DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 11 ~ 大閣下の逆襲 ~ 1
ウエスタン小説、第11弾。
追討。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
187X年、西部某所。
「ここまで逃げれば、もうご心配はございますまい」
全身傷だらけになった、小山のような若者――後に「猛火牛(レイジングブル)」の悪名を轟かせる怪人、トリスタン・アルジャンが、一人の老人の前にかしずいていた。
「うむ。大儀であった、トリスタン」
「もったいなきお言葉、幸甚(こうじん)の至りでございます」
殊更にへりくだるトリスタンに対し、その老人はそれがさも当然であるように、大仰に振る舞っている。
「して、アンリ=ルイよ」
「はっ……」
神経質そうなヒゲを生やした眼鏡の小男も、トリスタンの横に並んで平伏する。
「当座の本営は、用意してあるのだろうな」
「用意してございます。ここより更に30マイルほどのところに……」
アンリ=ルイが得意満面で答えかけたその途端、老人の顔にかっと朱が差す。
「貴様、今何と申した?」
「は……はい?」
「余の前で長さの単位を、何と申したのだと尋ねておるのだ!」
「ひっ……、あ、あひっ、もっ、申し訳ございません!」
「アメリカのヤード・ポンド法の如き下卑た単位を持ち出すとは、貴様それでも余の臣下かッ!」
バキ、と音を立て、アンリ=ルイの頭に、老人が持っていた杖がめり込む。
「ひいぃ……っ」
「もう一度問うぞ! 次の本営はどこにあるのだ!?」
「あ、あ、ごっ、50キロほど西進した場所にございますです、はいっ!」
「ふん」
折れた杖をアンリ=ルイに投げつけ、老人は不満そうなため息を漏らす。
「この老体にまだ鞭打てと申すのか、貴様ッ」
「それについてはご心配無く」
と、トリスタンが口を開く。
「ダビッドに馬車を手配させております。間も無くこちらへやってくるでしょう」
「おぉ……、そうか、そうか。お前は気が利くのぅ、トリスタン」
老人はニヤニヤと下劣極まりない笑みをトリスタンに向け、それから額から血を流しているアンリ=ルイを、侮蔑的な目つきで見下ろした。
「それに比べて、貴様の粗忽さときたら。何と愚かしいことか!
我が祖国の誇る、完全無欠たるメートル法を軽んじるばかりか、余に更なる労苦を強いようとするとは。
少しはトリスタンを見習えばどうだ」
「申し訳ございません……」
「まあよいわ。そこは、『姫』には漏れておらぬだろうな?」
「その心配は無用と存じます。
このような場合に備え、私めの方で同様の場所を、アメリカ各所に拵(こしら)えております。無論、いずれも私一人しか、所在を知る者はおりません。
その一つでもトリーシャ閣下がその存在に勘付き、場所を突き当ててしまうようなことは、万に一つもございません」
そして――現在。
「万に一つが起こってしまったと言いたげなお顔ですな、アンリ=ルイ」
「ひっ……ひっ……」
イクトミらに拘束されたアンリ=ルイは、恐怖に満ちた顔をその二人に向けていた。
「しかしあなたと、あなたの隠れ家を探し当てるのに幾分か骨を折ったのも、また事実。であれば用心深いあなたのことだ、『大閣下』にもあなたの各拠点の、その全容を漏らしてはおりますまい。
つまりあなたをこの場で亡き者とすれば」
勿体ぶった話し方と大仰な仕草で、イクトミはアンリ=ルイを責める。
「深淵に広がる偉大な権能を持つ『大閣下』といえども、あなたが拵えた『脚』を使うことは適わぬ、と言うことですな」
「こっ、殺さないでくれ、何でもするからっ」
泣きながらに命乞いをするアンリ=ルイを眺めつつ、イクトミと並んで立っていたアーサー老人が尋ねる。
「何でも? ほう、何でもと言ったかね、ギルマン君」
「え、ええ! 何でもしますとも!」
「ではまず一つ目。『大閣下』は今どこにいるのか、教えてくれるかね? 君なら知っていよう」
アーサー老人の質問に、アンリ=ルイはぺらぺらと簡単に答える。
「はっ、はい! 勿論ですとも! 『大閣下』は現在、O州のクリスタルピークに……」「なるほど」
アンリ=ルイをさえぎり、アーサー老人が続ける。
「見当は付いた。地下帝国と言うわけか。では2つ目の願いだが」
「何でもお申し付けください!」
「詫びてもらおうか」
そう返し、アーサー老人は構えていた散弾銃のレバーを引く。
「わ、詫び? と仰ると……?」
アーサー老人の行動を見て、アンリ=ルイの顔から血の気が引いていく。
「貴様のせいで、苦楽を共にしてきた長年の友が、悪に堕ちたのだ。それを詫びろ」
アーサー老人は散弾銃の銃口を、アンリ=ルイの額に当て――。
「ひっ、やっ、やめっ」「貴様の命でだ」
そして部屋に、弾ける音が響き渡った。
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追討。
