「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・練兵伝 5
神様たちの話、第130話。
闖入者。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
「尉官、あの」
「前の奴か?」
尋ねる前にハンからそう返され、ビートはこくこくとうなずく。
「暗いし遠いから、誰だって言うのまでは分からないが、どうやら獣人系だろう」
「耳の形はっきり出てますし、裸耳系じゃないですよね」
「だが妙だな。もう訓練時間は終わりだし、夜練するつもりにしても、灯りを持たずに来るって言うのはおかしい。
とは言え、誰かが襲撃に来たと言うわけでも無いだろう」
「みんなもう、宿舎で休んでるか、街でご飯食べてる頃ですもんね。襲撃するならそちらへ向かうでしょうし」
「それもあるし、一人で来るわけが無い。攻め込むなら、最低でも数名でチームを組むのが基本だ」
「となると、あれは一体……?」
「さあな。本人に聞いてみるのが一番早いだろう」
話している内に、その相手がすぐ前まで迫ってきた。
「ちょっといいか?」
と、その影が声をかけてくる。
「誰だ?」
当然、ハンはそう尋ねるが、相手は応じず、自分の話を続けてくる。
「ここにエリザ・ゴールドマンって言うすげえ綺麗な人がいるよな?」
「誰だ、と聞いているんだが」
「俺、会いに来たんだよ。あんた、どこにいるか知らねえか?」
「声に聞き覚えがあるな」
ハンの方もまともな受け答えをやめ、話を切り替えた。
「もう2ヶ月、いや、3ヶ月は前になるか」
「いやさ、こっち来てるって話自体はよ、1ヶ月くらい前に聞いたんだけども」
「あんたには散々、悩まされたもんだが」
「道が分からんもんでな、時間かかっちまったんだわ」
「こんなところまで来るとは予想外だったよ」
「まあ、そんなわけでさ。エリザさん、どこにいるか教えてくれよ」
「ところであんた、それだけデカい耳を持ってる癖して、ちょっとくらい俺の話が聞けないのか?」
そこで互いに口を閉ざし――ビートが恐る恐る、手を挙げた。
「いいですか?」
「ああ」
「もしかしてこちらの方、ノースポートにいた……」
「そうだ。だよな、おっさん」
ハンに尋ねられ、その男――ノースポートの狼獣人、ロウ・ルッジは「おう」とうなずいた。
「あらー、ロウくんやないの」
ロウを連れ、宿舎の玄関に戻ってきたところで、ハンたちは程無くエリザと会うことができた。
「ど、どもっス。お久しぶりっス」
前回と同様、ロウはカチコチとした仕草で、(彼なりに)うやうやしく挨拶を交わす。
「ほんで、どないしたん?」
尋ねたエリザに、ロウは敬礼しつつ、話を切り出してきた。
「あ、あのっスね、俺、こっちでノースポートの奪還作戦の訓練やってるって聞いたんスけど、それに参加させて欲しいんスよ」
「は?」
傍らで話を聞いていたハンが、あからさまに嫌そうな様子を見せる。
「できるわけないだろ。参加する人間は既に選抜済みだ。今更、余計な人員を入れる必要も余地も無い」
「堅いこと言うなよ。1人くらい入れるだろ、尉官さん?」
ゴリ押ししようとするロウを、ハンはきっぱりと突っぱねる。
「駄目だ。許可しない」
「いいじゃねーか、ちょっとくらいよぉ」
「仮に誰か1名、隊に入れる必要が生じたとしてもだ、俺はあんただけは絶対に、自分の指揮下には入れない。
命令不服従や独断専行はしょっちゅうだし、自分の都合だけしか考えない利己的な話を無理矢理通そうとする。そんなだらしの無い身勝手な人間を編入したら、いつ何時、本来起きるはずのないトラブルに見舞われ、隊全体の壊滅を引き起こすか。
よってあんたの要求は全面的に却下だ。とっとと帰れ」
「ざけんなよ、尉官さんよ? 1ヶ月かけてここまで来て、そのまんま引き返せってのか?」
「ふざけてるのはあんただ。いい歳して、自分の都合ばかり主張するな。恥を知れ」
「何だとッ!?」
途端にロウは怒り出し、ハンに殴りかかろうとする。
が――その寸前、ハンの前にマリアが飛び出し、ロウの拳をがっちりとつかんだ。
