「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・往海伝 6
神様たちの話、第151話。
勤務調整。
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6.
その日の測量を終え、ハンたちは浜辺に戻ってきた。
と同時に、エリザがニコニコしながら近付いて来る。
「おつかれさーん。ご飯できとるでー」
「あ、はい」
軽く会釈して応じたハンに、エリザは依然ニコニコしたまま、顔を近付けて来る。
「クーちゃんも調理班やで、今日のんは」
「あ、はい」
同じ言葉を繰り返し、ハンは首をかしげる。
「それが何か?」
「何かやあらへんがな」
エリザはぐいっとハンの首に腕を回し、引き寄せる。
「アンタのためにお姫様が細腕振るったんやないの。感謝して食べやっちゅう話やんか」
「ああ、はい」
三度生返事したところで、エリザが腕に力を込め、ハンの首を絞めた。
「アンタなぁ~……」
「な、何です? 苦し、い、息がっ」
「堅物も大概にせえよ。もうちょいうれしそうな声出せっちゅうねん」
「うぐぐぐ……」
ハンが絞められている間に、マリアたちは既に席に向かっていた。
「本当、尉官とエリザ先生、仲いいよねー」
「船の上でも散々じゃれ合ってましたしね」
「相変わらずって感じっスね」
席に着いたところで、エプロン姿のクーが鍋を抱えて現れる。
「あら、皆様。お仕事、ご苦労様でした」
「やー、クーちゃん。今日のお料理、どんなのー?」
期待のこもった眼差しを向けるマリアに、クーは鍋を机に置き、ふたを開けて見せる。
「まだお寒い時期ですから、シチューにいたしました。と申しましても、洋上ですから乳成分は貴重ですし、厳密に申せば海鮮煮込みと言うようなものになりますけれど」
「わは~」
鍋の中身を見るなり、マリアが目を輝かせる。
「何の魚? 何の魚?」
「ロウさんから伺った話では、タイの一種ではないかと。沢山獲れたと仰っていましたから、遠慮無く召し上がって下さい」
「え、タイ? あの赤い、美味しいの?」
「ええ。この島では随分良く獲れると、皆さん楽しそうに話されていました」
「何それ、楽しそー!」
マリアはくるっと振り返り、ようやくエリザから解放されたハンにブンブンと手を振る。
「尉官、尉官っ! 明日あたし、釣りして来ていいですかっ!?」
「釣り? いや、無理だろ」
が、ハンはにべもなく却下する。
「この島で十分な測量を行うには、最低でも2週間は必要だ。
そして滞在期間は、2週間が限度だろう。トロコフ尉官によれば、北の大陸に到着するまでに、島は全部で5つ。島ひとつにそれ以上かけてたら、大陸到着までどれだけかかるか。
だからこの島に滞在中は、休み無しで頑張って欲しい」
「ちぇー」
マリアが拗ねた顔をしたところで、クーが手を挙げる。
「あの、どうしても測量を行わなければならないのであれば、わたくしが代わりを務めましょうか?」
「え?」
けげんな顔をしたハンに、クーがにこっと笑みを向ける。
「いくら何でも、全員出動で2週間も休み無く働いていては、誰か倒れてしまいます。
父上も『十分な働きをするためには十分に休まなければならない』と仰っていましたし、上官であれば部下を適切に管理するべきなのでは?」
「む……」
クーの説得に、ハンは渋い顔を向ける。
「しかし、『代わり』と言ったが、君に測量ができるのか?」
「方法は存じております。角度計算や天体観測もいたせますわよ」
そう返され、ハンは面食らった顔になる。
「そうなのか?」
「いつか、あなた方に随行しようと申し出たことがございましたでしょう? 必要になるだろうと存じまして、勉強いたしましたの」
「そうか……。それなら、まあ……」
ハンはマリアに目を向け、渋々とした口ぶりでこう返した。
「クーもこう言ってくれたし、許可する。明日は休んでいい」
「ホントですか! やったー!」
