「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・南都伝 8
神様たちの話、第125話。
包囲の要点。
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8.
「2点?」
ハンがおうむ返しに尋ねたところで、使用人2人が黒板を引っ張ってきた。
「お、ありがとさん。ほな絵描いて説明して行くで」
エリザは左手にチョークを握り、かつかつと音を立てて、ノースポートの簡単な地図を描いていく。
「この真ん中の四角がノースポート。ほんで左下に描いた縦線2本で囲んどるトコが町門、右上の同じ形のんが漁港や。
2点言うたんは、ここや。門と港、2ヶ所に出入り口がある。人海戦術使て門を破り、外壁乗り越えて攻め込んだところで、敵さんは港へ逃げるだけや。そしたらそのまんま、乗ってきた船で出て行ってしまいや」
「追い出せるなら、ソレでいいんじゃ……?」
そうつぶやいたシェロに、エリザは「アカンアカン」と返す。
「50人が逃げて本拠地戻って行ってしもたら、次は100人来るかも分からんやろ? しかもアタシらの手の内、多少なりとも割れてしもてるワケや。ほんなら、より苦戦するコトになるのんは明らかや。
そうなったらソレこそ泥沼やで。あっちとこっち両方で増員繰り返して、人を順々送る羽目になる。戦力の逐次投入っちゅうヤツや」
「ちくじとうにゅう? ……飲み物ですか?」
ぽかんとした顔で尋ねたマリアに、ハンが頭を抱える。
「逐次投入だ。100人で一気に畳み掛かれば勝てる相手に対して1人ずつ、小出しに襲わせたら、相手にとってはただの1対1でしかなくなる。
そんなのを100回、同じ100人分で仕掛けても、相手の消耗は狙えない。むしろ味方100人を、いたずらに潰すことになる。
労力や手間を出し渋って小出しにすると、結果的に勝てる戦いを落とすことにもなり得るって話だ」
「ソレに加えて、長期戦になるコト必至や。そんなんに1ヶ月、2ヶ月、もしかしたら半年か1年か、付き合わされてみいや。その間、無駄にカネもモノもヒトも使わなアカンくなるねんから、アホらしゅうてしゃあないわ。
アンタかて、1年間クロスセントラルのステーキやら鱒のバター焼きやら食べれへんってなったら、嫌やろ?」
「嫌です~……」
マリアがしょんぼりした顔になるのを横目で眺めつつ、ハンが手を挙げる。
「となると、港方面からも人員を送らないといけませんね」
「そう言うコトや。ソコでアタシは、知り合いに『あるモノ』を造らせとる」
「あるモノ?」
そこでエリザが、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
「敵さん、デカい船でノースポートに乗り付けてきたんやろ? ソレやったらこっちも造ったれっちゅう話やん?」
「つまり、船を?」
「せや。ここから西に行ったトコに、知り合いが漁村造っとるねんけど、ソコの漁港周りちょと借りて、船を造っとるんよ。
ちゅうても元々、その知り合いから『もっと沖合いに漁行けるようなん造って』っちゅう注文受けて造ったヤツやからな。そんなにデカいもんとちゃうねん。せいぜい一隻辺り20人乗るんが限界やね」
「何隻あるんです?」
「3隻や」
そう返したエリザに、ハンは落胆する。
「あまり役には立たなさそうですね。
今回、俺に任されるのは400名です。包囲作戦を行うなら、東西南北から均等に人員を配置する必要がありますが、港方向だけ60名じゃ制圧は不可能でしょう」
「ふっふ……」
と、ハンの意見を聞いていたエリザが、突然噴き出す。
当然、この反応はハンの癇に障り、思わず声を張り上げていた。
「何ですか? 俺の考えに何か、至らない点がありましたか?」
「悪う言えばな」
エリザはぱたぱたと手を振りながら、こう続けた。
「でもまあ、そら確かに、そう思うやろな。ちゃんとしたリーダーやったら、当然考えるべき点や。
ハンくん、確認するけどもな」
「何です?」
「敵さんのコトやけども、軍隊としての出来はどんくらいや?」
「そうですね……」
どうにか冷静を装い、ハンは素直に感じたことを答える。
「相当、練度は高いと思います。こちらの軍と比較しても、指揮系統に関しては遜色無いでしょう」
「ちゅうコトはや、向こうのリーダーさんもハンくんと同じ考えに至る可能性は、十分あるっちゅうコトやね」
「……なるほど」
「ソレを踏まえて、や」
エリザは終始笑顔を崩さないまま、会議を締めくくった。
「400人どころか、半分でもええくらいの策を講じとるんよ」
