「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・往海伝 3
神様たちの話、第148話。
北の地を計る。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
「聞いた感じやとな」
イサコに色々と尋ねた後、エリザはハンとクーを船内の自分の部屋へ呼び、2人に自分の考察を聞かせていた。
「向こうさん、思ってたよりも結構進んでるで」
「進んでる?」
おうむ返しに尋ねたハンに、エリザはぴょこ、と人差し指を立てて見せる。
「アタシが知る限り、双月暦が広まったんは22年前、ソレこそ双月暦元年からや。
ソレまでは時間っちゅうもんの単位は『1日』とか『朝』とか『夏』とか、そんな程度やった。ソレをゼロさんが色々測って決めて教えてってして、ソコから広まったんや」
「存じておりますわ」
クーがうなずき、こう続ける。
「しかしそれは、わたくしたちが住む山の北と、エリザさんたちが住む山の南で使われる知識でしょう? それが海を隔てた場所にまで広まっているとは……」
「そらそうや。せやけどな、向こうも向こうで使てるねん。言うても勿論、双月暦やないで。
聞いたら『天星暦』ちゅうて、向こうの偉いさんが作ったヤツらしいねんな。ちなみに今は、天星暦16年やて」
「偉いさん……、レン・ジーンと言う人物のことですか」
ハンの言葉に、エリザは「そうやろな」とうなずく。
「ちゅうても双月暦に比べたら、数日違うみたいやね。双月暦やと1年の長さ、367日か360日かやろ?」
「4年に1度、双月節の無い閏(うるう)年がございますものね」
「せやけど向こうのんは、365日だけやねん。しかも1年が13ヶ月で、1ヶ月が28日。さらに13月だけ、29日になっとるらしいで」
「え……」
これを聞いて、ハンとクーは顔を見合わせる。
「そりゃ確かに、異邦の地だから文化なり言葉なり、違いはあるだろうとは思ってたが……」
「奇妙に感じられますわね。何故月の日数が異なるのでしょう?」
「イサコくんもソコら辺は詳しないっちゅうとったわ。ま、向こうの偉いさんが独断で決めたんやろから、もしかしたら大した理由は無いんかも知れへんけども。
後、おカネの概念も山の北では双月暦8年か9年頃の話や。ソコら辺からゼロさんが通貨を定めはったからな。向こうでも、10年くらい前に偉いさんが広めたっちゅうてたわ」
「時期としてはほぼ近しい、……と言うわけですわね」
「さらに言うたら、造船技術は圧倒的に向こうさんの方が高いやろな。
アタシらが沿岸をどうにか回れる船造れるか造れへんかっちゅうところで、向こうさんは外洋を渡ってきはったんやからな。
こっちが先んじとるんは、魔術くらいのもんやろな」
「ふむ……」
エリザの意見を聞き、ハンは表情を曇らせる。
「陛下は『まず穏便な話し合いを試み、それが可能であれば交渉を重ね、関係を築いていきたい』と仰っていたが、現状の情報から鑑みて、それが可能かどうか……。
陛下のお考えは、相手と我々とが対等な、あるいは我々が相手以上の力を持っている場合にのみ成立し得るものだからな」
「せやね。もしかしたら、真っ当な話し合いっちゅうのんは難しいかも分からへんな。
と言うか、アタシの予想としてはそもそも、話し合いに至らへんやろなと思とるんよ。元々向こうさん、着いた先で襲えっちゅうてたんやし、向こうの意見なんか聞く耳持ってへんやろからな」
それを聞いて、ハンもクーも、揃ってため息をつく。
「戦いは不可避、か」
「歓迎できる事態ではございませんわね」
「アタシも同感やね」
エリザは首を横に振りつつ、胸元から煙管を取り出す。
「ヒト同士で殴り合い、斬り合いなんかしたところで、何になるっちゅう話やん。アホらしいわ。
いっぺんもバケモノ出とらへんっちゅう話やし、よっぽど向こうさん、平和に過ごしとったんやろな。うらやましいもんやで」
そんなことをこぼしつつ、エリザが煙管に火を点けようとしたところで――。
「エリザさん、ここは船内です。引火したらどうするんですか」
ハンがエリザの手を取り、それを止めた。
「あ……、あーそやったそやった、ゴメンなぁ、アハハ」
「もしかして、今までこっそり吸ってたんじゃないでしょうね? 今見てた感じだと、何の疑問も持たずに吸おうとしてたようですが」
「……てへっ」
エリザは照れ笑いでごまかし、煙管を胸元にしまい込んだ。
