DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 11 ~ 大閣下の逆襲 ~ 6
ウエスタン小説、第6話。
猫撫での副局長。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
「悪い方向?」
尋ねたエミルに、アーサー老人は初めて、憂鬱そうな雰囲気の混じった声で答えた。
《この10年余におけるW&Bの成功は、メルヴィンの懐だけではなく、会社名義の預金・資産をも、相応に太らせてきた。じきにメルヴィンの融資が必要無くなるほどにな。
となればそう遠くないうち、会社はメルヴィンを解雇するだろう。会社の都合が通用しない、わがまま放題の金庫爺など、会社にとってはただただ苛立たしいばかりの存在だからな。
しかしそれはメルヴィンにとって、組織における存在理由を甚(はなは)だしく縮小させることを意味する。資金提供以上に、組織に従順なメルヴィンが『いずれW&Bを掌握できる立場にある』ことが、組織におけるメリットだからだ。
もし本当にスチュアートが、メルヴィンに対して解任動議を起こせば、メルヴィンは必死で抵抗するだろう。スチュアートの暗殺を目論むほどに》
「息子さんは、ワットウッドの正体を知らないの?」
《教えていない。それを知ることは同時に、息子の身を著しく危険に晒すことでもあるからだ。
秘密主義の組織が、その秘密をつかみ、かつ、公に広く知らしめる力のある人間を、脅迫も暗殺もせずに放っておくようなことは、到底考えられない》
「そうね。じゃあ息子さんは今、本当にワットウッドを辞めさせようと?」
《本人から聞いたわけでは無いが、息子の考えていることは手に取るように分かる。
と言うよりも、私がもしメルヴィンの裏の顔を知らずにこの10年経営してきたとしても、確実に解雇を決定するからだ》
「親友って言ってたのに?」
非難めいたエミルの言葉に、アーサー老人は先程と同様の、頑固で淡々とした口調で答えた。
《友情とビジネスは同じ引き出しに入れておくべきでは無い。
私個人の情けや友愛にかまけて会社の利益を、ましてや社会全体の利益を損ねることなど、あってはならないことだ。私はそう考えているが、メルヴィンはそうではない。
ビジネスに関しての見解に小さからざる相違がある以上、彼の協力が必要無くなれば、いずれは手を切っていただろうと、私はそう予想している。無論、友情は友情として、保持し続けるつもりではあったがね。
……私の思い出話はこの辺で終わりにしよう。Lが帰ってきた頃だと思うが、どうかね?》
言われて、エミルは電話室から顔を出し、廊下を確認する。
「あ、エミル? ただいま」
と、三毛猫を抱えて戻ってくる壮年の男性と目が合う。
「おかえりなさい、副局長。ボールドロイドさんから電話よ」
「Aが? 分かった、代わるよ」
副局長――リロイ・ライル・グレースは小さくうなずきつつ、抱えていた猫をエミルに差し出す。
「セイナの相手してて」
「はーい」
エミルは三毛猫を受け取り、オフィスに戻った。
「おかえりなさい、エミルさん」
入ってすぐ、コーヒーをアデルたちに差し出すサムと目が合う。
「あの、副局長はどうされたんですか?」
「電話が来たから話してるところよ。猫預かっててって言われちゃった」
そう答えつつ、エミルは懐の猫の背中を撫でてやる。途端に猫は、ごろろ……、と気持ち良さそうに、のどを鳴らし始めた。
「大人しい猫ですね、本当」
「そうでもないぜ」
その光景にサムが微笑む一方、アデルは早くもドーナツを頬張りながら、苦々しい目で猫を眺めている。
「俺とかロバートが近寄ると、すげえ吠えてくるんだぜ。ばっさばっさ爪で斬られるしさ」
「え、そうなんですか? 僕、普通に触れましたけど……」
きょとんとするサムに、アデルは苦笑して返した。
「どうも男が嫌いなんだろうぜ。副局長を除いて」
「はあ」
と、その飼い主が苦笑いしつつ、話の輪に加わってくる。

