめつつ、ハンについて不満を漏らす。
「何であんなに人嫌いなのに、軍に入ったり班長やったりしてんだろうなって。嫌ならやめろよって思うんだけどな、俺としては。
そりゃ尉官から直に『俺は他人が嫌いだ』なんてふざけた台詞聞いたりしたコト無いし、俺たちを邪険にしたってコトも無いけど、実際、報告やら連絡やら終わって、俺たちが世間話とかし始めたら、すぐに席を離れるよな、あの人」
「あー、それはあるねー」
「そんなに話したくないなら……」「いや、それは多分違う」
シェロの話をさえぎり、ビートがこう返す。
「尉官が人付き合いしないってのは確かに事実だけど、人嫌いだとか、話をしたくないってわけじゃないと思う。
だってもし本当にそう言うのが嫌いなら、シェロの言う通り、軍なんて言う団体行動の極みみたいなところに入るわけが無いし」
「じゃ、実際どうだって言うんだ?」
「多分、他人にあんまり干渉したくないんだと思う。
これは多分なんだけど、尉官って昔から、エリザ先生と面識があったんじゃないかなって」
「そうなのか?」
尋ねたシェロに、ビートはぷるぷると首を振る。
「いや、あくまで僕の予想だよ。実際どうなのかは知らない。でも二人が話してる感じからすると、昔から付き合いがある感じだし。
で、エリザ先生って――今、マリアさんが言ってた通り――すごく積極的と言うか、ぐいぐい押してくるタイプだから、その反動で尉官、押さないタイプになったんじゃないかなって」
「あー、そうかもねー、……もぐもぐ」
運ばれてきた料理に手を付けつつ、マリアがうなずく。
「んぐ……、確かに尉官って、こっちから話しかけたり誘ったりしたら、応じてくれるよね。
もしかしたらここにも、誘ったら来てくれたかなー?」
「多分、来たと思いますよ」
「んじゃさ、今から誘おっか?」
そう提案したマリアに、ビートは素直にうなずく。
「そうですね、たまには仕事抜きで話してみたいですしね」
「え、マジで呼ぶんスか?」
反面、シェロはうっとうしがるような表情を浮かべる。
「折角の休暇にわざわざ上司の顔なんか見たくないっスよ、俺」
「……何かさー」
それを聞いて、マリアはほおをぷくっと膨らませた。
「人間嫌いとか何とか言ってたの、あたしにしてみたら、尉官よりあんたの方がそうなんじゃないかって思うんだよね。
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