「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・練兵伝 7
神様たちの話、第132話。
エリザの更なる横槍。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
翌朝、いつものようにハンは、剣を佩いて訓練場に現れた。
(昨夜は騒々しかったが、もうあんなことは二度も起こらないだろう。
いくらエリザさんでも、あんな無茶苦茶な奴を隊に入れるなんてことはしないはずだろうし。……さ、今日もやるか)
ハンはすう、と深呼吸し、剣を構えようとする。
と、背後に気配を感じ、振り返る。
「おう。早いな、あんた」
そこには「昨夜の無茶苦茶な奴」――ロウの姿があった。
「何の用だ?」
棘のある声で尋ねたハンに、ロウはフン、と鼻を鳴らす。
「ここは訓練場だろ? 訓練場ですることなんて、訓練以外にあんのかよ?」
「お前が訓練だと? 部外者は立入禁止だ。それくらい分かるだろ?」
「部外者じゃねえよ」
そう返したロウを、ハンはにらみ付ける。
「いくら早朝とは言え、寝言は寝てる時に言ってくれ」
「エリザさんの言った通りだな。あんたとは全然、話になんねえわ」
「あ? エリザさんがどうしたって?」
二人がにらみ合ったところで、「待ち待ち」と声がかけられる。
「……エリザさん」
「ハンくん、おはようさん」
「ええ、おはようございます」
ハンは憮然としつつもエリザに挨拶し、こう続ける。
「嫌な予感がするんですが」
「あら、どないした?」
「もしかしてこいつを隊に入れるんですか?」
「そら嫌やろ?」
「無論です」
「せやから、隊には入れてへんで」
「じゃあ何故、こいつがここに?」
そう言いつつロウを指差したハンを、エリザがたしなめる。
「人を指差さんときいや。……ま、説明するとやね。
ロウくんはアタシ専属の護衛やねん」
「は?」
ハンは極力落ち着いた声を作り、エリザに尋ねる。
「どう言った事情があるのか、詳細にご説明いただいてもよろしいですか?」
「何や、かしこまって。まあええわ、説明したる。
まず第一、アンタは絶対、隊にロウくん加えるのんは反対するやろ?」
「ええ」
「第二にロウくんもな、隊に入るっちゅうのんは勘弁や言うてるねん。ロウくんにしても、アンタからアレやコレや指示されるのんは嫌や言うてるからな」
「そうですか。まあ、そうでしょうね」
「ほんで第三、アタシにも考えるところがあってな。ロウくんは今回の作戦について、ええ働きしてくれるやろうと考えとるんよ」
「何ですって? こいつが?」
「こいつ、こいつて」
エリザは魔杖の先で、こつんとハンの頭を叩く。
「いたっ、……何なんです?」
「嫌いなんは分かるけどもな、人の上に立っとる人間が、子供みたいなコト言わんの」
「子供はどっちですか。俺の癇に障るような嫌がらせを、次から次にやっておいて」
「嫌がらせやあるかいな。まあ、そんなん言い合いするのん自体が子供みたいやし、話続けるで。
ともかくな、その3つを全部通すのんに最もええやり方を、アタシなりに考えてみたんよ。で、ロウくんをアタシの護衛にするコトにしたんや。
せやからロウくんはアンタの部下ではないし、やけども今回の作戦には参加する。どや、条件満たしとるやろ?」
「何のトンチですか」
段々と高まってくる苛立ちを懸命に抑えながら、ハンは抗弁する。
「作戦に参加ですって? 認めませんよ、俺は」
「せやからアンタの部下でもない人間に、命令なんかでけへんて言うてるやろ。ええ加減分かりいや」
「~っ」
ハンは思わず、持っていた剣を抜きそうになる。
その激情を無理矢理にこらえ、ハンは二人に背を向けた。
「本日は気分がすこぶる悪いので、休ませてもらいます。それじゃ」
「養生しいやー」
そのまま歩き去るハンにエリザはぱたぱたと手を振った後、ロウに向き直る。
「ま、ロウくんもあんまりケンカせえへんようにな。ちゅうてもあの子はこっちからけしかけへんかったら、ケンカにはならんさかいな」
