「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・彼港伝 1
神様たちの話、第154話。
彼の国の港。
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1.
ホープ島を出発してからさらに3ヶ月、4つの島を越えて、遠征隊はついに、北方の地に到着しようとしていた。
「あれが『我々の世界』における唯一の不凍港、テプロイモアだ」
船の前方に見える港町を指差したイサコ尉官に、ハンが尋ねる。
「意味は……、『温かい海』とでも言えばいいのか?」
「そうだ。貴官らには変わらず寒い場所ではあろうが、我々にとっては最も南に位置する、実りある土地である。とは言え山間部に比べればその収穫も、さほどでは無いが」
「言うてたね、そんなん」
話の輪に、エリザが入ってくる。
「山の方はお芋さんやらカボチャさんやら仰山取れるけど、海に近い方は農業、あんまり上手いコト行ってへんって、そんなん聞いたけど」
「ええ。とは言え海ですから、水産物に関しては獲れることは獲れるのです。ただ、一年を通して寒さが厳しいので……」
「漁場が凍ってしまう、と言うわけか」
「うむ。どうにか港を出ても、海の方が凍り付いていることもある。そうした事情もあり、街を完全に賄えるほどの漁獲量は期待できない。それに不凍港とは言ったものの、厳寒期には凍ってしまう。
故にあの街に住む者は皆、常に飢えと戦っているようなものだ」
「詳しいな。トロコフ尉官は、南の方に?」
尋ねたハンに、イサコは深々とうなずく。
「うむ。実を言えば、故郷はあの街だ」
と、エリザが手を挙げる。
「そう言えば、あんまり詳しく聞いてへんかったかもやけど」
「何でしょう」
ハンなど、遠征隊のほとんどの者とは対等な口調で話すイサコも、どうやらエリザに対しては頭が上がらないらしく、彼女にだけは敬語が多くなる。
「レン・ジーンっちゅうのんは、『アンタらの世界』で一番偉い、王様っちゅう認識でええんか?」
「と言うと?」
エリザの問いに、ハンが重ねて尋ねてくる。
「例えばや、ハンくんらのトコやと、ゼロさんが王様やん。ただな、アタシらのトコやと、アタシがゼロさんの代理っちゅうか、力を貸してもろてるような立場やん?」
「確かに名目上、エリザさんは名代(みょうだい)とされてますね」
「実際もそうやろ? 何や『名目上』て。妙な言い回しやな」
ハンを軽くにらみ、エリザは「ま、ええわ」と切り替える。
「ほんでソコら辺、イサコくんらはどないやろなって。
ジーンが直で、イサコくんに命令しとんのかなーってなると――イサコくんの話からして――えらい遠いところから伝えとんねんなーと思てな」
「なるほど。確かにエリザさんの仰った通り、事情は多少違います」
そう前置きし、イサコは「レン・ジーンの世界」について説明し始めた。
「ジーン陛下は確かに、我々の世界全土を統べる方です。ただ、私も直接、面前に拝したことはありません。
陛下はかつて、この世界にあった9つの国と戦い、そしてそのすべてに勝利し、絶対王者、皇帝として君臨しているのです」
「アタシとゼロさんみたいな関係かな思てたけど、大分違うみたいやな。ちゅうコトは、絶対逆らえへんっちゅうような感じなん?」
「左様です。加えて述べれば、かつてジーン陛下と戦った9人の王は皆、陛下によって処刑されております。現在いる王はすべて、ジーン陛下の下僕(しもべ)なのです」
「それは、……極端だな」
いつもより一層渋い顔を向けたハンに、イサコは肩をすくめて返す。
「それがこの世界の普通です。弱者は死すべき、と」
「けったいな考えやな」
一方、エリザは怒りのこもった口調で反論する。
「そんな考え、行き着くところまで行ったら、強いヤツたった1人になってしまうような考えやん。一番弱いのんが死んでしもたら、次に死ぬのはその次に弱いヤツっちゅうコトになるワケやし。
そんな『他人は見捨てて当然』っちゅうような、クソみたいなコト考えるヤツが一番上でふんぞり返っとるんは、腹立ってしゃあないわ」
「エリザさん、それは街に着いてからは、言わないようにしていただけますか」
イサコが心配そうな目で、エリザを眺めてくる。
「陛下がいないとは言え、その部下である兵士・将官は街に滞在・駐屯しています。もし彼らの耳に入れば、きっと陛下にも伝わるでしょう。そうなれば数日で、街は焼け野原にされてしまいます」
「なるかいな」
が、エリザはフン、と鼻を鳴らし、こう言い返した。
「アタシを始めとして、ハンくんやらロウくんやら、腕利きが大勢おるんや。何やあったら、撃退したるわ」
「困った人ですね、あなたは」
イサコもハン同様に渋い表情を浮かべ、黙り込んでしまった。
