「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・北報伝 3
神様たちの話、第142話。
4人と、1人。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
と、マリアの様子を目で追っていたビートがおずおずと手を挙げ、ゲートに尋ねる。
「あの、閣下」
「ん、何だ?」
「閣下はマリアさんと、面識があるんですか?
いえ、マリアさんが誰にでも親しげと言うか、馴れ馴れしいのはいつも通りですが、閣下もマリアさんのことを、元々から存じているように感じられたので」
「ああ、付き合いは2年前からだな」
ゲートはうなずきつつ、マリアに確認する。
「初めに会ったのって、『バケ対』解体した時だよな」
「そーですね」
「ばけ……? って?」
ビートが尋ね返し、それにハンが答える。
「2年前まで、強力なバケモノが現れた時のために組織されてた部隊があったんだ。強力な魔術が使える奴だとか、ずば抜けた身体能力を持ってる奴だとかを集めて、精鋭部隊にしようって言うのがな。
ただ、親父を始めとして、『もうバケモノが出なくなって何年も経つし、存続させる意義が無い。それにこれ以上、有能な人間を一処に留めておくのは勿体無い』って意見が出て、それで解散したんだ」
「で、あたしの手が空いたから、シモン閣下から『俺の息子が班員探してるから』ってことで、尉官のトコを紹介してくれたってわけ。
でも本当、助かりましたよー。尉官、すごく優しくしてくれましたし、ビートもシェロも有能だから、この2年、とっても楽できました」
「いや、マリアさんだってすごいですよ。ものすごく身軽で、高いところでの設営とかひょいっと登ってもらって、僕らも助かりました」
「くっく……」
二人のやり取りを眺めていたゲートが、楽しそうに笑い出す。
「なんだなんだ、仲いいなぁお前ら」
「そりゃ2年も一緒に仕事してますからねー」
マリアはニコニコ笑いながら、ハンの背中を平手でぺちぺちと叩く。
「でも尉官、休みの時あんまり、あたしたちと遊びに行かないんですよねー。あたしたちとご飯食べに行ったり、買い物行ったりって、滅多にしたこと無いんですよ」
「ああ、こいつはそう言う奴だ」
ゲートがしれっとそう返したのを皮切りに、シモン家の皆も異口同音に同意する。
「私もテレサも、ほとんど遊びに連れてってくれないし」
「うんうん。結構お金もらってるはずなのに、服とかおもちゃとか買ってくれないし」
「家にはお金入れてるけど、本当にそれだけだし。この子、家のことは全然、手伝わないのよね。お父さんなんか一緒に料理も洗い物も、洗濯もしてくれるのにねぇ」
母親、メノーにまで突っ込まれ、ハンはうざったそうに目を閉じ、黙り込んでしまう。
「あら? 尉官、拗ねちゃいました?」
「……」
マリアに追い打ちをかけられたが、ハンは答えなかった。
「1、2、3、4……」
夜の修練場で、シェロは一人、剣を振るっていた。
(あー……っ、バッカみてえ)
悶々としたまま素振りしたり、懸垂や走り込みを繰り返したりするが、気持ちは一向に晴れてこない。
(今頃、尉官の家でわーわー騒いでる頃か、皆)
足元には汗が水たまりを作っており、一挙動ごとにぐじゅ、ぐじゅっと濡れた足音が響く。
(で、俺は一人寂しく鍛錬してるってか。……けっ)
やがて苛立ちが頂点に達し、シェロは振るっていた剣をブン、と投げ捨てた。
「何やってんだかなぁ、本当に俺、なぁ?」
半ばわめき声に近い一人言を吐いたが、それを聞く者は誰もいない。
(そりゃあさ、俺は17、アイツは20で、そもそも鍛錬の量が違う。そんなことは分かってる。だけど量の問題なら、努力で埋めればいいってだけだ。
でも――ノースポートの作戦で見せた、アイツの剣技。アレは力量がどうのこうのって問題じゃない。天性の才能と言うしか無い。
このまま10年素振りしたって、俺はアイツに、絶対追いつけない)
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4人と、1人。
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3.
