「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・奪港伝 6
神様たちの話、第138話。
一応の納得と和解。
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6.
ハンと違い、エリザは既にこの時点で酒瓶一本を空けているが、いつも通りの飄々(ひょうひょう)とした、それでいて理知的な光を含んだままの口調で、話を続ける。
「コレは作戦を立てる段階から一致しとった、アタシとハンくん、ソレからゼロさんらの総意やねんけどな。今回の作戦では、敵味方双方に死人を出すようなコトはせんようにしよう、ってな。
今回の作戦はバケモノ相手やなく、ヒト相手や。である以上、話し合う余地もあるやろし、今後もしかしたら、商売やら何やらの交流もあるかも知れへん。でも今回のコトで死人でも出してたら、相手はどない思うやろ。
いや、こっち側に死人が出てたら、どないや? ロウくんも、今まで一緒に暮らしとった街の誰かが、敵さんらに殺されでもしとったら、どう思う?」
「そりゃブチギレっスよ。絶対許さねーっス」
「せやろ? 向こうにしても同じコトや。こっちが『取引せーへんか』って持ちかけても、向こうは『仲間を殺しておいて何をいけしゃあしゃあと』って、聞く耳持たへんのは目に見えとる。
せやから海からの攻撃はせず、おどかすだけにしたっちゅうワケや。ハンくんにしても、石や矢やのうて煙幕投げつけたワケやし、突破しようとした『熊』さんも殺さず、戦意を削ぐだけに留めとったしな」
「はぁ……、なるほどっス」
「その話は何度も聞いてますが、俺は未だに納得できないですね」
と、シェロが口を挟む。
「そもそも意思の疎通ができないんじゃないスか? 相手にしても、こっちの言葉が理解できてる感じじゃないですし」
「それについては、陛下から案があるとのことだ」
コップに手を伸ばしかけていたハンが、手を止めて応じる。
「そう言う事態に役立つ術があるそうだ。陛下が初めてクロスセントラルを訪れられた際にも、お使いになったらしい」
「へぇ……?」
「恐らくその術を使って、砦に拘置した敵に対し尋問なり何なりを行うつもりだろう。その辺りについては指示を受けていないし、現時点では俺たちの管轄じゃ無い。
それよりもエリザさん、俺が個人的に、一番納得行ってないことがあるんですが」
そう言ってハンは、ロウを指差す。
「そいつを参加させた件です」
「またアンタは。人を指差さんの。『そいつ』呼ばわりもせんの」
エリザは軽くため息をつきつつ、この件についても説明した。
「アンタはアタシが嫌がらせか何かのためにロウくんを引き入れたと思っとるみたいやけども、そんなコトするワケないやん」
「どの口が言うんですか。今まで俺に何度嫌がらせしてきたか、覚えてないんですか?」
「ええ加減にし。アタシはアンタに嫌がらせなんかした覚えは、いっこもあらへん。アンタがどう思たかは置いといてな。
ともかく、ロウくんを参加させたのんには、ちゃんとした理由があるねん。考えてみ、敵さんがあっちこっちおるようなトコに、大勢で忍び込むみたいなコト、アンタするか?」
「しませんね。2名か、3名と言うところでしょう」
「ロウくんは街に住んで長いし、敵さんらと2回も会うてやり合うてる。アンタから見たら考え無しに突っ込むアホにしか見えんやろうけどな、ロウくんは戦闘事に関しては、めっちゃええ勘しとる。こう言う条件であれば、ロウくん1人で十分や。
勝手の知れとる自分の街に忍び込んで、敵さんらに気付かれずにアタシの術を発動させるのんに必要な魔法陣を仕込むくらいのコトは、朝飯前にやってくれはるで」
「む……」
ハンはロウをチラ、と見て、それから渋々と言った様子で、頭を下げた。
「その考えには至りませんでした。浅薄な考えで彼を排除しようとしていたこと、謝罪します」
「ん」
エリザは満足気にうなずき、ロウの肩をぐにぐにと揉んだ。
「ほれ、ハンくん謝ってくれたし、アンタも許したり」
「お、あ、はい」
ロウはエリザに肩をつかまれたまま、ハンにぺこっと頭を下げた。
「まあ、そう言う事情があったからよ、あんまり根に持つなよ」
「……ああ」
ハンは憮然とした表情のまま、エリザを見据えて尋ねた。
「しかし、何故俺にそれを、作戦前に説明しなかったんですか?」
「こうやって実例見せへんと、アンタ『机上の空論ですね』とか『実際に効果が出るか疑問がありますね』とかケチつけて、許可せえへんやろ?」
「ぐっ……」
返答に詰まったらしく、ハンは悔しそうな顔をしてうなる。
「ま、説明はココまでや。もう気になるトコは全部言うたはずやし、早よご飯食べよ」
そう言いながら、エリザはハンの側まですたすたと歩き――。
「ハンくんもええ加減、お酒呑みや」
ずっと卓に置かれたままのコップを取り、ハンに手渡した。
「……ええ」
その後は一人、うつろな目で何事かうめくハンに適当な相槌を打ちつつ、エリザたちは酒宴に興じた。