「元の飼い主にそっくりだよ。彼女も旦那さん以外の男性には、ろくに話もしないような人だったし。僕はなんでか例外だったけど」
「あ、おかえりなさい、副局長」
「ただいまー」
リロイはエミルの隣に座り、猫を受け取る。
「よいしょっと。……あ、それでエミル、Aの話だけど」
「はい」
「断っておいたよ。あいつ、熱くなるとすぐ無茶言うからね。
まともに付き合ってたら、月まで行く羽目になっちゃうよ」
「ふふ……、ありがとうございます」
エミルは苦笑しつつ、再度猫の背中を撫でてやった。
@au_ringさんをフォロー
猫撫での副局長。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
「悪い方向?」
尋ねたエミルに、アーサー老人は初めて、憂鬱そうな雰囲気の混じった声で答えた。
《この10年余におけるW&Bの成功は、メルヴィンの懐だけではなく、会社名義の預金・資産をも、相応に太らせてきた。じきにメルヴィンの融資が必要無くなるほどにな。
となればそう遠くないうち、会社はメルヴィンを解雇するだろう。会社の都合が通用しない、わがまま放題の金庫爺など、会社にとってはただただ苛立たしいばかりの存在だからな。
しかしそれはメルヴィンにとって、組織における存在理由を甚(はなは)だしく縮小させることを意味する。資金提供以上に、組織に従順なメルヴィンが『いずれW&Bを掌握できる立場にある』ことが、組織におけるメリットだからだ。
もし本当にスチュアートが、メルヴィンに対して解任動議を起こせば、メルヴィンは必死で抵抗するだろう。スチュアートの暗殺を目論むほどに》
「息子さんは、ワットウッドの正体を知らないの?」
《教えていない。それを知ることは同時に、息子の身を著しく危険に晒すことでもあるからだ。
秘密主義の組織が、その秘密をつかみ、かつ、公に広く知らしめる力のある人間を、脅迫も暗殺もせずに放っておくようなことは、到底考えられない》
「そうね。じゃあ息子さんは今、本当にワットウッドを辞めさせようと?」
《本人から聞いたわけでは無いが、息子の考えていることは手に取るように分かる。
と言うよりも、私がもしメルヴィンの裏の顔を知らずにこの10年経営してきたとしても、確実に解雇を決定するからだ》
「親友って言ってたのに?」
非難めいたエミルの言葉に、アーサー老人は先程と同様の、頑固で淡々とした口調で答えた。
《友情とビジネスは同じ引き出しに入れておくべきでは無い。
私個人の情けや友愛にかまけて会社の利益を、ましてや社会全体の利益を損ねることなど、あってはならないことだ。私はそう考えているが、メルヴィンはそうではない。
ビジネスに関しての見解に小さからざる相違がある以上、彼の協力が必要無くなれば、いずれは手を切っていただろうと、私はそう予想している。無論、友情は友情として、保持し続けるつもりではあったがね。
……私の思い出話はこの辺で終わりにしよう。Lが帰ってきた頃だと思うが、どうかね?》
言われて、エミルは電話室から顔を出し、廊下を確認する。
「あ、エミル? ただいま」
と、三毛猫を抱えて戻ってくる壮年の男性と目が合う。
「おかえりなさい、副局長。ボールドロイドさんから電話よ」
「Aが? 分かった、代わるよ」
副局長――リロイ・ライル・グレースは小さくうなずきつつ、抱えていた猫をエミルに差し出す。
「セイナの相手してて」
「はーい」
エミルは三毛猫を受け取り、オフィスに戻った。
「おかえりなさい、エミルさん」
入ってすぐ、コーヒーをアデルたちに差し出すサムと目が合う。
「あの、副局長はどうされたんですか?」
「電話が来たから話してるところよ。猫預かっててって言われちゃった」
そう答えつつ、エミルは懐の猫の背中を撫でてやる。途端に猫は、ごろろ……、と気持ち良さそうに、のどを鳴らし始めた。
「大人しい猫ですね、本当」
「そうでもないぜ」
その光景にサムが微笑む一方、アデルは早くもドーナツを頬張りながら、苦々しい目で猫を眺めている。
「俺とかロバートが近寄ると、すげえ吠えてくるんだぜ。ばっさばっさ爪で斬られるしさ」
「え、そうなんですか? 僕、普通に触れましたけど……」
きょとんとするサムに、アデルは苦笑して返した。
「どうも男が嫌いなんだろうぜ。副局長を除いて」
「はあ」
と、その飼い主が苦笑いしつつ、話の輪に加わってくる。

「元の飼い主にそっくりだよ。彼女も旦那さん以外の男性には、ろくに話もしないような人だったし。僕はなんでか例外だったけど」
「あ、おかえりなさい、副局長」
「ただいまー」
リロイはエミルの隣に座り、猫を受け取る。
「よいしょっと。……あ、それでエミル、Aの話だけど」
「はい」
「断っておいたよ。あいつ、熱くなるとすぐ無茶言うからね。
まともに付き合ってたら、月まで行く羽目になっちゃうよ」
「ふふ……、ありがとうございます」
エミルは苦笑しつつ、再度猫の背中を撫でてやった。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
ブログ「妄想の荒野」の矢端想さんに挿絵を描いていただきました。
ありがとうございます!
ブログ「妄想の荒野」の矢端想さんに挿絵を描いていただきました。
ありがとうございます!
- 関連記事
-
-
DETECTIVE WESTERN 11 ~ 大閣下の逆襲 ~ 8 2018/10/02
-
DETECTIVE WESTERN 11 ~ 大閣下の逆襲 ~ 7 2018/10/01
-
DETECTIVE WESTERN 11 ~ 大閣下の逆襲 ~ 6 2018/09/30
-
DETECTIVE WESTERN 11 ~ 大閣下の逆襲 ~ 5 2018/09/29
-
DETECTIVE WESTERN 11 ~ 大閣下の逆襲 ~ 4 2018/09/28
-



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~