「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・南都伝 2
神様たちの話、第119話。
キャンプの夜。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
夕食を済ませてすぐ、シモン班は眠りに就いた。
無論――「危険は無い」とは言ったものの――念のために、交代で見張りを立てることにした。
「……かん、尉官、起きてくーださーいよー」
眠りに就いてから4時間ほどしたところで、ハンはマリアに起こされた。
「ん……ああ」
ぱっと起き上がり、ハンはテントから出る。
「寒いな、流石に」
出た途端、澄んだ星空と凍りつくような空気がハンを出迎える。
一方、マリアは既にごろんと横になり、毛布にくるまっていた。
「あったか~いねむ~いおやすみなさ~い、……ぐー」
「寝るの早いなぁ。……ま、おやすみ」
テントを閉め、ハンは焚き火の側に座り込む。
(……さて)
焚き火に乗っていたポットのふたを取り、中を確かめる。
(中身は、……ただのお湯か? マリアのことだから、茶か何か沸かしてるかと思ったが)
一旦ポットを地面に置き、辺りに散らかっていた鍋や食材の余りを確かめる。
その中に茶葉があるのを見付け、ハンはそこから推理する。
(使った形跡がある。自分で飲むのに一杯沸かして、それから多分、俺のために新しく火にかけてくれたってとこか。
飯とか飲むものに関しては、マリアはこだわるからな。となると……)
と、テントの中からもぞもぞと、マリアが顔を出す。
「すみませーん、忘れてましたー……。お茶っ葉包んだの、カップの中に入れてますからー」
「ああ、ありがとう。おやすみ」
「おやすみなさーい」
テントにぺら、と手を振りつつ、ハンはカップを手に取り、中に茶葉が入っていることを確認する。
「やっぱりな。……さてと」
一旦カップを足元に置き、ハンはポットを手に取ろうとした。
その時だった。
「お茶あるならボクにもくれない? キミが淹れた後のでいいから」
「……!?」
背後から突然声をかけられ、ハンはばっと立ち上がり、剣を抜きつつ振り向く。
そこには――ぼんやりとした焚き火の灯りでも、はっきりと分かるくらいに――奇妙な耳と尻尾を持った獣人が立っていた。
「あ、いやいや、待って待って待って」
と、男はぱたぱたと手を振り、敵意が無いことを示す。
「驚かせたのはゴメン。悪気は無いんだ。
のど乾いちゃってさ、水場か何か近くに無いかなって探してたら、丁度キミがいたから。だから何か、飲むもの無いかなと思って。ソレだけなんだ」
「……そうか」
剣を収め、ハンは彼に座るよう促した。
「立ったまま飲むのも変だろ? そこら辺、掛けてくれ」
「ありがとね」
彼はぺこっと頭を下げ、ハンの向かいに座り込んだ。
「こんなトコで何してんの?」
いきなりそう聞かれ、ハンは面食らう。
「それはこちらの台詞だ。……俺たちは山の南側にある、とある街へ向かう途中だ。あんたは?」
「気ままな一人旅ってトコかな」
「呑気なもんだな」
「あんまり人がいるトコにいたくない性分でね。こうして誰もいないトコをひっそり渡り歩いてるのさ」
「なるほど。確かにこの辺り、人気がまったく無いな」
そう返しつつ、ハンはカップに茶を注いで男に差し出す。
「先に飲むか?」
「いいの?」
「のど、乾いてるんだろ?」
「そりゃまあ」
「俺はヒマつぶしに淹れてるだけだしな」
「それじゃ、お言葉に甘えて」
男はまたぺこっと頭を下げて、カップを受け取った。
「見た感じキミ、軍人さんっぽいけど、あっちのテントで仲間が休んでる感じ?」
「ああ。2時間おきに交代する予定になってる」
「じゃ、ソレまでヒマってコト?」
「そうだ。……何だ?」
尋ねたハンに、男はきょとんとした目を向けてくる。
「何が?」
「俺がヒマだと、何かあるのか?」
「ヒマつぶしに付き合ってあげようかって。お茶のお礼もしたいし」
「いらん」
ハンは素っ気無く返し、焚き火に視線を落とす。
「ヒマのつぶし方なんていくらでもある。別にあんたに付き合ってもらう必要は無い」
「つれないねぇ」
男はニヤニヤ笑いながら、カップに口を付ける。
「まあ、それでね」
「いや、いらんって今言っただろ」
「お構いなく。一人言みたいなもんだよ」
飄々とした男の態度に、ハンはまともな会話を早々に諦めた。
「……勝手にしゃべっててくれ」
「うん」
そのまま、男は話を始めてしまった。