「うっス」
ハンにとっては不安な材料が次々に湧いてはきていたものの、訓練自体は着々と進み――そしてついに、作戦決行の日を迎えた。
琥珀暁・練兵伝 終
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エリザの更なる横槍。
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翌朝、いつものようにハンは、剣を佩いて訓練場に現れた。
(昨夜は騒々しかったが、もうあんなことは二度も起こらないだろう。
いくらエリザさんでも、あんな無茶苦茶な奴を隊に入れるなんてことはしないはずだろうし。……さ、今日もやるか)
ハンはすう、と深呼吸し、剣を構えようとする。
と、背後に気配を感じ、振り返る。
「おう。早いな、あんた」
そこには「昨夜の無茶苦茶な奴」――ロウの姿があった。
「何の用だ?」
棘のある声で尋ねたハンに、ロウはフン、と鼻を鳴らす。
「ここは訓練場だろ? 訓練場ですることなんて、訓練以外にあんのかよ?」
「お前が訓練だと? 部外者は立入禁止だ。それくらい分かるだろ?」
「部外者じゃねえよ」
そう返したロウを、ハンはにらみ付ける。
「いくら早朝とは言え、寝言は寝てる時に言ってくれ」
「エリザさんの言った通りだな。あんたとは全然、話になんねえわ」
「あ? エリザさんがどうしたって?」
二人がにらみ合ったところで、「待ち待ち」と声がかけられる。
「……エリザさん」
「ハンくん、おはようさん」
「ええ、おはようございます」
ハンは憮然としつつもエリザに挨拶し、こう続ける。
「嫌な予感がするんですが」
「あら、どないした?」
「もしかしてこいつを隊に入れるんですか?」
「そら嫌やろ?」
「無論です」
「せやから、隊には入れてへんで」
「じゃあ何故、こいつがここに?」
そう言いつつロウを指差したハンを、エリザがたしなめる。
「人を指差さんときいや。……ま、説明するとやね。
ロウくんはアタシ専属の護衛やねん」
「は?」
ハンは極力落ち着いた声を作り、エリザに尋ねる。
「どう言った事情があるのか、詳細にご説明いただいてもよろしいですか?」
「何や、かしこまって。まあええわ、説明したる。
まず第一、アンタは絶対、隊にロウくん加えるのんは反対するやろ?」
「ええ」
「第二にロウくんもな、隊に入るっちゅうのんは勘弁や言うてるねん。ロウくんにしても、アンタからアレやコレや指示されるのんは嫌や言うてるからな」
「そうですか。まあ、そうでしょうね」
「ほんで第三、アタシにも考えるところがあってな。ロウくんは今回の作戦について、ええ働きしてくれるやろうと考えとるんよ」
「何ですって? こいつが?」
「こいつ、こいつて」
エリザは魔杖の先で、こつんとハンの頭を叩く。
「いたっ、……何なんです?」
「嫌いなんは分かるけどもな、人の上に立っとる人間が、子供みたいなコト言わんの」
「子供はどっちですか。俺の癇に障るような嫌がらせを、次から次にやっておいて」
「嫌がらせやあるかいな。まあ、そんなん言い合いするのん自体が子供みたいやし、話続けるで。
ともかくな、その3つを全部通すのんに最もええやり方を、アタシなりに考えてみたんよ。で、ロウくんをアタシの護衛にするコトにしたんや。
せやからロウくんはアンタの部下ではないし、やけども今回の作戦には参加する。どや、条件満たしとるやろ?」
「何のトンチですか」
段々と高まってくる苛立ちを懸命に抑えながら、ハンは抗弁する。
「作戦に参加ですって? 認めませんよ、俺は」
「せやからアンタの部下でもない人間に、命令なんかでけへんて言うてるやろ。ええ加減分かりいや」
「~っ」
ハンは思わず、持っていた剣を抜きそうになる。
その激情を無理矢理にこらえ、ハンは二人に背を向けた。
「本日は気分がすこぶる悪いので、休ませてもらいます。それじゃ」
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