「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・練兵伝 1
神様たちの話、第126話。
愚痴吐く夕食。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「はぐはぐ」
「皆。これは、ここだけの話にしておいて欲しい」
「もぐもぐ」
「大前提として、俺は陛下には全幅の敬意と信頼を置いているし、エリザさんに対しても、同様だ」
「むぐむぐ」
「だから、これからする話に、……その、多少なりとも不遜(ふそん)な点があったとしても」
「ごくごく」
「その、決して二人を軽んじたり、信頼を失っていたりと言うことは無いと、そう考えて欲しい」
「がつがつ」
「……何と言うか、その」
「尉官」
食べる手を止め、マリアが声をかける。
「何だ?」
「食べないと無くなりますよー?」
「……ああ。だが一回、ちゃんと最後まで、話をさせてもらって構わないか?」
「あ、はい」
マリアたち3人は同時にうなずくが、誰もフォークやスプーンを置こうとはしない。
「ともかく、今回の作戦についてだが、何も俺は、不満があるだとか、異を唱えたりだとか、そんなことを言うつもりは無いんだ。
だけど、腑に落ちない点が多い。そしてそれらに対し、陛下がすべて『そのようにせよ』としか仰られないことも、納得行ってないんだ」
「めっちゃ不満あるんじゃないっスか」
シェロに突っ込まれるが、ハンは応じず、話を続ける。
「第一、正規軍ではない人間を引き入れるなんて、まともな状況じゃ絶対にやらないことだ。ところがそれを60人も、だ。
俺にはどう考えても、エリザさんが自分の適当な思い付きを無理矢理に実現させようとしているようにしか考えられない。その理由が自分のプライドや面目を守るためなのか、俺には知られてない裏取引があってのことなのか、それは分からないが」
「はあ」
と、ビートが立ち上がり、ハンの前に置いてあったコップをつかむ。
「尉官。こう言っては失礼に当たること、重々承知していますけど」
「何だ?」
「尉官はお酒に弱すぎます。今後は極力、控えた方がいいと進言します」
「そんなことは無い」
「あります。
何故ならそのお話をされるのは、この卓に付いてから既に4回目だからです」
そう言いながら、ビートはそのコップに残っていたワインを、一息に飲み干した。
「ビート、そんな一気にやっちゃって大丈夫?」
心配そうに尋ねたマリアに、ビートはにこっと笑って返す。
「僕は強い方ですよ。1杯足らずでこうなっちゃう尉官よりはね」
やり取りをしているうちに――ハンはすとんと椅子に座り、背にもたれかかって、そのまま眠ってしまった。
ノースポート奪還作戦の内容がエリザの街でまとまり、シモン班はエリザを伴って央北に戻った。
そして「海上を含めた全方向からの包囲を行う」とする作戦の元、その訓練のために彼らは央北にあるもう一つの水産都市、ウエストポートへと向かった。
ところが到着してすぐ、エリザ側からの奇妙な提案や要求が、次々に提示されたのである。
まずはじめに、400人来るはずの兵士が、300人に減らされたこと。そして減らされた100人の代わりに、南側の人間60人がエリザによって用意されており、ハンたちがウエストポートに着いた頃には既に、訓練を始めていたこと。
さらには元の300人も、エリザが指定した通りの人材に替えられていたのだ。
「まあ、尉官が文句言うのも分かるけどねー」
すっかり酔い潰れたハンを前にし、マリアたちも今回の作戦について話し合っていた。
「確かに。『剣やら槍やら上手いのんは全然いらへん。大声出る奴集めとってー』なんて言われたら、愕然とするでしょうね」
「やっぱ尉官の言う通り、先生、変な取引か何かしてんじゃないかなー……」
3人は揃って首をかしげ――すぐに「ま、いいや」とつぶやいた。
「悩むのは尉官に任せとこうぜ。俺たちはメシ食おう。どっちにしたって明日も訓練するんだし」
「さーんせー。
あ、すみませーん。鮭オムレツとかぼちゃスープ、もう1人前下さーい」
「俺も食います。ビートは?」
「流石に食べられないよ。
マリアさんはともかくとして、シェロ、君も相当健啖(けんたん)だよな」
「まあな」
「ともかく、って何よー」
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愚痴吐く夕食。
