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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第5部

    蒼天剣・姐御録 3

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    晴奈の話、第224話。
    共通の悩み。

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    3.
     閉店後、改めて晴奈はシリンと話をした。
    「改めて名乗る。セイナ・コウだ」
    「どもども、シリン・ミーシャですー」
     央中式に名乗り、央中風に握手して挨拶をする。数ヶ月になる外国の滞在で、晴奈も異国の生活に馴染んできていた。
    「エリザリーグに進んでいると聞いたが、どのような環境なのだ?」
    「んー、えっとなー、一言で言うとやっぱ、超辛いねんなぁ。あのアホキングもおるし、他にも、この前入ったばっかりのウィアードちゅうのんもいてて、ホンマに容赦せーへんヤツなんよ、コイツ。
     一戦終わるごとに肋骨折れてたり、目ぇ開かへんよーになってたりして、ボロッボロになるねんなぁ」
    「なるほど、相当だな。今はどのように過ごしているのだ?」
     シリンは腕をペチペチ叩き、楽しそうに答える。
    「そら、トレーニングしとるよ。
     ウチ、この前のんで結構稼いだから、割と小金持ちやねん。闘技場の方もリザーバー(代打選手)扱いでたまーにしか呼ばれへんから、今んとこずーっと体鍛えてるんよ」
    「ほう……」
    「ま、言い換えりゃ『働きもせずブラブラ』なんだけどな」
     カウンターから朱海が口を挟んでくる。
    「もー、変なこと言わんといてーな。人聞き悪いやんかぁ」
    「ちなみにコイツ、エリザリーグに出る前はアタシの店で働いてたんだぜ。『ご飯うまいから』って理由でな」
    「あぁん、恥ずかしいコトばっか言わんといてーなぁ」
     シリンは顔を赤くし、両手をバタバタと振っている。朱海は煙草を加えながら、ケタケタ笑っていた。
    「あっはは……、な、面白いヤツだろ、コイツ」
    「ええ、そうですね」
     晴奈もコロコロと表情を変えるシリンを見て、思わずにやけていた。
    「あー、もう! セイナさんまで笑てるしぃ。……ほな、今度はこっちから質問させてーな」
    「ん? 私にか?」
    「うん、ウチめっちゃ気になっとったんよ。最近巷で『コウ先生』『コウ先生』て、よー聞くし、どんな人なんやろって、ずっと思ってたんやけど……」
     シリンは目を輝かせ、晴奈の手を握る。
    「ウチ、ご飯作るのうまい人、めっちゃ好きやねん」
    「ぷ……、ケホ、お前、飯を基準に人を選ぶなよ」
     シリンの一言に朱海が吹き出し、煙草がどこかに飛んだ。晴奈もシリンの言葉に、困り顔になる。
    「ま、まあ。慕われて、悪い気はしない、が。……私の本分は剣士なので、できればそちらに着目してほしいのだが」
    「あ、うんうん、分かっとるよー、ちゃんと。
     聞いた話では、今んとこ負けなしで来てるらしいやん、セイナさん。それ、めっちゃすごいねんで?」
    「ああ、そうらしいな」
    「ウチでもニコルの勝率、8割くらいやで。ホンマ、セイナさんすごいわぁ。
     な、な、どんなトレーニングしてるん?」
    「む、そうだな……、早朝に走り込みと素振りをして」
    「うんうん」
    「店の仕込みを終えた後、昼に居合いの稽古と座禅、それから読書と」
    「おー」
    「で、夕方少し前から店の手伝いをして」
    「あ、ウチん時と一緒やな」
    「それが終わったら、夜半過ぎまで素振りと型稽古だな」
     晴奈のトレーニング内容を聞いて、シリンは感心したようなため息を漏らす。
    「はー……、偉いなぁ、セイナさん。ウチ、夜はぐっすり寝てしもてるわ」
    「それはそれでいいんじゃないか? 寝て体を作るのも、必要だからな」
    「そっかなぁ」
    「そうだ。鍛錬の仕方は人それぞれだからな。無理に人に合わせるより、自分に合った内容できっちり鍛え続けた方がいい。
     それに今、シリンは一日中ずっと鍛錬を続けていると言っていたし、きっと私より密度の高い修行をしているよ」
     晴奈にほめられ、シリンの顔が少しにやける。虎耳をぺた、と下げ、赤くなった顔を両手で覆う。
    「えへへ……、そんなん言われたら、恥ずかしいやん」
     その仕草を見て晴奈は少し、シリンを可愛く思った。
    (成りはでかいが、心は少女だな。確かにこれは、『妹』に思えてしまうな)
     と、朱海が二人に声をかける。
    「話弾んでるトコ悪いけどさ、もうそろそろ真夜中になっちまう。
     家ん中入って、続き話せよ。シリンも今日は泊まってけ」
    「あ、はい」「お世話んなりますー」
     晴奈とシリンは同時に立ち上がり、互いに背を見比べた。
    「改めて立つと、本当にでかいな。目線がほとんど同じ女を見るのは初めてだ」
    「ウチもやわぁ。何か嬉しいなー、そう言うトコ一緒の人がおって」
    「うん?」
     店の奥へと進みながら、晴奈が聞き返す。
    「実を言うとな、昔から気にしとってん、背ぇ高いの。他の女の子、ウチより全然小柄やし、びみょーに話し辛かってんなぁ」
    「分からなくは無いな。私も子供の時分から背が高かった。剣士をやる分には良かったんだが、いつも師匠や妹に見上げられるのが、少し難儀だった」
    「え、妹さんおるん?」
    「ああ、明奈と言ってな……」
     店の奥に入っても、寝室に行っても、晴奈とシリンの話はずっと続いていた。
     共に背が高く、そして故郷を遠く離れたところで出会った女傑同士である。性格こそ違えど、二人の間には共感できるものが数多くあったのだろう。

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    2016.05.19 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    武術に限らず、ある技術・技能を身につけるには、ただ教わったり、閃いたりするだけじゃダメだと思うんです。
    毎日実践する、毎日実践していくという、その地道な積み重ねが、その技術を磨き、着実に自分の中、頭、手足に染み渡らせていくんだと考えています。
    だから「いつも正しくあろう、いつも剣士であろう」とする晴奈も、「自分のペースを崩さず過ごす」シリンも、強いんでしょうね。

    NoTitle 

    山本貴嗣先生の「セイバーキャッツ」いう漫画で読んだのですが、武術の修行での日々の鍛錬は、剣を振ったり突き蹴りの練習をするのは当然ですが、それよりも重要なのは、

    「その武術の理論に基づいた身体の動きで生活をする」

    ことらしいですな。「なんとか拳」を身につける場合、「なんとか拳」で顔を洗い、「なんとか拳」で飯を食い、「なんとか拳」でトイレを済ませ、「なんとか拳」で歩いて職場に行く……と。

    想像もつかない世界ですが、そういう人たちは寝ているときも「なんとか拳」の呼吸で寝ているんじゃないかと思います。

    そう考えるとシリンは間違っていない……のかなあ。
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