「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・往海伝 8
神様たちの話、第153話。
エリザの目論見。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
8.
結局、遠征開始後すぐに到着したこの島――後にホープ島と名付けられた――に滞在中、隊長のハンは一度も休みを取らなかった。
また、一方の副隊長であるエリザは対照的に、毎日のように隊員たちと釣りや雑談、賭け事などに興じ、皆からより一層慕われるようになった。
と同時に――。
「……こんなトコやね」
航海を再開して以降、エリザはずっと、皆が釣った魚や雑談の内容、しれっとトロコフ隊から巻き上げた賭け金の額などを書類にまとめていた。
と、主に魚について助言したり、書類の整理を手伝ったりしていたロウが、その様子を眺めながら尋ねる。
「こんなのまとめて、何か意味あるんスか?」
「色々な」
エリザは書類をロウに渡し、こう答える。
「ドコでどんな魚釣れるかっちゅうのんが分かったら、便利やろ?」
「そりゃまあ。でも知ってる奴に聞けば……」
「知ってはる人が100年生きてくれるんやったらソレでええやろけど、何やうっかりしてぽっくり死んでしもたら、誰も分からへんなるかも知れへんやろ?
そう言う時のための、資料っちゅうワケや」
「なるほどっス」
書類を紐でまとめながら、ロウはうんうんとうなずく。
「じゃあ、皆の話とかのアレは?」
「皆の口に上るもんは大抵、皆の『こーしてほしい』、『こう言うのんがあればええのに』っちゅう希望、期待が込められとるもんやん?
そう言うんをまとめといて、後で『でけたでー』言うて用意したったら、皆嬉しいやん」
「いいっスね」
「イサコくんらから巻き上げたカネは、『向こう』着いた時に使えるしな。いくら持ってるか把握しといた方がええやろ」
「……全部、考えずくで動いてたんスか?」
どこか恐ろしいものを見るような目で見つめてきたロウに、エリザはケラケラ笑って返す。
「アホなコト言いなや。そんなワケあるかいな。
最初から『こう言うコトでけるやろ』と目論んで遊ぶヤツおったら、うっとおしくてかなわんわ。最初は全部、『面白そう』『楽しそう』くらいにしか考えてへんよ、アタシ。
そう言うコト考え付くんは、遊んだ後になってからやね。ま、何もアイデア浮かばへんで、ただ遊ぶだけになるコトも、結構多いけどもな」
「はは……」
「ソレ考えると、ホンマに師匠は最初から最後まで、遊んでばっかの人やったよーな気もするわ」
話題がエリザの師匠――「大魔法使い」モールの話になり、ロウは苦い顔をする。
「モールさんっスか……。今でも俺、あの人はあんまり好きになれないんスよね」
「そうなん?」
「俺、散々あの人に『アホ』だの『バカ』だの言われ倒してたんで」
「アハハ、そらうっとおしいな。でもアレ、先生の口癖みたいなトコがあったからなぁ。
アタシかてよお言われたで、『君は向こう見ずで人でなしのクソみたいなバカだね』っちゅうてな」
「うわぁ……」
一層苦い顔を見せたロウに、エリザは同じように、笑って済ませる。
「人間誰でも、ええトコと悪いトコがあるもんや。先生は頭良くて色々心配してくれる、ええ人やったよ。
悪いトコは唯一、口だけやな。口に関してだけは、絶望的に悪いトコがあったっちゅうだけや。
アタシもどっちかっちゅうと口悪い方やから、先生とはウマ合うてたけど、慣れへん人はどうしても慣れへんやろなぁ。
……ふー」
書類が机の上から無くなったところで、エリザは胸元から煙管を取り出し、煙草を吸い始める。
「結局、アレから一度も会うてへんけど、今どないしてはるんやろなぁ」
「さあ……? 俺も全然、うわさとか聞かないっスねぇ」
ロウも書類をまとめ終え、棚に収めていく。
「そんじゃボチボチ、俺寝ますわ。おつかれっス」
「ん、ありがとさん」
ロウが部屋を出た後も、エリザはしばらく無言で煙草をふかしていた。
「……ふー」
部屋の中がうっすら白くなり始めたところで、エリザは煙管を口から離し、ぼそ、とつぶやいた。
「アレから20年近く経つけども、誰も知らへん、か。
ホウオウさんの方もさっぱり聞かへんし、……何なんやろ? 本気でこのまま、アタシに会わへんつもりやろか。
いっぺんくらい、ロイドとリンダに会わせてやりたいねんけどなー……」
エリザは煙管をくわえ直しつつ、たった今収められたばかりの書類に手を伸ばす。
「……としてもや。あんだけトガった人らやし、隠れて過ごしとっても、ドコかで目立つはずや。必ず、誰かがうわさする。そう言う人らや。
いつか、こっちから会いに行って、ウチまで引っ張り込んだるからな」
琥珀暁・往海伝 終
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エリザの目論見。
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結局、遠征開始後すぐに到着したこの島――後にホープ島と名付けられた――に滞在中、隊長のハンは一度も休みを取らなかった。
また、一方の副隊長であるエリザは対照的に、毎日のように隊員たちと釣りや雑談、賭け事などに興じ、皆からより一層慕われるようになった。
と同時に――。
「……こんなトコやね」
航海を再開して以降、エリザはずっと、皆が釣った魚や雑談の内容、しれっとトロコフ隊から巻き上げた賭け金の額などを書類にまとめていた。
と、主に魚について助言したり、書類の整理を手伝ったりしていたロウが、その様子を眺めながら尋ねる。
「こんなのまとめて、何か意味あるんスか?」
「色々な」
エリザは書類をロウに渡し、こう答える。
「ドコでどんな魚釣れるかっちゅうのんが分かったら、便利やろ?」
「そりゃまあ。でも知ってる奴に聞けば……」
「知ってはる人が100年生きてくれるんやったらソレでええやろけど、何やうっかりしてぽっくり死んでしもたら、誰も分からへんなるかも知れへんやろ?