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187X年、西部某所。
「ここまで逃げれば、もうご心配はございますまい」
全身傷だらけになった、小山のような若者――後に「猛火牛(レイジングブル)」の悪名を轟かせる怪人、トリスタン・アルジャンが、一人の老人の前にかしずいていた。
「うむ。大儀であった、トリスタン」
「もったいなきお言葉、幸甚(こうじん)の至りでございます」
殊更にへりくだるトリスタンに対し、その老人はそれがさも当然であるように、大仰に振る舞っている。
「して、アンリ=ルイよ」
「はっ……」
神経質そうなヒゲを生やした眼鏡の小男も、トリスタンの横に並んで平伏する。
「当座の本営は、用意してあるのだろうな」
「用意してございます。ここより更に30マイルほどのところに……」
アンリ=ルイが得意満面で答えかけたその途端、老人の顔にかっと朱が差す。
「貴様、今何と申した?」
「は……はい?」
「余の前で長さの単位を、何と申したのだと尋ねておるのだ!」
「ひっ……、あ、あひっ、もっ、申し訳ございません!」
「アメリカのヤード・ポンド法の如き下卑た単位を持ち出すとは、貴様それでも余の臣下かッ!」
バキ、と音を立て、アンリ=ルイの頭に、老人が持っていた杖がめり込む。
「ひいぃ……っ」
「もう一度問うぞ! 次の本営はどこにあるのだ!?」
「あ、あ、ごっ、50キロほど西進した場所にございますです、はいっ!」
「ふん」
折れた杖をアンリ=ルイに投げつけ、老人は不満そうなため息を漏らす。
「この老体にまだ鞭打てと申すのか、貴様ッ」
「それについてはご心配無く」
と、トリスタンが口を開く。
「ダビッドに馬車を手配させております。間も無くこちらへやってくるでしょう」
「おぉ……、そうか、そうか。お前は気が利くのぅ、トリスタン」
老人はニヤニヤと下劣極まりない笑みをトリスタンに向け、それから額から血を流しているアンリ=ルイを、侮蔑的な目つきで見下ろした。
「それに比べて、貴様の粗忽さときたら。何と愚かしいことか!
我が祖国の誇る、完全無欠たるメートル法を軽んじるばかりか、余に更なる労苦を強いようとするとは。
少しはトリスタンを見習えばどうだ」
「申し訳ございません……」
「まあよいわ。そこは、『姫』には漏れておらぬだろうな?」
「その心配は無用と存じます。
このような場合に備え、私めの方で同様の場所を、アメリカ各所に拵(こしら)えております。無論、いずれも私一人しか、所在を知る者はおりません。
その一つでもトリーシャ閣下がその存在に勘付き、場所を突き当ててしまうようなことは、万に一つもございません」
そして――現在。
「万に一つが起こってしまったと言いたげなお顔ですな、アンリ=ルイ」
「ひっ……ひっ……」
イクトミらに拘束されたアンリ=ルイは、恐怖に満ちた顔をその二人に向けていた。
「しかしあなたと、あなたの隠れ家を探し当てるのに幾分か骨を折ったのも、また事実。であれば用心深いあなたのことだ、『大閣下』にもあなたの各拠点の、その全容を漏らしてはおりますまい。
つまりあなたをこの場で亡き者とすれば」
勿体ぶった話し方と大仰な仕草で、イクトミはアンリ=ルイを責める。
「深淵に広がる偉大な権能を持つ『大閣下』といえども、あなたが拵えた『脚』を使うことは適わぬ、と言うことですな」
「こっ、殺さないでくれ、何でもするからっ」
泣きながらに命乞いをするアンリ=ルイを眺めつつ、イクトミと並んで立っていたアーサー老人が尋ねる。
「何でも? ほう、何でもと言ったかね、ギルマン君」
「え、ええ! 何でもしますとも!」
「ではまず一つ目。『大閣下』は今どこにいるのか、教えてくれるかね? 君なら知っていよう」
アーサー老人の質問に、アンリ=ルイはぺらぺらと簡単に答える。
「はっ、はい! 勿論ですとも! 『大閣下』は現在、O州のクリスタルピークに……」「なるほど」
アンリ=ルイをさえぎり、アーサー老人が続ける。
「見当は付いた。地下帝国と言うわけか。では2つ目の願いだが」
「何でもお申し付けください!」
「詫びてもらおうか」
そう返し、アーサー老人は構えていた散弾銃のレバーを引く。
「わ、詫び? と仰ると……?」
アーサー老人の行動を見て、アンリ=ルイの顔から血の気が引いていく。
「貴様のせいで、苦楽を共にしてきた長年の友が、悪に堕ちたのだ。それを詫びろ」
アーサー老人は散弾銃の銃口を、アンリ=ルイの額に当て――。
「ひっ、やっ、やめっ」「貴様の命でだ」
そして部屋に、弾ける音が響き渡った。
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今回はもういっこの連載の方から、色々セルフオマージュしてます。
単に思い付きで。
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