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「はぐはぐ」
「皆。これは、ここだけの話にしておいて欲しい」
「もぐもぐ」
「大前提として、俺は陛下には全幅の敬意と信頼を置いているし、エリザさんに対しても、同様だ」
「むぐむぐ」
「だから、これからする話に、……その、多少なりとも不遜(ふそん)な点があったとしても」
「ごくごく」
「その、決して二人を軽んじたり、信頼を失っていたりと言うことは無いと、そう考えて欲しい」
「がつがつ」
「……何と言うか、その」
「尉官」
食べる手を止め、マリアが声をかける。
「何だ?」
「食べないと無くなりますよー?」
「……ああ。だが一回、ちゃんと最後まで、話をさせてもらって構わないか?」
「あ、はい」
マリアたち3人は同時にうなずくが、誰もフォークやスプーンを置こうとはしない。
「ともかく、今回の作戦についてだが、何も俺は、不満があるだとか、異を唱えたりだとか、そんなことを言うつもりは無いんだ。
だけど、腑に落ちない点が多い。そしてそれらに対し、陛下がすべて『そのようにせよ』としか仰られないことも、納得行ってないんだ」
「めっちゃ不満あるんじゃないっスか」
シェロに突っ込まれるが、ハンは応じず、話を続ける。
「第一、正規軍ではない人間を引き入れるなんて、まともな状況じゃ絶対にやらないことだ。ところがそれを60人も、だ。
俺にはどう考えても、エリザさんが自分の適当な思い付きを無理矢理に実現させようとしているようにしか考えられない。その理由が自分のプライドや面目を守るためなのか、俺には知られてない裏取引があってのことなのか、それは分からないが」
「はあ」
と、ビートが立ち上がり、ハンの前に置いてあったコップをつかむ。
「尉官。こう言っては失礼に当たること、重々承知していますけど」
「何だ?」
「尉官はお酒に弱すぎます。今後は極力、控えた方がいいと進言します」
「そんなことは無い」
「あります。
何故ならそのお話をされるのは、この卓に付いてから既に4回目だからです」
そう言いながら、ビートはそのコップに残っていたワインを、一息に飲み干した。
「ビート、そんな一気にやっちゃって大丈夫?」
心配そうに尋ねたマリアに、ビートはにこっと笑って返す。
「僕は強い方ですよ。1杯足らずでこうなっちゃう尉官よりはね」
やり取りをしているうちに――ハンはすとんと椅子に座り、背にもたれかかって、そのまま眠ってしまった。
ノースポート奪還作戦の内容がエリザの街でまとまり、シモン班はエリザを伴って央北に戻った。
そして「海上を含めた全方向からの包囲を行う」とする作戦の元、その訓練のために彼らは央北にあるもう一つの水産都市、ウエストポートへと向かった。
ところが到着してすぐ、エリザ側からの奇妙な提案や要求が、次々に提示されたのである。
まずはじめに、400人来るはずの兵士が、300人に減らされたこと。そして減らされた100人の代わりに、南側の人間60人がエリザによって用意されており、ハンたちがウエストポートに着いた頃には既に、訓練を始めていたこと。
さらには元の300人も、エリザが指定した通りの人材に替えられていたのだ。
「まあ、尉官が文句言うのも分かるけどねー」
すっかり酔い潰れたハンを前にし、マリアたちも今回の作戦について話し合っていた。
「確かに。『剣やら槍やら上手いのんは全然いらへん。大声出る奴集めとってー』なんて言われたら、愕然とするでしょうね」
「やっぱ尉官の言う通り、先生、変な取引か何かしてんじゃないかなー……」
3人は揃って首をかしげ――すぐに「ま、いいや」とつぶやいた。
「悩むのは尉官に任せとこうぜ。俺たちはメシ食おう。どっちにしたって明日も訓練するんだし」
「さーんせー。
あ、すみませーん。鮭オムレツとかぼちゃスープ、もう1人前下さーい」
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「流石に食べられないよ。
マリアさんはともかくとして、シェロ、君も相当健啖(けんたん)だよな」
「まあな」
「ともかく、って何よー」
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