「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・奪港伝 4
神様たちの話、第136話。
「常識」を測る。
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4.
ノースポートを奪還したその日の内に――エリザから勧められたこともあり――元いた住人たちの送還が行われた。
「うわー……、きったねえなぁ」
「港がゴミだらけだよ」
「好き放題しやがって、クソ」
街が占拠されていたのは3ヶ月ほどだったが、その間にすっかり、街は汚されてしまっていた。
そのため、町民たちは戻ってきて早々、大隊に手を借してもらいつつ、街中を大掃除する羽目になった。
「ふん、ふん、……へーぇ」
その中で一人、エリザは煙管を片手に、興味深そうな様子で通りを見て回っている。
「どうかされたんですか、先生」
と、街の清掃を手伝っていたビートが彼女を見付け、話しかける。
「ん? ああ、ビートくんやないの。いやな、敵さんらがこの街で何しとったんかなーって、観察しとるんよ」
「観察ですか? それなら、お急ぎになった方がいいんじゃないですか」
「せやねぇ、みんな掃除しとるし。ほなちょっと、手伝ってもろてええ?」
エリザにそうお願いされ、ビートはゼロから言われた言葉を思い出し、言い淀む。
「え、あー、えーと」
「忙しかったらええねんけどね。アタシ一人でやれるトコまでやろか思てるし」
「あ、いえ、手伝います」
だが、ほとんど無意識に、ビートはそう答えてしまう。
「あら、ホンマ? ありがとなぁ」
「あ、じゃあ、ちょっと断りを入れてくるので、待っていただけますか?」
「えーよー」
エリザに伴われつつ、ビートも街を見て回る。
(陛下に釘を刺されてたのに、結局了承してしまった……)
しかしその胸中は不安に満ちており、とても景色を注視する余裕は無い。
(僕はまさかもう、エリザ先生に魅入られてるんだろうか?)
「ほれ、ちょと見てみ」
と、エリザがひょいと、ビートの手を引く。
「え? な、何でしょうか?」
突然のことで戸惑いつつも、ビートはどうにか反応する。
「こんなトコで焚き火したはるわ」
「非常識ですね」
思ったままの意見を述べたビートに、エリザがこう尋ねてくる。
「ソレだけか? 他に気ぃ付いたコト無いか?」
「と言うと?」
「ビートくんはここで火ぃ焚くんは非常識やっちゅうたけども、ソレは何でや?」
「何でって、誰がどう考えても非常識でしょう? 往来の真ん中ですよ」
「もしかしたら、敵さんらにはそれが普通のコトなんかも知れへんで」
「非常識なことをするのが、ですか?」
眉をひそめるビートに、エリザは肩をすくめて返す。
「そもそも常識ちゅうもんは、場所で変わるもんや。暑いトコで毛皮のコートなんか羽織らへんし、寒いトコで水着になるんはアホや。
敵さんら、服装はものすごい温(ぬく)そうやったやん。ちゅうコトはや、元々寒いトコにおったんやろな。ソレも、油断したら凍死してまいかねへんような、極寒の地かも分からん。
そんでや、そんな寒い寒いトコから来はった人らが、自分たちの安全・安心を確保するためにまずすべきは、何やと思う?」
「寒いところから? ……あ、じゃあこれは」
「せや。まず第一、暖を取れるように、と考えるやろな。出来る限り大勢がいっぺんに当たれるように、広い大通りのど真ん中に焚き火を置く。ソレが向こうの常識、『生活習慣』なんやろ。
ハンくんから聞いたかも分からへんけどな、自分の常識は世界の常識とは限らへんのやで」
「なるほど……、参考になります」
エリザの見識に、素直に感心したところで、ビートはふと、ハンから聞かされてきた疑問を思い出した。
「そう言えば、先生」
「んー?」
「今回の作戦について、不可解な点があったように思うんですが」
「不可解、っちゅうと?」
「どうして正規軍を400名から300名に減らし、エリザさんの部下を60名、代わりに引き入れたのか。尉官も不思議に思っていたようですが」
「不思議っちゅうより、はっきり言うたら不満やろ?」
しれっとそう返され、ビートは言葉に詰まる。
「いや、まあ、その」
「分かっとる分かっとる、色々『何やコレ』と思うところはあるやろしな。
