「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・南都伝 6
神様たちの話、第123話。
エリザの食卓。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
食堂に着くなり、ビートとシェロがこそこそと耳打ちし合う。
(予想通りっちゃ予想通りだけどさ)
(何が?)
(やっぱデカいんだな。玄関といい、廊下といい、食堂といい)
(そりゃ、エリザ先生の自宅だし)
(こうなると、メシもものすごいぜ。どんだけ出て来るか)
(そりゃもう、想像も付かないくらいに出て来るんじゃ?)
(つっても、マリアさんが半分くらい平らげるんじゃね?)
(まさか! ……まさかとは思うけど)
「ちょっとー」
と、マリアが二人の間に割って入る。
「いくらあたしでも、そんなに食べられないってば」
「またまたぁ」
ニヤニヤ笑っているシェロに、マリアがぷくっとほおをふくらませる。
「あたしのこと、何だと思ってんのよー」
「大食いで落ち着きが無くて騒がしい」
「ちょっと、それ女の子に言う台詞?」
マリアが目を釣り上がらせ、シェロの短い両耳をぐいぐいとつねったところで、ハンが諌めに入った。
「その辺でいいだろ。エリザさんが俺たちを待ってくれてるのに、いつまで遊んでるんだ」
「あ、はーい」
マリアたちがバタバタと席へ急ぎ、続いてハンも座ろうとする。
が、既に席に着いていたエリザが、「ああ、ちょと」と声をかけてくる。
「ハンくんはこっち来」
そう言って自分のすぐ隣を指差したエリザに、ハンは肩をすくめて返す。
「礼儀に反します。俺は対面に座りますよ」
「あら、つれへんなぁ」
全員が卓に着いたところで、エリザが立ち上がる。
「ほな、遠路はるばるおつかれさんっちゅうコトで。
皆さんごゆっくり、くつろいだって下さい」
「ありがとうございます」
食事を始めて間も無く、マリアが給仕に来た、猫獣人のメイドに声をかける。
「お待たせいたしました。前菜の……」「ねー、あなたがスナちゃん?」
名前を呼ばれ、その幼いメイドは目を白黒させた。
「えっ? え、ええ。どうしてわたしの名前を?」
「リンダちゃんから聞いたよー。猫獣人で料理上手いメイドさんがいるって」
「は、はあ、左様ですか」
面食らっているスナに、マリアは他のメイドを見比べつつ、こう続ける。
「他の人、みんな『狐』とか『狼』とか短耳の人とかばっかりだけど、こっちで『猫』って珍しいのかな。あなた一人だけっぽいし」
「え、あ、あのー」
困った顔で周りをきょろきょろとうかがっていたスナに、エリザが「ええよ」と応じる。
「お客さんの相手も勤めの一つやし、料理と給仕は他の子に任せたり」
「恐れ入ります、女将さん。
え、えっと、はい。わたしの父も『猫』なんですけど、20年ほど前、北から移住して来たんです。ほんでその後こっちで結婚して、わたしが産まれたんです」
「20年前の移民って言ったら、討伐隊のやつ?」
「あ、はい。実は父は、その副隊長やったんですが、『こっちが気に入った』言うて、当時飼ってた羊たちと一緒に、越してきはったんです。
それで移ってきた後、母と出会いまして」
「そうなんだ。じゃ、お父さんが討伐隊の副隊長だったってことは、それつながりでスナちゃん、エリザさんのとこに来たって感じ?」
「ええ、2年前からこちらで働かせていただいとるんです。
でも、……えっと、すみません。お名前は」
「マリアだよ」
「ありがとうございます。えっと、マリアさんも猫獣人なんですね」
「うん、そうそう」
「わたし、父以外の『猫』の方に会うのん、初めてなんです。妹は母の血引いたみたいで、『狐』ですし」
「あ、そうなんだ。北の方にはいっぱいいるよー」
「そうらしいですね。わたしもいっぺん、行ってみたいんですよ」
「いつか来てよ、案内するよー」
「はい、その時は是非」
二人が楽しく話し始めたところで、ハンがそれを咎めかける。
「おい、マリア……」「ハンくん、ちょと」
が、寸前でエリザから声をかけられる。
「なんです?」
憮然としつつ返事したハンに、エリザがにこにこと笑みを向けてきた。
「仕事の話は後や。うまいもん食いながら、そんな辛気臭いコトでけるかいな」
「招待主がそう言うのであれば」
そう返したハンに、エリザはまた別の笑顔を見せる。
「言い訳多いなぁ、自分。
二言めにはすぐ『規律が』『礼儀が』て。ちょっとはアタマ柔くしいや。いっつもそんなんしとったら、あっちこっちでガッツンガッツン角立つで」
「……っ」
その言葉に苛立ちを覚えたものの――彼女の言う通り、自分の感情より規律を重んじようとする性分である。
(ここで声を荒げれば、それこそ場の空気を悪くするだろう。冷静になれ、ハンニバル)
ハンはそれ以上何も言わず、黙々と食事に手を付けていた。
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エリザの食卓。
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食堂に着くなり、ビートとシェロがこそこそと耳打ちし合う。
(予想通りっちゃ予想通りだけどさ)
(何が?)
