「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・奪港伝 1
神様たちの話、第133話。
奪還作戦、開始。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
マリアたちが山の南を訪れた際、その気候の違いに戸惑っていたように――海を越えてやって来たらしい彼らも、自分たちが元いた場所と空気が違うことに、少なからず参っているようだった。
「***……」
漁港にたむろしていた虎耳や熊耳の大男たちが、海辺に釣り糸を垂らしつつ、だらだらとした声で何かをつぶやき合っている。
いずれも上半身は裸になっており、額には汗が浮かんでいる。どうやら相当に暑く感じているらしく、一様にげんなりした様子である。
それでもどこか、浮かれているような、楽しんでいるような――どこか希望に満ちた表情を浮かべており、彼らがこの地を訪れた理由が、その雰囲気からそれとなく察せられるようだった。
と、沖の方に一つ、また一つと、黒い影が現れる。
「……?」
一人がそれに気付き、立ち上がる。
「*******?」
周りに尋ねたようだが、他の者はぽかんとした顔をするばかりである。
「******?」
何かを提案するように、一人が手を挙げる。
「**」
その場にいた全員がうなずき、バタバタと立ち上がりかけた、次の瞬間――その黒い影から、火の玉がいくつも飛んできた。
「初弾、ええ感じに命中や。敵さん、めっちゃ慌てとるで」
船を率い、ノースポート沖に進入したエリザが、「通信頭巾」を使ってハンと連絡を取る。
《了解。こちらは異状無しです》
「うんうん、もう一回撃ち込んだら、アレ頼むでー」
《承知してます。それよりエリザさん》
「何や?」
《本当にロウを、作戦に編入するんですか?》
「何を今更……。アタシの作戦には不可欠やて言うたはずやろ」
エリザの狐耳に、ハンの納得行かなさそうな声が聞こえてくる。
《あいつがまともに、人の命令通りに動いてくれるとは思えません。どうせ今の攻撃に乗じて、一人勝手に暴れ回ろうとするのが……》「あのなぁ、ハンくん」
エリザはいつもの彼女らしからぬ、硬い声色でこう返した。
「人の上に立つような人間が、他人のコトを一々下に下に、悪いように見るんは、絶対やめたりや。そんなんしてたら誰も、アンタに付いてかへんようになるで。
信じたり。人を信じひんかったら、どんな作戦立てようと、全部ワヤになるだけや」
《……失礼しました。気を付けます》
「心配せんでもな、ロウくんはアタシの言うコトやったら、めっちゃ真面目に聞いてくれよる。ちゃんとアタシの言うた通りに、やるコトやってくれるからな」
《そうだといいんですがね。……いえ、失礼》
「ほな2発目、行くでー」
そこで通信を切り、エリザは呪文を唱え始める。
「ブチかますでっ、『フォックスアロー』!」
魔術が発動すると同時に、エリザの乗る船に曳航(えいこう)され、波間をふよふよと漂っていたハリボテから、紫色の光線が岸に向かって飛んでいく。
光線はドン、ドンと炸裂音を立てて岸一帯に降り注ぎ、そこに残っていた敵たちは、明らかに怯え、動揺する。
「残っとった敵十数名、全員市街地方向へ向かっとりますで、女将さん」
単眼鏡で状況を確認していた部下から報告を受け、エリザが尋ねる。
「誰か死んどるか?」
「いえ……、それらしいのんは、見当たりません」
それを受けて、エリザはニコニコと笑っている。
「よっしゃ。どーや、アタシのコントロールは?」
「流石は女将さんですわ」
「んっふっふー」
一方――。
(お、来た来た)
一人、既に外壁を乗り越え、ノースポート内へ入り込んでいたロウが、敵が慌てた様子で市街地へ流れて来るのを物陰から確認しつつ、懐を探る。
(エリザさんに頼まれたんだ。いいトコ見せねえとな)
ロウは懐から金属の塊を取り出し、緊張した面持ちでぎゅっと握りしめた。
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奪還作戦、開始。
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1.
