「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・往海伝 5
神様たちの話、第150話。
薄ら暗い傲慢。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
目的こそ、「ジーン軍に対しての和平交渉」と言う堅いものではあったが、遠征隊のほとんどは、それよりももっと純粋な心持ちで、この任務に当たっていた。
「おーい、ロウのおっちゃーん」
「おう、なんだ?」
「魚釣ったんだけどさー、これ食えるヤツ?」
「ん? 見せてみ」
兵士たちが釣ってきた魚を確認し、ロウはにっかりと笑って返す。
「全部食えるぜ。しかも高級魚ばっかじゃねーか。ノースポートで売ったら、3千クラムは稼げる」
「マジか!」
「うへへ、晩メシ楽しみ……」
一様に顔をほころばせる兵士たちをよそに、ロウも魚籠の中を眺め、感心した声を漏らしている。
「しっかしマジで高級魚ばっかだな。もっと早くこの島知ってりゃ、マジで荒稼ぎできたな」
こんな風に――「ゼロの世界」に住まう人間にとっての――前人未到の新天地を目指すこと自体に、兵士の誰もが心躍らせ、浮かれていた。
とは言え、そうでない者も若干名ながら存在することも、大人数が集まる組織の宿命・必然である。
(……けっ)
浜辺で騒ぐ者たちを侮蔑(ぶべつ)の眼差しで見下ろしながら、シェロは測量用の竿を握りしめていた。
(遊び気分かよ。なんならこの後、浜辺で楽しくお遊戯会でもするか? クソ共め)
と、遠くで測量器ごしに眺めてきていたハンから、咎める声が飛んで来る。
「シェロ、傾いてる。直してくれ」
「っと、……はーい、すんませーん」
竿の傾きを直しつつ、シェロは離れたハンをにらみつける。
(ま、この距離なら俺がどんな顔してるかなんて、分かりゃしないだろ)
竿が垂直になったことを確認し、シェロはもう一度、浜辺に視線を落とす。
(……ん? もう夕方なのか?)
波打ち際にいる兵士たちの影が大分長くなっていることに気付き、シェロはハンに声をかける。
「尉官、今何時スか?」
「うん? そうだな、大体3時ってところ、……うん?」
ハンが水平線に沈もうとしている太陽を見て、首をかしげる。
「……ふむ」
太陽と反対方向に出ていた星を眺め、手帳を取り出し、何かを書き付けて、ハンはシェロに向き直る。
「クロスセントラルであれば、3時過ぎくらいだろう。星の位置から考えれば、それで間違い無いはずだ。
だが確かに、日暮れが随分早い。思ったより俺たちは、北上してるらしい」
「みたいっスね」
「暦の上じゃ2月の半ばだし、これから暖かくなるだろうと考えていたが、ノースポートからここまで進んだだけでこんなに日照時間が短くなるとしたら、もしかしたら進軍につれ、予想以上に寒くなってくるかも知れないな。
一応、防寒対策をしておいた方がいいだろう」
「そっスね」
短い会話を交わす間にハンは計測を終えたらしく、測量器を抱えながら、シェロのところにやって来た。
それを確認し、シェロは竿を引き抜く。
「じゃ、次のポイントに竿、立てて来ますね」
「ああ」
別の場所で同じように竿を構えるビートにハンが視線を移したところで、シェロは彼に背を向けたまま、毒づいていた。
(別にいーだろーが……もう、こんなの。
俺たちはもう、せせこましく山奥やら海岸をうろつくような仕事する身じゃねーだろっつの。いつまでこんなみみっちいことやってんだよ?)
と、距離を測っていたマリアが、シェロの側を通りがかり、チラ、と目線を合わせた。
「ひどい顔だね。不満たらたらって感じ」
「え?」
そう声をかけられ、シェロは立ち止まる。
「何ですって?」
尋ねたシェロに、マリアは苛立ちのこもった目を向ける。
「『こんなことやってられるかー』、って顔してる。そんなに嫌なら、尉官にそう言えば?」
「……見当違いっスよ。兵士たる者、上官の命令には服従するもんでしょう? 文句なんかありませんよ」
「あっそ」
それ以上何も言わず、シェロはその場を離れる。
マリアもそのまま計測に戻り、ハンのところに着く。
「何歩だ?」
尋ねたハンに、マリアは指折りつつ答える。
「えーと……、行きが74歩、帰りが65歩ですね」
「74歩とろく、……え、65?」
ハンがけげんな顔をし、尋ね返す。
「行きと帰りで歩数がずれまくってるな。帰り、大股で歩いてたんじゃないか?」
「あー……、かも知れないですねー」
「何度も言ってるが、歩幅は普通に歩く感じで揃えてくれ。でないと……」「でないと計算狂っちゃう、でしたね。すみませーん」
マリアはぺろっと舌を出し、くるんと踵を返して、次の計測を始めた。
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目的こそ、「ジーン軍に対しての和平交渉」と言う堅いものではあったが、遠征隊のほとんどは、それよりももっと純粋な心持ちで、この任務に当たっていた。
「おーい、ロウのおっちゃーん」
「おう、なんだ?」
「魚釣ったんだけどさー、これ食えるヤツ?」
