「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・北報伝 6
神様たちの話、第145話。
新たな任務へ。
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6.
シモン班とクーは三度、ノースポート古砦に戻っていた。
「こんにちは。わたしの、名前は、エルゴです」
「こんに……つぃ……は、わたし……の……」
勾留中の彼らにクーが率先して会話教育を施し、どうにかゼロ側兵士たちとの会話ができるようになっていた。
一方でクーも、彼らから言葉を教わっており――。
「(では今日は、ここまでにいたしましょう)」
「(ありがとう、殿下。明日もよろしく頼む)」
彼らより幾分流暢に異国語での会話を交わし、クーはにこりと会釈して、牢の前から離れた。
「お疲れ様です、クーさん」
「お疲れっス」
と、クーの前にビートとシェロが現れる。
「あら、ごきげんよう」
「今日もお話っスか?」
「ええ。皆様、随分お上手になりましたわよ」
「ソレなんスけど」
シェロはけげんな顔で尋ねる。
「クーさん、翻訳術? でしたっけ、ソレ使えるのに、何でわざわざ向こうの言葉覚えたり、こっちの言葉覚えさせたりするんスか?」
「あら。あなた、『トランスレーション』を使えまして?」
「いや、俺は魔術、全然っスけど」
「であれば、普通に会話する術を身に付けられた方が早いでしょう。魔術は適性がございますけれど、言葉は努力と訓練で身に付けられますもの」
「え? いや、俺が覚えたって……」
反論しかけたシェロに、クーがこう続ける。
「あなた方も恐らく、そう遠くないうちに『向こう側』へ赴くことになるでしょう。準備は怠らないようになさって下さいまし」
「お、俺たちが……?」
「今のところはまだ、そう言う話が出てる、って段階だけどな」
ハンが姿を現し、会話に加わる。
「だから今日、明日すぐに辞令が下る、ってことは無いし、そもそも俺たちの役目じゃないかも知れない。
とは言え、可能性が一番高いってのは確かだ。何しろ俺たちは……」
「僕たち、ジーン軍と一番近くで交流してますもんね」
ビートの言葉に「そう言うことだ」と返し、ハンは話を続ける。
「クーの言う通り、今のうちに準備を進めておいた方がいい。俺も今、クーやジーン軍の奴らから学んでるところだ」
「へぇ……」
ビートが感心したような声を上げる一方で、シェロはうんざりしたような顔を見せる。
「勘弁してほしいっスね、マジで。今だって訓練で精一杯なのに、まだ頑張ることが増えるかと思うと」
「仕方無いさ。正直、俺だって頭が痛い」
そうこぼしたハンに、クーがニヤニヤと笑って返す。
「あなたがもし、満足に会話できなくとも、わたくしが側にいれば、通訳して差し上げますわよ? 今回ばかりは、わたくしの随行は不可避でございますものね」
「ああ、念を押さなくても分かってる。
言葉の通じない異邦の地で、翻訳術が使える人間がいなきゃ、困るのは目に見えてる。加えて相応の地位にある人間が出向かなきゃ、交渉なんてできるはずも無い。
何度も話し合って出た結論なんだ。今更拒否なんかしないさ」
「それは結構。ご理解いただけて何よりですわ」
満面の笑みを浮かべるクーに対し、ハンは肩をすくめ、そして「ああ、そうそう」と続けた。
「その遠征任務だが、もしかしたらまた、エリザさんが出張って来るかも知れん」
「と申しますと?」
半分驚いたような、そして半分うざったそうな表情を浮かべたクーに、ハンも諦め気味の口調で説明する。
「『異邦で対話やら交渉やらするんやったら、アタシが適任やろ』だとさ。陛下も親父も同意見だったし、十中八九、あの人は来るよ」
「そうなれば、間違い無く遠征隊の隊長はハンになるでしょうね。あの方のお目付け役になれるのは、あなたしかおりませんもの」
「だろうな。……となると多分、ロウのおっさんも付いて来るだろうな。
あいつ何だかんだで、あれからずっとエリザさんの護衛を続けてるらしいから」
「まあ、騒々しくなりそうですこと」
「まったくだ」
そう言って、ハンとクーは笑い合った。
そして大方の予想通り――ゼロは600人を超える兵士を、北方にあると言う大陸への遠征隊として組織し、その隊長にハンを任命。同時に副隊長として、エリザを招聘した。
ハンの更なる活躍と、そしてエリザの更なる覇業の舞台は新天地、北方大陸へと移っていく。
琥珀暁・北報伝 終
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シモン班とクーは三度、ノースポート古砦に戻っていた。
「こんにちは。わたしの、名前は、エルゴです」
「こんに……つぃ……は、わたし……の……」
勾留中の彼らにクーが率先して会話教育を施し、どうにかゼロ側兵士たちとの会話ができるようになっていた。
一方でクーも、彼らから言葉を教わっており――。
「(では今日は、ここまでにいたしましょう)」
「(ありがとう、殿下。明日もよろしく頼む)」
彼らより幾分流暢に異国語での会話を交わし、クーはにこりと会釈して、牢の前から離れた。
「お疲れ様です、クーさん」
「お疲れっス」
と、クーの前にビートとシェロが現れる。
「あら、ごきげんよう」
「今日もお話っスか?」
「ええ。皆様、随分お上手になりましたわよ」
「ソレなんスけど」
シェロはけげんな顔で尋ねる。
「クーさん、翻訳術? でしたっけ、ソレ使えるのに、何でわざわざ向こうの言葉覚えたり、こっちの言葉覚えさせたりするんスか?」
「あら。あなた、『トランスレーション』を使えまして?」
「いや、俺は魔術、全然っスけど」
