「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・姐御録 4
晴奈の話、第225話。
思いがけない再会。
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4.
数日後の早朝、晴奈はシリンから呼び出された。
「どうした、シリン? こんな朝早くから」
「あのな、あのな。ウチ、今日ニコル出るねん」
「ほう」
シリンによれば、本日出場予定だった選手が急病で倒れたため、リザーバーのシリンが急遽呼び出されたのだと言う。
「ほんでな、良かったらセイナさんに見てもらおう思てな。今日の昼からやねん」
「なるほど。分かった、予定を空けておく」
「ホンマ? ありがとー、セイナさん」
シリンは嬉しそうに晴奈の手を握り、ブンブンと振る。
「お、おいおい」
「ウチ、超頑張るからな、見ててなー」
「ああ、分かった。分かったから、手を離せ」
晴奈がなだめるが、シリンはなお嬉しそうに手をつかんだままだった。
そして時間は過ぎ、午後一時少し前。
晴奈は闘技場に出向き、選手控え室に寄った。
「シリン、調子の方は……」
呼びかけようとして、シリンが大会運営スタッフと話しているのに気付いた。
「えー? 何やそれっ。話ちゃうやんか」
「申し訳ございません、ミーシャさん」
「まあ、ええけどな。折角久々に戦わせてもらうんやし、誰が相手でもええよ。で、相手誰になったん?」
スタッフは困った顔で、シリンに耳打ちする。
「……はぁ!? ウソやろ、それ? マジなん?」
「は、はい」
「……うっわぁ。勘弁してーなー、きついやんかぁ」
シリンは露骨に嫌そうな顔を浮かべ、虎耳を伏せる。
「あの、今ならまだキャンセルも……」「アホか! そんなんできるかっちゅうねん!」
出場辞退を促したスタッフに対し、今度は憤る。
「向こうに『ミーシャ選手は尻尾巻いて逃げましたー』言うんか!? そんな恥ずかしいコト、よぉせーへんわ!
向こうに伝えとって、『ガチでやったる』ってな!」
スタッフは何度も「申し訳ありません」と頭を下げ、控え室を出て行った。
「おいおいシリン、一体どうした?」
「あ、セイナさん。……いやな、今日対戦するはずやった相手、急に代わってしもたんよ」
「何だって? それはつまり、出場予定の選手が両者とも、変更になったと言うことか?」
目を丸くする晴奈に、シリンは両手を挙げながら椅子にもたれかかる。
「せやねん、珍しいやろ? ……ほんで、代わりに戦うことになった相手も、リザーバーやねんな」
「それは、また……。実質的に、エリザリーグになったようなものだな」
「そーなんよ。ほんでな、その相手っちゅうのんが――あの『ウィアード』やねん」
ウィアード――非現実的な者、不可思議な者、の意。
シリンによれば、数ヶ月前にふらりと闘技場に現れるなり頭角を表し、あっと言う間にエリザリーグに選ばれた、狼獣人の男なのだと言う。
素性は不明。闘技場に登録する際も本名を名乗らなかったため、受付の者が「ウィアード」と名付けたそうだ。
現れた当初は素手での戦いだったが、途中何度か武器を変えている。うわさによれば、「どれが自分の手になじむのか、いまいち分からない」と言っているそうだ。だが、今まで扱ってきたどの武器でも達人級の腕前を見せており、晴奈と同じくニコルリーグまで、いや、エリザリーグにおいても、一度も負けなしで来ている。
とにかく何もかもが不明な、つかみどころのない男なのだと言う。
試合の時間になり、晴奈は観客席に移った。
お決まりのアナウンスと共に、シリンが東口から現れる。シリンは観客席にいる晴奈と目が合うと、嬉しそうにバタバタ手を振った。晴奈も思わず、手を振り返す。良く見ると、周りの者も楽しそうに手を振っていた。
(あの子は、皆から愛されているのだろうな)
そんなことを考えながら、西口に目をやる。
「……!?」
西口から槍を持ってゆっくりと現れた男を見て、晴奈は我が目を疑った。
(そんな、馬鹿な!?)