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彼の国の港。
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ホープ島を出発してからさらに3ヶ月、4つの島を越えて、遠征隊はついに、北方の地に到着しようとしていた。
「あれが『我々の世界』における唯一の不凍港、テプロイモアだ」
船の前方に見える港町を指差したイサコ尉官に、ハンが尋ねる。
「意味は……、『温かい海』とでも言えばいいのか?」
「そうだ。貴官らには変わらず寒い場所ではあろうが、我々にとっては最も南に位置する、実りある土地である。とは言え山間部に比べればその収穫も、さほどでは無いが」
「言うてたね、そんなん」
話の輪に、エリザが入ってくる。
「山の方はお芋さんやらカボチャさんやら仰山取れるけど、海に近い方は農業、あんまり上手いコト行ってへんって、そんなん聞いたけど」
「ええ。とは言え海ですから、水産物に関しては獲れることは獲れるのです。ただ、一年を通して寒さが厳しいので……」
「漁場が凍ってしまう、と言うわけか」
「うむ。どうにか港を出ても、海の方が凍り付いていることもある。そうした事情もあり、街を完全に賄えるほどの漁獲量は期待できない。それに不凍港とは言ったものの、厳寒期には凍ってしまう。
故にあの街に住む者は皆、常に飢えと戦っているようなものだ」
「詳しいな。トロコフ尉官は、南の方に?」
尋ねたハンに、イサコは深々とうなずく。
「うむ。実を言えば、故郷はあの街だ」
と、エリザが手を挙げる。
「そう言えば、あんまり詳しく聞いてへんかったかもやけど」
「何でしょう」
ハンなど、遠征隊のほとんどの者とは対等な口調で話すイサコも、どうやらエリザに対しては頭が上がらないらしく、彼女にだけは敬語が多くなる。
「レン・ジーンっちゅうのんは、『アンタらの世界』で一番偉い、王様っちゅう認識でええんか?」
「と言うと?」
エリザの問いに、ハンが重ねて尋ねてくる。
「例えばや、ハンくんらのトコやと、ゼロさんが王様やん。ただな、アタシらのトコやと、アタシがゼロさんの代理っちゅうか、力を貸してもろてるような立場やん?」
「確かに名目上、エリザさんは名代(みょうだい)とされてますね」
「実際もそうやろ? 何や『名目上』て。妙な言い回しやな」
ハンを軽くにらみ、エリザは「ま、ええわ」と切り替える。
「ほんでソコら辺、イサコくんらはどないやろなって。
ジーンが直で、イサコくんに命令しとんのかなーってなると――イサコくんの話からして――えらい遠いところから伝えとんねんなーと思てな」
「なるほど。確かにエリザさんの仰った通り、事情は多少違います」
そう前置きし、イサコは「レン・ジーンの世界」について説明し始めた。
「ジーン陛下は確かに、我々の世界全土を統べる方です。ただ、私も直接、面前に拝したことはありません。
陛下はかつて、この世界にあった9つの国と戦い、そしてそのすべてに勝利し、絶対王者、皇帝として君臨しているのです」
「アタシとゼロさんみたいな関係かな思てたけど、大分違うみたいやな。ちゅうコトは、絶対逆らえへんっちゅうような感じなん?」
「左様です。加えて述べれば、かつてジーン陛下と戦った9人の王は皆、陛下によって処刑されております。現在いる王はすべて、ジーン陛下の下僕(しもべ)なのです」
「それは、……極端だな」
いつもより一層渋い顔を向けたハンに、イサコは肩をすくめて返す。
「それがこの世界の普通です。弱者は死すべき、と」
「けったいな考えやな」
一方、エリザは怒りのこもった口調で反論する。
「そんな考え、行き着くところまで行ったら、強いヤツたった1人になってしまうような考えやん。一番弱いのんが死んでしもたら、次に死ぬのはその次に弱いヤツっちゅうコトになるワケやし。
そんな『他人は見捨てて当然』っちゅうような、クソみたいなコト考えるヤツが一番上でふんぞり返っとるんは、腹立ってしゃあないわ」
「エリザさん、それは街に着いてからは、言わないようにしていただけますか」
イサコが心配そうな目で、エリザを眺めてくる。
「陛下がいないとは言え、その部下である兵士・将官は街に滞在・駐屯しています。もし彼らの耳に入れば、きっと陛下にも伝わるでしょう。そうなれば数日で、街は焼け野原にされてしまいます」
「なるかいな」
が、エリザはフン、と鼻を鳴らし、こう言い返した。
「アタシを始めとして、ハンくんやらロウくんやら、腕利きが大勢おるんや。何やあったら、撃退したるわ」
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