(やっぱデカいんだな。玄関といい、廊下といい、食堂といい)
(そりゃ、エリザ先生の自宅だし)
(こうなると、メシもものすごいぜ。どんだけ出て来るか)
(そりゃもう、想像も付かないくらいに出て来るんじゃ?)
(つっても、マリアさんが半分くらい平らげるんじゃね?)
(まさか! ……まさかとは思うけど)
「ちょっとー」
と、マリアが二人の間に割って入る。
「いくらあたしでも、そんなに食べられないってば」
「またまたぁ」
ニヤニヤ笑っているシェロに、マリアがぷくっとほおをふくらませる。
「あたしのこと、何だと思ってんのよー」
「大食いで落ち着きが無くて騒がしい」
「ちょっと、それ女の子に言う台詞?」
マリアが目を釣り上がらせ、シェロの短い両耳をぐいぐいとつねったところで、ハンが諌めに入った。
「その辺でいいだろ。エリザさんが俺たちを待ってくれてるのに、いつまで遊んでるんだ」
「あ、はーい」
マリアたちがバタバタと席へ急ぎ、続いてハンも座ろうとする。
が、既に席に着いていたエリザが、「ああ、ちょと」と声をかけてくる。
「ハンくんはこっち来」
そう言って自分のすぐ隣を指差したエリザに、ハンは肩をすくめて返す。
「礼儀に反します。俺は対面に座りますよ」
「あら、つれへんなぁ」
全員が卓に着いたところで、エリザが立ち上がる。
「ほな、遠路はるばるおつかれさんっちゅうコトで。
皆さんごゆっくり、くつろいだって下さい」
「ありがとうございます」
食事を始めて間も無く、マリアが給仕に来た、猫獣人のメイドに声をかける。
「お待たせいたしました。前菜の……」「ねー、あなたがスナちゃん?」
名前を呼ばれ、その幼いメイドは目を白黒させた。
「えっ? え、ええ。どうしてわたしの名前を?」
「リンダちゃんから聞いたよー。猫獣人で料理上手いメイドさんがいるって」
「は、はあ、左様ですか」
面食らっているスナに、マリアは他のメイドを見比べつつ、こう続ける。
「他の人、みんな『狐』とか『狼』とか短耳の人とかばっかりだけど、こっちで『猫』って珍しいのかな。あなた一人だけっぽいし」
「え、あ、あのー」
困った顔で周りをきょろきょろとうかがっていたスナに、エリザが「ええよ」と応じる。
「お客さんの相手も勤めの一つやし、料理と給仕は他の子に任せたり」
「恐れ入ります、女将さん。
え、えっと、はい。わたしの父も『猫』なんですけど、20年ほど前、北から移住して来たんです。ほんでその後こっちで結婚して、わたしが産まれたんです」
「20年前の移民って言ったら、討伐隊のやつ?」
「あ、はい。実は父は、その副隊長やったんですが、『こっちが気に入った』言うて、当時飼ってた羊たちと一緒に、越してきはったんです。
それで移ってきた後、母と出会いまして」
「そうなんだ。じゃ、お父さんが討伐隊の副隊長だったってことは、それつながりでスナちゃん、エリザさんのとこに来たって感じ?」
「ええ、2年前からこちらで働かせていただいとるんです。
でも、……えっと、すみません。お名前は」
「マリアだよ」
「ありがとうございます。えっと、マリアさんも猫獣人なんですね」
「うん、そうそう」
「わたし、父以外の『猫』の方に会うのん、初めてなんです。妹は母の血引いたみたいで、『狐』ですし」
「あ、そうなんだ。北の方にはいっぱいいるよー」
「そうらしいですね。わたしもいっぺん、行ってみたいんですよ」
「いつか来てよ、案内するよー」
「はい、その時は是非」
二人が楽しく話し始めたところで、ハンがそれを咎めかける。
「おい、マリア……」「ハンくん、ちょと」
が、寸前でエリザから声をかけられる。
「なんです?」
憮然としつつ返事したハンに、エリザがにこにこと笑みを向けてきた。
「仕事の話は後や。うまいもん食いながら、そんな辛気臭いコトでけるかいな」
「招待主がそう言うのであれば」
そう返したハンに、エリザはまた別の笑顔を見せる。
「言い訳多いなぁ、自分。
二言めにはすぐ『規律が』『礼儀が』て。ちょっとはアタマ柔くしいや。いっつもそんなんしとったら、あっちこっちでガッツンガッツン角立つで」
「……っ」
その言葉に苛立ちを覚えたものの――彼女の言う通り、自分の感情より規律を重んじようとする性分である。
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