「であれば、普通に会話する術を身に付けられた方が早いでしょう。魔術は適性がございますけれど、言葉は努力と訓練で身に付けられますもの」
「え? いや、俺が覚えたって……」
反論しかけたシェロに、クーがこう続ける。
「あなた方も恐らく、そう遠くないうちに『向こう側』へ赴くことになるでしょう。準備は怠らないようになさって下さいまし」
「お、俺たちが……?」
「今のところはまだ、そう言う話が出てる、って段階だけどな」
ハンが姿を現し、会話に加わる。
「だから今日、明日すぐに辞令が下る、ってことは無いし、そもそも俺たちの役目じゃないかも知れない。
とは言え、可能性が一番高いってのは確かだ。何しろ俺たちは……」
「僕たち、ジーン軍と一番近くで交流してますもんね」
ビートの言葉に「そう言うことだ」と返し、ハンは話を続ける。
「クーの言う通り、今のうちに準備を進めておいた方がいい。俺も今、クーやジーン軍の奴らから学んでるところだ」
「へぇ……」
ビートが感心したような声を上げる一方で、シェロはうんざりしたような顔を見せる。
「勘弁してほしいっスね、マジで。今だって訓練で精一杯なのに、まだ頑張ることが増えるかと思うと」
「仕方無いさ。正直、俺だって頭が痛い」
そうこぼしたハンに、クーがニヤニヤと笑って返す。
「あなたがもし、満足に会話できなくとも、わたくしが側にいれば、通訳して差し上げますわよ? 今回ばかりは、わたくしの随行は不可避でございますものね」
「ああ、念を押さなくても分かってる。
言葉の通じない異邦の地で、翻訳術が使える人間がいなきゃ、困るのは目に見えてる。加えて相応の地位にある人間が出向かなきゃ、交渉なんてできるはずも無い。
何度も話し合って出た結論なんだ。今更拒否なんかしないさ」
「それは結構。ご理解いただけて何よりですわ」
満面の笑みを浮かべるクーに対し、ハンは肩をすくめ、そして「ああ、そうそう」と続けた。
「その遠征任務だが、もしかしたらまた、エリザさんが出張って来るかも知れん」
「と申しますと?」
半分驚いたような、そして半分うざったそうな表情を浮かべたクーに、ハンも諦め気味の口調で説明する。
「『異邦で対話やら交渉やらするんやったら、アタシが適任やろ』だとさ。陛下も親父も同意見だったし、十中八九、あの人は来るよ」
「そうなれば、間違い無く遠征隊の隊長はハンになるでしょうね。あの方のお目付け役になれるのは、あなたしかおりませんもの」
「だろうな。……となると多分、ロウのおっさんも付いて来るだろうな。
あいつ何だかんだで、あれからずっとエリザさんの護衛を続けてるらしいから」
「まあ、騒々しくなりそうですこと」
「まったくだ」
そう言って、ハンとクーは笑い合った。
そして大方の予想通り――ゼロは600人を超える兵士を、北方にあると言う大陸への遠征隊として組織し、その隊長にハンを任命。同時に副隊長として、エリザを招聘した。
ハンの更なる活躍と、そしてエリザの更なる覇業の舞台は新天地、北方大陸へと移っていく。
琥珀暁・北報伝 終
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「琥珀暁」第3部、これにて終了です。
何度か話しましたが、10年前に「双月千年世界」の元となる小説を書いていました。
その出発点はここ、今「琥珀暁」として書いている部分からでした。
その元小説でも既にエリザさんは八面六臂の活躍をしていましたが、
「琥珀暁」としてリライトして以降、さらに暴走し始めました。
現在執筆中の第4部においても、かなり早々にやらかしてきています。
彼女があまりにメチャクチャしまくってるので、何度か書き直してる始末。
手綱を握るハンがちょっと可哀想になってきています……。
個人報告。
今年の2月にまた転職しましたが、10年以上京都・大阪のあっちこっちで働いてきた中で、一番いい環境です。
他の人は夜勤を忌避するかも知れませんが、夜行性の僕は、嬉々として働いています。
よほど水が合うのか、創作意欲がどんどん湧いてきています。
もしかしたらかなり早い内に、第4部をお目見えできるかも知れません。
いや、その前にDW10書かなきゃいけないか……。
「琥珀暁」第3部、これにて終了です。
何度か話しましたが、10年前に「双月千年世界」の元となる小説を書いていました。
その出発点はここ、今「琥珀暁」として書いている部分からでした。
その元小説でも既にエリザさんは八面六臂の活躍をしていましたが、
「琥珀暁」としてリライトして以降、さらに暴走し始めました。
現在執筆中の第4部においても、かなり早々にやらかしてきています。
彼女があまりにメチャクチャしまくってるので、何度か書き直してる始末。
手綱を握るハンがちょっと可哀想になってきています……。
個人報告。
今年の2月にまた転職しましたが、10年以上京都・大阪のあっちこっちで働いてきた中で、一番いい環境です。
他の人は夜勤を忌避するかも知れませんが、夜行性の僕は、嬉々として働いています。
よほど水が合うのか、創作意欲がどんどん湧いてきています。
もしかしたらかなり早い内に、第4部をお目見えできるかも知れません。
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双月千年世界 3;白猫夢

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双月千年世界 2;火紅狐

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双月千年世界 1;蒼天剣

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