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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第5部

    蒼天剣・姐御録 2

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    晴奈の話、第223話。
    でっかい女の子。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
    「おねーさんキャラ、ねぇ」
     朱海の店に戻り、チェイサー一家に言われたことを話すと、朱海も深々とうなずいた。
    「うん、アンタはお姉さんだ。そんな雰囲気あるな」
    「そうですか」
     店の奥で野菜の皮むきをしていた小鈴とフォルナも、うんうんとうなずいている。
    「うん、晴奈ってそんな感じする」
    「ええ、お姉さまですわ」
    「だよなぁ」
     晴奈は恥ずかしさを紛らわせるように店の奥へ入り、割烹着を着る。
    「あんまりからかわないでくださいよ……」
    「あっはっは……、悪い悪い、くっくく」
     恥ずかしがる晴奈を見て、朱海は爆笑していた。

    「でもさー」
     晴奈も店に立ったところで、朱海が唐突に話を切り出した。
    「真逆の奴もいるんだよ」
    「え?」
     晴奈は魚を捌きつつ、聞いてみる。
    「真逆、と言うのは?」
    「闘技場の参加者に、さ。
     アタシと同じ『虎』なんだけど、なーんか子供っぽい奴で、ホントに晴奈と正反対の奴なんだ。でも、背はめっちゃ高い。多分晴奈より、もうちょっと高いくらいかな」
    「私より背の高い、女ですか」
     余談になるが、晴奈の背は173センチと、女性にしてはかなり高い。
     央南では他の女性より頭二つほど飛び抜けていたし、成人男性と比べても遜色ないほどであった。央中でも、晴奈と同じくらい背の高い女性と言うのは彼女自身これまで見たことが無く、その上自分より背の高い女と聞いて、晴奈は興味を持った。
    「名前は?」
     魚を三枚におろし、骨を汁物用の鍋に入れながら、さらに尋ねてみる。
    「シリン・ミーシャ。央中東部出身の格闘家だよ」
    「ほう……」
     魚の身に衣をつけ、油の中に入れる。
    「確かもう、エリザリーグに行ったんじゃなかったっけな」
    「それは強そうな相手ですね。……っと、朱海殿、これでよろしいでしょうか」
     魚を油から引き上げ、朱海に見せる。
    「んー、……ダメ。もうちょい揚げて」
    「承知」
     魚をもう一度油に入れ、シリンの話を続ける。
    「少し、興味が沸きましたが……。エリザリーグは確かまだ、開催されていませんよね」
    「ああ、あと3ヶ月先になる。会ってみたいの?」
     魚をもう一度引き上げ、晴奈は答える。
    「はい、是非。……このくらいでしょうか」
    「うん、コレコレ。この色くらいにならないと。……さ、ジャンジャン揚げな」
    「承知しました」
     先ほどと同じ要領で、衣を着けた魚をぽいぽいと油へ入れる。一通り入れ終わったところで、朱海が提案した。
    「じゃあさ、会ってみるか?」
    「え?」
    「今呼べばすぐ来るよ。アイツ、大食いだし。
     じゃあ呼び出すからその間、銀鱈定食5人前作っといてくれよ。シリンの大好物なんだ」
    「5……、ってそれは、食べる、と」
     朱海は割烹着を脱ぎながら短くうなずき、そのまま店を出て行った。



