「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・衝北伝 1
神様たちの話、第162話。
古代の為替観。
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1.
「副隊長のエリザが自ら港へ赴き、商いをしている」と言う話は既に船内でうわさになっていたし、さらにそのエリザから「ずーっと船ん中やと皆、体調崩してまうで」とハンに働きかけ、港や市街への出入りに対する規制を緩めさせていたこともあって、港にはちらほらと、遠征隊の姿が見られるようになっていた。
「これ、ホントに今、エリザさんが作ったんですかー?」
店先に並ぶ貝殻のネックレスを手に取ったマリアに、エリザはうんうんとうなずいて返す。
「せやでー。できたてホヤホヤや」
「かわいー」
目をキラキラさせてアクセサリを眺めているマリアに、エリザがニヤニヤ笑いながら尋ねる。
「買うか?」
「いくらですー?」
「こっちの通貨やと25デニー、クラムやと20」
「やっす!?」
一転、マリアは目を丸くする。
「元手タダやもん」
「な、なるほどー。……こっちの指輪は?」
「そっちは25クラムか30デニーで」
「儲かります、そんなんで?」
「元手タダやもん」
「ちなみに一日、どれくらい稼いでるんですか?」
「クラムで800くらい。デニーで換算したら、多分1000行くんちゃうかな」
「かんさん?」
きょとんとするマリアに、エリザが耳打ちする。
「こっちでちっさい魚一匹、7デニーか8デニーくらいやってんけどな、ノースポートやと同じ大きさで5クラムやってん。
アタシがちっちゃい時も、山の南と北でカネ自体も使う量も違てたもんやし、こっちでも分けといた方がええやろな、と思てな」
「へー……?」
要領を得なさそうなマリアに、エリザは肩をすくめる。
「ほら、クラムとデニー、ちょと重さ違うやろ? 1まとまりの量がちゃうねん。ほな、まとまっとる大きさに合わせて、額も変えとかな不公平やん」
「……あー、なるほど」
マリアはうなずきつつ、腰に着けていたバッグから両方の銅貨を取り出して、重さを比べる。
「あ、ホントだ。デニーの方が重たいんですね。
……あれ? でも今、エリザさんが言ってた感じだと、……えーと、おさかな1匹5クラムと8デニーでしたっけ」
「大体な」
「って言うことはー、えーと、クラムの方が少ない枚数で買えるってことでー、それだと、クラムの方が多くならないと、おかしいんじゃないですか?」
「ちょと調べてみたらな、デニーの中身、ほとんど鉛やねん。銅や銀は表面にぺらーっと乗っとる程度で」
「え、そうなんですか?」
「クラムの方も純粋な銅や銀やないけども、ほんでも純度はこっちの方がええねん。
そうなると、今後アタシらがクラム仰山持ってきたら、あっちゅう間にデニー、使われへんようになるやろな」
「どうしてです?」
「アンタ、『コレは銀塊ですー』言うて鉛の塊渡されたら、ハラ立つやろ?」
「そりゃまあ。うそ、嫌ですもん」
うなずくマリアの鼻先に、エリザはデニー銅貨を掲げる。
「ココの人らはソレやられとんねん。この鉛の塊を『銅ですー、銀ですー』言うてつかまされとるんよ。
で、ソコに純度の高いアタシらのおカネや。ホンマもんの銀とニセもんの銀やったら、どっちがほしいと思うやろな?」
「なーるほど」
「……てか」
エリザがそこで、いぶかしげな声を漏らす。
「アンタ、ドコでデニーもろたん?」
「港で街の人のお手伝いしてたら、『ありがとう、お駄賃だよ』って」
「アハハ……」
エリザは笑い出し、辺りを見回す。
「他にもそう言う子いそうやな。シモン部隊は人のええのんが仰山おるからな」
「ですねー」
「ま、ハンくん自身はごっつ苦い顔しとるやろけど」
「あはは……」
エリザの予想通り――丁度その頃、ハンは苦々しい気持ちで、港の様子を単眼鏡で眺めていた。
(あっちにも、こっちにも、遠征隊の奴らがうろうろしている……。
まったく……! エリザさんには本当に困らせられる。放っておけばどんどん、規律が緩んでいってしまう。『この世界』にとって俺たちは、初めて出会う『別世界の』人間なんだ。俺たちの行動一つひとつで、『海の向こうにいる人間はこんな奴なのか』と思われるんだぞ? それなのに――エリザさんみたいにいい加減でデタラメな人が港に顔を出したりなんかしていたら、俺たち全員、『そう言う奴』だと思われるじゃないか!?
