「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・練兵伝 6
神様たちの話、第131話。
精鋭マリア。
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6.
ロウの拳を止めたまま、マリアはいつもののほほんとした雰囲気とかけ離れた、きつい口調と眼差しで相手を咎める。
「やめて下さい、ロウさん」
「あぁ!? 邪魔すんじゃねえよ!」
「もう一度だけ、言います。やめて」
マリアの制止に対し、ロウは怒鳴って返す。
「邪魔すんならてめーからボコってやんぞ、コラ!?」
「分かりました」
次の瞬間――ロウはマリアに蹴りを叩き込まれ、その場から3メートル近くも弾き飛ばされていた。
「う、っご……!?」
玄関広間に置かれていた机や椅子をがしゃ、がしゃんと薙ぎ倒しながら、ロウは床に転がる。
「な、何、しやがるっ」
それでもすっくと立ち上がり、ロウは近くにあった椅子を手に取り、マリアに襲い掛かる。
マリアも即応し、ロウが持っていた椅子を左脚を高く挙げて蹴り飛ばし、くるんと半回転しつつ、後ろ向きに右脚を突き込む。
「ぐば、っ」
右脚がロウの顔面にめり込むが、それでもロウは倒れず、彼女の脚をつかむ。
「いい気に、……なってんじゃねえぞオラあああッ!」
ロウはそのまま、マリアを乱暴に振り回そうとするが、それより一瞬早く、マリアの左脚がロウのあごを蹴り抜いていた。
「はが……っ」
ロウは大きくのけぞって体勢を崩し、膝を付いたきり動かなくなる。
「……ふー」
一方、マリアは何事も無かったようにすとんと床に降り立ち、ハンの無事を確かめる。
「尉官、おケガありません?」
「ああ、大丈夫だ」
ハンは周囲の兵士たちに目配せし、命令を下す。
「こいつを拘束しろ」
「はっ」
兵士たちは敬礼し、ロウを捕らえようとした。
と――。
「ちょい待ち」
エリザがぺら、と手を振り、兵士たちを制した。
「エリザさん?」
いぶかしむハンに、エリザはにこっと笑って返す。
「いくら何でも気の毒やで。折角遠いトコから来たっちゅうのんに、こないに顔蹴られて、しかも檻の中入れられるっちゅうんは」
「しかし、そいつは正規の方法を執らずに軍施設に侵入した上、乱闘騒ぎを起こした奴ですよ。何もせずと言うわけには」
「そんなもん、アンタとアタシのさじ加減やろが。
訓練場やら宿舎やら入って来た言うても、何や盗られたワケでも無い。乱闘騒ぎにしても、ケガしとんのロウくん一人やん。壊れたもんはアタシが弁償したるし。
後はアタシらが『不問に処す』言うたら、ソレで終わりやろ?」
「まあ、それはそうですが」
「大事(おおごと)にするようなもんでも無いやろ。ソレともアンタ、今後もこんなしょうもないコトで一々、大勢けしかける気ぃか?」
「……そうですね。流石にそんなことが重なれば、士気を下げるでしょう」
「せやろ? ちゅうコトで拘束は無しや。みんな、戻ってええでー」
エリザの一声により、マリアを除く兵士たちはぞろぞろと、その場から離れて行った。
後に残され、その場にうずくまったままのロウに、エリザは優しく声をかける。
「手当てしたるで。一緒にアタシの部屋に来」
「えっ、……い、いやっ、そんな、これくらいいいっスって」
ロウは鼻血の跡を残したままの顔でばたばたと手を振り、それを固辞しようとする。
「ええから。話もあるし。ま、二人きりっちゅうのんもアレやろから、マリアちゃんも一緒にいてもらおかな」
「あ、はーい」
マリアが素直にうなずく一方、ハンは憮然とした顔になる。
「俺も行きます」
そう返すが、エリザはぺら、と手を振る。
「アンタ、ロウくんみたいなタイプ嫌いやろ? アンタが一緒におったら、アンタかロウくんのどっちかがキレてもうて、話にならへんやろからな。
アタシに任せとき」
「そう仰るなら、エリザさんに一任しますよ」
ハンはそれ以上何も言わず、その場から離れた。
ロウの騒ぎがあった、その直後――。
(何だこりゃ)
宿舎に戻ってきたシェロは玄関の惨状を目にし、呆れ返る。
と、同僚が近くを通りかかり、彼に声をかけた。
「シェロ? 今戻ってきたのか」
「ああ、先にメシ食ってたんだ。
それで、何かあったのか? 机とか色々、散らばってるけど」
「闖入者(ちんにゅうしゃ:非正規に立ち入ってきた者のこと)騒ぎだ。今、エリザ先生が尋問してるんだってさ」
「先生が?」
「大変だったみたいだぜ。隊長が襲われたんだってさ」
「隊長が? どうなったんだ? ケガでもしたのか?」
「いや、マリアが守ったって話だ」
