「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・彼港伝 2
神様たちの話、第155話。
敵地上陸。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
ハンたちの乗る船が街に近付くにつれ、港に人だかりができ始めた。
「警戒されてるな」
「そらそやろな」
ハンとエリザは顔を見合わせ、対応を検討する。
「どうします? このまま港に接岸しますか?」
「そらアカンやろ。このまんま進んで、陸から仰山火矢かなんか射られたら、そのまんま燃えてまうわ。
ソレよりイサコくんら連れて、小舟で向かった方がええやろ。向こうも知っとる顔見つけたら、襲う気起こらんやろしな」
「同意見です。では向かう人間を選出しましょう」
協議の結果、先んじて港に向かうのはハン、エリザ、クー、そしてイサコの4名となった。
「この遠征隊の中心人物とトロコフ尉官であれば、話し合いには適当な人選でしょう」
「せやね。もし勇み足で攻撃してきよっても、アタシとクーちゃんやったら跳ね返せるしな」
「そんなことが起こらぬよう、祈るばかりです」
緊張した面持ちでそうつぶやきつつ、イサコが船首側に座る。そのすぐ後ろにハンとエリザ、後方にクーが座り、舟は港へと漕ぎ出した。
「しかし、魔術と言うものは便利なものですね」
オールを使わず、魔術による風の力だけですいすいと進む舟に、イサコが感心したような声を漏らす。
「我々があの海を越えた時には、屈強な男が総出でオールを漕いだものですが」
「ソレで到着でけたんやから、はっきり言うて奇跡みたいなもんやね」
「まったくです。事実、死者も少なくありませんでした。出航時には100名以上いた我々も、ノースポートに上陸した時には半数まで減っていましたからね」
「壮絶な船旅だな。……それを考えれば、俺たちの航海は、どれほど幸運だったか」
ハンの言葉に、イサコが深々とうなずく。
「然(しか)り。3ヶ月余りの航行で1名の犠牲者も出なかったとは、今持って信じがたい僥倖(ぎょうこう)だ。それは我々のように屈強な者たちが力任せに進んだからではなく、綿密な計画と周到な用意の下で、着実に進んだからであろうな。
今にして思えば、我々がノースポートを制圧できたことこそ、奇跡ではないかと思う」
「せやねぇ。ちょっと運が悪かったら、間違い無く返り討ちやったやろな。や、コレは何も、自慢やらおごりやらと違てな」
「ええ、承知しています。事実、後の奪還作戦では為す術も無く、やすやすと敗れ去りましたからね」
話している間に、舟は港の桟橋の、すぐそばまで近付いていく。
が――その桟橋の上に多数の兵士が集まり、槍や弓を構えている。
「(止まれ!)」
兵士たちが口々に怒鳴ってきたところで、イサコが立ち上がり、応答した。
「(待たれよ。私はイサコ・トロコフ、ユーグ王国尉官である。諸君らも王国の兵士たちであろう?)」
「(えっ?)」
イサコの名乗りに、兵士たちは目を丸くし、尋ね返してくる。
「(まさか、トロコフ尉官? 海に流された、……いえ、南方調査に出向かれた、あのトロコフ尉官ですか?)」
「(どちらでも同じようなものだ。とは言え、こうして戻った故、上陸を許可されたし)」
「(しょ、少々お待ちを。上官に報告して参ります)」
何名かが報告へ向かったところで、残った兵士たちに、クーが現地語で話しかけた。
「(はじめまして)」
「(へ? あ、ああ、はじめまして)」
ぎょっとした顔をしながらも、兵士たちは普通に反応する。
「(よろしければ色々とお話したいのですけれど、よろしいかしら?)」
「(は、はあ。構いませんが)」
「おい、クー」
と、ハンが会話をさえぎろうとする。
「まだ警戒態勢の最中だ。あまり不用意な行動は……」「せやからやるんやないの」
しかしいつものように、エリザがそれに釘を刺す。
「この後偉いさんとアレコレ話し合いして、クーちゃんがやんごとなき身分の子やって知れ渡ってからお話しよう思たって、皆敬礼しかしてくれへんなるやろ。
そんなんつまらへんよなー、クーちゃん?」
「ええ。まったくもって仰る通りですわ」
クーはにっこりとエリザに笑みを向け、それから兵士たちとの会話を再開する。
ハンはまだ何か言いたそうにしていたが、憮然とした顔をぷい、と海の方に向け、報告に向かった兵士たちが戻って来るまで、何も言わなかった。