男は髪も狼耳も、尻尾も真っ黒で、肌も若干浅黒い。大勢の注目を浴び、困ったように笑ったその口元は前歯が一本欠けており、差し歯がはまっている。
「う……、ウィ、ル?」
その男はどう見ても、晴奈と幾度も死闘を繰り広げた黒炎教団の僧兵――ウィルバーだった。
蒼天剣・姐御録 終
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思いがけない再会。
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数日後の早朝、晴奈はシリンから呼び出された。
「どうした、シリン? こんな朝早くから」
「あのな、あのな。ウチ、今日ニコル出るねん」
「ほう」
シリンによれば、本日出場予定だった選手が急病で倒れたため、リザーバーのシリンが急遽呼び出されたのだと言う。
「ほんでな、良かったらセイナさんに見てもらおう思てな。今日の昼からやねん」
「なるほど。分かった、予定を空けておく」
「ホンマ? ありがとー、セイナさん」
シリンは嬉しそうに晴奈の手を握り、ブンブンと振る。
「お、おいおい」
「ウチ、超頑張るからな、見ててなー」
「ああ、分かった。分かったから、手を離せ」
晴奈がなだめるが、シリンはなお嬉しそうに手をつかんだままだった。
そして時間は過ぎ、午後一時少し前。
晴奈は闘技場に出向き、選手控え室に寄った。
「シリン、調子の方は……」
呼びかけようとして、シリンが大会運営スタッフと話しているのに気付いた。
「えー? 何やそれっ。話ちゃうやんか」
「申し訳ございません、ミーシャさん」
「まあ、ええけどな。折角久々に戦わせてもらうんやし、誰が相手でもええよ。で、相手誰になったん?」
スタッフは困った顔で、シリンに耳打ちする。
「……はぁ!? ウソやろ、それ? マジなん?」
「は、はい」
「……うっわぁ。勘弁してーなー、きついやんかぁ」
シリンは露骨に嫌そうな顔を浮かべ、虎耳を伏せる。
「あの、今ならまだキャンセルも……」「アホか! そんなんできるかっちゅうねん!」
出場辞退を促したスタッフに対し、今度は憤る。
「向こうに『ミーシャ選手は尻尾巻いて逃げましたー』言うんか!? そんな恥ずかしいコト、よぉせーへんわ!
向こうに伝えとって、『ガチでやったる』ってな!」
スタッフは何度も「申し訳ありません」と頭を下げ、控え室を出て行った。
「おいおいシリン、一体どうした?」
「あ、セイナさん。……いやな、今日対戦するはずやった相手、急に代わってしもたんよ」
「何だって? それはつまり、出場予定の選手が両者とも、変更になったと言うことか?」
目を丸くする晴奈に、シリンは両手を挙げながら椅子にもたれかかる。
「せやねん、珍しいやろ? ……ほんで、代わりに戦うことになった相手も、リザーバーやねんな」
「それは、また……。実質的に、エリザリーグになったようなものだな」
「そーなんよ。ほんでな、その相手っちゅうのんが――あの『ウィアード』やねん」
ウィアード――非現実的な者、不可思議な者、の意。
シリンによれば、数ヶ月前にふらりと闘技場に現れるなり頭角を表し、あっと言う間にエリザリーグに選ばれた、狼獣人の男なのだと言う。
素性は不明。闘技場に登録する際も本名を名乗らなかったため、受付の者が「ウィアード」と名付けたそうだ。
現れた当初は素手での戦いだったが、途中何度か武器を変えている。うわさによれば、「どれが自分の手になじむのか、いまいち分からない」と言っているそうだ。だが、今まで扱ってきたどの武器でも達人級の腕前を見せており、晴奈と同じくニコルリーグまで、いや、エリザリーグにおいても、一度も負けなしで来ている。
とにかく何もかもが不明な、つかみどころのない男なのだと言う。
試合の時間になり、晴奈は観客席に移った。
お決まりのアナウンスと共に、シリンが東口から現れる。シリンは観客席にいる晴奈と目が合うと、嬉しそうにバタバタ手を振った。晴奈も思わず、手を振り返す。良く見ると、周りの者も楽しそうに手を振っていた。
(あの子は、皆から愛されているのだろうな)
そんなことを考えながら、西口に目をやる。
「……!?」
西口から槍を持ってゆっくりと現れた男を見て、晴奈は我が目を疑った。
(そんな、馬鹿な!?)
男は髪も狼耳も、尻尾も真っ黒で、肌も若干浅黒い。大勢の注目を浴び、困ったように笑ったその口元は前歯が一本欠けており、差し歯がはまっている。
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その男はどう見ても、晴奈と幾度も死闘を繰り広げた黒炎教団の僧兵――ウィルバーだった。
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今日の旅岡さん

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大体意外なところで知人と会ったりしますよね。
職場でしか会わない人とテーマパークで会ったりとか・・・まあ、そんな悠長な状況じゃないですけど、かなり驚きますよね。本来会わない状況下で会うとビックリするもんですよね。
ウィルバー君は生きていたんですね。・・・死んでたら困るか。
職場でしか会わない人とテーマパークで会ったりとか・・・まあ、そんな悠長な状況じゃないですけど、かなり驚きますよね。本来会わない状況下で会うとビックリするもんですよね。
ウィルバー君は生きていたんですね。・・・死んでたら困るか。
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晴奈の驚きは、察するに余りあるものでしょうね。