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    DETECTIVE WESTERN

    DETECTIVE WESTERN 11 ~ 大閣下の逆襲 ~ 10

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    ウエスタン小説、第10話。
    陥穽。

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    10.
     エレベータを出て5分ほど歩いたところで、一行の前に広い空間が現れた。
    「ここが地下帝国のエントランスと言うわけか」
    「……」
     ワットウッド翁はアーサー老人に答えず、背を向けたままでいる。
    「ムッシュ・ワットウッド」
     と、イクトミが口を開いた。
    「ここには人の気配が無いようですが、大閣下はどちらに?」
    「……」
     イクトミにも応じず、ワットウッド翁はランタンを手にしたまま、立ち尽くしている。
    「ここはもぬけのから、と捉えてよろしいのでしょうか」
    「……」
    「何も答えていただけない、……いや、答えようにも困惑していて頭が回らない、と言ったご様子ですな」
    「……っ」
     わずかながらもランタンの灯りが揺れ、ワットウッド翁が動揺したことを、アーサー老人は悟った。
    「何を困っている? 今更、自分の身の振りを迷ったわけでもあるまい」
    「察するに、助けが来ないことに戸惑っておられるのでは?」
     この一言にも、ランタンが揺れる。
    「助けだと? ……まあ、確かにたった一人で私たちを出迎えるような豪胆な真似を、君がするはずも無い。ここで仲間と共に囲むつもりだったのだろう」
    「そ、……そう、だ」
     ランタンをカタカタと揺らしながら、ワットウッド翁が切れ切れに答える。
    「こ、ここで、君と大閣下を、対面させる、はずだった、のだが」
    「ふむ」
     アーサー老人は広間を見渡し、こう尋ねる。
    「そう言えば、さっきイクトミ君が質問したことについて、君は答えていなかったな?
     もし出入り口があのエレベータ一つと言うなら、『地下』帝国としては致命的な欠陥だ。何故なら空気の取り込みが十分にできないからだ。如何に大閣下が怪人的な存在であろうと、そんな造りでは窒息は避けられまい。
     さらに言えば、あのエレベータだけでは、地下帝国を築けるほどの人員や物資を運び込むのは難しい。掘った土砂を外に出すことも然りだ。
     そう考えれば、他に空気孔の役目を併せ持った出入り口があって然るべきだ。先程触れた鉱山の件からも照らし合わせれば、そこにもう一つの出入り口があるのだろう。
     そこから考えれば、……むう」
     朗々と自分の推理を語っていたアーサー老人が、そこで苦々しくうなる。
    「先にこの可能性に気付くべきだったな。であればそこから、兵隊を送ることもできたろうに」
    「そう思って」
     と、奥からぞろぞろと、人が現れる。
    「その鉱山から来てやったぜ、ボールドロイドさん」
    「おお、DJ君。抜け目が無いな」
     アーサー老人は顔をほころばせかけたが――ふたたび、しかめさせた。
    「……鉱山のことを何故、君が知っている?」
    「そりゃあ知ってるさ」
     そう答えつつ、DJは右手を上げる。
     その号令に応じ、彼の背後にいた荒くれ者たちが、一斉に武器を手に取った。
    「俺がここの監督だったからさ」
    「……はぁ」
     その返事を聞いて、イクトミが顔に手を当て、ため息を付いた。
    「ムッシュ、やはり罠でしたな」
    「そのようだな。DJ、貴様も組織の一員だったと言うわけか」
    「そうさ」
     DJは懐からじゃら、と猫目三角形のネックレスを取り出し、ニッと口角を上げる。
    「改めて自己紹介させてもらうぜ。
     俺の名はダビッド・ジュリウス・ヴェルヌ。親父の代から大閣下にお仕えしてる、忠臣の中の忠臣さ。
     ちなみにお聞きの通り長い名前なんで、よくファーストネームとミドルネームをくっつけて呼ばれてる。『DJ』だとか、『ダリウス』だとかな」
    「ダリウス……!?」
     その名を聞き、アーサー老人は一層苦い顔になる。
    「貴様がティム・リード強盗団事件をはじめとして、西部各地の鉄道犯罪に加担していると言う、あのダリウスだったのか」
    「そうさ。……ま、ちょいと説明と自慢、させてくれや」
     そう言って、DJは噛み煙草を口に放り込む。
    「あんたがギルマンを討ったってことは知ってる。いや、正確に言えば、俺達がギルマンをあんたに『討たせた』んだ」
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