「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・北報伝 1
神様たちの話、第140話。
警護任務の拝命。
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1.
ノースポート奪還作戦が終了し、クロスセントラルに戻ったところで、シモン班は再びゼロの御前に召集されていた。
「ご苦労だった、皆。とてもいい仕事をしてくれたと聞いてる。ありがとう」
前回と同じように、ゼロは鷹揚な態度でハンたちを出迎えてくれた。
「痛み入ります」
そしてハンも、前回と同じく慇懃(いんぎん)に敬礼して返す。
ハンが頭を上げたところで、ゼロが話を切り出してきた。
「早速で悪いけれど、次の任務について話をしたいんだ。いや、そんなに手間取らせるようなことじゃない。ごく簡単なことなんだ」
「と仰いますと……?」
尋ねたハンに、ゼロは申し訳無さそうな笑みを浮かべる。
「ノースポート古砦への警護任務だ。と言ってもクーのだけど」
「クラム皇女殿下の、ですか」
「あら、よそよそしいお言葉ですこと」
謁見の間に声が飛び、続いて本人が姿を現す。
「以前のようにクーとお呼び下さいませ」
「ご機嫌麗しゅうございます、クー殿下」
そう返したハンに、クーはぷくっとほおをふくらませる。
「敬称は結構です。クーだけでよろしいですわ。……コホン、本題に参りましょう。
あなた方の働きにより、現在ノースポート近隣の古砦に身元不明の敵性勢力が53名、勾留されております。
ですが現時点では彼らについて、所属も、目的も、まったく不明。彼らと意思疎通を図り、情報を聞き出さない限り、事態の進展は望めないでしょう」
「そこで私からクーに翻訳術を伝え、彼らと話をしてもらおうと考えている。君たちはクーを護衛してもらいたい」
ゼロから命令を受け、ハンは素直に敬礼して従う。
「拝命いたしました。出発はいつでしょうか」
「流石に帰ってすぐに、と言うのは忍びない。だから今回も3日、休暇を取ってからにしてもらうよ」
シモン班が謁見の間を出たところで、すぐにクーも追いついてきた。
「お待ち下さいませ」
「何です、……何だ、クー」
「あら、お勉強なさいましたわね。以降はそれで構いませんわよ。お父様の前でも」
「それは角が立つだろう。いくら陛下がいいと仰っても」
「訂正。まだまだ勉強不足ですわね」
そう言って、クーはハンの腕を取り、ぎゅっと抱きついてくる。
「何だよ」
「文句は無しでお願いいたしますわ。ともかく、今回の休暇にもわたくし、追従させていただきますから」
「勘弁してくれ」
ハンはうんざりした顔で、クーをはねつけようとする。
「前回もそうやって結局、俺の家に2泊しただろうが。正直、親父も俺も辟易してたんだ」
一方のクーも、ハンの腕にしがみついたまま、離れようとしない。
「では今回は、より親密になれるようっ、精一杯、努力いたしますわっ」
「そんな努力はしなくていい。離れてくれ」
「離れま、せんわ、よっ」
突っ張り合う両者を眺めていたマリアが、たまらず吹き出した。
「ぷ……、ふ、ふふ、あははっ」
「何がおかしい」
「おかしいですってば。いいじゃないですか、クーちゃんと一緒に遊びに行っても」
「よくない」
「尉官が気にするほど、周りは気にしてないですよ。お似合いのカップルです」
「なっ」
ハンが愕然とした顔をする一方で、クーは心底うれしそうに笑みを浮かべている。
「感謝いたしますわ、マリア」
「どーもー」
「と言うわけです、ハン。観念して、わたくしを家にお連れなさい」
「……」
ハンはげんなりした顔をして、かくんとうなずいた。
「分かったよ。家でもどこでも、勝手に付いてくればいい」
「ええ、そういたします。
ああ、そうそう。良ければマリアたちも、一緒に如何かしら?」
クーがそう提案したところで、再びハンが彼女を引き剥がそうとする。
「待て、何でそうなる」
「よろしいでしょう? あなた、一度も部下の皆さんをっ、家に招いたことが、無いのでしょう? いい機会だと、思いますけれどっ」
再度しがみつくクーを押し除けながら、ハンは抵抗する。
「俺は思わない」
「いつもあなた、そんなだからっ、部下の方から冷たい方だって、思われるんですのよっ」
「だから何だ? 俺はそう言う人間なんだ」
「いいえ、あなたのそれは、口先だけですわっ」
前にも増してぎゅうぎゅうとしがみつきながら、クーは説得を続ける。
「本当のあなたは、もっと温かみの、ある方ですのよっ。それを皆さんに、分かっていただかないとっ」
「んー」
マリアが苦笑しつつ、声をかけた。
「知ってるけどね、あたしもビートも、多分シェロも」
「……っ」
短く、ハンが何事かをうめくが、マリアはこう続ける。
「少なくともあたしは尉官がいい人だってこと、知ってます。あと、いっぺんお家にお邪魔してみたいなーとも。
と言うわけで参加しまーす」
そう言いつつ、マリアもハンの腕に抱きつく。
「二人とも行くよね?」
「えっ」
マリアに問われ、ビートは戸惑った顔をしつつも、うなずいて返す。
「あ、はい、行きます」
だが一方で、シェロは即座に断ってきた。
「俺は遠慮しときます。用ありますんで」
「……」
マリアが軽くにらんでいたが、シェロは何も言わず、そのまま背を向けて歩き去ってしまった。
