DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 10 ~ 燃える宝石 ~ 6
ウエスタン小説、第6話。
銃創。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
アデルが予測していた通り、アルジャン兄弟や組織からの襲撃も無く、アデルたち一行は一晩を安穏に過ごし、翌朝を迎えた。
「ふあ、あー……」
宿を一歩出て、背伸びをしたところで、アデルはすぐに腕を下げ、「いてて……」とうめく。
(やっぱ一日くらいじゃ、治っちゃくれないよな)
撃たれた右腕をコートの上からさすり、ずきずきとした痛みが残っていることを確認する。
(ま……、痛いが、痛いってだけだな。腕も指も動くし、放っときゃそのうち治るさ)
と、背後から声をかけられる。
「『放っときゃ治る』なんて思ってないわよね」
「えっ!? あ、いや」
弁解しかけたところで、エミルがさらに釘を刺してくる。
「そんなの、半世紀前の考えよ? きちんと治したきゃ、包帯変えたり消毒したり、ちゃんと治るまで手当て続けなさいよ」
「お、おう」
と、エミルがアデルのコートの襟を引き、脱ぐよう促してくる。
「見せてみなさいよ。あんた、いっつもケガしても、隠すじゃない。
化膿したり腐ったりしたら、手遅れになるわよ。切り落としたくないでしょ?」
「い、いや、いいって。自分でやるって、後で」
渋るアデルを、エミルは軽くにらみつけてくる。
「何よ? まさかあんたも女だなんて言うつもりじゃないでしょうね?」
「バカ言うなよ。……分かったよ、脱ぐって。脱げばいいんだろ」
アデルはもたもたとコートを脱ぎ、左手をたどたどしく動かして、シャツの袖をまくろうとする。
「……っ、……あー、……くそっ」
しかし利き腕側でないことに加え、右腕の痛みが邪魔をして、思うようにボタンを外すことができない。
見かねたらしく、エミルが手を添えてきた。
「外したげるわよ」
「わ、悪い」
シャツの袖を脱がすなり、エミルは一転、呆れた目を向けてくる。
「あんたねぇ……」
アデルの右腕に巻かれた包帯が、赤茶けた色に染まっていたからだ。

「血は止まってるっぽいから、昨日からずっと使ってるんでしょ、この包帯」
「……バレたか」
「バレたか、じゃないわよ。マジに切り落とすことになりかねないわよ、こんな汚いことしてたら」
エミルはぐい、とアデルの左腕を引っ張り、宿の中に連れて行く。
「宿なら包帯も消毒薬もいっぱいあるでしょうし、ちょっともらいましょ」
「ああ……」
と、二人が戻ってきたところで、宿のマスターが声をかけてきた。
「お客さーん、エミル・ミヌーって名前?」
「そうよ。電話?」
「そう、パディントン探偵局ってところから」
「出るわ。あ、その間、こいつの包帯変えるのお願いしていいかしら?」
「ああ、いいよー」
そのまま電話口まですたすたと歩き去るエミルを眺め――マスターと目が合ったところで、彼が心配そうに声をかけてきた。
「お客さん……。めっちゃくちゃ俺のことにらんでるけど、そんなに傷、痛むの?」
アデルの手当てが終わったところで、丁度エミルも電話を終えたらしい。
「あら、綺麗に巻いてもらえたわね」
「ちぇ、何か子供扱いされてるな。……で、局長は何て?」
「話す前に、皆呼びましょ。そろそろ朝ご飯食べて列車に乗り込む準備しとかないと、遅れちゃうもの」
「そうだな。……っと」
言っているうちに、ロバートとダンたち3人が階段を降りてくる。
「おはよーっス、兄貴、姉貴」
「今、電話がどうとかって言ってたが……」
「丁度いいわね。マスター、ご飯もらえる? 6人分ね」
「はいはーい」
店主がその場を離れたところで、ロバートたちが席に着く。
「電話って? 一体どこ……、いや、こんな時かけてくるなんて、局長だけっスよね」
「ええ。まだあたしたちがスリーバックスにいるって読んで、追加情報をくれたのよ」
エミルの言葉に、アデルは首をかしげる。
「追加情報? 特務局のことか?」
「それもあるけど、メインは横領事件の方ね。
犯人の身辺について、一つ分かったことがあるって」
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銃創。
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6.
