「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・往海伝 1
神様たちの話、第146話。
夏の思い出。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
双月暦13年、夏の頃。
「ちゅうても寒い気するんよ」
2歳になったばかりの娘、リンダを抱えながら、エリザは対面に座るゲートにそう言った。
「アタシな、こっちやと何や羽織らんと、手足が冷えてしゃあないねんな。この子も耳、ぷるぷるさしとるし」
「あー、うん、そうなのか」
ゲートはチラ、チラと傍らの妻、メノーに視線を移しつつ、エリザに答える。
「やっぱり、その、何て言うか……、山を越えて北に来ると、気候? って言うのか、そう言うのが多分、違うんだろうな」
「せやろね」
「本当、エリちゃん寒そうにしてるわよね。リンちゃんも」
一方、メノーも自分の娘、テレサを膝に載せたまま、心配そうな顔でエリザを見つめている。
「持って来よっか、上着? 冬用は仕舞っちゃったから、春先のやつしか無いけど」
「ええのん?」
「お耳、震えてるし」
「ありがとな、メノーさん」
「じゃ、あなた。テレサお願い」
「おっ、おう」
テレサを預け、メノーは席を立つ。
子供たちを除き、二人きりになったところで、ゲートが絞り出すような声を上げる。
「……何かなぁ、俺、圧力感じんだけど。君と、メノーからの」
「そらせやろ」
メノーがいた時と一転して、エリザは軽くゲートをにらみつけている。
「アタシとメノーさんが仲良うなって随分経っとんのに、いつまでアンタ、ビクビクしてんねんな」
「うぅ……」
ゲートは自分の頭を抱え――ようとして、慌ててテレサに手を添え直す。
「っと、あぶねっ」
「ホンマ危なっかしいわ」
エリザはリンダの尻尾を撫でながら、こう続ける。
「ウチの方やと『父親になった男は強くなる』言うてるんやけどなぁ。アンタ、子供できる度に弱くなってへん? 5人もおるのに」
「弱くもなるさ……。君との関係が明るみに出たら俺、二度と表を歩けなくなっちまう」
「アホなコト言いなや。バレたらバレた時やん」
「……はぁ」
ゲートもテレサの頭を撫でながら、深いため息をついた。
「俺はダメだ。とても君みたいに、強くなれん」
「情けないなぁ」
「……でも、ハンには強くなってほしいんだよ、そっちの方も」
「そっち?」
尋ねたエリザに、ゲートは疲れをにじませつつも、どうにか笑顔を見せる。
「腕っ節なんかは、訓練すりゃ強くなるさ。だけども何て言ったらいいのかな……、心と言うか、精神と言うか、そう言う方向の強さは、俺には鍛え方が分からん。今だって俺、君やメノーににらまれて、こんな有り様だし。
反面、エリちゃんはすごく、その、気丈って言うか頑固って言うか、折れないって言うか。……まあ、俺が何を言いたいかって言うとな、ハンのそう言う面を、鍛えてやってほしいんだよ。
そっちの鍛え方は、俺より絶対、エリちゃんの方が上手そうだしな」
「アハハ……」
エリザはケラケラと笑いながら、こくこくとうなずいた。
「ええで。アタシにでける範囲で良かったら、みっちり鍛えたるわ」
「……なーんて言うてたんやけどねぇ」
エリザはそこで言葉を切り、離れて兵士たちと会話を交わしていたハンにチラ、と目をやる。
隣りにいたクーも同じようにチラ、とハンを見て、こう返す。
「その仰りようだと、期待通りの結果にはならなかったように聞こえますけれど」
「んー、期待通りっちゅうか、期待以上っちゅうか。
ほら、あの子全然、心開くようなタイプやあらへんやろ?」
「ええ」
「鍛えすぎて、ガッチガチに防御してしまうようになってしもたみたいでなー。自分からごっつ高い壁築いて拒絶してしもてるから、誰とも打ち解けようとせえへんし、誰からも気さくに声かけてもらえへんし、や」
エリザはどこか寂しそうに微笑み、クーに向き直る。
「そのせいか、あの子に積極的に話しかけてくれる女の子――妹除いて――2人しかおらへんねんな。このままやとあの子、ずーっと一人のまんまになって、孤立してしまうわ。
アンタ、そのうちの一人やし、どーにかあの子の心、開いたってほしいんよ」
「ええ。元よりそのつもりですわ」
