「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・彼港伝 8
神様たちの話、第161話。
緊迫する情況。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
8.
戦闘の懸念があることを「魔術頭巾」による通信でゼロに伝えたところ、ハンの予想通り、彼は憂鬱そうな声でこう答えてきた。
《どうしても?》
「どないしてもですわ」
《そうか……。
いや、事情はたった今ハンから聞いた通りだし、なるべくしてなってしまったと言うことは、十分納得してるよ。
ただ、どうしても穏便に済ませたかったんだけどな、って》
「自分も同意見であります。今回の件に関してはあくまで拠点防衛に留めるとし……」「ちょい待ち」
ハンが応答しているところに、エリザが口を挟む。
「はっきり言うときますけどな、アタシは積極的に行くべきやろと思とるんです」
《どうして?》
「ハンくん今、拠点防衛のみやっちゅうたけども、その『拠点』ちゅうのんはどこや?」
「この船でしょう。陸上に降りるような許可は得ていませんから」
「アンタ、戦場がココだけで済むと思とるん?」
「……」
ハンは苦い顔で、歯切れ悪く答える。
「それは、まあ……。確かに船までの進行ルートを考えれば、テプロイモア市街や港に被害が及ぶ可能性は、少なくないでしょうね」
「そうやな? 考えたらすぐ分かるコトや。実際に帝国さんが攻めて来よったら、街の皆がとばっちり食らうん、誰でも分かるやんな?
でもアンタ、自分らがやるのんは拠点防衛のみや、船さえ無事やったら街が丸焦げになってもええっちゅうてるやんな?」
「そんなことは言ってません。……訂正します。街の人間に被害が及ばない範囲までは、防衛に努めます」
《だけど、それはユーグ王国の国防体制、ひいては王国の立場をないがしろにすることになる。国王もいい顔をしないだろう。
そもそも僕たちの都合で戦闘が起こるんだ。彼らにしてみれば、いい迷惑以外の何物でも無い。現時点で既に、彼らに深く干渉してしまっているんだ。
その上でまだ、『自分たちはあなたたちに干渉しない』なんて消極的な姿勢を執っていては、非人情的で厚顔無恥な人間だと思われるだろう。そうなれば今後我々に、有効的に接してくれることは無くなってしまうだろうね。
恐らくエリザ、君もそう言う考えだと思うけど、どうかな?》
「ええ、その通りですわ。もう既にこの時点で、アタシらはこの国、ユーグ王国に不可逆的な干渉を行ってしもてると考えてええでしょう。っちゅうか、陸を踏んだ時点で干渉してへんワケが無いですわ。
せやから『極力接触を避けて』っちゅうような態度は、もうアカンでしょう。そんなんしとったら、相手からむしろ非難されてしまいますわ」
《うん、僕もそう思う。現状で執るべきは積極策だ。
再度国王に謁見し、協力と互助関係を結べるように話し合うべきだろう。それをしなければユーグ王国は、ただただ戦火にさらされるだけになってしまうだろうからね。それよりも関係を築き、合同で防衛に当たった方が、被害はずっと少なくなるだろうし、今後の北方との関係構築にとって、足がかりが得られる。
戦闘を許可しよう。ただし現時点では、ユーグ王国防衛についてのみだ。そしてこの情況と我々の対応についてユーグ王国側に通達し、再度話し合いを行ってくれ》
「拝命いたしました」
緊張をにじませた声で、ハンが答えた。
その日の内にハンたちは、再度ユーグ王国国王に謁見を願い出た。ところが――。
「門前払いと言うことか」
「ええ」
遣いに出たイサコから、国王がハンたちとの話し合いを拒否する旨が伝えられたのである。
「やはり先日の一件が響いているのだろう。陛下は私にも会われず、伝言だけを宮殿前で伝えられる始末であった。ほとんど追い返されたようなものだ」
「あらら」
これを受け、エリザはのんきな声を出していたが、一方のハンは頭を抱えている。
「どうします? 王国側がこれでは、到底防衛には……」
「ソレはソレで、やりようはあるわ」
エリザは胸元から煙管を取り出そうとしかけたが、ハンの目に気付き、手を膝に戻す。
「ま、ソコら辺はアタシに任しとき。4、5日あればどうとでもでけるわ」
「4、5日ですと? 会えもしない状態であるのに、一体どうやって……?」
「んふふ」
エリザはもう一度胸元に手を入れ、煙管を取り出しつつ、立ち上がった。
「煙草吸うて来るわ。ま、気長に待っとき」
琥珀暁・彼港伝 終
@au_ringさんをフォロー
緊迫する情況。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
8.
