DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 11 ~ 大閣下の逆襲 ~ 7
ウエスタン小説、第7話。
進むべきか、退くべきか。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
「くそッ!」
サルーンの隅に取り付けられた電話に受話器を叩き付け、アーサー老人は毒を吐く。
「Lめ、わざわざ半島での話を持ち出してくることはあるまいに。つくづく嫌味な奴め」
「断られたご様子ですな」
背後にいたイクトミに、アーサー老人は苦々しい顔を向ける。
「ああ、そうとも。Lの奴、『冷静さを欠いた今の君に兵隊を寄越したりなんかしたら、1週間どころか1日で全軍壊滅しちゃうよ。だから絶対だーめ』と抜かしおった。
私のどこが冷静さを欠いていると言うのだ、あの猫撫で親父め!」
「ふむ」
イクトミは腕組みしつつ、こくりとうなずいた。
「ムッシュ・グレースの仰る通りと存じますな」
「何だと?」
「確かに我々はアンリ=ルイを討ち、勢いに乗っていると言えましょう。しかしマドモアゼルがトリスタンを討ち損ねた事実を鑑みれば、本営で我々を待ち受けているのは、そのトリスタンに他なりますまい。
重ねて申し上げますが、わたくしの力量はトリスタンに一歩、二歩ばかり及びません。命も誇りも投げ出した捨て身の攻勢で、どうにか一太刀程度の傷が付けられようか、と言った具合です。
加えて臆病かつ深謀遠慮たる大閣下のこと、本営にも少なからず護衛を付けていることは、想像に難くありません。例えムッシュ・ボールドロイドの目論見通りに兵を集めたとしても、制圧は極めて難しかろうと考えられます。
いや、ムッシュ・グレースにも断られたと言うことであれば、わたくしからもはっきり申し上げましょう。勝算はございません。ここは一旦退いて形勢を立て直すのがよろしいでしょう」
「イクトミ君」
明らかに憤った様子で、アーサー老人は反論する。
「では君は、千載一遇のこの機会をみすみす逃すと言うのか」
「わたくしにはこれが好機であるとは、まったく思えません。言うなれば、崩れる橋に置かれた金塊でしょう。欲に目がくらんで橋を渡れば、待つのは死あるのみです」
「……」
なおも反論しようとしたらしく、アーサー老人は口を開きかけたが、どうにか納得したのだろう――やがて目を伏せ、黙り込んだ。
と、カウンターで酒を飲んでいた男が、「おい」と声をかけてくる。
「あんたら、揉めてるようだが。人手がいるのかい?」
「うん?」
アーサー老人は男の方に振り返り、邪険に返す。
「君には関係の無い話だ。引っ込んでいたまえ」
「まあ、そう言うなって」
男はバーボンの酒瓶を片手に立ち上がり、ニヤニヤ笑いながら二人に近寄ってくる。
「俺は……、そうだな、DJと呼んでくれ」
「DJ?」
「周りからそう呼ばれてるのさ。ちっと本名が長いもんでね。
ああ、そうそう。人手が欲しいって話なら、俺が紹介してやれるぜ」
「なに?」
渋い表情を向けるアーサー老人に、DJは手をぺらぺらと振る。
「まあ、そうにらむなって。自慢じゃないが、色々人脈を持っててね。俺が声をかければ、7~80人はさっと集まる」
「ほう」
アーサー老人はいぶかしげにDJを眺めていたが、やがてこう尋ねた。
「いくらかかる?」
「1人1日4ドル、80人なら1日320ドルだ」
「武装できるか?」
「追加料金、1人1ドル半。旅費も出してくれるならありがたい」
「構わん」
「ムッシュ?」
イクトミが険しい表情を浮かべ、アーサー老人を止めようとする。
「冷静になっていただきたい。普段のあなたなら、こんな怪しい話に乗りはしないはずでしょう?」
「確かにそうだ。だが丁度このタイミングで、人を集められると言うのであれば、多少のリスクは目を瞑(つむ)ろう」
「いや、いや、ムッシュ! リスクがあまりにも大きすぎます!」「構わん!」
アーサー老人は怒鳴り返し、DJに振り返った。
「すぐ用意してくれ。O州のクリスタルピークへ向かう」
「オーケー」
DJはニヤッと口の端を上げ、酒瓶をカウンターに置いた。
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進むべきか、退くべきか。
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7.