そう言う時のための、資料っちゅうワケや」
「なるほどっス」
書類を紐でまとめながら、ロウはうんうんとうなずく。
「じゃあ、皆の話とかのアレは?」
「皆の口に上るもんは大抵、皆の『こーしてほしい』、『こう言うのんがあればええのに』っちゅう希望、期待が込められとるもんやん?
そう言うんをまとめといて、後で『でけたでー』言うて用意したったら、皆嬉しいやん」
「いいっスね」
「イサコくんらから巻き上げたカネは、『向こう』着いた時に使えるしな。いくら持ってるか把握しといた方がええやろ」
「……全部、考えずくで動いてたんスか?」
どこか恐ろしいものを見るような目で見つめてきたロウに、エリザはケラケラ笑って返す。
「アホなコト言いなや。そんなワケあるかいな。
最初から『こう言うコトでけるやろ』と目論んで遊ぶヤツおったら、うっとおしくてかなわんわ。最初は全部、『面白そう』『楽しそう』くらいにしか考えてへんよ、アタシ。
そう言うコト考え付くんは、遊んだ後になってからやね。ま、何もアイデア浮かばへんで、ただ遊ぶだけになるコトも、結構多いけどもな」
「はは……」
「ソレ考えると、ホンマに師匠は最初から最後まで、遊んでばっかの人やったよーな気もするわ」
話題がエリザの師匠――「大魔法使い」モールの話になり、ロウは苦い顔をする。
「モールさんっスか……。今でも俺、あの人はあんまり好きになれないんスよね」
「そうなん?」
「俺、散々あの人に『アホ』だの『バカ』だの言われ倒してたんで」
「アハハ、そらうっとおしいな。でもアレ、先生の口癖みたいなトコがあったからなぁ。
アタシかてよお言われたで、『君は向こう見ずで人でなしのクソみたいなバカだね』っちゅうてな」
「うわぁ……」
一層苦い顔を見せたロウに、エリザは同じように、笑って済ませる。
「人間誰でも、ええトコと悪いトコがあるもんや。先生は頭良くて色々心配してくれる、ええ人やったよ。
悪いトコは唯一、口だけやな。口に関してだけは、絶望的に悪いトコがあったっちゅうだけや。
アタシもどっちかっちゅうと口悪い方やから、先生とはウマ合うてたけど、慣れへん人はどうしても慣れへんやろなぁ。
……ふー」
書類が机の上から無くなったところで、エリザは胸元から煙管を取り出し、煙草を吸い始める。
「結局、アレから一度も会うてへんけど、今どないしてはるんやろなぁ」
「さあ……? 俺も全然、うわさとか聞かないっスねぇ」
ロウも書類をまとめ終え、棚に収めていく。
「そんじゃボチボチ、俺寝ますわ。おつかれっス」
「ん、ありがとさん」
ロウが部屋を出た後も、エリザはしばらく無言で煙草をふかしていた。
「……ふー」
部屋の中がうっすら白くなり始めたところで、エリザは煙管を口から離し、ぼそ、とつぶやいた。
「アレから20年近く経つけども、誰も知らへん、か。
ホウオウさんの方もさっぱり聞かへんし、……何なんやろ? 本気でこのまま、アタシに会わへんつもりやろか。
いっぺんくらい、ロイドとリンダに会わせてやりたいねんけどなー……」
エリザは煙管をくわえ直しつつ、たった今収められたばかりの書類に手を伸ばす。
「……としてもや。あんだけトガった人らやし、隠れて過ごしとっても、ドコかで目立つはずや。必ず、誰かがうわさする。そう言う人らや。
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