「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・姐御録 1
晴奈の話、第222話。
大人気、コウ先生。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「それッ!」
今日も晴奈は闘技場にいた。
今度の相手は――晴奈はほとんど対戦相手に興味を持っていないので、名前は開始直後に忘れた――央中の剣士である。
「りゃあッ!」
確かにピースの言っていた通り、ニコルリーグに入ると対戦相手が極端に強くなった。とは言え晴奈にとっては、ほとんどの場合「今まで10秒以内に倒せたのが、30秒かかるようになった」と言う程度であり、大局的に見れば代わり映えしなかった。
「……はッ!」
だから、この試合も時計の秒針が半周するかしないかのところで決着が付いた。
晴奈の気迫に満ちた一撃とともに相手の剣がどこかに弾き飛ばされ、うろたえる相手と晴奈の目が合う。
「あ、あ……」
「どうする?」
「……参りました」
武器を失った相手は大人しく降参し、そこで試合が終わった。
この頃になるとすでに、晴奈は闘技場の有名人になっていた。
「あっ、コウ先生!」
いきなりかけられる声に、晴奈の尻尾はびくついた。
「な、何だ?」
「コウ先生ですよね!?」
「い、いかにも」
「サインお願いします!」
「さいん? ……ああ、署名のことか。えっと……」
晴奈を呼び止めた「猫」の少年は目を輝かせ、色紙を差し出す。
「コレにお願いします!」
「承知した。……と、これでいいか?」
横にいたピースから筆を借り、自分の名前をさらさらと書き付ける。
「あ、あとココに僕の名前もお願いします! 『トレノくんへ』って!」
「しょ、承知。……はい」
少年は色紙を受け取ると、がばっと抱きしめた。
「おい、墨がつくぞ」
晴奈の心配をよそに、少年はとても嬉しそうに頭を下げた。
「ありがとうございます、コウ先生! 頑張ってくださいね!」
「あ、ああ。ありがとう」
晴奈は始終、目を白黒させていた。
「何がなにやら。何故、署名くらいであれほど喜ぶのでしょう?」
「まあ、人気選手のモノは何だって宝物さ」
ピースが肩をすくめて答える。
「そんなものですかね……」
「さ、ぼーっとしてるとまたねだられるよ。早く行こう」
「あ、はい」
ピースに急かされ、晴奈は闘技場を出ようとした。
「あっ、コウ先生だ!」
だが間に合わず、また声がかけられた。
「あちゃ……。こりゃ、大変だなぁ」
「な……」
晴奈とピースがくるりと振り向くと、先ほどと同じような少年少女、青年、老人、おまけに晴奈と同年代であろう女性までもが、目を輝かせて並んでいた。
「サイン、いいですか?」
「こりゃ、書くしかないね。はい、サインペン」
「は、はは……」
ピースからまた筆を借り、晴奈は大勢のファンに向き直った。
「で、結局何枚書いたの?」
「きっちり数えたわけじゃないけど、50枚くらいじゃなかったっけ」
ピースとともにチェイサー商会に戻った晴奈は、ボーダにサインをねだられたことを話した。ピースは笑いながら晴奈を茶化す。
「あはは、すっかり有名人だね。今のうちに、僕も頼んでおこうかな」
「ご、ご冗談を」
「ははは……」
晴奈の後ろにいたボーダも笑いながら、晴奈にお茶を出した。
「はい、どうぞ」
「あ、かたじけない。
……しかし、何故私のことを皆、『先生』と呼んだのでしょう」
「うーん」
ピース夫妻は一瞬目を合わせ、同時に首をひねった。
「さあ?」「雰囲気じゃない?」
「雰囲気、ですか」
そこへプレアもやってきて、ボーダの意見に一言付け加えた。
「だってお姉ちゃん、すっごくかっこいいし、たよれる感じするもん。ほら、あの、お父さんがいつも言ってる、えーと……」
「ん? 僕が?」
ピースが聞き返すと、プレアは手を叩いて答えた。
「あ、そうそう! 『おねーさんキャラ』!」
「あー、なるほどね」
ピースもポンと手を叩き、娘の意見に同意した。言葉の意味が分からず、晴奈はまた首をひねる。
「何ですか、それは?」
「ほら、雰囲気がお姉さんっぽいってことだよ。コウさんって、いかにも妹か弟さんがいそうなイメージがあるし」
「……まあ、確かに弟妹はいますね」
晴奈の脳裏に、実の妹の明奈や、紅蓮塞の元弟弟子である良太、そしてフォルナの顔が浮かぶ。
「案外、同性からも人気あるんじゃない?」
ニヤニヤしているボーダに、晴奈は素直にうなずく。
「ええ、確かにサインを求められました」
「やっぱりー。そこがやっぱり、おねーさんなのよね」
「そんなものですかね……」
晴奈は気恥ずかしくなり、猫耳をしごいた。
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大人気、コウ先生。
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「それッ!」
今日も晴奈は闘技場にいた。