「くそッ!」
サルーンの隅に取り付けられた電話に受話器を叩き付け、アーサー老人は毒を吐く。
「Lめ、わざわざ半島での話を持ち出してくることはあるまいに。つくづく嫌味な奴め」
「断られたご様子ですな」
背後にいたイクトミに、アーサー老人は苦々しい顔を向ける。
「ああ、そうとも。Lの奴、『冷静さを欠いた今の君に兵隊を寄越したりなんかしたら、1週間どころか1日で全軍壊滅しちゃうよ。だから絶対だーめ』と抜かしおった。
私のどこが冷静さを欠いていると言うのだ、あの猫撫で親父め!」
「ふむ」
イクトミは腕組みしつつ、こくりとうなずいた。
「ムッシュ・グレースの仰る通りと存じますな」
「何だと?」
「確かに我々はアンリ=ルイを討ち、勢いに乗っていると言えましょう。しかしマドモアゼルがトリスタンを討ち損ねた事実を鑑みれば、本営で我々を待ち受けているのは、そのトリスタンに他なりますまい。
重ねて申し上げますが、わたくしの力量はトリスタンに一歩、二歩ばかり及びません。命も誇りも投げ出した捨て身の攻勢で、どうにか一太刀程度の傷が付けられようか、と言った具合です。
加えて臆病かつ深謀遠慮たる大閣下のこと、本営にも少なからず護衛を付けていることは、想像に難くありません。例えムッシュ・ボールドロイドの目論見通りに兵を集めたとしても、制圧は極めて難しかろうと考えられます。
いや、ムッシュ・グレースにも断られたと言うことであれば、わたくしからもはっきり申し上げましょう。勝算はございません。ここは一旦退いて形勢を立て直すのがよろしいでしょう」
「イクトミ君」
明らかに憤った様子で、アーサー老人は反論する。
「では君は、千載一遇のこの機会をみすみす逃すと言うのか」
「わたくしにはこれが好機であるとは、まったく思えません。言うなれば、崩れる橋に置かれた金塊でしょう。欲に目がくらんで橋を渡れば、待つのは死あるのみです」
「……」
なおも反論しようとしたらしく、アーサー老人は口を開きかけたが、どうにか納得したのだろう――やがて目を伏せ、黙り込んだ。
と、カウンターで酒を飲んでいた男が、「おい」と声をかけてくる。
「あんたら、揉めてるようだが。人手がいるのかい?」
「うん?」
アーサー老人は男の方に振り返り、邪険に返す。
「君には関係の無い話だ。引っ込んでいたまえ」
「まあ、そう言うなって」
男はバーボンの酒瓶を片手に立ち上がり、ニヤニヤ笑いながら二人に近寄ってくる。
「俺は……、そうだな、DJと呼んでくれ」
「DJ?」
「周りからそう呼ばれてるのさ。ちっと本名が長いもんでね。
ああ、そうそう。人手が欲しいって話なら、俺が紹介してやれるぜ」
「なに?」
渋い表情を向けるアーサー老人に、DJは手をぺらぺらと振る。
「まあ、そうにらむなって。自慢じゃないが、色々人脈を持っててね。俺が声をかければ、7~80人はさっと集まる」
「ほう」
アーサー老人はいぶかしげにDJを眺めていたが、やがてこう尋ねた。
「いくらかかる?」
「1人1日4ドル、80人なら1日320ドルだ」
「武装できるか?」
「追加料金、1人1ドル半。旅費も出してくれるならありがたい」
「構わん」
「ムッシュ?」
イクトミが険しい表情を浮かべ、アーサー老人を止めようとする。
「冷静になっていただきたい。普段のあなたなら、こんな怪しい話に乗りはしないはずでしょう?」
「確かにそうだ。だが丁度このタイミングで、人を集められると言うのであれば、多少のリスクは目を瞑(つむ)ろう」
「いや、いや、ムッシュ! リスクがあまりにも大きすぎます!」「構わん!」
アーサー老人は怒鳴り返し、DJに振り返った。
「すぐ用意してくれ。O州のクリスタルピークへ向かう」
「オーケー」
DJはニヤッと口の端を上げ、酒瓶をカウンターに置いた。
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