「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・練兵伝 2
神様たちの話、第127話。
対照的な、2人のリーダー。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
エリザからの、横槍とも取れるような提案はあったものの、それでも元来真面目な者が大勢を占める軍人たちである。
集められた300人は黙々、奪還作戦の訓練に参加していた。
中でも人一倍真面目なハンは、隊長と言う地位でありながら、いつも朝一番に訓練場に入って剣を振るい、日が暮れるまで砂袋を担いでいる。
「はっ、はっ、はっ……」
その日も汗だくになりながら、上半身裸になって訓練をこなしていたハンを、エリザが斜に構えて眺めていた。
「いつも頑張るなぁ、自分」
ちなみにエリザは、いつも昼過ぎになってから訓練場に顔を出しては、「おやつ食べよか」などとつぶやきつつ、適当に切り上げて帰っている。
「リーダーですからね。率先して示さないと」
「うんうん、立派やねぇ」
「……示して下さいよ」
そう返したハンを、エリザは「はっ」と鼻で笑う。
「示しとるやん。泰然自若、山のように揺るがへん、頼りになるリーダーのお手本や」
「運動しなさすぎだと思いますが」
ハンは剣を地面に突き刺し、額に巻いていたバンダナで汗を拭いつつ、エリザに指摘する。
「肉が大分、付いてきてるように思いますが」
「アンタなぁ」
エリザはひょいと立ち上がり、自分の胸を両腕を組んで持ち上げる。
「コレは巨乳言うんや。デブとちゃう」
「そこだけじゃありません」
拭き終えたバンダナを絞りつつ、ハンはエリザの全身を見回す。
「二の腕ももっちりしてますし」
「う」
「お腹も何となくぽっこりしてますし」
「うっ」
「あごも丸くなってきてるんじゃないですか?」
「ううっ、……いや、なっとるかいっ」
そう言いつつ、エリザは自分のあごに手を当てる。
「大丈夫やないか。シュッとしとるわ」
「作戦開始までのあと半月、ぼーっと座ってたらそうなるでしょうね」
「怖いコト言いなや。……分かった分かった、ほなちょっとくらい頑張るわ」
エリザは袖をまくり、傍らに置いていた魔杖を手に取る。
「まあ確かにな、ちょこっとくらいは、こっち来て食べ過ぎかなーとは思とったし」
「俺の部下もですよ。こっちに来てから確実に、2キロは太ってるはずです」
再び剣を手に取り、ハンは素振りを再開する。
一方のエリザも、短い呪文を繰り返し唱え、簡単な攻撃魔術を放つ。
「せやけどアンタは全然やな。そらよー見たら筋肉付いとるけども、ちょと離れたトコで見たらひょろひょろやで。むしろもうちょい、太った方がええよ」
「大きなお世話です」
「まあ、そう言うたらお父さんもほっそい系やったな。抱き付いた時の感触が何ちゅうか、骨そのまんまっちゅうか」
「やめて下さい」
ハンは素振りしつつ、横目でエリザをにらむ。
「浮気相手から父親の身体的特徴についてのことなんか、聞かされたくありません」
「あーら、そらすんまへんなぁ」
エリザはニヤニヤ笑いながら、魔杖を腰に佩く。
「こんくらい撃ったったら、今日は十分やな。いい汗もかいたし」
「たかだか50回程度でしょう? そんなに動いてないじゃないですか」
そう突っ込んだハンに、エリザは「分かってへんなぁ」と返す。
「考えてみ、鍋沸かすくらいの火ぃ焚くのんに、何本薪使う?」
「ざっくり考えて4、5本ってところでしょうか」
「アタシが今使てた『ファイアボール』は、1発で薪3本は余裕で火ぃ点けれる。ちゅうコトはや、50回撃ったら150本分、鍋30杯分になる計算になるわな。
鍋30杯分、薪150本集めて燃やすのんがアンタ、どんだけ重労働か分かるか?」
「まあ、そう考えたら」
「つまりこう言うワケや」
そう言いつつ、エリザは上着を脱ぐ。
確かにエリザが示した通り、彼女が着ている肌着はびっしょりと、汗で濡れていた。
「魔術師がみぃんな運動不足みたいなコト無いからな。結構体力持ってかれるんよ、魔術使うと」
「失礼しました。俺の認識不足です」
ハンがぺこりと頭を下げたところで、エリザは肌着のまま、くるりと踵を返す。
「ほな今日は、このくらいにしとくわ。おつかれさん」
「あ、はい」
そのままエリザが歩き去ったところで――二人を遠巻きに見ていた兵士たちが、バタバタと近付いてきた。
「いっ、尉官」
「何だ?」
「エリザ先生と何を話されていたのでしょうか?」
「何をって、世間話だよ」
「先生がいきなり服を脱がれたように見えましたが……?」
「ああ。魔術がどれくらい体力使うのかって話をしてたから、それを見せるためにな」
「な、なるほど」
そこで一旦、全員が黙り込む。
「……何だ?」
「まさか尉官、先生と……」
「ただならぬ関係にあるとか……」
「じゃ無いです、……よね?」
ハンははぁ、とため息をつき、周囲を一喝した。
「そんなことあるわけ無いだろう! バカなことを考えていないで、真面目に訓練しろ!」
「はっ、はい!」
「すみませんでした!」
わらわらと散っていく兵士たちの背中を眺めながら、ハンはもう一度ため息をつき――そのまま、素振りを再開した。