戦闘の懸念があることを「魔術頭巾」による通信でゼロに伝えたところ、ハンの予想通り、彼は憂鬱そうな声でこう答えてきた。
《どうしても?》
「どないしてもですわ」
《そうか……。
いや、事情はたった今ハンから聞いた通りだし、なるべくしてなってしまったと言うことは、十分納得してるよ。
ただ、どうしても穏便に済ませたかったんだけどな、って》
「自分も同意見であります。今回の件に関してはあくまで拠点防衛に留めるとし……」「ちょい待ち」
ハンが応答しているところに、エリザが口を挟む。
「はっきり言うときますけどな、アタシは積極的に行くべきやろと思とるんです」
《どうして?》
「ハンくん今、拠点防衛のみやっちゅうたけども、その『拠点』ちゅうのんはどこや?」
「この船でしょう。陸上に降りるような許可は得ていませんから」
「アンタ、戦場がココだけで済むと思とるん?」
「……」
ハンは苦い顔で、歯切れ悪く答える。
「それは、まあ……。確かに船までの進行ルートを考えれば、テプロイモア市街や港に被害が及ぶ可能性は、少なくないでしょうね」
「そうやな? 考えたらすぐ分かるコトや。実際に帝国さんが攻めて来よったら、街の皆がとばっちり食らうん、誰でも分かるやんな?
でもアンタ、自分らがやるのんは拠点防衛のみや、船さえ無事やったら街が丸焦げになってもええっちゅうてるやんな?」
「そんなことは言ってません。……訂正します。街の人間に被害が及ばない範囲までは、防衛に努めます」
《だけど、それはユーグ王国の国防体制、ひいては王国の立場をないがしろにすることになる。国王もいい顔をしないだろう。
そもそも僕たちの都合で戦闘が起こるんだ。彼らにしてみれば、いい迷惑以外の何物でも無い。現時点で既に、彼らに深く干渉してしまっているんだ。
その上でまだ、『自分たちはあなたたちに干渉しない』なんて消極的な姿勢を執っていては、非人情的で厚顔無恥な人間だと思われるだろう。そうなれば今後我々に、有効的に接してくれることは無くなってしまうだろうね。
恐らくエリザ、君もそう言う考えだと思うけど、どうかな?》
「ええ、その通りですわ。もう既にこの時点で、アタシらはこの国、ユーグ王国に不可逆的な干渉を行ってしもてると考えてええでしょう。っちゅうか、陸を踏んだ時点で干渉してへんワケが無いですわ。
せやから『極力接触を避けて』っちゅうような態度は、もうアカンでしょう。そんなんしとったら、相手からむしろ非難されてしまいますわ」
《うん、僕もそう思う。現状で執るべきは積極策だ。
再度国王に謁見し、協力と互助関係を結べるように話し合うべきだろう。それをしなければユーグ王国は、ただただ戦火にさらされるだけになってしまうだろうからね。それよりも関係を築き、合同で防衛に当たった方が、被害はずっと少なくなるだろうし、今後の北方との関係構築にとって、足がかりが得られる。
戦闘を許可しよう。ただし現時点では、ユーグ王国防衛についてのみだ。そしてこの情況と我々の対応についてユーグ王国側に通達し、再度話し合いを行ってくれ》
「拝命いたしました」
緊張をにじませた声で、ハンが答えた。
その日の内にハンたちは、再度ユーグ王国国王に謁見を願い出た。ところが――。
「門前払いと言うことか」
「ええ」
遣いに出たイサコから、国王がハンたちとの話し合いを拒否する旨が伝えられたのである。
「やはり先日の一件が響いているのだろう。陛下は私にも会われず、伝言だけを宮殿前で伝えられる始末であった。ほとんど追い返されたようなものだ」
「あらら」
これを受け、エリザはのんきな声を出していたが、一方のハンは頭を抱えている。
「どうします? 王国側がこれでは、到底防衛には……」
「ソレはソレで、やりようはあるわ」
エリザは胸元から煙管を取り出そうとしかけたが、ハンの目に気付き、手を膝に戻す。
「ま、ソコら辺はアタシに任しとき。4、5日あればどうとでもでけるわ」
「4、5日ですと? 会えもしない状態であるのに、一体どうやって……?」
「んふふ」
エリザはもう一度胸元に手を入れ、煙管を取り出しつつ、立ち上がった。
「煙草吸うて来るわ。ま、気長に待っとき」
琥珀暁・彼港伝 終
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~