DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 11 ~ 大閣下の逆襲 ~ 3
ウエスタン小説、第3話。
調査結果報告。
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3.
と――どこからか、じりりん、とベルの音が聞こえ、サムがビクッと震える。
「わっ!?」
「電話よ。そんなに驚かなくてもいいでしょ」
「あ、ご、ごめんなさい。僕、大きな音が嫌いで……」
頭を下げるサムにぺら、と手を振り、エミルは踵を返す。
「謝らなくていいわよ。電話、あたしが出るわね。あなたはコーヒーよろしく。
あと、一人称はそろそろ直した方がいいわよ。見た目に合わないもの」
「あ、は、はい、すいま、……あ、いや、……い、行ってきます」
サムがぱたぱたと足音を立てるのを背中で聞きつつ、エミルは電話室に向かった。
じりりん、じりりんとせっかちに鳴き続ける電話の受話器を取り、エミルは応答する。
「はい、こちらパディントン探偵局」
《ふむ、その声はミヌー君か》
年季の入った、しかし威厳と張りを一片も失っていない、その聞き覚えのある声に、エミルは「あら」と声を上げた。
「ボールドロイドさん?」
《うむ。Fはいるかね?》
「折角掛けてきてくれたのに残念だけど、出かけてるわよ。数日は帰って来ないと思うわ。
副局長なら猫ちゃんと一緒に近くの公園を散歩してるから、10分も待ってれば戻って来ると思うけど」
《そうか。では10分後に、……いや、これはFやLだけでなく、君にも伝えておいた方がいいな》
「あたしに?」
《結論から言おう。私とイクトミ君は成功した。アンリ=ルイ・ギルマンの捜索と、そしてその暗殺にな》
「……!」
アーサー老人の報告に、エミルは息を呑む。
その動揺を感じ取ったらしく、アーサー老人が落ち着いた声色を出してくる。
《経緯を、順を追って話そう。
まず、Fの推理は完璧に当たっていた。K、O、N3州で滅多矢鱈に武器を輸送していたジャック某がやはり、我々の標的であるギルマンだったのだ。
とは言え中々に老獪(ろうかい)な相手でな。君たちと別れてから現地入りし、何ヶ月も探りに探って、見付けたのがようやく一昨日と言った体たらくだ。
しかし手がかりをつかんでからは、あっと言う間だった。いや、獅子奮迅の大立ち回りとは正に我々のことだったろう。彼奴の守りを固める荒くれ者どもを次々……》「ちょっと」
アーサー老人の話し方に熱がこもり始めたところで、エミルが水を差す。
「とにかく、あなたたちはギルマンを討ったのね?」
《うむ。これにより、『大閣下』は脚を失ったも同然となった。
即ち、彼奴の擁する私兵団のその大部分が、『大閣下』のいる本営と連絡を取ることが不可能になり、それは実質的に、彼奴らの勢力を大きく削ぐことと同義と言うわけだ。
とは言え、我々の計画は順調ではない。組織の『脚』は潰したものの、一方で『腕』が、即ち彼奴らの有する最強の兵(つわもの)、トリスタン・アルジャンが何の問題も無く、生き残っているからだ》
「それはあたしのせいだって言いたいのかしら?」
多少の棘を込めて返したその一言に、アーサー老人はさして動揺した様子も、謝意を表すような気配も無く、話を続ける。
《無論、困難な作戦行動であり、成功確率が低かったのは確かだ。失敗の可能性が十分にあったことは認めよう。
それでも君ならば、と思っていたのだが。まあ、いい。終わったことを云々したとしても、アルジャンが頓死するわけでも無いからな》
「……」
《とは言え現在、組織に相当のダメージを負わせていることは確かだ。ギルマンから彼奴らの本営も聞き出している。
よって早晩、大規模攻勢を仕掛け、一気に組織を壊滅させたいと考えている。それに君も、参加してもらいたい》
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3.
と――どこからか、じりりん、とベルの音が聞こえ、サムがビクッと震える。
「わっ!?」
「電話よ。そんなに驚かなくてもいいでしょ」
「あ、ご、ごめんなさい。僕、大きな音が嫌いで……」
頭を下げるサムにぺら、と手を振り、エミルは踵を返す。
「謝らなくていいわよ。電話、あたしが出るわね。あなたはコーヒーよろしく。
あと、一人称はそろそろ直した方がいいわよ。見た目に合わないもの」
「あ、は、はい、すいま、……あ、いや、……い、行ってきます」
サムがぱたぱたと足音を立てるのを背中で聞きつつ、エミルは電話室に向かった。
じりりん、じりりんとせっかちに鳴き続ける電話の受話器を取り、エミルは応答する。
「はい、こちらパディントン探偵局」
《ふむ、その声はミヌー君か》
年季の入った、しかし威厳と張りを一片も失っていない、その聞き覚えのある声に、エミルは「あら」と声を上げた。
「ボールドロイドさん?」
《うむ。Fはいるかね?》
「折角掛けてきてくれたのに残念だけど、出かけてるわよ。数日は帰って来ないと思うわ。
副局長なら猫ちゃんと一緒に近くの公園を散歩してるから、10分も待ってれば戻って来ると思うけど」
《そうか。では10分後に、……いや、これはFやLだけでなく、君にも伝えておいた方がいいな》
「あたしに?」
《結論から言おう。私とイクトミ君は成功した。アンリ=ルイ・ギルマンの捜索と、そしてその暗殺にな》
「……!」
アーサー老人の報告に、エミルは息を呑む。
その動揺を感じ取ったらしく、アーサー老人が落ち着いた声色を出してくる。
《経緯を、順を追って話そう。
まず、Fの推理は完璧に当たっていた。K、O、N3州で滅多矢鱈に武器を輸送していたジャック某がやはり、我々の標的であるギルマンだったのだ。
とは言え中々に老獪(ろうかい)な相手でな。君たちと別れてから現地入りし、何ヶ月も探りに探って、見付けたのがようやく一昨日と言った体たらくだ。
しかし手がかりをつかんでからは、あっと言う間だった。いや、獅子奮迅の大立ち回りとは正に我々のことだったろう。彼奴の守りを固める荒くれ者どもを次々……》「ちょっと」
アーサー老人の話し方に熱がこもり始めたところで、エミルが水を差す。
「とにかく、あなたたちはギルマンを討ったのね?」
《うむ。これにより、『大閣下』は脚を失ったも同然となった。
即ち、彼奴の擁する私兵団のその大部分が、『大閣下』のいる本営と連絡を取ることが不可能になり、それは実質的に、彼奴らの勢力を大きく削ぐことと同義と言うわけだ。
とは言え、我々の計画は順調ではない。組織の『脚』は潰したものの、一方で『腕』が、即ち彼奴らの有する最強の兵(つわもの)、トリスタン・アルジャンが何の問題も無く、生き残っているからだ》
「それはあたしのせいだって言いたいのかしら?」
多少の棘を込めて返したその一言に、アーサー老人はさして動揺した様子も、謝意を表すような気配も無く、話を続ける。
《無論、困難な作戦行動であり、成功確率が低かったのは確かだ。失敗の可能性が十分にあったことは認めよう。
それでも君ならば、と思っていたのだが。まあ、いい。終わったことを云々したとしても、アルジャンが頓死するわけでも無いからな》
「……」
《とは言え現在、組織に相当のダメージを負わせていることは確かだ。ギルマンから彼奴らの本営も聞き出している。
よって早晩、大規模攻勢を仕掛け、一気に組織を壊滅させたいと考えている。それに君も、参加してもらいたい》
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