今度の相手は――晴奈はほとんど対戦相手に興味を持っていないので、名前は開始直後に忘れた――央中の剣士である。
「りゃあッ!」
確かにピースの言っていた通り、ニコルリーグに入ると対戦相手が極端に強くなった。とは言え晴奈にとっては、ほとんどの場合「今まで10秒以内に倒せたのが、30秒かかるようになった」と言う程度であり、大局的に見れば代わり映えしなかった。
「……はッ!」
だから、この試合も時計の秒針が半周するかしないかのところで決着が付いた。
晴奈の気迫に満ちた一撃とともに相手の剣がどこかに弾き飛ばされ、うろたえる相手と晴奈の目が合う。
「あ、あ……」
「どうする?」
「……参りました」
武器を失った相手は大人しく降参し、そこで試合が終わった。
この頃になるとすでに、晴奈は闘技場の有名人になっていた。
「あっ、コウ先生!」
いきなりかけられる声に、晴奈の尻尾はびくついた。
「な、何だ?」
「コウ先生ですよね!?」
「い、いかにも」
「サインお願いします!」
「さいん? ……ああ、署名のことか。えっと……」
晴奈を呼び止めた「猫」の少年は目を輝かせ、色紙を差し出す。
「コレにお願いします!」
「承知した。……と、これでいいか?」
横にいたピースから筆を借り、自分の名前をさらさらと書き付ける。
「あ、あとココに僕の名前もお願いします! 『トレノくんへ』って!」
「しょ、承知。……はい」
少年は色紙を受け取ると、がばっと抱きしめた。
「おい、墨がつくぞ」
晴奈の心配をよそに、少年はとても嬉しそうに頭を下げた。
「ありがとうございます、コウ先生! 頑張ってくださいね!」
「あ、ああ。ありがとう」
晴奈は始終、目を白黒させていた。
「何がなにやら。何故、署名くらいであれほど喜ぶのでしょう?」
「まあ、人気選手のモノは何だって宝物さ」
ピースが肩をすくめて答える。
「そんなものですかね……」
「さ、ぼーっとしてるとまたねだられるよ。早く行こう」
「あ、はい」
ピースに急かされ、晴奈は闘技場を出ようとした。
「あっ、コウ先生だ!」
だが間に合わず、また声がかけられた。
「あちゃ……。こりゃ、大変だなぁ」
「な……」
晴奈とピースがくるりと振り向くと、先ほどと同じような少年少女、青年、老人、おまけに晴奈と同年代であろう女性までもが、目を輝かせて並んでいた。
「サイン、いいですか?」
「こりゃ、書くしかないね。はい、サインペン」
「は、はは……」
ピースからまた筆を借り、晴奈は大勢のファンに向き直った。
「で、結局何枚書いたの?」
「きっちり数えたわけじゃないけど、50枚くらいじゃなかったっけ」
ピースとともにチェイサー商会に戻った晴奈は、ボーダにサインをねだられたことを話した。ピースは笑いながら晴奈を茶化す。
「あはは、すっかり有名人だね。今のうちに、僕も頼んでおこうかな」
「ご、ご冗談を」
「ははは……」
晴奈の後ろにいたボーダも笑いながら、晴奈にお茶を出した。
「はい、どうぞ」
「あ、かたじけない。
……しかし、何故私のことを皆、『先生』と呼んだのでしょう」
「うーん」
ピース夫妻は一瞬目を合わせ、同時に首をひねった。
「さあ?」「雰囲気じゃない?」
「雰囲気、ですか」
そこへプレアもやってきて、ボーダの意見に一言付け加えた。
「だってお姉ちゃん、すっごくかっこいいし、たよれる感じするもん。ほら、あの、お父さんがいつも言ってる、えーと……」
「ん? 僕が?」
ピースが聞き返すと、プレアは手を叩いて答えた。
「あ、そうそう! 『おねーさんキャラ』!」
「あー、なるほどね」
ピースもポンと手を叩き、娘の意見に同意した。言葉の意味が分からず、晴奈はまた首をひねる。
「何ですか、それは?」
「ほら、雰囲気がお姉さんっぽいってことだよ。コウさんって、いかにも妹か弟さんがいそうなイメージがあるし」
「……まあ、確かに弟妹はいますね」
晴奈の脳裏に、実の妹の明奈や、紅蓮塞の元弟弟子である良太、そしてフォルナの顔が浮かぶ。
「案外、同性からも人気あるんじゃない?」
ニヤニヤしているボーダに、晴奈は素直にうなずく。
「ええ、確かにサインを求められました」
「やっぱりー。そこがやっぱり、おねーさんなのよね」
「そんなものですかね……」
晴奈は気恥ずかしくなり、猫耳をしごいた。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
サインをもらえれるのはうらやましいですよね。
私の作品の某勇者はおそらく冗談で声をかけれるようなぐらい可愛げがあるといいんですけどね。。。と思ったりしました。
どうも、LandMでした。
私の作品の某勇者はおそらく冗談で声をかけれるようなぐらい可愛げがあるといいんですけどね。。。と思ったりしました。
どうも、LandMでした。
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NoTitle
サインをねだる、あるいはねだられるキャラ、というのも面白そうですね。