「ん? 見せてみ」
兵士たちが釣ってきた魚を確認し、ロウはにっかりと笑って返す。
「全部食えるぜ。しかも高級魚ばっかじゃねーか。ノースポートで売ったら、3千クラムは稼げる」
「マジか!」
「うへへ、晩メシ楽しみ……」
一様に顔をほころばせる兵士たちをよそに、ロウも魚籠の中を眺め、感心した声を漏らしている。
「しっかしマジで高級魚ばっかだな。もっと早くこの島知ってりゃ、マジで荒稼ぎできたな」
こんな風に――「ゼロの世界」に住まう人間にとっての――前人未到の新天地を目指すこと自体に、兵士の誰もが心躍らせ、浮かれていた。
とは言え、そうでない者も若干名ながら存在することも、大人数が集まる組織の宿命・必然である。
(……けっ)
浜辺で騒ぐ者たちを侮蔑(ぶべつ)の眼差しで見下ろしながら、シェロは測量用の竿を握りしめていた。
(遊び気分かよ。なんならこの後、浜辺で楽しくお遊戯会でもするか? クソ共め)
と、遠くで測量器ごしに眺めてきていたハンから、咎める声が飛んで来る。
「シェロ、傾いてる。直してくれ」
「っと、……はーい、すんませーん」
竿の傾きを直しつつ、シェロは離れたハンをにらみつける。
(ま、この距離なら俺がどんな顔してるかなんて、分かりゃしないだろ)
竿が垂直になったことを確認し、シェロはもう一度、浜辺に視線を落とす。
(……ん? もう夕方なのか?)
波打ち際にいる兵士たちの影が大分長くなっていることに気付き、シェロはハンに声をかける。
「尉官、今何時スか?」
「うん? そうだな、大体3時ってところ、……うん?」
ハンが水平線に沈もうとしている太陽を見て、首をかしげる。
「……ふむ」
太陽と反対方向に出ていた星を眺め、手帳を取り出し、何かを書き付けて、ハンはシェロに向き直る。
「クロスセントラルであれば、3時過ぎくらいだろう。星の位置から考えれば、それで間違い無いはずだ。
だが確かに、日暮れが随分早い。思ったより俺たちは、北上してるらしい」
「みたいっスね」
「暦の上じゃ2月の半ばだし、これから暖かくなるだろうと考えていたが、ノースポートからここまで進んだだけでこんなに日照時間が短くなるとしたら、もしかしたら進軍につれ、予想以上に寒くなってくるかも知れないな。
一応、防寒対策をしておいた方がいいだろう」
「そっスね」
短い会話を交わす間にハンは計測を終えたらしく、測量器を抱えながら、シェロのところにやって来た。
それを確認し、シェロは竿を引き抜く。
「じゃ、次のポイントに竿、立てて来ますね」
「ああ」
別の場所で同じように竿を構えるビートにハンが視線を移したところで、シェロは彼に背を向けたまま、毒づいていた。
(別にいーだろーが……もう、こんなの。
俺たちはもう、せせこましく山奥やら海岸をうろつくような仕事する身じゃねーだろっつの。いつまでこんなみみっちいことやってんだよ?)
と、距離を測っていたマリアが、シェロの側を通りがかり、チラ、と目線を合わせた。
「ひどい顔だね。不満たらたらって感じ」
「え?」
そう声をかけられ、シェロは立ち止まる。
「何ですって?」
尋ねたシェロに、マリアは苛立ちのこもった目を向ける。
「『こんなことやってられるかー』、って顔してる。そんなに嫌なら、尉官にそう言えば?」
「……見当違いっスよ。兵士たる者、上官の命令には服従するもんでしょう? 文句なんかありませんよ」
「あっそ」
それ以上何も言わず、シェロはその場を離れる。
マリアもそのまま計測に戻り、ハンのところに着く。
「何歩だ?」
尋ねたハンに、マリアは指折りつつ答える。
「えーと……、行きが74歩、帰りが65歩ですね」
「74歩とろく、……え、65?」
ハンがけげんな顔をし、尋ね返す。
「行きと帰りで歩数がずれまくってるな。帰り、大股で歩いてたんじゃないか?」
「あー……、かも知れないですねー」
「何度も言ってるが、歩幅は普通に歩く感じで揃えてくれ。でないと……」「でないと計算狂っちゃう、でしたね。すみませーん」
マリアはぺろっと舌を出し、くるんと踵を返して、次の計測を始めた。
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150話到達。
当初の予想・予定より話のボリュームが膨れていくのはいつものことですが、
今回も膨れ上がってます。そりゃもうぷっくぷくです。
300話くらいで終わるんじゃないかと思ってましたが、第4部終了時点で既に210話。
この調子じゃまだまだ終わりそうにありません。葵の予知は的中です。
150話到達。
当初の予想・予定より話のボリュームが膨れていくのはいつものことですが、
今回も膨れ上がってます。そりゃもうぷっくぷくです。
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この調子じゃまだまだ終わりそうにありません。葵の予知は的中です。



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