作戦も無事に終わったコトやし、今晩ご飯食べる時にでも、ハンくんにも一緒に説明するわ」
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「常識」を測る。
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ノースポートを奪還したその日の内に――エリザから勧められたこともあり――元いた住人たちの送還が行われた。
「うわー……、きったねえなぁ」
「港がゴミだらけだよ」
「好き放題しやがって、クソ」
街が占拠されていたのは3ヶ月ほどだったが、その間にすっかり、街は汚されてしまっていた。
そのため、町民たちは戻ってきて早々、大隊に手を借してもらいつつ、街中を大掃除する羽目になった。
「ふん、ふん、……へーぇ」
その中で一人、エリザは煙管を片手に、興味深そうな様子で通りを見て回っている。
「どうかされたんですか、先生」
と、街の清掃を手伝っていたビートが彼女を見付け、話しかける。
「ん? ああ、ビートくんやないの。いやな、敵さんらがこの街で何しとったんかなーって、観察しとるんよ」
「観察ですか? それなら、お急ぎになった方がいいんじゃないですか」
「せやねぇ、みんな掃除しとるし。ほなちょっと、手伝ってもろてええ?」
エリザにそうお願いされ、ビートはゼロから言われた言葉を思い出し、言い淀む。
「え、あー、えーと」
「忙しかったらええねんけどね。アタシ一人でやれるトコまでやろか思てるし」
「あ、いえ、手伝います」
だが、ほとんど無意識に、ビートはそう答えてしまう。
「あら、ホンマ? ありがとなぁ」
「あ、じゃあ、ちょっと断りを入れてくるので、待っていただけますか?」
「えーよー」
エリザに伴われつつ、ビートも街を見て回る。
(陛下に釘を刺されてたのに、結局了承してしまった……)
しかしその胸中は不安に満ちており、とても景色を注視する余裕は無い。
(僕はまさかもう、エリザ先生に魅入られてるんだろうか?)
「ほれ、ちょと見てみ」
と、エリザがひょいと、ビートの手を引く。
「え? な、何でしょうか?」
突然のことで戸惑いつつも、ビートはどうにか反応する。
「こんなトコで焚き火したはるわ」
「非常識ですね」
思ったままの意見を述べたビートに、エリザがこう尋ねてくる。
「ソレだけか? 他に気ぃ付いたコト無いか?」
「と言うと?」
「ビートくんはここで火ぃ焚くんは非常識やっちゅうたけども、ソレは何でや?」
「何でって、誰がどう考えても非常識でしょう? 往来の真ん中ですよ」
「もしかしたら、敵さんらにはそれが普通のコトなんかも知れへんで」
「非常識なことをするのが、ですか?」
眉をひそめるビートに、エリザは肩をすくめて返す。
「そもそも常識ちゅうもんは、場所で変わるもんや。暑いトコで毛皮のコートなんか羽織らへんし、寒いトコで水着になるんはアホや。
敵さんら、服装はものすごい温(ぬく)そうやったやん。ちゅうコトはや、元々寒いトコにおったんやろな。ソレも、油断したら凍死してまいかねへんような、極寒の地かも分からん。
そんでや、そんな寒い寒いトコから来はった人らが、自分たちの安全・安心を確保するためにまずすべきは、何やと思う?」
「寒いところから? ……あ、じゃあこれは」
「せや。まず第一、暖を取れるように、と考えるやろな。出来る限り大勢がいっぺんに当たれるように、広い大通りのど真ん中に焚き火を置く。ソレが向こうの常識、『生活習慣』なんやろ。
ハンくんから聞いたかも分からへんけどな、自分の常識は世界の常識とは限らへんのやで」
「なるほど……、参考になります」
エリザの見識に、素直に感心したところで、ビートはふと、ハンから聞かされてきた疑問を思い出した。
「そう言えば、先生」
「んー?」
「今回の作戦について、不可解な点があったように思うんですが」
「不可解、っちゅうと?」
「どうして正規軍を400名から300名に減らし、エリザさんの部下を60名、代わりに引き入れたのか。尉官も不思議に思っていたようですが」
「不思議っちゅうより、はっきり言うたら不満やろ?」
しれっとそう返され、ビートは言葉に詰まる。
「いや、まあ、その」
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