     10分後、朱海が戻ってきた。
    「ただいまー。お、丁度できたところか?」
    「はい、もう少しで味噌汁もできあがります」
    「そっか、よし。……シリン、入っといで!」
     朱海は店の外に声をかける。と同時に、大きな影がのそっと暖簾を潜ってきた。
    「どーも、こんばんはー」
     味噌を溶いていた晴奈は、一瞬固まった。
    (な……!? で、でかいな)
     確かに朱海の言う通り、その虎獣人の女性はかなりの大柄だった。
     晴奈より頭一つ高く、そして晴奈の二倍は腕と脚が太い(おまけに胸に関しても、晴奈と比べ物にならない大きさだった)。
    「どーも、シリンでーす。アンタが、セイナさん?」
    「い、……いかにも。私が黄晴奈、……セイナ・コウだ」
    「ホンマに、背ぇ高いんやなー」
     シリンは妙な言葉遣いをしている。
    「あ、ああ。しかし、シリン殿の方が、その」
    「まー、そうやろなー。ウチ、ご飯ばっか食べてるから、でっかくなってもーてなぁ」
     けげんな顔をしている晴奈を見て、朱海が補足する。
    「あ、コイツのしゃべり方は央中東部の方言なんだ」
     シリンはコクコクとうなずき、胸を反らす。
    「そーなんよ。あ、ちなみにな、金火狐の人たちも元は東部出身やったらしくて、ウチと同じ話し方しよるらしいわ」
    「ほう……」
    「でも、セイナさんも変な話し方しよるよな?」
     シリンはカウンターにどすんと腰掛け、興味深そうに晴奈を見ている。
    「まあ、央南の生まれだからな。少々、おかしく聞こえるかも知れぬ。
     ……と、朱海殿。銀鱈定食5人前、完成しました」
    「よっし、それじゃ並べるか」
    「うっわ、鱈なん? ウチの大好物やんかー」
     シリンの顔が溶けるようにほころぶ。尻尾も嬉しそうにばたついている。
    「アケミさん、ありがとなー」
    「言っとくけど、金は払えよ」
    「……やっぱりかー。アケミさんのケチぃ」
    「商人はみんなケチだって。ほら、熱いうちに食べな」
     運ばれてきた銀鱈定食を見て、シリンは両手を合わせて喜ぶ。
    「あぁー、えー匂いやわぁ。ほな、いただきまーす」
     挨拶するなり、シリンはがっつき始めた。
     その食いっぷりを見て、晴奈は呆然とつぶやく。
    「怒涛の勢いだな」
    「むぐっ、だって、んぐ、うまいし。ホンマ、ゴクゴク……、『赤虎亭』は、もにゅ、ご飯うまいわぁー、むしゃ」
     食べながら話すシリンを、朱海が叱る。
    「こら、シリン。口にモノ入れながら話すなっての」
    「あ、……ゴクっ。ごめーん」
    「あー……、なるほど」
     晴奈は先程朱海が言っていたことを思い出し、納得した。
    (『おねーさん』の、真逆。『いもーと』だな)

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    物を食べるシーン、うまく書きたいなぁ。
    漫画の「バキ」を読んでいていつも、「どうやったらあんな擬音思いつくの?」と感心します。
    いっぺん、肉を食べて「モニュ」とか「ぞぶっ」とか言わせる人を見てみたいもんです。

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    2016.05.19 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    2メートル越えの女の子……。
    そう聞くと、ファンタジーなことしか思いつかないですねぇw

    ちなみに晴奈は173cm、54kgくらい。
    シリンは186cm、74kgくらいのイメージです。

    NoTitle 

    セイナも身長高いんですね。・・・・ウチの某勇者は195センチの体重92キロ・・・・もはや女性のカテゴリーを超えている存在ですね。世界の女性には205センチの女性モデルもいるらしいので世界は広いですね。

    NoTitle 

    ありがとうございます。黄輪さんの小説も、背景世界自体から「うまそうなものにあふれている」感がにじみ出ていていいなあと思います♪

    NoTitle 

    池波先生の和食の描写は、「うまそう」の一言に尽きます。
    自分もあれだけご飯が美味しそうに感じる文章が書ければなぁ……、と憧れます。

    ポールさんも食べ物の描写と着眼点、うまいです。
    バター飴、美味しそう。

    NoTitle 

    うまいものを食うシーンはわたしも憧れます。

    擬音よりも、文章だけで「うまいものを食う」感じを出したいのですがうまくいきません。

    まあいきなり小説では池波正太郎先生の、エッセイでは東海林さだお先生のレベルに達するのは無理だけど……。

    しかし、うまそうに和食を食うシーンを書かせたら池波先生の上をいく小説家はいないよなあ……。

    中華料理を食うシーンだったら、南條竹則先生の「酒仙」か、反則技だけれど筒井康隆先生の「薬菜飯店」が目標でありますが、うーむこれも、エベレスト登山みたいな試みであります。

    それでも食事シーンを書く! そこに飯があるからさ!(笑)
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