アデルが予測していた通り、アルジャン兄弟や組織からの襲撃も無く、アデルたち一行は一晩を安穏に過ごし、翌朝を迎えた。
「ふあ、あー……」
宿を一歩出て、背伸びをしたところで、アデルはすぐに腕を下げ、「いてて……」とうめく。
(やっぱ一日くらいじゃ、治っちゃくれないよな)
撃たれた右腕をコートの上からさすり、ずきずきとした痛みが残っていることを確認する。
(ま……、痛いが、痛いってだけだな。腕も指も動くし、放っときゃそのうち治るさ)
と、背後から声をかけられる。
「『放っときゃ治る』なんて思ってないわよね」
「えっ!? あ、いや」
弁解しかけたところで、エミルがさらに釘を刺してくる。
「そんなの、半世紀前の考えよ? きちんと治したきゃ、包帯変えたり消毒したり、ちゃんと治るまで手当て続けなさいよ」
「お、おう」
と、エミルがアデルのコートの襟を引き、脱ぐよう促してくる。
「見せてみなさいよ。あんた、いっつもケガしても、隠すじゃない。
化膿したり腐ったりしたら、手遅れになるわよ。切り落としたくないでしょ?」
「い、いや、いいって。自分でやるって、後で」
渋るアデルを、エミルは軽くにらみつけてくる。
「何よ? まさかあんたも女だなんて言うつもりじゃないでしょうね?」
「バカ言うなよ。……分かったよ、脱ぐって。脱げばいいんだろ」
アデルはもたもたとコートを脱ぎ、左手をたどたどしく動かして、シャツの袖をまくろうとする。
「……っ、……あー、……くそっ」
しかし利き腕側でないことに加え、右腕の痛みが邪魔をして、思うようにボタンを外すことができない。
見かねたらしく、エミルが手を添えてきた。
「外したげるわよ」
「わ、悪い」
シャツの袖を脱がすなり、エミルは一転、呆れた目を向けてくる。
「あんたねぇ……」
アデルの右腕に巻かれた包帯が、赤茶けた色に染まっていたからだ。

「血は止まってるっぽいから、昨日からずっと使ってるんでしょ、この包帯」
「……バレたか」
「バレたか、じゃないわよ。マジに切り落とすことになりかねないわよ、こんな汚いことしてたら」
エミルはぐい、とアデルの左腕を引っ張り、宿の中に連れて行く。
「宿なら包帯も消毒薬もいっぱいあるでしょうし、ちょっともらいましょ」
「ああ……」
と、二人が戻ってきたところで、宿のマスターが声をかけてきた。
「お客さーん、エミル・ミヌーって名前?」
「そうよ。電話?」
「そう、パディントン探偵局ってところから」
「出るわ。あ、その間、こいつの包帯変えるのお願いしていいかしら?」
「ああ、いいよー」
そのまま電話口まですたすたと歩き去るエミルを眺め――マスターと目が合ったところで、彼が心配そうに声をかけてきた。
「お客さん……。めっちゃくちゃ俺のことにらんでるけど、そんなに傷、痛むの?」
アデルの手当てが終わったところで、丁度エミルも電話を終えたらしい。
「あら、綺麗に巻いてもらえたわね」
「ちぇ、何か子供扱いされてるな。……で、局長は何て?」
「話す前に、皆呼びましょ。そろそろ朝ご飯食べて列車に乗り込む準備しとかないと、遅れちゃうもの」
「そうだな。……っと」
言っているうちに、ロバートとダンたち3人が階段を降りてくる。
「おはよーっス、兄貴、姉貴」
「今、電話がどうとかって言ってたが……」
「丁度いいわね。マスター、ご飯もらえる? 6人分ね」
「はいはーい」
店主がその場を離れたところで、ロバートたちが席に着く。
「電話って? 一体どこ……、いや、こんな時かけてくるなんて、局長だけっスよね」
「ええ。まだあたしたちがスリーバックスにいるって読んで、追加情報をくれたのよ」
エミルの言葉に、アデルは首をかしげる。
「追加情報? 特務局のことか?」
「それもあるけど、メインは横領事件の方ね。
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ブログ「妄想の荒野」の矢端想さんに挿絵を描いていただきました。
ありがとうございます!
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