「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・彼心伝 9
神様たちの話、第117話。
彼女は悪人なのか?
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9.
夕方を過ぎ、クーも交えての食事を終えたところで、ゲートが自分の畑に来るよう、ハンを呼び出していた。
「なんだよ、こんなとこまで……」
「こんなとこって言うな。二人で話せるところなんて、他に無いだろ?」
ゲートは畑の横に置いてある長椅子に座り、ハンにも座るよう促す。
「まあ、何だ。色々俺に言いたいことあるだろ?」
「無くはない」
そう返しつつ、ハンも長椅子に腰掛ける。
「だけどさ、答えてくれるのか? 昼にエリザさんのこと聞いたら、逃げただろ」
「ん、いや、まあな。でもあの時は隣にロイドとリンダがいたからな。
あんまり下手なこと言って、後で告げ口されちゃ敵わん」
「ああ、確かにな。じゃあ今なら、肚割って話してくれるってことか?」
「おう。ま、いつものアレだが」
「『答えられることだけ答えとけ。答えたくないことは言うな』」
「そう、ソレだ」
胸を反らすゲートに、ハンは苦笑を返す。
「はは……、まあ、じゃあ。
エリザさんのことは、どう思ってるんだ? いや、好きとか嫌いとかの話じゃなく、……その、善人か、悪人かって話でさ」
「ん……? どう言う意味だ、そりゃ?」
「今日、陛下と話してた時、陛下はエリザさんのことを、『油断してると付け込んでくる悪人だ』って評されてたんだ。
事実、20年前に親父が率いた討伐隊の何十人かを、エリザさんは向こうに持って行っちまったんだし。確かにそれを考えれば、かなりのワルなんじゃないかとは思う。
だけど、俺本人はそこまで言うほど悪い人じゃないとは思ってるんだ。いや、確かに若干うっとうしいなって思うことはあるけど。
でもあれだけ人のいい陛下が、珍しく悪し様に人を評されていたから、不安になってさ」
「ふーむ……」
ゲートは煙草に火を点け、ふーっと一息吹かす。
「確かにゼロが他人を罵るなんてのは、俺は一度も見たこと無いな。夏に雪が降るくらいの珍事だ。
とは言え、言いたくなる気持ちも分かる。向こう行っちまった奴らは、みんなゼロと苦楽を共にした仲間だったんだからな。一致団結して、厳しい戦いを4年も5年も凌いできた奴らが、突然『エリちゃんに付いて行く』っつって、一斉に離れて行ったんだ。そりゃヘコみもするさ。
それに、アレだ。ゼロだって巷じゃ神様だ、聖人だって持てはやされちゃいるが、結局はやっぱり人間だってことなんだろう。歳取ったせいで、ちょっとくらい頑固になったり、寛容になれなくなったりするようになったってことだ。
誰でも歳取りゃ、そうなるさ。だからゼロのそんな話なんて、『おっさんのたわごと』くらいに思ってりゃいいんだ。あいつが言うほど、エリちゃんは悪人なんかじゃないって。
じゃなきゃ俺だって、エリちゃんと、その、……まあ、アレなことになったりなんてしないさ。マジでワルだ、自分の都合と利益しか考えないクズだったってんなら、押しに滅法弱い俺でも流石に、『勘弁してくれ』っつって逃げ帰ってるさ」
「押しに弱い、ねえ」
そう返したハンを、ゲートがニヤニヤしつつ、肘で突いてくる。
「他人事じゃないぞ、ハン」
「何だよ?」
「お前も押しに弱い男だってことだよ。
気ぃ付けろよ、クラムは母親似だからな。気が付けば、いつの間にやら、あれよあれよと言ううちに、……ってことになりかねんぞ。ゼロの場合がそうだったんだからな」
「まさか」
そう口では言ったものの、ハン自身も心の中で、「そうかも知れない」と納得してしまっていた。
それを見透かしたように、ゲートは依然、ニヤニヤ笑っている。
「ま、いっそ押されてみるのも、アリかも知れんがな。
お前は自分からどうこうするって性格じゃないからな、放っときゃ一生ヨメさん無しで過ごしかねん」
「勘弁してくれ」
ハンは立ち上がり、ゲートに背を向ける。
「折角もらった休みだし、今日はもう寝るよ。先に帰ってるぜ、親父」
「おう。……ん?」
と、ゲートも立ち上がったところで、首をかしげる。
「そう言えば、ハン?」
「どうした?」
「クーは今日、うちに泊まるのか? 何にも聞いてないが」
「あっ」
二人で顔を見合わせ、やがてぽつぽつと言葉を交わす。
「泊まると思って無かったが、……聞いた方がいいよな?」
「そりゃそうだろ。歯止めかけとけ」
「だな」
「……ハン、お前マジで気を付けろよ。
明日、朝になって横向いたら一緒に寝てたとか、そう言うことは絶対起こすなよ」
「お、おう」
二人は急いで、家まで駆けて行った。
琥珀暁・彼心伝 終
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彼女は悪人なのか?