「じゃ、無事なのか。ふーん……」
チラ、と机の残骸を一瞥して、シェロはそのまま、自分の部屋へと戻った。
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ロウの拳を止めたまま、マリアはいつもののほほんとした雰囲気とかけ離れた、きつい口調と眼差しで相手を咎める。
「やめて下さい、ロウさん」
「あぁ!? 邪魔すんじゃねえよ!」
「もう一度だけ、言います。やめて」
マリアの制止に対し、ロウは怒鳴って返す。
「邪魔すんならてめーからボコってやんぞ、コラ!?」
「分かりました」
次の瞬間――ロウはマリアに蹴りを叩き込まれ、その場から3メートル近くも弾き飛ばされていた。
「う、っご……!?」
玄関広間に置かれていた机や椅子をがしゃ、がしゃんと薙ぎ倒しながら、ロウは床に転がる。
「な、何、しやがるっ」
それでもすっくと立ち上がり、ロウは近くにあった椅子を手に取り、マリアに襲い掛かる。
マリアも即応し、ロウが持っていた椅子を左脚を高く挙げて蹴り飛ばし、くるんと半回転しつつ、後ろ向きに右脚を突き込む。
「ぐば、っ」
右脚がロウの顔面にめり込むが、それでもロウは倒れず、彼女の脚をつかむ。
「いい気に、……なってんじゃねえぞオラあああッ!」
ロウはそのまま、マリアを乱暴に振り回そうとするが、それより一瞬早く、マリアの左脚がロウのあごを蹴り抜いていた。
「はが……っ」
ロウは大きくのけぞって体勢を崩し、膝を付いたきり動かなくなる。
「……ふー」
一方、マリアは何事も無かったようにすとんと床に降り立ち、ハンの無事を確かめる。
「尉官、おケガありません?」
「ああ、大丈夫だ」
ハンは周囲の兵士たちに目配せし、命令を下す。
「こいつを拘束しろ」
「はっ」
兵士たちは敬礼し、ロウを捕らえようとした。
と――。
「ちょい待ち」
エリザがぺら、と手を振り、兵士たちを制した。
「エリザさん?」
いぶかしむハンに、エリザはにこっと笑って返す。
「いくら何でも気の毒やで。折角遠いトコから来たっちゅうのんに、こないに顔蹴られて、しかも檻の中入れられるっちゅうんは」
「しかし、そいつは正規の方法を執らずに軍施設に侵入した上、乱闘騒ぎを起こした奴ですよ。何もせずと言うわけには」
「そんなもん、アンタとアタシのさじ加減やろが。
訓練場やら宿舎やら入って来た言うても、何や盗られたワケでも無い。乱闘騒ぎにしても、ケガしとんのロウくん一人やん。壊れたもんはアタシが弁償したるし。
後はアタシらが『不問に処す』言うたら、ソレで終わりやろ?」
「まあ、それはそうですが」
「大事(おおごと)にするようなもんでも無いやろ。ソレともアンタ、今後もこんなしょうもないコトで一々、大勢けしかける気ぃか?」
「……そうですね。流石にそんなことが重なれば、士気を下げるでしょう」
「せやろ? ちゅうコトで拘束は無しや。みんな、戻ってええでー」
エリザの一声により、マリアを除く兵士たちはぞろぞろと、その場から離れて行った。
後に残され、その場にうずくまったままのロウに、エリザは優しく声をかける。
「手当てしたるで。一緒にアタシの部屋に来」
「えっ、……い、いやっ、そんな、これくらいいいっスって」
ロウは鼻血の跡を残したままの顔でばたばたと手を振り、それを固辞しようとする。
「ええから。話もあるし。ま、二人きりっちゅうのんもアレやろから、マリアちゃんも一緒にいてもらおかな」
「あ、はーい」
マリアが素直にうなずく一方、ハンは憮然とした顔になる。
「俺も行きます」
そう返すが、エリザはぺら、と手を振る。
「アンタ、ロウくんみたいなタイプ嫌いやろ? アンタが一緒におったら、アンタかロウくんのどっちかがキレてもうて、話にならへんやろからな。
アタシに任せとき」
「そう仰るなら、エリザさんに一任しますよ」
ハンはそれ以上何も言わず、その場から離れた。
ロウの騒ぎがあった、その直後――。
(何だこりゃ)
宿舎に戻ってきたシェロは玄関の惨状を目にし、呆れ返る。
と、同僚が近くを通りかかり、彼に声をかけた。
「シェロ? 今戻ってきたのか」
「ああ、先にメシ食ってたんだ。
それで、何かあったのか? 机とか色々、散らばってるけど」
「闖入者(ちんにゅうしゃ:非正規に立ち入ってきた者のこと)騒ぎだ。今、エリザ先生が尋問してるんだってさ」
「先生が?」
「大変だったみたいだぜ。隊長が襲われたんだってさ」
「隊長が? どうなったんだ? ケガでもしたのか?」
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