満面の笑みを浮かべ小躍りし始めたマリアを、クーは微笑ましげに――そしてハンは苦々しげに眺めていた。
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その日の測量を終え、ハンたちは浜辺に戻ってきた。
と同時に、エリザがニコニコしながら近付いて来る。
「おつかれさーん。ご飯できとるでー」
「あ、はい」
軽く会釈して応じたハンに、エリザは依然ニコニコしたまま、顔を近付けて来る。
「クーちゃんも調理班やで、今日のんは」
「あ、はい」
同じ言葉を繰り返し、ハンは首をかしげる。
「それが何か?」
「何かやあらへんがな」
エリザはぐいっとハンの首に腕を回し、引き寄せる。
「アンタのためにお姫様が細腕振るったんやないの。感謝して食べやっちゅう話やんか」
「ああ、はい」
三度生返事したところで、エリザが腕に力を込め、ハンの首を絞めた。
「アンタなぁ~……」
「な、何です? 苦し、い、息がっ」
「堅物も大概にせえよ。もうちょいうれしそうな声出せっちゅうねん」
「うぐぐぐ……」
ハンが絞められている間に、マリアたちは既に席に向かっていた。
「本当、尉官とエリザ先生、仲いいよねー」
「船の上でも散々じゃれ合ってましたしね」
「相変わらずって感じっスね」
席に着いたところで、エプロン姿のクーが鍋を抱えて現れる。
「あら、皆様。お仕事、ご苦労様でした」
「やー、クーちゃん。今日のお料理、どんなのー?」
期待のこもった眼差しを向けるマリアに、クーは鍋を机に置き、ふたを開けて見せる。
「まだお寒い時期ですから、シチューにいたしました。と申しましても、洋上ですから乳成分は貴重ですし、厳密に申せば海鮮煮込みと言うようなものになりますけれど」
「わは~」
鍋の中身を見るなり、マリアが目を輝かせる。
「何の魚? 何の魚?」
「ロウさんから伺った話では、タイの一種ではないかと。沢山獲れたと仰っていましたから、遠慮無く召し上がって下さい」
「え、タイ? あの赤い、美味しいの?」
「ええ。この島では随分良く獲れると、皆さん楽しそうに話されていました」
「何それ、楽しそー!」
マリアはくるっと振り返り、ようやくエリザから解放されたハンにブンブンと手を振る。
「尉官、尉官っ! 明日あたし、釣りして来ていいですかっ!?」
「釣り? いや、無理だろ」
が、ハンはにべもなく却下する。
「この島で十分な測量を行うには、最低でも2週間は必要だ。
そして滞在期間は、2週間が限度だろう。トロコフ尉官によれば、北の大陸に到着するまでに、島は全部で5つ。島ひとつにそれ以上かけてたら、大陸到着までどれだけかかるか。
だからこの島に滞在中は、休み無しで頑張って欲しい」
「ちぇー」
マリアが拗ねた顔をしたところで、クーが手を挙げる。
「あの、どうしても測量を行わなければならないのであれば、わたくしが代わりを務めましょうか?」
「え?」
けげんな顔をしたハンに、クーがにこっと笑みを向ける。
「いくら何でも、全員出動で2週間も休み無く働いていては、誰か倒れてしまいます。
父上も『十分な働きをするためには十分に休まなければならない』と仰っていましたし、上官であれば部下を適切に管理するべきなのでは?」
「む……」
クーの説得に、ハンは渋い顔を向ける。
「しかし、『代わり』と言ったが、君に測量ができるのか?」
「方法は存じております。角度計算や天体観測もいたせますわよ」
そう返され、ハンは面食らった顔になる。
「そうなのか?」
「いつか、あなた方に随行しようと申し出たことがございましたでしょう? 必要になるだろうと存じまして、勉強いたしましたの」
「そうか……。それなら、まあ……」
ハンはマリアに目を向け、渋々とした口ぶりでこう返した。
「クーもこう言ってくれたし、許可する。明日は休んでいい」
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