「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・奪港伝 7
神様たちの話、第139話。
マリアの好み。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
「……だから、……つまり、……俺としては」
一見するとまだ素面のように見えるが、ハンは杯1杯も飲み干さぬうちに、完全に酔っ払ってしまったらしい。
「……だから、……あれだ、……俺の考えは」
既に何周も同じ話を繰り返しており、直立したままの脚は、かくかくと細かく震えている。
「もうそろそろ潰れますね」
その様子を眺めていたビートが、マリアに耳打ちする。
「だねー」
マリアがうなずくと同時に、ハンは唐突にすとん、と椅子に腰掛け、そのまま上を向き、動かなくなった。
「やっぱり」
「いつも通りですね」
ビートは席を立ち、ハンが手に持ったままの杯を取り、卓に置く。
「つくづく、この人は律儀で几帳面だなぁ。苦手なのにきっちり呑み切ってるし、落とさないようにつかんだまま寝ちゃうし」
「そこが魅力だけどねー」
そう返したマリアに、ビートは一瞬ながら、不安そうな表情を見せる。
「あの、マリアさん」
「んー?」
席に戻り、ビートはマリアに尋ねる。
「マリアさんは、その、尉官のことを、どう思ってるんですか?」
「どうって?」
「その、今、尉官のことを魅力的だと言ってましたが」
「や、魅力的って言うか、うーん」
マリアは片手に持った鶏のもも焼きで、ハンを指し示す。
「面白い人だと思ってるんだけどね、あたしは」
「面白い?」
「だって面白いじゃん。超が付くほどクソ真面目で、何が何でも規則や場の雰囲気を大事にしようとして、結構無茶なことしまくってるし。
今だって、コップそのまま放しちゃえばいいのに、手に持ったまんま。多分、『割ったら街の人に悪い』と思って、持ったまんまにしてるんだよね」
「そこはやはり、尉官らしいところですよね。礼儀正しすぎると言うか。
……って、いや、そこじゃなくてですね。マリアさんが尉官のことを、その、何と言うか、どう思ってるかって言うか、あのー、相手として、いや、そのー……」
「恋愛対象かってこと?」
マリアにそう返され、ビートの顔が一瞬で真っ赤になる。
「そっ、あっ、……ええ、まあ、率直に言ってしまえば、そうです」
「うーん」
マリアはもぐ、ともも焼きにかぶりつきつつ、これも率直に答えた。
「無いねー」
「え、……そうなんですか?」
「タイプじゃないもん。あたしにとってはお兄ちゃんみたいなもんなんだよねー」
「はあ……。そう言えば尉官もそんなこと言ってたような」
「へー」
ほぼ骨だけになったもも焼きを皿に置き、マリアは続いて、ほっけの塩焼きを皿ごと手に取る。
「ま、尉官ならそーだよね。妹さんだらけだし」
マリアは両手で塩焼きをつかみ、豪快にかぶりつく。
「むぐむぐ……、そもそも尉官ってさー、自分から誰かに告白するよーなタイプじゃないし、一生独身なんじゃない?」
「ありえますね」
寝潰れたハンを一瞥し、ビートもうなずく。
「仮に好きな人ができたとしても、『自分の都合で相手の人生を変えてしまうのは』とか何とかうじうじ考えて、結局言い出さないでしょうね」
「うんうん、分かるー」
二言、三言交わす間に塩焼きも平らげ、マリアはきょろきょろと卓を見回す。
「お酒ですか?」
「え、何で分かったの?」
「一緒に食卓を囲んで長いですからね」
そう答えつつ、酒瓶を差し出したビートに、マリアはにこっと笑いかける。
「ありがとー、ビート」
「いえいえ」
「にしてもビート、色々良く気付くよね」
マリアにほめられ、ビートも嬉しそうに笑う。
「恐縮です」
「ビートみたいなのがダンナさんだったら、あたしすごく楽できそう」
「えっ、……えー、楽、ですか」
「うん。家事全部任せるつもりしてるし。あたし、料理以外はさっぱりだし。多分洗濯とか掃除とか全部、押し付けると思う」
「……あ、そうですか」
ビートが一転、意気消沈したところに、マリアは更に追い打ちをかけてきた。
「でもビートはまだ、そーゆー感じに見れないなー。もうちょいかっこ良かったら、いいかもとは思うかもだけど」
