「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第1部
蒼天剣・手本録 3
晴奈の話、21話目。
師匠を酔わせてどうするつもり?
3.
「見事な居合い抜きじゃったな、雪さん」
勝負を終え、汗を拭っていた柊の元に、重蔵がニコニコしながらやって来た。
「いえ、まだまだです」
「謙遜せずとも良い。まさに一撃必殺――胸のすくような、ほれぼれする技じゃった」
重蔵にほめちぎられた柊は、顔をほんのり赤くして頭を下げた。
「恐縮です」
師匠をほめられ、晴奈も嬉しくなる。
「お疲れ様でした、師匠」
「ありがと、晴奈」
晴奈に向けられたその顔は、いつも通りの穏やかな笑顔だった。
一方。
「いや、だからな、今日はやっぱり俺、ほんのちょっと体調が悪かったんだよ。それにな、この鉈まだ新品だからな、まだしっくり、手になじんでなかったんだって。それでも善戦した方なんだって、そーゆーマイナス要素があったにも関わらず、……あ、それにほら、ここは敵の本拠地だろ? 『負けろ』みたいな空気をさー、俺感じちゃって。そう、空気が悪い、それなんだよ。それが敗因なんだって。じゃなきゃ、俺があんな女に……」
クラウンは自分の付き人たちに向かって、愚痴じみた言い訳をブツブツとこぼしていた。
結局30分ほど愚痴を吐いた後、自分でもいたたまれなくなったらしく、彼はその場から逃げるように帰っていった。
その晩、晴奈と柊は勝利を祝って、ささやかな酒宴を開いた。
「さ、師匠」
「ありがと」
晴奈が柊の杯に酒を注ぎ、柊はそれを飲み干す。
「ふう……。本当に、今日は疲れたわ。……ふふっ」
「師匠?」
突然笑った柊に、晴奈はけげんな顔をする。
「晴奈、あなた勝負の間中、ずっと顔がこわばっていたわね」
「み、見ていたのですか?」
晴奈はあの緊迫した勝負の中、師匠に自分を見る余裕があったのかと驚いた。
「そんなに不安だった?」
「いえ、そんなことは……。ただ、家元から『師匠は一撃必殺を狙っている』と聞かされたので、いつ、どのように繰り出すのかと、後学のために注視していた次第で」
「ふふ、そうだったの。流石は家元ね」
柊はもう一度、一息に酒を飲み干す。ぐいぐいと呑んでいたためか、その顔は少しとろんとしている。
「……晴奈、あなたもどう?」
柊は晴奈に杯を渡し、酒に手を伸ばす。
「え? あ、いや、私は、その……」
「あら? 呑んでみたくないの?」
そう言われれば、美味しそうに酒を呑む師匠に多少触発されてはいるので、呑んでみたくはある。
「……少しだけ、なら」
晴奈は恥ずかしそうに、杯を差し出した。
「うふふふ……」
どうやら柊は、大分酔っているらしかった。
師匠に付き合ううち、晴奈も大分酔ってしまった。
「ふわ、あ……」
思わず、大あくびが出てしまう。柊の方を見ると、すでに眠り込んでいる。
(いけない、いけない。風邪を、引いてしまう)
ふらりと立ち上がり、食膳や酒瓶を片付け、床の用意をする。
「うにゃ……、せえな?」
柊も目を覚まし、晴奈に声をかけてきた。
「師匠、今床を整えておりますので、そちらでお休みください」
「んー、ありがと。……ごめん、おみずもってきてちょうらい」
「あ、はい」
近くの井戸から水を汲んできて、椀に注いで柊に手渡す。
「ありがと。……ふふ、わたし、おさけすきなんらけろ、よあいのよ」
「そのよう、ですね」
「せえな、あんまいよっれないろれ。うらやあしいなぁ」
呂律が回っていないので、何と言っているのか今ひとつ、理解はできなかったが、言わんとすることは何となく分かる。
「いえ、そんなことは。
さあ、床のご用意ができました。今日はもう、お休みください」
「ん、ありがと。せえなも、もうねる?」
「あ、はい」
晴奈がそう答えると、柊は晴奈の手を取り、引っ張った。
「いっしょにねよ?」
「……はぁ?」
晴奈と柊は普段、別々の部屋で寝ている。
だからこんな風に、二人揃って枕を並べることは無いのだが、師匠の誘いでもあるし、酔い方もひどかったので、晴奈は放っておけず、その日は二人並んで眠ることとなった。
「ふー……、よこになると、ちょっとらくね」
まだ呂律は怪しいが、先ほどよりは平静を取り戻したようだ。
「んー……。そっか、はじめてよね。こうやってふたりでねるのって」
「そう、ですね」
「こんなによっぱらったのも、なんねんぶりかなー」
「少なくとも、私がこちらに着てからは、初めてお見かけします」
「そっかー」
しばらく、間が空く。眠ったのかと晴奈が思った途端、また声がかけられる。
「ねえ、せいな」
「はい」
「こんどさ、ちょっとだけ、とおでしてみない?」
「遠出?」
「そ、ひとつきか、ふたつきか、それくらい。みじかく、たびしない?」
「いいですね。是非、お願いします」
「ん……」
また、静かになる。
今度は完璧に眠ったらしく、すうすうと言う寝息が聞こえてきた。
@au_ringさんをフォロー
師匠を酔わせてどうするつもり?
