「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・北報伝 4
神様たちの話、第143話。
文明の邂逅。
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4.
休暇を終えたシモン班は、クーを伴って再び、ノースポート古砦を訪れた。
「現在、この砦にはノースポートの街を不当に占拠した人間が53名、勾留されている。
言うまでもなく、街の人間に危害を及ぼし、多大な迷惑を掛けていると言う事実については厳然と調査・判断し、相応の処分を下すべきことだが、その前に我々が確認すべきことがある。
彼らは一体、どこの何者なのか? この地を占拠したのには、どんな目的があったのか? その点が明らかにされなければ、今後の対応が何も立てられない。もしまた、同様の事件が起きた場合、また同じように何ヶ月も手をこまねく羽目になるかも知れないし、そう言ったことが起きないとしても、彼らの存在は我々にとって脅威であり、不気味極まりないと評する者もある。
何しろ山の『こっち側』にも『向こう側』にも、あんな耳と尻尾の人間はいないんだからな」
ハンの堅い説明に対し、マリアたちはのほほんとした調子で会話している。
「あの人たち、やっぱり肉食なんでしょうかねー? 見た目的に」
「どうでしょう? 熊って雑食ってイメージがありますけど」
「虎はガチの肉食らしいスけどね」
さらにはクーまでもが、その輪に入ってくる。
「でもノースポートだと、お魚ばかりでしょう? 虎同様に陸の獣肉しか食べつけないとしたら、辟易されてらしたのではないかしら」
「お前たち。そしてクー」
ハンは苦い顔をし、全員をたしなめる。
「友人に会いに行くわけじゃないんだ。檻の中にいる奴らが相手とは言え、気を引き締めてかかってくれ」
「あ、はい」
一行は武装した兵士たちがあちこちで構える厳戒態勢の中を進み、彼らが収監されている牢の前に到着した。
「お待ちしておりました、シモン尉官、クラム殿下」
牢の前で槍や魔杖を抱えていた兵士たちがハンたちに向き直り、一斉に敬礼する。
「会話が成立しないため、今もって彼らとは身振り手振りでの、簡単な意思疎通が精一杯です。本当に彼らから、情報を聞き出すことができるのでしょうか」
尋ねた兵士に、クーがにこりと微笑む。
「ええ。かつて父上がこの地に降臨した時、魔術を用いて会話を成立させていたそうです。
ですのでわたくしも、同じように」
そう言ってクーは、ぼそ、と呪文を唱える。
「『トランスレーション』。……わたくしの申していることが分かるかしら?」
ハンを含む周囲の人間には、彼女が普通にしゃべっているようにしか感じられなかったが、どうやら檻の中にいる勾留者たちにも、彼女の言葉が理解できたらしい。
「**!?」
中の一人が、驚いた顔をして近寄ってきたからだ。
「わたくしの名前はクラム。あなたのお名前を、お聞かせ願えるかしら」
「****」
依然としてその虎獣人の言っていることは、ハンたちには分からなかったが、クーは平然と応答している。
「ラズロフさんと仰るのね。あなたたちは一体、どこからいらしたのかしら」
「*******」
「船を使って?」
「***」
「海を渡って来られたと仰いましたが、西の方からかしら」
「**、***********」
「では、あなた方の故郷は北の方にある、と考えてよろしいのでしょうか」
「****」
虎獣人がうなずいたところで、ハンがクーに声をかける。
「クー、こいつらはどこから来たって?」
「皆様は『海を南に下って航海してきた』と。
どうやら、ずっと北の方に住まわれているようですわね」
その後も虎獣人のラズロフとクーは会話を交わし、ハンたちは以下の情報を得ることができた。
まず、彼らは1年近くかけて、ノースポート北北東に広がる海を渡ってきたこと。また、海の途中には島が5つあり、航海生活の大半をその島で過ごしてきたこと。さらにその理由は、「海が凍りついてしまい、船が動かなかったのだ」と言うこと。
そして彼らの故郷は、雪と氷に閉ざされた厳しい土地であり、住まう人々は常に寒さと飢えに苦しむ生活を送っていること。故に新天地を求めるべく、彼らの指導者から航海を命じられたことが分かった。
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文明の邂逅。
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4.