「……あ、ども」
ビートはすっかり気落ちしたらしく、その後はうつむいて黙々と、食事に手を付けていた。
琥珀暁・奪港伝 終
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マリアの好み。
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「……だから、……つまり、……俺としては」
一見するとまだ素面のように見えるが、ハンは杯1杯も飲み干さぬうちに、完全に酔っ払ってしまったらしい。
「……だから、……あれだ、……俺の考えは」
既に何周も同じ話を繰り返しており、直立したままの脚は、かくかくと細かく震えている。
「もうそろそろ潰れますね」
その様子を眺めていたビートが、マリアに耳打ちする。
「だねー」
マリアがうなずくと同時に、ハンは唐突にすとん、と椅子に腰掛け、そのまま上を向き、動かなくなった。
「やっぱり」
「いつも通りですね」
ビートは席を立ち、ハンが手に持ったままの杯を取り、卓に置く。
「つくづく、この人は律儀で几帳面だなぁ。苦手なのにきっちり呑み切ってるし、落とさないようにつかんだまま寝ちゃうし」
「そこが魅力だけどねー」
そう返したマリアに、ビートは一瞬ながら、不安そうな表情を見せる。
「あの、マリアさん」
「んー?」
席に戻り、ビートはマリアに尋ねる。
「マリアさんは、その、尉官のことを、どう思ってるんですか?」
「どうって?」
「その、今、尉官のことを魅力的だと言ってましたが」
「や、魅力的って言うか、うーん」
マリアは片手に持った鶏のもも焼きで、ハンを指し示す。
「面白い人だと思ってるんだけどね、あたしは」
「面白い?」
「だって面白いじゃん。超が付くほどクソ真面目で、何が何でも規則や場の雰囲気を大事にしようとして、結構無茶なことしまくってるし。
今だって、コップそのまま放しちゃえばいいのに、手に持ったまんま。多分、『割ったら街の人に悪い』と思って、持ったまんまにしてるんだよね」
「そこはやはり、尉官らしいところですよね。礼儀正しすぎると言うか。
……って、いや、そこじゃなくてですね。マリアさんが尉官のことを、その、何と言うか、どう思ってるかって言うか、あのー、相手として、いや、そのー……」
「恋愛対象かってこと?」
マリアにそう返され、ビートの顔が一瞬で真っ赤になる。
「そっ、あっ、……ええ、まあ、率直に言ってしまえば、そうです」
「うーん」
マリアはもぐ、ともも焼きにかぶりつきつつ、これも率直に答えた。
「無いねー」
「え、……そうなんですか?」
「タイプじゃないもん。あたしにとってはお兄ちゃんみたいなもんなんだよねー」
「はあ……。そう言えば尉官もそんなこと言ってたような」
「へー」
ほぼ骨だけになったもも焼きを皿に置き、マリアは続いて、ほっけの塩焼きを皿ごと手に取る。
「ま、尉官ならそーだよね。妹さんだらけだし」
マリアは両手で塩焼きをつかみ、豪快にかぶりつく。
「むぐむぐ……、そもそも尉官ってさー、自分から誰かに告白するよーなタイプじゃないし、一生独身なんじゃない?」
「ありえますね」
寝潰れたハンを一瞥し、ビートもうなずく。
「仮に好きな人ができたとしても、『自分の都合で相手の人生を変えてしまうのは』とか何とかうじうじ考えて、結局言い出さないでしょうね」
「うんうん、分かるー」
二言、三言交わす間に塩焼きも平らげ、マリアはきょろきょろと卓を見回す。
「お酒ですか?」
「え、何で分かったの?」
「一緒に食卓を囲んで長いですからね」
そう答えつつ、酒瓶を差し出したビートに、マリアはにこっと笑いかける。
「ありがとー、ビート」
「いえいえ」
「にしてもビート、色々良く気付くよね」
マリアにほめられ、ビートも嬉しそうに笑う。
「恐縮です」
「ビートみたいなのがダンナさんだったら、あたしすごく楽できそう」
「えっ、……えー、楽、ですか」
「うん。家事全部任せるつもりしてるし。あたし、料理以外はさっぱりだし。多分洗濯とか掃除とか全部、押し付けると思う」
「……あ、そうですか」
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