マリアたちが山の南を訪れた際、その気候の違いに戸惑っていたように――海を越えてやって来たらしい彼らも、自分たちが元いた場所と空気が違うことに、少なからず参っているようだった。
「***……」
漁港にたむろしていた虎耳や熊耳の大男たちが、海辺に釣り糸を垂らしつつ、だらだらとした声で何かをつぶやき合っている。
いずれも上半身は裸になっており、額には汗が浮かんでいる。どうやら相当に暑く感じているらしく、一様にげんなりした様子である。
それでもどこか、浮かれているような、楽しんでいるような――どこか希望に満ちた表情を浮かべており、彼らがこの地を訪れた理由が、その雰囲気からそれとなく察せられるようだった。
と、沖の方に一つ、また一つと、黒い影が現れる。
「……?」
一人がそれに気付き、立ち上がる。
「*******?」
周りに尋ねたようだが、他の者はぽかんとした顔をするばかりである。
「******?」
何かを提案するように、一人が手を挙げる。
「**」
その場にいた全員がうなずき、バタバタと立ち上がりかけた、次の瞬間――その黒い影から、火の玉がいくつも飛んできた。
「初弾、ええ感じに命中や。敵さん、めっちゃ慌てとるで」
船を率い、ノースポート沖に進入したエリザが、「通信頭巾」を使ってハンと連絡を取る。
《了解。こちらは異状無しです》
「うんうん、もう一回撃ち込んだら、アレ頼むでー」
《承知してます。それよりエリザさん》
「何や?」
《本当にロウを、作戦に編入するんですか?》
「何を今更……。アタシの作戦には不可欠やて言うたはずやろ」
エリザの狐耳に、ハンの納得行かなさそうな声が聞こえてくる。
《あいつがまともに、人の命令通りに動いてくれるとは思えません。どうせ今の攻撃に乗じて、一人勝手に暴れ回ろうとするのが……》「あのなぁ、ハンくん」
エリザはいつもの彼女らしからぬ、硬い声色でこう返した。
「人の上に立つような人間が、他人のコトを一々下に下に、悪いように見るんは、絶対やめたりや。そんなんしてたら誰も、アンタに付いてかへんようになるで。
信じたり。人を信じひんかったら、どんな作戦立てようと、全部ワヤになるだけや」
《……失礼しました。気を付けます》
「心配せんでもな、ロウくんはアタシの言うコトやったら、めっちゃ真面目に聞いてくれよる。ちゃんとアタシの言うた通りに、やるコトやってくれるからな」
《そうだといいんですがね。……いえ、失礼》
「ほな2発目、行くでー」
そこで通信を切り、エリザは呪文を唱え始める。
「ブチかますでっ、『フォックスアロー』!」
魔術が発動すると同時に、エリザの乗る船に曳航(えいこう)され、波間をふよふよと漂っていたハリボテから、紫色の光線が岸に向かって飛んでいく。
光線はドン、ドンと炸裂音を立てて岸一帯に降り注ぎ、そこに残っていた敵たちは、明らかに怯え、動揺する。
「残っとった敵十数名、全員市街地方向へ向かっとりますで、女将さん」
単眼鏡で状況を確認していた部下から報告を受け、エリザが尋ねる。
「誰か死んどるか?」
「いえ……、それらしいのんは、見当たりません」
それを受けて、エリザはニコニコと笑っている。
「よっしゃ。どーや、アタシのコントロールは?」
「流石は女将さんですわ」
「んっふっふー」
一方――。
(お、来た来た)
一人、既に外壁を乗り越え、ノースポート内へ入り込んでいたロウが、敵が慌てた様子で市街地へ流れて来るのを物陰から確認しつつ、懐を探る。
(エリザさんに頼まれたんだ。いいトコ見せねえとな)
ロウは懐から金属の塊を取り出し、緊張した面持ちでぎゅっと握りしめた。
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