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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 4;琥珀暁」
    琥珀暁 第3部

    琥珀暁・練兵伝 4

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    神様たちの話、第129話。
    3人の評価。

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    4.
     夕方6時を告げる鐘の音が鳴り、ハンは剣を地面に突き刺した。
    (……来ないな)
     きょろ、と辺りを見回すが、マリアの姿は訓練場のどこにも無い。
    (サボったか? いや、普段から能天気でめんどくさがり屋な奴だが、指示したことはきっちりこなすし、命令不服従なんてことは絶対しない。やれって言ったことは、真面目にこなす奴だ。
     となると――エリザさんが先に帰ったってことから考えて――有り得そうなこととしては、こっちに来る途中でエリザさんに捕まって、風呂にでも誘われたか。
     じゃ、今頃はエリザさんと一緒にメシ食ってる頃だな。……仕方無い)
     ハンは剣を鞘に収め、離れたところで仲良く懸垂していたビートとシェロに声をかけた。
    「今日はそろそろ切り上げる。今から汗流しに行くが、お前たちも来るか?」
    「あ、はい」
     ビートは素直にうなずくが、一方でシェロは返事を濁す。
    「あー、と、今から行くと混んでるでしょうから、俺はメシ食ってから行きます」
    「そうか。じゃ、ビート」
    「ええ」
     ビートは鉄棒から手を離し、すとんと地面に降りる。が、シェロは依然鉄棒につかまったままでいる。
    「本当に来ないの?」
     ビートからも声をかけられたが、シェロは薄く笑って返す。
    「言っただろ。後で行くよ」
    「そっか」
     二人が背を向け、その場から離れたところで、シェロは鉄棒にぶら下がったまま、ぼそ、とつぶやいた。
    「……ヘッ、いいかっこしいが。あんなムッツリと仲良くなって何が面白いんだか」

     ハンたちが宿舎への道を歩く頃には既に、互いの顔も見え辛いくらいに夕闇が迫っていた。
    「混んでるかな……?」
     そうつぶやくハンに、ビートが「どうでしょう?」と返す。
    「案外、空いてきてるんじゃないですか? 訓練場から帰るの、僕たちが最後みたいですし。
     あ、いや、シェロが最後になるのかな」
    「シェロか……」
     含みを持たせたようなその言い方に、ビートは首を傾げる。
    「シェロがどうしたんです?」
    「いや」
     ハンは首を振り、こう続ける。
    「あいつは何だかんだ言って、2年俺の下で働いてきた奴だ。口先だけのことだろう」
    「と言うと?」
    「大したことじゃない」
     それきりハンが口をつぐみ、会話が途切れてしまう。
     その静寂を嫌い、ビートはあれこれとハンに声をかける。
    「あ、あの」
    「何だ?」
    「えーと、尉官って、その、エリザさんとはどこでお知り合いに?」
    「父の……、シモン将軍の関係で紹介を受けた」
    「どれくらいお付き合いを?」
    「割りと昔からだな」
    「あ、そうなんですね。えーと、じゃ、その」
    「何だよ」
    「あ、あ、えー、……あっ、じゃあ、マリアさんはどんな?」
    「はあ? どんなって、どう言う意味だ?」
    「あ、いや、変な意味じゃなくてですね、そう、評価って言うか、そう言う感じの」
    「評価? ああ、さっきシェロのことを言ったからか。
     そうだな、戦闘に関しては、あいつは文句無しに優秀だよ。この訓練に参加してる奴の中で勝てるようなのは、まずいないだろう」
     ハン自らのその評価を聞き、ビートは素直に驚いた。
    「そんなにですか? 尉官も?」
    「ああ。素手でやったら四分六分くらいでやられるな。お互い得意な得物を持って、ようやく五分五分ってところだろう」
    「へぇ……」
    「だからビート、マリアは怒らせるなよ。魔術兵なんだから、余計分が悪いぞ」
    「気を付けます。
     えーと、……こんなこと、自分で言うのも何ですが、僕はどうなんでしょう?」
     その質問に対しては、ハンはこう答えた。
    「一点だけ挙げるとすれば、お前は正確な評価・判断ができるタイプだ。自分自身に対してもな」
    「……ありがとうございます」
     ビートは照れながら頭を下げかけ――その途中で、道の向こうから誰かが歩いてくるのに気が付いた。
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