3.
「見事な居合い抜きじゃったな、雪さん」
勝負を終え、汗を拭っていた柊の元に、重蔵がニコニコしながらやって来た。
「いえ、まだまだです」
「謙遜せずとも良い。まさに一撃必殺――胸のすくような、ほれぼれする技じゃった」
重蔵にほめちぎられた柊は、顔をほんのり赤くして頭を下げた。
「恐縮です」
師匠をほめられ、晴奈も嬉しくなる。
「お疲れ様でした、師匠」
「ありがと、晴奈」
晴奈に向けられたその顔は、いつも通りの穏やかな笑顔だった。
一方。
「いや、だからな、今日はやっぱり俺、ほんのちょっと体調が悪かったんだよ。それにな、この鉈まだ新品だからな、まだしっくり、手になじんでなかったんだって。それでも善戦した方なんだって、そーゆーマイナス要素があったにも関わらず、……あ、それにほら、ここは敵の本拠地だろ? 『負けろ』みたいな空気をさー、俺感じちゃって。そう、空気が悪い、それなんだよ。それが敗因なんだって。じゃなきゃ、俺があんな女に……」
クラウンは自分の付き人たちに向かって、愚痴じみた言い訳をブツブツとこぼしていた。
結局30分ほど愚痴を吐いた後、自分でもいたたまれなくなったらしく、彼はその場から逃げるように帰っていった。
その晩、晴奈と柊は勝利を祝って、ささやかな酒宴を開いた。
「さ、師匠」
「ありがと」
晴奈が柊の杯に酒を注ぎ、柊はそれを飲み干す。
「ふう……。本当に、今日は疲れたわ。……ふふっ」
「師匠?」
突然笑った柊に、晴奈はけげんな顔をする。
「晴奈、あなた勝負の間中、ずっと顔がこわばっていたわね」
「み、見ていたのですか?」
晴奈はあの緊迫した勝負の中、師匠に自分を見る余裕があったのかと驚いた。
「そんなに不安だった?」
「いえ、そんなことは……。ただ、家元から『師匠は一撃必殺を狙っている』と聞かされたので、いつ、どのように繰り出すのかと、後学のために注視していた次第で」
「ふふ、そうだったの。流石は家元ね」
柊はもう一度、一息に酒を飲み干す。ぐいぐいと呑んでいたためか、その顔は少しとろんとしている。
「……晴奈、あなたもどう?」
柊は晴奈に杯を渡し、酒に手を伸ばす。
「え? あ、いや、私は、その……」
「あら? 呑んでみたくないの?」
そう言われれば、美味しそうに酒を呑む師匠に多少触発されてはいるので、呑んでみたくはある。
「……少しだけ、なら」
晴奈は恥ずかしそうに、杯を差し出した。
「うふふふ……」
どうやら柊は、大分酔っているらしかった。
師匠に付き合ううち、晴奈も大分酔ってしまった。
「ふわ、あ……」
思わず、大あくびが出てしまう。柊の方を見ると、すでに眠り込んでいる。
(いけない、いけない。風邪を、引いてしまう)
ふらりと立ち上がり、食膳や酒瓶を片付け、床の用意をする。
「うにゃ……、せえな?」
柊も目を覚まし、晴奈に声をかけてきた。
「師匠、今床を整えておりますので、そちらでお休みください」
「んー、ありがと。……ごめん、おみずもってきてちょうらい」
「あ、はい」
近くの井戸から水を汲んできて、椀に注いで柊に手渡す。
「ありがと。……ふふ、わたし、おさけすきなんらけろ、よあいのよ」
「そのよう、ですね」
「せえな、あんまいよっれないろれ。うらやあしいなぁ」
呂律が回っていないので、何と言っているのか今ひとつ、理解はできなかったが、言わんとすることは何となく分かる。
「いえ、そんなことは。
さあ、床のご用意ができました。今日はもう、お休みください」
「ん、ありがと。せえなも、もうねる?」
「あ、はい」
晴奈がそう答えると、柊は晴奈の手を取り、引っ張った。
「いっしょにねよ?」
「……はぁ?」
晴奈と柊は普段、別々の部屋で寝ている。
だからこんな風に、二人揃って枕を並べることは無いのだが、師匠の誘いでもあるし、酔い方もひどかったので、晴奈は放っておけず、その日は二人並んで眠ることとなった。
「ふー……、よこになると、ちょっとらくね」
まだ呂律は怪しいが、先ほどよりは平静を取り戻したようだ。
「んー……。そっか、はじめてよね。こうやってふたりでねるのって」
「そう、ですね」
「こんなによっぱらったのも、なんねんぶりかなー」
「少なくとも、私がこちらに着てからは、初めてお見かけします」
「そっかー」
しばらく、間が空く。眠ったのかと晴奈が思った途端、また声がかけられる。
「ねえ、せいな」
「はい」
「こんどさ、ちょっとだけ、とおでしてみない?」
「遠出?」
「そ、ひとつきか、ふたつきか、それくらい。みじかく、たびしない?」
「いいですね。是非、お願いします」
「ん……」
また、静かになる。
今度は完璧に眠ったらしく、すうすうと言う寝息が聞こえてきた。



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

NoTitle
雪乃の方は。べろんべろんですし。