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北の地を計る。
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「聞いた感じやとな」
イサコに色々と尋ねた後、エリザはハンとクーを船内の自分の部屋へ呼び、2人に自分の考察を聞かせていた。
「向こうさん、思ってたよりも結構進んでるで」
「進んでる?」
おうむ返しに尋ねたハンに、エリザはぴょこ、と人差し指を立てて見せる。
「アタシが知る限り、双月暦が広まったんは22年前、ソレこそ双月暦元年からや。
ソレまでは時間っちゅうもんの単位は『1日』とか『朝』とか『夏』とか、そんな程度やった。ソレをゼロさんが色々測って決めて教えてってして、ソコから広まったんや」
「存じておりますわ」
クーがうなずき、こう続ける。
「しかしそれは、わたくしたちが住む山の北と、エリザさんたちが住む山の南で使われる知識でしょう? それが海を隔てた場所にまで広まっているとは……」
「そらそうや。せやけどな、向こうも向こうで使てるねん。言うても勿論、双月暦やないで。
聞いたら『天星暦』ちゅうて、向こうの偉いさんが作ったヤツらしいねんな。ちなみに今は、天星暦16年やて」
「偉いさん……、レン・ジーンと言う人物のことですか」
ハンの言葉に、エリザは「そうやろな」とうなずく。
「ちゅうても双月暦に比べたら、数日違うみたいやね。双月暦やと1年の長さ、367日か360日かやろ?」
「4年に1度、双月節の無い閏(うるう)年がございますものね」
「せやけど向こうのんは、365日だけやねん。しかも1年が13ヶ月で、1ヶ月が28日。さらに13月だけ、29日になっとるらしいで」
「え……」
これを聞いて、ハンとクーは顔を見合わせる。
「そりゃ確かに、異邦の地だから文化なり言葉なり、違いはあるだろうとは思ってたが……」
「奇妙に感じられますわね。何故月の日数が異なるのでしょう?」
「イサコくんもソコら辺は詳しないっちゅうとったわ。ま、向こうの偉いさんが独断で決めたんやろから、もしかしたら大した理由は無いんかも知れへんけども。
後、おカネの概念も山の北では双月暦8年か9年頃の話や。ソコら辺からゼロさんが通貨を定めはったからな。向こうでも、10年くらい前に偉いさんが広めたっちゅうてたわ」
「時期としてはほぼ近しい、……と言うわけですわね」
「さらに言うたら、造船技術は圧倒的に向こうさんの方が高いやろな。
アタシらが沿岸をどうにか回れる船造れるか造れへんかっちゅうところで、向こうさんは外洋を渡ってきはったんやからな。
こっちが先んじとるんは、魔術くらいのもんやろな」
「ふむ……」
エリザの意見を聞き、ハンは表情を曇らせる。
「陛下は『まず穏便な話し合いを試み、それが可能であれば交渉を重ね、関係を築いていきたい』と仰っていたが、現状の情報から鑑みて、それが可能かどうか……。
陛下のお考えは、相手と我々とが対等な、あるいは我々が相手以上の力を持っている場合にのみ成立し得るものだからな」
「せやね。もしかしたら、真っ当な話し合いっちゅうのんは難しいかも分からへんな。
と言うか、アタシの予想としてはそもそも、話し合いに至らへんやろなと思とるんよ。元々向こうさん、着いた先で襲えっちゅうてたんやし、向こうの意見なんか聞く耳持ってへんやろからな」
それを聞いて、ハンもクーも、揃ってため息をつく。
「戦いは不可避、か」
「歓迎できる事態ではございませんわね」
「アタシも同感やね」
エリザは首を横に振りつつ、胸元から煙管を取り出す。
「ヒト同士で殴り合い、斬り合いなんかしたところで、何になるっちゅう話やん。アホらしいわ。
いっぺんもバケモノ出とらへんっちゅう話やし、よっぽど向こうさん、平和に過ごしとったんやろな。うらやましいもんやで」
そんなことをこぼしつつ、エリザが煙管に火を点けようとしたところで――。
「エリザさん、ここは船内です。引火したらどうするんですか」
ハンがエリザの手を取り、それを止めた。
「あ……、あーそやったそやった、ゴメンなぁ、アハハ」
「もしかして、今までこっそり吸ってたんじゃないでしょうね? 今見てた感じだと、何の疑問も持たずに吸おうとしてたようですが」
「……てへっ」
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