@au_ringさんをフォロー
対照的な、2人のリーダー。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
エリザからの、横槍とも取れるような提案はあったものの、それでも元来真面目な者が大勢を占める軍人たちである。
集められた300人は黙々、奪還作戦の訓練に参加していた。
中でも人一倍真面目なハンは、隊長と言う地位でありながら、いつも朝一番に訓練場に入って剣を振るい、日が暮れるまで砂袋を担いでいる。
「はっ、はっ、はっ……」
その日も汗だくになりながら、上半身裸になって訓練をこなしていたハンを、エリザが斜に構えて眺めていた。
「いつも頑張るなぁ、自分」
ちなみにエリザは、いつも昼過ぎになってから訓練場に顔を出しては、「おやつ食べよか」などとつぶやきつつ、適当に切り上げて帰っている。
「リーダーですからね。率先して示さないと」
「うんうん、立派やねぇ」
「……示して下さいよ」
そう返したハンを、エリザは「はっ」と鼻で笑う。
「示しとるやん。泰然自若、山のように揺るがへん、頼りになるリーダーのお手本や」
「運動しなさすぎだと思いますが」
ハンは剣を地面に突き刺し、額に巻いていたバンダナで汗を拭いつつ、エリザに指摘する。
「肉が大分、付いてきてるように思いますが」
「アンタなぁ」
エリザはひょいと立ち上がり、自分の胸を両腕を組んで持ち上げる。
「コレは巨乳言うんや。デブとちゃう」
「そこだけじゃありません」
拭き終えたバンダナを絞りつつ、ハンはエリザの全身を見回す。
「二の腕ももっちりしてますし」
「う」
「お腹も何となくぽっこりしてますし」
「うっ」
「あごも丸くなってきてるんじゃないですか?」
「ううっ、……いや、なっとるかいっ」
そう言いつつ、エリザは自分のあごに手を当てる。
「大丈夫やないか。シュッとしとるわ」
「作戦開始までのあと半月、ぼーっと座ってたらそうなるでしょうね」
「怖いコト言いなや。……分かった分かった、ほなちょっとくらい頑張るわ」
エリザは袖をまくり、傍らに置いていた魔杖を手に取る。
「まあ確かにな、ちょこっとくらいは、こっち来て食べ過ぎかなーとは思とったし」
「俺の部下もですよ。こっちに来てから確実に、2キロは太ってるはずです」
再び剣を手に取り、ハンは素振りを再開する。
一方のエリザも、短い呪文を繰り返し唱え、簡単な攻撃魔術を放つ。
「せやけどアンタは全然やな。そらよー見たら筋肉付いとるけども、ちょと離れたトコで見たらひょろひょろやで。むしろもうちょい、太った方がええよ」
「大きなお世話です」
「まあ、そう言うたらお父さんもほっそい系やったな。抱き付いた時の感触が何ちゅうか、骨そのまんまっちゅうか」
「やめて下さい」
ハンは素振りしつつ、横目でエリザをにらむ。
「浮気相手から父親の身体的特徴についてのことなんか、聞かされたくありません」
「あーら、そらすんまへんなぁ」
エリザはニヤニヤ笑いながら、魔杖を腰に佩く。
「こんくらい撃ったったら、今日は十分やな。いい汗もかいたし」
「たかだか50回程度でしょう? そんなに動いてないじゃないですか」
そう突っ込んだハンに、エリザは「分かってへんなぁ」と返す。
「考えてみ、鍋沸かすくらいの火ぃ焚くのんに、何本薪使う?」
「ざっくり考えて4、5本ってところでしょうか」
「アタシが今使てた『ファイアボール』は、1発で薪3本は余裕で火ぃ点けれる。ちゅうコトはや、50回撃ったら150本分、鍋30杯分になる計算になるわな。
鍋30杯分、薪150本集めて燃やすのんがアンタ、どんだけ重労働か分かるか?」
「まあ、そう考えたら」
「つまりこう言うワケや」
そう言いつつ、エリザは上着を脱ぐ。
確かにエリザが示した通り、彼女が着ている肌着はびっしょりと、汗で濡れていた。
「魔術師がみぃんな運動不足みたいなコト無いからな。結構体力持ってかれるんよ、魔術使うと」
「失礼しました。俺の認識不足です」
ハンがぺこりと頭を下げたところで、エリザは肌着のまま、くるりと踵を返す。
「ほな今日は、このくらいにしとくわ。おつかれさん」
「あ、はい」
そのままエリザが歩き去ったところで――二人を遠巻きに見ていた兵士たちが、バタバタと近付いてきた。
「いっ、尉官」
「何だ?」
「エリザ先生と何を話されていたのでしょうか?」
「何をって、世間話だよ」
「先生がいきなり服を脱がれたように見えましたが……?」
「ああ。魔術がどれくらい体力使うのかって話をしてたから、それを見せるためにな」
「な、なるほど」
そこで一旦、全員が黙り込む。
「……何だ?」
「まさか尉官、先生と……」
「ただならぬ関係にあるとか……」
「じゃ無いです、……よね?」
ハンははぁ、とため息をつき、周囲を一喝した。
「そんなことあるわけ無いだろう! バカなことを考えていないで、真面目に訓練しろ!」
「はっ、はい!」
「すみませんでした!」
わらわらと散っていく兵士たちの背中を眺めながら、ハンはもう一度ため息をつき――そのまま、素振りを再開した。
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~