休暇を終えたシモン班は、クーを伴って再び、ノースポート古砦を訪れた。
「現在、この砦にはノースポートの街を不当に占拠した人間が53名、勾留されている。
言うまでもなく、街の人間に危害を及ぼし、多大な迷惑を掛けていると言う事実については厳然と調査・判断し、相応の処分を下すべきことだが、その前に我々が確認すべきことがある。
彼らは一体、どこの何者なのか? この地を占拠したのには、どんな目的があったのか? その点が明らかにされなければ、今後の対応が何も立てられない。もしまた、同様の事件が起きた場合、また同じように何ヶ月も手をこまねく羽目になるかも知れないし、そう言ったことが起きないとしても、彼らの存在は我々にとって脅威であり、不気味極まりないと評する者もある。
何しろ山の『こっち側』にも『向こう側』にも、あんな耳と尻尾の人間はいないんだからな」
ハンの堅い説明に対し、マリアたちはのほほんとした調子で会話している。
「あの人たち、やっぱり肉食なんでしょうかねー? 見た目的に」
「どうでしょう? 熊って雑食ってイメージがありますけど」
「虎はガチの肉食らしいスけどね」
さらにはクーまでもが、その輪に入ってくる。
「でもノースポートだと、お魚ばかりでしょう? 虎同様に陸の獣肉しか食べつけないとしたら、辟易されてらしたのではないかしら」
「お前たち。そしてクー」
ハンは苦い顔をし、全員をたしなめる。
「友人に会いに行くわけじゃないんだ。檻の中にいる奴らが相手とは言え、気を引き締めてかかってくれ」
「あ、はい」
一行は武装した兵士たちがあちこちで構える厳戒態勢の中を進み、彼らが収監されている牢の前に到着した。
「お待ちしておりました、シモン尉官、クラム殿下」
牢の前で槍や魔杖を抱えていた兵士たちがハンたちに向き直り、一斉に敬礼する。
「会話が成立しないため、今もって彼らとは身振り手振りでの、簡単な意思疎通が精一杯です。本当に彼らから、情報を聞き出すことができるのでしょうか」
尋ねた兵士に、クーがにこりと微笑む。
「ええ。かつて父上がこの地に降臨した時、魔術を用いて会話を成立させていたそうです。
ですのでわたくしも、同じように」
そう言ってクーは、ぼそ、と呪文を唱える。
「『トランスレーション』。……わたくしの申していることが分かるかしら?」
ハンを含む周囲の人間には、彼女が普通にしゃべっているようにしか感じられなかったが、どうやら檻の中にいる勾留者たちにも、彼女の言葉が理解できたらしい。
「**!?」
中の一人が、驚いた顔をして近寄ってきたからだ。
「わたくしの名前はクラム。あなたのお名前を、お聞かせ願えるかしら」
「****」
依然としてその虎獣人の言っていることは、ハンたちには分からなかったが、クーは平然と応答している。
「ラズロフさんと仰るのね。あなたたちは一体、どこからいらしたのかしら」
「*******」
「船を使って?」
「***」
「海を渡って来られたと仰いましたが、西の方からかしら」
「**、***********」
「では、あなた方の故郷は北の方にある、と考えてよろしいのでしょうか」
「****」
虎獣人がうなずいたところで、ハンがクーに声をかける。
「クー、こいつらはどこから来たって?」
「皆様は『海を南に下って航海してきた』と。
どうやら、ずっと北の方に住まわれているようですわね」
その後も虎獣人のラズロフとクーは会話を交わし、ハンたちは以下の情報を得ることができた。
まず、彼らは1年近くかけて、ノースポート北北東に広がる海を渡ってきたこと。また、海の途中には島が5つあり、航海生活の大半をその島で過ごしてきたこと。さらにその理由は、「海が凍りついてしまい、船が動かなかったのだ」と言うこと。
そして彼らの故郷は、雪と氷に閉ざされた厳しい土地であり、住まう人々は常に寒さと飢えに苦しむ生活を送っていること。故に新天地を求めるべく、彼らの指導者から航海を命じられたことが分かった。
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