と、マリアの様子を目で追っていたビートがおずおずと手を挙げ、ゲートに尋ねる。
「あの、閣下」
「ん、何だ?」
「閣下はマリアさんと、面識があるんですか?
いえ、マリアさんが誰にでも親しげと言うか、馴れ馴れしいのはいつも通りですが、閣下もマリアさんのことを、元々から存じているように感じられたので」
「ああ、付き合いは2年前からだな」
ゲートはうなずきつつ、マリアに確認する。
「初めに会ったのって、『バケ対』解体した時だよな」
「そーですね」
「ばけ……? って?」
ビートが尋ね返し、それにハンが答える。
「2年前まで、強力なバケモノが現れた時のために組織されてた部隊があったんだ。強力な魔術が使える奴だとか、ずば抜けた身体能力を持ってる奴だとかを集めて、精鋭部隊にしようって言うのがな。
ただ、親父を始めとして、『もうバケモノが出なくなって何年も経つし、存続させる意義が無い。それにこれ以上、有能な人間を一処に留めておくのは勿体無い』って意見が出て、それで解散したんだ」
「で、あたしの手が空いたから、シモン閣下から『俺の息子が班員探してるから』ってことで、尉官のトコを紹介してくれたってわけ。
でも本当、助かりましたよー。尉官、すごく優しくしてくれましたし、ビートもシェロも有能だから、この2年、とっても楽できました」
「いや、マリアさんだってすごいですよ。ものすごく身軽で、高いところでの設営とかひょいっと登ってもらって、僕らも助かりました」
「くっく……」
二人のやり取りを眺めていたゲートが、楽しそうに笑い出す。
「なんだなんだ、仲いいなぁお前ら」
「そりゃ2年も一緒に仕事してますからねー」
マリアはニコニコ笑いながら、ハンの背中を平手でぺちぺちと叩く。
「でも尉官、休みの時あんまり、あたしたちと遊びに行かないんですよねー。あたしたちとご飯食べに行ったり、買い物行ったりって、滅多にしたこと無いんですよ」
「ああ、こいつはそう言う奴だ」
ゲートがしれっとそう返したのを皮切りに、シモン家の皆も異口同音に同意する。
「私もテレサも、ほとんど遊びに連れてってくれないし」
「うんうん。結構お金もらってるはずなのに、服とかおもちゃとか買ってくれないし」
「家にはお金入れてるけど、本当にそれだけだし。この子、家のことは全然、手伝わないのよね。お父さんなんか一緒に料理も洗い物も、洗濯もしてくれるのにねぇ」
母親、メノーにまで突っ込まれ、ハンはうざったそうに目を閉じ、黙り込んでしまう。
「あら? 尉官、拗ねちゃいました?」
「……」
マリアに追い打ちをかけられたが、ハンは答えなかった。
「1、2、3、4……」
夜の修練場で、シェロは一人、剣を振るっていた。
(あー……っ、バッカみてえ)
悶々としたまま素振りしたり、懸垂や走り込みを繰り返したりするが、気持ちは一向に晴れてこない。
(今頃、尉官の家でわーわー騒いでる頃か、皆)
足元には汗が水たまりを作っており、一挙動ごとにぐじゅ、ぐじゅっと濡れた足音が響く。
(で、俺は一人寂しく鍛錬してるってか。……けっ)
やがて苛立ちが頂点に達し、シェロは振るっていた剣をブン、と投げ捨てた。
「何やってんだかなぁ、本当に俺、なぁ?」
半ばわめき声に近い一人言を吐いたが、それを聞く者は誰もいない。
(そりゃあさ、俺は17、アイツは20で、そもそも鍛錬の量が違う。そんなことは分かってる。だけど量の問題なら、努力で埋めればいいってだけだ。
でも――ノースポートの作戦で見せた、アイツの剣技。アレは力量がどうのこうのって問題じゃない。天性の才能と言うしか無い。
このまま10年素振りしたって、俺はアイツに、絶対追いつけない)
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