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敵地上陸。
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ハンたちの乗る船が街に近付くにつれ、港に人だかりができ始めた。
「警戒されてるな」
「そらそやろな」
ハンとエリザは顔を見合わせ、対応を検討する。
「どうします? このまま港に接岸しますか?」
「そらアカンやろ。このまんま進んで、陸から仰山火矢かなんか射られたら、そのまんま燃えてまうわ。
ソレよりイサコくんら連れて、小舟で向かった方がええやろ。向こうも知っとる顔見つけたら、襲う気起こらんやろしな」
「同意見です。では向かう人間を選出しましょう」
協議の結果、先んじて港に向かうのはハン、エリザ、クー、そしてイサコの4名となった。
「この遠征隊の中心人物とトロコフ尉官であれば、話し合いには適当な人選でしょう」
「せやね。もし勇み足で攻撃してきよっても、アタシとクーちゃんやったら跳ね返せるしな」
「そんなことが起こらぬよう、祈るばかりです」
緊張した面持ちでそうつぶやきつつ、イサコが船首側に座る。そのすぐ後ろにハンとエリザ、後方にクーが座り、舟は港へと漕ぎ出した。
「しかし、魔術と言うものは便利なものですね」
オールを使わず、魔術による風の力だけですいすいと進む舟に、イサコが感心したような声を漏らす。
「我々があの海を越えた時には、屈強な男が総出でオールを漕いだものですが」
「ソレで到着でけたんやから、はっきり言うて奇跡みたいなもんやね」
「まったくです。事実、死者も少なくありませんでした。出航時には100名以上いた我々も、ノースポートに上陸した時には半数まで減っていましたからね」
「壮絶な船旅だな。……それを考えれば、俺たちの航海は、どれほど幸運だったか」
ハンの言葉に、イサコが深々とうなずく。
「然(しか)り。3ヶ月余りの航行で1名の犠牲者も出なかったとは、今持って信じがたい僥倖(ぎょうこう)だ。それは我々のように屈強な者たちが力任せに進んだからではなく、綿密な計画と周到な用意の下で、着実に進んだからであろうな。
今にして思えば、我々がノースポートを制圧できたことこそ、奇跡ではないかと思う」
「せやねぇ。ちょっと運が悪かったら、間違い無く返り討ちやったやろな。や、コレは何も、自慢やらおごりやらと違てな」
「ええ、承知しています。事実、後の奪還作戦では為す術も無く、やすやすと敗れ去りましたからね」
話している間に、舟は港の桟橋の、すぐそばまで近付いていく。
が――その桟橋の上に多数の兵士が集まり、槍や弓を構えている。
「(止まれ!)」
兵士たちが口々に怒鳴ってきたところで、イサコが立ち上がり、応答した。
「(待たれよ。私はイサコ・トロコフ、ユーグ王国尉官である。諸君らも王国の兵士たちであろう?)」
「(えっ?)」
イサコの名乗りに、兵士たちは目を丸くし、尋ね返してくる。
「(まさか、トロコフ尉官? 海に流された、……いえ、南方調査に出向かれた、あのトロコフ尉官ですか?)」
「(どちらでも同じようなものだ。とは言え、こうして戻った故、上陸を許可されたし)」
「(しょ、少々お待ちを。上官に報告して参ります)」
何名かが報告へ向かったところで、残った兵士たちに、クーが現地語で話しかけた。
「(はじめまして)」
「(へ? あ、ああ、はじめまして)」
ぎょっとした顔をしながらも、兵士たちは普通に反応する。
「(よろしければ色々とお話したいのですけれど、よろしいかしら?)」
「(は、はあ。構いませんが)」
「おい、クー」
と、ハンが会話をさえぎろうとする。
「まだ警戒態勢の最中だ。あまり不用意な行動は……」「せやからやるんやないの」
しかしいつものように、エリザがそれに釘を刺す。
「この後偉いさんとアレコレ話し合いして、クーちゃんがやんごとなき身分の子やって知れ渡ってからお話しよう思たって、皆敬礼しかしてくれへんなるやろ。
そんなんつまらへんよなー、クーちゃん?」
「ええ。まったくもって仰る通りですわ」
クーはにっこりとエリザに笑みを向け、それから兵士たちとの会話を再開する。
ハンはまだ何か言いたそうにしていたが、憮然とした顔をぷい、と海の方に向け、報告に向かった兵士たちが戻って来るまで、何も言わなかった。
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