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キャンプの夜。
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夕食を済ませてすぐ、シモン班は眠りに就いた。
無論――「危険は無い」とは言ったものの――念のために、交代で見張りを立てることにした。
「……かん、尉官、起きてくーださーいよー」
眠りに就いてから4時間ほどしたところで、ハンはマリアに起こされた。
「ん……ああ」
ぱっと起き上がり、ハンはテントから出る。
「寒いな、流石に」
出た途端、澄んだ星空と凍りつくような空気がハンを出迎える。
一方、マリアは既にごろんと横になり、毛布にくるまっていた。
「あったか~いねむ~いおやすみなさ~い、……ぐー」
「寝るの早いなぁ。……ま、おやすみ」
テントを閉め、ハンは焚き火の側に座り込む。
(……さて)
焚き火に乗っていたポットのふたを取り、中を確かめる。
(中身は、……ただのお湯か? マリアのことだから、茶か何か沸かしてるかと思ったが)
一旦ポットを地面に置き、辺りに散らかっていた鍋や食材の余りを確かめる。
その中に茶葉があるのを見付け、ハンはそこから推理する。
(使った形跡がある。自分で飲むのに一杯沸かして、それから多分、俺のために新しく火にかけてくれたってとこか。
飯とか飲むものに関しては、マリアはこだわるからな。となると……)
と、テントの中からもぞもぞと、マリアが顔を出す。
「すみませーん、忘れてましたー……。お茶っ葉包んだの、カップの中に入れてますからー」
「ああ、ありがとう。おやすみ」
「おやすみなさーい」
テントにぺら、と手を振りつつ、ハンはカップを手に取り、中に茶葉が入っていることを確認する。
「やっぱりな。……さてと」
一旦カップを足元に置き、ハンはポットを手に取ろうとした。
その時だった。
「お茶あるならボクにもくれない? キミが淹れた後のでいいから」
「……!?」
背後から突然声をかけられ、ハンはばっと立ち上がり、剣を抜きつつ振り向く。
そこには――ぼんやりとした焚き火の灯りでも、はっきりと分かるくらいに――奇妙な耳と尻尾を持った獣人が立っていた。
「あ、いやいや、待って待って待って」
と、男はぱたぱたと手を振り、敵意が無いことを示す。
「驚かせたのはゴメン。悪気は無いんだ。
のど乾いちゃってさ、水場か何か近くに無いかなって探してたら、丁度キミがいたから。だから何か、飲むもの無いかなと思って。ソレだけなんだ」
「……そうか」
剣を収め、ハンは彼に座るよう促した。
「立ったまま飲むのも変だろ? そこら辺、掛けてくれ」
「ありがとね」
彼はぺこっと頭を下げ、ハンの向かいに座り込んだ。
「こんなトコで何してんの?」
いきなりそう聞かれ、ハンは面食らう。
「それはこちらの台詞だ。……俺たちは山の南側にある、とある街へ向かう途中だ。あんたは?」
「気ままな一人旅ってトコかな」
「呑気なもんだな」
「あんまり人がいるトコにいたくない性分でね。こうして誰もいないトコをひっそり渡り歩いてるのさ」
「なるほど。確かにこの辺り、人気がまったく無いな」
そう返しつつ、ハンはカップに茶を注いで男に差し出す。
「先に飲むか?」
「いいの?」
「のど、乾いてるんだろ?」
「そりゃまあ」
「俺はヒマつぶしに淹れてるだけだしな」
「それじゃ、お言葉に甘えて」
男はまたぺこっと頭を下げて、カップを受け取った。
「見た感じキミ、軍人さんっぽいけど、あっちのテントで仲間が休んでる感じ?」
「ああ。2時間おきに交代する予定になってる」
「じゃ、ソレまでヒマってコト?」
「そうだ。……何だ?」
尋ねたハンに、男はきょとんとした目を向けてくる。
「何が?」
「俺がヒマだと、何かあるのか?」
「ヒマつぶしに付き合ってあげようかって。お茶のお礼もしたいし」
「いらん」
ハンは素っ気無く返し、焚き火に視線を落とす。
「ヒマのつぶし方なんていくらでもある。別にあんたに付き合ってもらう必要は無い」
「つれないねぇ」
男はニヤニヤ笑いながら、カップに口を付ける。
「まあ、それでね」
「いや、いらんって今言っただろ」
「お構いなく。一人言みたいなもんだよ」
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「……勝手にしゃべっててくれ」
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