そう返し、クーは目の前に広がる海に目を向けた。
「だからこそわたくしは今、この船に乗っているのですから」
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双月暦13年、夏の頃。
「ちゅうても寒い気するんよ」
2歳になったばかりの娘、リンダを抱えながら、エリザは対面に座るゲートにそう言った。
「アタシな、こっちやと何や羽織らんと、手足が冷えてしゃあないねんな。この子も耳、ぷるぷるさしとるし」
「あー、うん、そうなのか」
ゲートはチラ、チラと傍らの妻、メノーに視線を移しつつ、エリザに答える。
「やっぱり、その、何て言うか……、山を越えて北に来ると、気候? って言うのか、そう言うのが多分、違うんだろうな」
「せやろね」
「本当、エリちゃん寒そうにしてるわよね。リンちゃんも」
一方、メノーも自分の娘、テレサを膝に載せたまま、心配そうな顔でエリザを見つめている。
「持って来よっか、上着? 冬用は仕舞っちゃったから、春先のやつしか無いけど」
「ええのん?」
「お耳、震えてるし」
「ありがとな、メノーさん」
「じゃ、あなた。テレサお願い」
「おっ、おう」
テレサを預け、メノーは席を立つ。
子供たちを除き、二人きりになったところで、ゲートが絞り出すような声を上げる。
「……何かなぁ、俺、圧力感じんだけど。君と、メノーからの」
「そらせやろ」
メノーがいた時と一転して、エリザは軽くゲートをにらみつけている。
「アタシとメノーさんが仲良うなって随分経っとんのに、いつまでアンタ、ビクビクしてんねんな」
「うぅ……」
ゲートは自分の頭を抱え――ようとして、慌ててテレサに手を添え直す。
「っと、あぶねっ」
「ホンマ危なっかしいわ」
エリザはリンダの尻尾を撫でながら、こう続ける。
「ウチの方やと『父親になった男は強くなる』言うてるんやけどなぁ。アンタ、子供できる度に弱くなってへん? 5人もおるのに」
「弱くもなるさ……。君との関係が明るみに出たら俺、二度と表を歩けなくなっちまう」
「アホなコト言いなや。バレたらバレた時やん」
「……はぁ」
ゲートもテレサの頭を撫でながら、深いため息をついた。
「俺はダメだ。とても君みたいに、強くなれん」
「情けないなぁ」
「……でも、ハンには強くなってほしいんだよ、そっちの方も」
「そっち?」
尋ねたエリザに、ゲートは疲れをにじませつつも、どうにか笑顔を見せる。
「腕っ節なんかは、訓練すりゃ強くなるさ。だけども何て言ったらいいのかな……、心と言うか、精神と言うか、そう言う方向の強さは、俺には鍛え方が分からん。今だって俺、君やメノーににらまれて、こんな有り様だし。
反面、エリちゃんはすごく、その、気丈って言うか頑固って言うか、折れないって言うか。……まあ、俺が何を言いたいかって言うとな、ハンのそう言う面を、鍛えてやってほしいんだよ。
そっちの鍛え方は、俺より絶対、エリちゃんの方が上手そうだしな」
「アハハ……」
エリザはケラケラと笑いながら、こくこくとうなずいた。
「ええで。アタシにでける範囲で良かったら、みっちり鍛えたるわ」
「……なーんて言うてたんやけどねぇ」
エリザはそこで言葉を切り、離れて兵士たちと会話を交わしていたハンにチラ、と目をやる。
隣りにいたクーも同じようにチラ、とハンを見て、こう返す。
「その仰りようだと、期待通りの結果にはならなかったように聞こえますけれど」
「んー、期待通りっちゅうか、期待以上っちゅうか。
ほら、あの子全然、心開くようなタイプやあらへんやろ?」
「ええ」
「鍛えすぎて、ガッチガチに防御してしまうようになってしもたみたいでなー。自分からごっつ高い壁築いて拒絶してしもてるから、誰とも打ち解けようとせえへんし、誰からも気さくに声かけてもらえへんし、や」
エリザはどこか寂しそうに微笑み、クーに向き直る。
「そのせいか、あの子に積極的に話しかけてくれる女の子――妹除いて――2人しかおらへんねんな。このままやとあの子、ずーっと一人のまんまになって、孤立してしまうわ。
アンタ、そのうちの一人やし、どーにかあの子の心、開いたってほしいんよ」
「ええ。元よりそのつもりですわ」
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