……勘弁してほしいよ、本当に。俺はそうじゃないんだって)
それ以上港の様子を見る気にならず、ハンは単眼鏡をしまい、船内に降りていった。
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「副隊長のエリザが自ら港へ赴き、商いをしている」と言う話は既に船内でうわさになっていたし、さらにそのエリザから「ずーっと船ん中やと皆、体調崩してまうで」とハンに働きかけ、港や市街への出入りに対する規制を緩めさせていたこともあって、港にはちらほらと、遠征隊の姿が見られるようになっていた。
「これ、ホントに今、エリザさんが作ったんですかー?」
店先に並ぶ貝殻のネックレスを手に取ったマリアに、エリザはうんうんとうなずいて返す。
「せやでー。できたてホヤホヤや」
「かわいー」
目をキラキラさせてアクセサリを眺めているマリアに、エリザがニヤニヤ笑いながら尋ねる。
「買うか?」
「いくらですー?」
「こっちの通貨やと25デニー、クラムやと20」
「やっす!?」
一転、マリアは目を丸くする。
「元手タダやもん」
「な、なるほどー。……こっちの指輪は?」
「そっちは25クラムか30デニーで」
「儲かります、そんなんで?」
「元手タダやもん」
「ちなみに一日、どれくらい稼いでるんですか?」
「クラムで800くらい。デニーで換算したら、多分1000行くんちゃうかな」
「かんさん?」
きょとんとするマリアに、エリザが耳打ちする。
「こっちでちっさい魚一匹、7デニーか8デニーくらいやってんけどな、ノースポートやと同じ大きさで5クラムやってん。
アタシがちっちゃい時も、山の南と北でカネ自体も使う量も違てたもんやし、こっちでも分けといた方がええやろな、と思てな」
「へー……?」
要領を得なさそうなマリアに、エリザは肩をすくめる。
「ほら、クラムとデニー、ちょと重さ違うやろ? 1まとまりの量がちゃうねん。ほな、まとまっとる大きさに合わせて、額も変えとかな不公平やん」
「……あー、なるほど」
マリアはうなずきつつ、腰に着けていたバッグから両方の銅貨を取り出して、重さを比べる。
「あ、ホントだ。デニーの方が重たいんですね。
……あれ? でも今、エリザさんが言ってた感じだと、……えーと、おさかな1匹5クラムと8デニーでしたっけ」
「大体な」
「って言うことはー、えーと、クラムの方が少ない枚数で買えるってことでー、それだと、クラムの方が多くならないと、おかしいんじゃないですか?」
「ちょと調べてみたらな、デニーの中身、ほとんど鉛やねん。銅や銀は表面にぺらーっと乗っとる程度で」
「え、そうなんですか?」
「クラムの方も純粋な銅や銀やないけども、ほんでも純度はこっちの方がええねん。
そうなると、今後アタシらがクラム仰山持ってきたら、あっちゅう間にデニー、使われへんようになるやろな」
「どうしてです?」
「アンタ、『コレは銀塊ですー』言うて鉛の塊渡されたら、ハラ立つやろ?」
「そりゃまあ。うそ、嫌ですもん」
うなずくマリアの鼻先に、エリザはデニー銅貨を掲げる。
「ココの人らはソレやられとんねん。この鉛の塊を『銅ですー、銀ですー』言うてつかまされとるんよ。
で、ソコに純度の高いアタシらのおカネや。ホンマもんの銀とニセもんの銀やったら、どっちがほしいと思うやろな?」
「なーるほど」
「……てか」
エリザがそこで、いぶかしげな声を漏らす。
「アンタ、ドコでデニーもろたん?」
「港で街の人のお手伝いしてたら、『ありがとう、お駄賃だよ』って」
「アハハ……」
エリザは笑い出し、辺りを見回す。
「他にもそう言う子いそうやな。シモン部隊は人のええのんが仰山おるからな」
「ですねー」
「ま、ハンくん自身はごっつ苦い顔しとるやろけど」
「あはは……」
エリザの予想通り――丁度その頃、ハンは苦々しい気持ちで、港の様子を単眼鏡で眺めていた。
(あっちにも、こっちにも、遠征隊の奴らがうろうろしている……。
まったく……! エリザさんには本当に困らせられる。放っておけばどんどん、規律が緩んでいってしまう。『この世界』にとって俺たちは、初めて出会う『別世界の』人間なんだ。俺たちの行動一つひとつで、『海の向こうにいる人間はこんな奴なのか』と思われるんだぞ? それなのに――エリザさんみたいにいい加減でデタラメな人が港に顔を出したりなんかしていたら、俺たち全員、『そう言う奴』だと思われるじゃないか!?
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