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「尉官、あの」
「前の奴か?」
尋ねる前にハンからそう返され、ビートはこくこくとうなずく。
「暗いし遠いから、誰だって言うのまでは分からないが、どうやら獣人系だろう」
「耳の形はっきり出てますし、裸耳系じゃないですよね」
「だが妙だな。もう訓練時間は終わりだし、夜練するつもりにしても、灯りを持たずに来るって言うのはおかしい。
とは言え、誰かが襲撃に来たと言うわけでも無いだろう」
「みんなもう、宿舎で休んでるか、街でご飯食べてる頃ですもんね。襲撃するならそちらへ向かうでしょうし」
「それもあるし、一人で来るわけが無い。攻め込むなら、最低でも数名でチームを組むのが基本だ」
「となると、あれは一体……?」
「さあな。本人に聞いてみるのが一番早いだろう」
話している内に、その相手がすぐ前まで迫ってきた。
「ちょっといいか?」
と、その影が声をかけてくる。
「誰だ?」
当然、ハンはそう尋ねるが、相手は応じず、自分の話を続けてくる。
「ここにエリザ・ゴールドマンって言うすげえ綺麗な人がいるよな?」
「誰だ、と聞いているんだが」
「俺、会いに来たんだよ。あんた、どこにいるか知らねえか?」
「声に聞き覚えがあるな」
ハンの方もまともな受け答えをやめ、話を切り替えた。
「もう2ヶ月、いや、3ヶ月は前になるか」
「いやさ、こっち来てるって話自体はよ、1ヶ月くらい前に聞いたんだけども」
「あんたには散々、悩まされたもんだが」
「道が分からんもんでな、時間かかっちまったんだわ」
「こんなところまで来るとは予想外だったよ」
「まあ、そんなわけでさ。エリザさん、どこにいるか教えてくれよ」
「ところであんた、それだけデカい耳を持ってる癖して、ちょっとくらい俺の話が聞けないのか?」
そこで互いに口を閉ざし――ビートが恐る恐る、手を挙げた。
「いいですか?」
「ああ」
「もしかしてこちらの方、ノースポートにいた……」
「そうだ。だよな、おっさん」
ハンに尋ねられ、その男――ノースポートの狼獣人、ロウ・ルッジは「おう」とうなずいた。
「あらー、ロウくんやないの」
ロウを連れ、宿舎の玄関に戻ってきたところで、ハンたちは程無くエリザと会うことができた。
「ど、どもっス。お久しぶりっス」
前回と同様、ロウはカチコチとした仕草で、(彼なりに)うやうやしく挨拶を交わす。
「ほんで、どないしたん?」
尋ねたエリザに、ロウは敬礼しつつ、話を切り出してきた。
「あ、あのっスね、俺、こっちでノースポートの奪還作戦の訓練やってるって聞いたんスけど、それに参加させて欲しいんスよ」
「は?」
傍らで話を聞いていたハンが、あからさまに嫌そうな様子を見せる。
「できるわけないだろ。参加する人間は既に選抜済みだ。今更、余計な人員を入れる必要も余地も無い」
「堅いこと言うなよ。1人くらい入れるだろ、尉官さん?」
ゴリ押ししようとするロウを、ハンはきっぱりと突っぱねる。
「駄目だ。許可しない」
「いいじゃねーか、ちょっとくらいよぉ」
「仮に誰か1名、隊に入れる必要が生じたとしてもだ、俺はあんただけは絶対に、自分の指揮下には入れない。
命令不服従や独断専行はしょっちゅうだし、自分の都合だけしか考えない利己的な話を無理矢理通そうとする。そんなだらしの無い身勝手な人間を編入したら、いつ何時、本来起きるはずのないトラブルに見舞われ、隊全体の壊滅を引き起こすか。
よってあんたの要求は全面的に却下だ。とっとと帰れ」
「ざけんなよ、尉官さんよ? 1ヶ月かけてここまで来て、そのまんま引き返せってのか?」
「ふざけてるのはあんただ。いい歳して、自分の都合ばかり主張するな。恥を知れ」
「何だとッ!?」
途端にロウは怒り出し、ハンに殴りかかろうとする。
が――その寸前、ハンの前にマリアが飛び出し、ロウの拳をがっちりとつかんだ。
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