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一応の納得と和解。
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ハンと違い、エリザは既にこの時点で酒瓶一本を空けているが、いつも通りの飄々(ひょうひょう)とした、それでいて理知的な光を含んだままの口調で、話を続ける。
「コレは作戦を立てる段階から一致しとった、アタシとハンくん、ソレからゼロさんらの総意やねんけどな。今回の作戦では、敵味方双方に死人を出すようなコトはせんようにしよう、ってな。
今回の作戦はバケモノ相手やなく、ヒト相手や。である以上、話し合う余地もあるやろし、今後もしかしたら、商売やら何やらの交流もあるかも知れへん。でも今回のコトで死人でも出してたら、相手はどない思うやろ。
いや、こっち側に死人が出てたら、どないや? ロウくんも、今まで一緒に暮らしとった街の誰かが、敵さんらに殺されでもしとったら、どう思う?」
「そりゃブチギレっスよ。絶対許さねーっス」
「せやろ? 向こうにしても同じコトや。こっちが『取引せーへんか』って持ちかけても、向こうは『仲間を殺しておいて何をいけしゃあしゃあと』って、聞く耳持たへんのは目に見えとる。
せやから海からの攻撃はせず、おどかすだけにしたっちゅうワケや。ハンくんにしても、石や矢やのうて煙幕投げつけたワケやし、突破しようとした『熊』さんも殺さず、戦意を削ぐだけに留めとったしな」
「はぁ……、なるほどっス」
「その話は何度も聞いてますが、俺は未だに納得できないですね」
と、シェロが口を挟む。
「そもそも意思の疎通ができないんじゃないスか? 相手にしても、こっちの言葉が理解できてる感じじゃないですし」
「それについては、陛下から案があるとのことだ」
コップに手を伸ばしかけていたハンが、手を止めて応じる。
「そう言う事態に役立つ術があるそうだ。陛下が初めてクロスセントラルを訪れられた際にも、お使いになったらしい」
「へぇ……?」
「恐らくその術を使って、砦に拘置した敵に対し尋問なり何なりを行うつもりだろう。その辺りについては指示を受けていないし、現時点では俺たちの管轄じゃ無い。
それよりもエリザさん、俺が個人的に、一番納得行ってないことがあるんですが」
そう言ってハンは、ロウを指差す。
「そいつを参加させた件です」
「またアンタは。人を指差さんの。『そいつ』呼ばわりもせんの」
エリザは軽くため息をつきつつ、この件についても説明した。
「アンタはアタシが嫌がらせか何かのためにロウくんを引き入れたと思っとるみたいやけども、そんなコトするワケないやん」
「どの口が言うんですか。今まで俺に何度嫌がらせしてきたか、覚えてないんですか?」
「ええ加減にし。アタシはアンタに嫌がらせなんかした覚えは、いっこもあらへん。アンタがどう思たかは置いといてな。
ともかく、ロウくんを参加させたのんには、ちゃんとした理由があるねん。考えてみ、敵さんがあっちこっちおるようなトコに、大勢で忍び込むみたいなコト、アンタするか?」
「しませんね。2名か、3名と言うところでしょう」
「ロウくんは街に住んで長いし、敵さんらと2回も会うてやり合うてる。アンタから見たら考え無しに突っ込むアホにしか見えんやろうけどな、ロウくんは戦闘事に関しては、めっちゃええ勘しとる。こう言う条件であれば、ロウくん1人で十分や。
勝手の知れとる自分の街に忍び込んで、敵さんらに気付かれずにアタシの術を発動させるのんに必要な魔法陣を仕込むくらいのコトは、朝飯前にやってくれはるで」
「む……」
ハンはロウをチラ、と見て、それから渋々と言った様子で、頭を下げた。
「その考えには至りませんでした。浅薄な考えで彼を排除しようとしていたこと、謝罪します」
「ん」
エリザは満足気にうなずき、ロウの肩をぐにぐにと揉んだ。
「ほれ、ハンくん謝ってくれたし、アンタも許したり」
「お、あ、はい」
ロウはエリザに肩をつかまれたまま、ハンにぺこっと頭を下げた。
「まあ、そう言う事情があったからよ、あんまり根に持つなよ」
「……ああ」
ハンは憮然とした表情のまま、エリザを見据えて尋ねた。
「しかし、何故俺にそれを、作戦前に説明しなかったんですか?」
「こうやって実例見せへんと、アンタ『机上の空論ですね』とか『実際に効果が出るか疑問がありますね』とかケチつけて、許可せえへんやろ?」
「ぐっ……」
返答に詰まったらしく、ハンは悔しそうな顔をしてうなる。
「ま、説明はココまでや。もう気になるトコは全部言うたはずやし、早よご飯食べよ」
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「ハンくんもええ加減、お酒呑みや」
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