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夕方を過ぎ、クーも交えての食事を終えたところで、ゲートが自分の畑に来るよう、ハンを呼び出していた。
「なんだよ、こんなとこまで……」
「こんなとこって言うな。二人で話せるところなんて、他に無いだろ?」
ゲートは畑の横に置いてある長椅子に座り、ハンにも座るよう促す。
「まあ、何だ。色々俺に言いたいことあるだろ?」
「無くはない」
そう返しつつ、ハンも長椅子に腰掛ける。
「だけどさ、答えてくれるのか? 昼にエリザさんのこと聞いたら、逃げただろ」
「ん、いや、まあな。でもあの時は隣にロイドとリンダがいたからな。
あんまり下手なこと言って、後で告げ口されちゃ敵わん」
「ああ、確かにな。じゃあ今なら、肚割って話してくれるってことか?」
「おう。ま、いつものアレだが」
「『答えられることだけ答えとけ。答えたくないことは言うな』」
「そう、ソレだ」
胸を反らすゲートに、ハンは苦笑を返す。
「はは……、まあ、じゃあ。
エリザさんのことは、どう思ってるんだ? いや、好きとか嫌いとかの話じゃなく、……その、善人か、悪人かって話でさ」
「ん……? どう言う意味だ、そりゃ?」
「今日、陛下と話してた時、陛下はエリザさんのことを、『油断してると付け込んでくる悪人だ』って評されてたんだ。
事実、20年前に親父が率いた討伐隊の何十人かを、エリザさんは向こうに持って行っちまったんだし。確かにそれを考えれば、かなりのワルなんじゃないかとは思う。
だけど、俺本人はそこまで言うほど悪い人じゃないとは思ってるんだ。いや、確かに若干うっとうしいなって思うことはあるけど。
でもあれだけ人のいい陛下が、珍しく悪し様に人を評されていたから、不安になってさ」
「ふーむ……」
ゲートは煙草に火を点け、ふーっと一息吹かす。
「確かにゼロが他人を罵るなんてのは、俺は一度も見たこと無いな。夏に雪が降るくらいの珍事だ。
とは言え、言いたくなる気持ちも分かる。向こう行っちまった奴らは、みんなゼロと苦楽を共にした仲間だったんだからな。一致団結して、厳しい戦いを4年も5年も凌いできた奴らが、突然『エリちゃんに付いて行く』っつって、一斉に離れて行ったんだ。そりゃヘコみもするさ。
それに、アレだ。ゼロだって巷じゃ神様だ、聖人だって持てはやされちゃいるが、結局はやっぱり人間だってことなんだろう。歳取ったせいで、ちょっとくらい頑固になったり、寛容になれなくなったりするようになったってことだ。
誰でも歳取りゃ、そうなるさ。だからゼロのそんな話なんて、『おっさんのたわごと』くらいに思ってりゃいいんだ。あいつが言うほど、エリちゃんは悪人なんかじゃないって。
じゃなきゃ俺だって、エリちゃんと、その、……まあ、アレなことになったりなんてしないさ。マジでワルだ、自分の都合と利益しか考えないクズだったってんなら、押しに滅法弱い俺でも流石に、『勘弁してくれ』っつって逃げ帰ってるさ」
「押しに弱い、ねえ」
そう返したハンを、ゲートがニヤニヤしつつ、肘で突いてくる。
「他人事じゃないぞ、ハン」
「何だよ?」
「お前も押しに弱い男だってことだよ。
気ぃ付けろよ、クラムは母親似だからな。気が付けば、いつの間にやら、あれよあれよと言ううちに、……ってことになりかねんぞ。ゼロの場合がそうだったんだからな」
「まさか」
そう口では言ったものの、ハン自身も心の中で、「そうかも知れない」と納得してしまっていた。
それを見透かしたように、ゲートは依然、ニヤニヤ笑っている。
「ま、いっそ押されてみるのも、アリかも知れんがな。
お前は自分からどうこうするって性格じゃないからな、放っときゃ一生ヨメさん無しで過ごしかねん」
「勘弁してくれ」
ハンは立ち上がり、ゲートに背を向ける。
「折角もらった休みだし、今日はもう寝るよ。先に帰ってるぜ、親父」
「おう。……ん?」
と、ゲートも立ち上がったところで、首をかしげる。
「そう言えば、ハン?」
「どうした?」
「クーは今日、うちに泊まるのか? 何にも聞いてないが」
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