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警護任務の拝命。
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ノースポート奪還作戦が終了し、クロスセントラルに戻ったところで、シモン班は再びゼロの御前に召集されていた。
「ご苦労だった、皆。とてもいい仕事をしてくれたと聞いてる。ありがとう」
前回と同じように、ゼロは鷹揚な態度でハンたちを出迎えてくれた。
「痛み入ります」
そしてハンも、前回と同じく慇懃(いんぎん)に敬礼して返す。
ハンが頭を上げたところで、ゼロが話を切り出してきた。
「早速で悪いけれど、次の任務について話をしたいんだ。いや、そんなに手間取らせるようなことじゃない。ごく簡単なことなんだ」
「と仰いますと……?」
尋ねたハンに、ゼロは申し訳無さそうな笑みを浮かべる。
「ノースポート古砦への警護任務だ。と言ってもクーのだけど」
「クラム皇女殿下の、ですか」
「あら、よそよそしいお言葉ですこと」
謁見の間に声が飛び、続いて本人が姿を現す。
「以前のようにクーとお呼び下さいませ」
「ご機嫌麗しゅうございます、クー殿下」
そう返したハンに、クーはぷくっとほおをふくらませる。
「敬称は結構です。クーだけでよろしいですわ。……コホン、本題に参りましょう。
あなた方の働きにより、現在ノースポート近隣の古砦に身元不明の敵性勢力が53名、勾留されております。
ですが現時点では彼らについて、所属も、目的も、まったく不明。彼らと意思疎通を図り、情報を聞き出さない限り、事態の進展は望めないでしょう」
「そこで私からクーに翻訳術を伝え、彼らと話をしてもらおうと考えている。君たちはクーを護衛してもらいたい」
ゼロから命令を受け、ハンは素直に敬礼して従う。
「拝命いたしました。出発はいつでしょうか」
「流石に帰ってすぐに、と言うのは忍びない。だから今回も3日、休暇を取ってからにしてもらうよ」
シモン班が謁見の間を出たところで、すぐにクーも追いついてきた。
「お待ち下さいませ」
「何です、……何だ、クー」
「あら、お勉強なさいましたわね。以降はそれで構いませんわよ。お父様の前でも」
「それは角が立つだろう。いくら陛下がいいと仰っても」
「訂正。まだまだ勉強不足ですわね」
そう言って、クーはハンの腕を取り、ぎゅっと抱きついてくる。
「何だよ」
「文句は無しでお願いいたしますわ。ともかく、今回の休暇にもわたくし、追従させていただきますから」
「勘弁してくれ」
ハンはうんざりした顔で、クーをはねつけようとする。
「前回もそうやって結局、俺の家に2泊しただろうが。正直、親父も俺も辟易してたんだ」
一方のクーも、ハンの腕にしがみついたまま、離れようとしない。
「では今回は、より親密になれるようっ、精一杯、努力いたしますわっ」
「そんな努力はしなくていい。離れてくれ」
「離れま、せんわ、よっ」
突っ張り合う両者を眺めていたマリアが、たまらず吹き出した。
「ぷ……、ふ、ふふ、あははっ」
「何がおかしい」
「おかしいですってば。いいじゃないですか、クーちゃんと一緒に遊びに行っても」
「よくない」
「尉官が気にするほど、周りは気にしてないですよ。お似合いのカップルです」
「なっ」
ハンが愕然とした顔をする一方で、クーは心底うれしそうに笑みを浮かべている。
「感謝いたしますわ、マリア」
「どーもー」
「と言うわけです、ハン。観念して、わたくしを家にお連れなさい」
「……」
ハンはげんなりした顔をして、かくんとうなずいた。
「分かったよ。家でもどこでも、勝手に付いてくればいい」
「ええ、そういたします。
ああ、そうそう。良ければマリアたちも、一緒に如何かしら?」
クーがそう提案したところで、再びハンが彼女を引き剥がそうとする。
「待て、何でそうなる」
「よろしいでしょう? あなた、一度も部下の皆さんをっ、家に招いたことが、無いのでしょう? いい機会だと、思いますけれどっ」
再度しがみつくクーを押し除けながら、ハンは抵抗する。
「俺は思わない」
「いつもあなた、そんなだからっ、部下の方から冷たい方だって、思われるんですのよっ」
「だから何だ? 俺はそう言う人間なんだ」
「いいえ、あなたのそれは、口先だけですわっ」
前にも増してぎゅうぎゅうとしがみつきながら、クーは説得を続ける。
「本当のあなたは、もっと温かみの、ある方ですのよっ。それを皆さんに、分かっていただかないとっ」
「んー」
マリアが苦笑しつつ、声をかけた。
「知ってるけどね、あたしもビートも、多分シェロも」
「……っ」
短く、ハンが何事かをうめくが、マリアはこう続ける。
「少なくともあたしは尉官がいい人だってこと、知ってます。あと、いっぺんお家にお邪魔してみたいなーとも。
と言うわけで参加しまーす」
そう言いつつ、マリアもハンの腕に抱きつく。
「二人とも行くよね?」
「えっ」
マリアに問われ、ビートは戸惑った顔をしつつも、うなずいて返す。
「あ、はい、行きます」
だが一方で、シェロは即座に断ってきた。
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「……」
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