琥珀暁・南都伝 終
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包囲の要点。
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「2点?」
ハンがおうむ返しに尋ねたところで、使用人2人が黒板を引っ張ってきた。
「お、ありがとさん。ほな絵描いて説明して行くで」
エリザは左手にチョークを握り、かつかつと音を立てて、ノースポートの簡単な地図を描いていく。
「この真ん中の四角がノースポート。ほんで左下に描いた縦線2本で囲んどるトコが町門、右上の同じ形のんが漁港や。
2点言うたんは、ここや。門と港、2ヶ所に出入り口がある。人海戦術使て門を破り、外壁乗り越えて攻め込んだところで、敵さんは港へ逃げるだけや。そしたらそのまんま、乗ってきた船で出て行ってしまいや」
「追い出せるなら、ソレでいいんじゃ……?」
そうつぶやいたシェロに、エリザは「アカンアカン」と返す。
「50人が逃げて本拠地戻って行ってしもたら、次は100人来るかも分からんやろ? しかもアタシらの手の内、多少なりとも割れてしもてるワケや。ほんなら、より苦戦するコトになるのんは明らかや。
そうなったらソレこそ泥沼やで。あっちとこっち両方で増員繰り返して、人を順々送る羽目になる。戦力の逐次投入っちゅうヤツや」
「ちくじとうにゅう? ……飲み物ですか?」
ぽかんとした顔で尋ねたマリアに、ハンが頭を抱える。
「逐次投入だ。100人で一気に畳み掛かれば勝てる相手に対して1人ずつ、小出しに襲わせたら、相手にとってはただの1対1でしかなくなる。
そんなのを100回、同じ100人分で仕掛けても、相手の消耗は狙えない。むしろ味方100人を、いたずらに潰すことになる。
労力や手間を出し渋って小出しにすると、結果的に勝てる戦いを落とすことにもなり得るって話だ」
「ソレに加えて、長期戦になるコト必至や。そんなんに1ヶ月、2ヶ月、もしかしたら半年か1年か、付き合わされてみいや。その間、無駄にカネもモノもヒトも使わなアカンくなるねんから、アホらしゅうてしゃあないわ。
アンタかて、1年間クロスセントラルのステーキやら鱒のバター焼きやら食べれへんってなったら、嫌やろ?」
「嫌です~……」
マリアがしょんぼりした顔になるのを横目で眺めつつ、ハンが手を挙げる。
「となると、港方面からも人員を送らないといけませんね」
「そう言うコトや。ソコでアタシは、知り合いに『あるモノ』を造らせとる」
「あるモノ?」
そこでエリザが、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
「敵さん、デカい船でノースポートに乗り付けてきたんやろ? ソレやったらこっちも造ったれっちゅう話やん?」
「つまり、船を?」
「せや。ここから西に行ったトコに、知り合いが漁村造っとるねんけど、ソコの漁港周りちょと借りて、船を造っとるんよ。
ちゅうても元々、その知り合いから『もっと沖合いに漁行けるようなん造って』っちゅう注文受けて造ったヤツやからな。そんなにデカいもんとちゃうねん。せいぜい一隻辺り20人乗るんが限界やね」
「何隻あるんです?」
「3隻や」
そう返したエリザに、ハンは落胆する。
「あまり役には立たなさそうですね。
今回、俺に任されるのは400名です。包囲作戦を行うなら、東西南北から均等に人員を配置する必要がありますが、港方向だけ60名じゃ制圧は不可能でしょう」
「ふっふ……」
と、ハンの意見を聞いていたエリザが、突然噴き出す。
当然、この反応はハンの癇に障り、思わず声を張り上げていた。
「何ですか? 俺の考えに何か、至らない点がありましたか?」
「悪う言えばな」
エリザはぱたぱたと手を振りながら、こう続けた。
「でもまあ、そら確かに、そう思うやろな。ちゃんとしたリーダーやったら、当然考えるべき点や。
ハンくん、確認するけどもな」
「何です?」
「敵さんのコトやけども、軍隊としての出来はどんくらいや?」
「そうですね……」
どうにか冷静を装い、ハンは素直に感じたことを答える。
「相当、練度は高いと思います。こちらの軍と比較しても、指揮系統に関しては遜色無いでしょう」
「ちゅうコトはや、向こうのリーダーさんもハンくんと同じ考えに至る可能性は、十分あるっちゅうコトやね」
「……なるほど」
「ソレを踏まえて、や」
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